第28話 レンカとダンジョン
錬金術師アメリアと知り合ったレンカの新しい冒険が始まる。
冒険者ギルドの依頼を受注して2週間が経ち無事試用期間を合格したレンカは
いつもの様に『クリスタル』へ薬草を納品しに来ていた。
「ごめんください、アメリアいる?」
「おっ、いらっしゃい納品だよね」
「じゃこれ今回の分ね」
「今回もバッチリそうね。ほんといい腕してるよねレンカは」
「えへへへ」
アメリアが納品分の薬草を確認しながら褒めてくるのでレンカは笑顔になる。
「それでさ、私今度ダンジョンに行く事になってねしばらく納品の仕事は
お休みしてもらう事になると思うの。1週間くらいかな」
「えっ、ダンジョン!?」
薬草納品の仕事がお休みになる事よりダンジョンという言葉に
異常に反応してしまうレンカであった。
「何!?そんなにビックリして。ダンジョンにはレベル上げに行くんだよね。
錬金術には魔力が必要だから地道にレベル上げていかないといけないんだ」
「あのさ!」
「急に大きな声出してどうしたの?びっくりするじゃない」
「・・・それ私も付いて行っていい?私もレベル上げしたい!」
突然一緒に付いて行きたいというレンカに一瞬驚くアメリアだったが
彼女のレベル上げしたい事情を聞くとニコリと笑顔になった。
「そうか採取活動の幅広げたいのね。まぁレンカが一緒なら楽しそうだし
魔法職がいれば丁度いいか・・・いいよダンジョン行こう」
「ほんと・・・ありがとうアメリア!」
念願のダンジョン行きが決まり、エイミーを探す為に街を早く旅立ちたい
レンカはその為に必要なレベル上げが出来ると凄く喜んだのだった。
その後ダンジョン行きの予定を話し合いレンカは意気揚々と店を出て
宿に向かう。
「あっ!ギルドに寄って行こう」
宿へ帰る途中、突然冒険者ギルドに寄る事を思い付いたレンカが
円形広場に辿り着くとその一角にあるギルドの中へ入って行く。
「レンカちゃんどうしたのまた来て」
「うん、図書室で調べ物しようと思って」
「そうか勉強熱心で感心感心」
建物の中に入ると冒険者ギルドの受付のリリアンさんに話し掛けられた。
実はアメリアの店に行く前、レンカは採取品を買い取ってもらう為ギルドに
寄っていたのだった。ギルドの二階へ上がる直前に依頼掲示板の方から
冒険者達の声が聞こえて来る。それを聞き急に足を止めたレンカ。
「今、錬金学園って言わなかった!?」
居ても立っても居られず割り込むように冒険者達が見ていた依頼票を
覗き込むレンカだった。
「錬金学園ノアズガーデナのバーンズ博士の護衛依頼!?
スリーデンに何の用事だろう・・・」
今のレンカにとってキラーワードである『錬金学園ノアズガーデナ』に
出会ってしまい暫く依頼票とにらめっこしてしまう。
「お嬢ちゃん急に割り込んで来てどうした?これは俺らが受けるから
ごめんな」
そんなレンカを押し退けて、元からいた冒険者パーティーがその依頼票を
剥ぎ取って行ってしまった。それを呆然と見送ると気を取り直す様に
図書室へと向かうレンカであった。そこで1時間程ダンジョンについて
書かれた資料を読み漁ったレンカは満足げに本を閉じた。
「ふーっ、ダンジョン楽しみ!」
異世界での初ダンジョンに期待を膨らせて宿に帰ったのだった。
宿に帰りダンジョン行きの件をノーラさんに話すと凄く喜ぶと
同時に心配もしてくれた。
それから数日が経ち待ちに待ったダンジョンに出発する日がやって来た。
ダンジョン行きの乗合馬車の停車場で馬車を待つアメリアとその同行者。
いつもの仕事服姿とは違い旅装姿に赤毛の肩口まであった髪を後ろで纏めた
アメリアと長身で金髪ロングヘアのスレンダーなお姉様、茶髪の清楚さの
塊の様な女性、そして黒髪ショートのボーイッシュな女子の四人であった。
遅れてやって来たレンカがいつもと違うアメリアに気付かず戸惑っていると
彼女の方から声を掛けてくれた。
「レンカここだよ」
乗合馬車を待つ客の中からアメリアの呼ぶ声が聞こえた。
「あっ・・・アメリアおはよう。見違えたよ、一瞬誰かと思った」
「そおー?おっはよレンカ、それでこっちの三人が今回同行してくれる
Bランク冒険者パーティー『三姫』のメンバー」
「Bランク・・・よろしくお願いします」
「よろしくな、フランソワだ。アメリア中々可愛い娘じゃないか」
「私はアネットよ」
「僕はマリアローゼだよ」
早速、お互いに挨拶を交わし今回のダンジョン行きのメンバーを紹介していく。
『三姫』はリーダーのスレンダーな魔法剣士のフランソワ、
清楚な僧侶のアネット、ボクっ娘な忍者のマリアローゼの美人三人組で
冒険者の間でそれぞれが姫と呼ばれる存在であり、実力も申し分なく
Aランクパーティーに昇格するのも時間の問題と噂される三人組であった。
全員20代前半の冒険者ギルド期待の若手の有望株である。
「この『三姫』は『クリスタル』がスポンサーに付いてるパーティーなんだ」
「へぇーそうなんだ・・・」
メンバー紹介も終わり馬車が来るのを待つ間、錬金学園のバーンズ博士について
レンカはアメリアに聞いてみた。
「この前ギルドの掲示板で錬金学園のバーンズ博士の依頼見たんだ。
バーンズ博士ってアメリアは知ってる?」
「バーンズ博士なら知ってるよ。主に変わり者として有名な先生ね。
学校にいる事はほとんど無くて世界中を旅して大昔の遺産探しを
してるみたい。偶に大発見するから凄く有名なの。でもスリーデンに
何の用事だろう?ここに何かあるって話は聞いた事がないけど・・・」
「へぇー、有名な先生なんだ」
その話を聞いてバーンズ博士にちょっとだけ興味が湧いたレンカであった。
「馬車が来たようだ」
そうフランソワが声を掛けると彼女の合図で馬車へと乗り込んで行く。
スリーデンから山岳地帯の麓にある鉱山迷宮ダスカムへは西門を出て
10キロメートル程の距離があり、迷宮近くに築かれた街は豊富に取れる
鉱物資源を材料に鍛治の街として発展していた。
「これから行く街はフォーサイトという迷宮近くに発展した街で
昔は冒険者の街だったが今は鍛治で栄えてる街だ」
「鍛治の街・・・」
「向こうに着いたら先ずは宿を取って、街の案内も兼ねて鉱山迷宮の下見と
いこうか。それで迷宮へは予定通り明日から挑戦だ」
乗合馬車がフォーサイトへ向けて出発した後フランソワからこれから訪れる
街について簡単な説明があった。その間も馬車は順調に目的地に向けて
快走を続けていた。予定では1時間ほどで着くらしい。レンカは物珍しそうに
流れて行く外の景色を眺めていた。
「そんなに珍しいのかい?」
フランソワが面白そうに聞いてくる。山岳地帯に近付くにつれ景色は荒涼とした
風景へと変化していた。
「はい、初めて見るものばかりだし山の景色が壮大で・・・」
「ははは、そうかい・・・でも私は鉱山迷宮の森林エリアを是非
見てほしいな。先ずはそこまで行けるレベルにならないとな」
「知ってます。ギルドにあった本で読みました。第一迷宮と第二迷宮の
間にある中間エリアの事ですよね」
「予習はちゃんとしてきてるんだな。感心感心!」
「私も行った事ないよ。今度の挑戦でレンカと一緒に行けたら最高だね」
「うん、一緒に頑張ろう」
二人の話を聞いていたアメリアも迷宮の森林エリアに興味がある様だった。
鉱山迷宮ダスカムは20階層からなり初級中級クラス向けの1〜9階層の
第一迷宮と呼ばれるエリアと中級上級クラス向けの11〜20階層の
第二迷宮と呼ばれるエリアに分かれ10階層は魔物の出ない森林エリアが
広がっていた。ずっと続く洞窟が突然終わり眼前に緑の光景が広がる様は
冒険者達を驚かせた。今では迷宮の安全地帯として冒険者達のベースキャンプが
置かれているのだった。
馬車の旅は順調に進みフォーサイトの街が見えてくる。街並みは山の斜面にも
連なり鍛治の街だけありそこに築かれた鍛冶場からモクモクと煙が立ち昇っていて
独特な雰囲気を醸し出していた。馬車は街を囲む城壁の門で入場手続きを済ませ
街中へ進むと停車場へと辿り着いた。
「着いたぞ、忘れ物ない様に。先ずは宿へ向かう、と言ってもアメリアの家が
定宿にしてる処だからいつもの場所さ。レンカははぐれない様にな」
「はい」
フランソワの呼び掛けに返事をするレンカだった。
みんなで向かったのは宿屋『金銀洞』という処だった。
「石の宿!?」
そこは山の岩肌に彫られた岩窟宮殿の様な宿屋で高級な装いを見て驚く
レンカの様子にニンマリするアメリアだった。
「凄いでしょ、レンカは私と同じ部屋だからね」
その日は迷宮の下見を済ませレンカは街を案内してもらった。
街で明日に備え必要な物を買い揃えて行く『三姫』の後をついて回りながら
アメリアと買い食いなどの街ブラを楽しんだレンカであった。
そして、宿に帰り豪華な夕食を取りつつ迷宮内での戦術を話し合った五人は
明日に備えて早めに就寝するのだった。
一夜明けてミスリル製の魔法鎧に身を包んだフランソワを先頭に前日下見した
迷宮へと向かうレンカ達のパーティー。初の迷宮探索に落ち着かない様子の
レンカだった。
『遂に異世界初ダンジョンだ・・・』
「どしたのレンカ?緊張してるの」
「うーんとねワクワクかな」
そんなやり取りをレンカ達がしてる間に迷宮前広場に辿り着く。
「今日からしばらくは『五姫』だな』
「それいいじゃん」
フランソワが冗談めかしてそんな事を言うとそれに乗っかるカーキ色の
ミリタリールックな忍装束姿のマリアローゼ。迷宮の入り口に設けられた
入管施設でそれぞれが金貨一枚を支払い入場券である1週間パスを購入し
いよいよ鉱山迷宮ダスカムでのレベル上げの修行が始まる。
「昨日話し合った通り前衛は私とマリアローゼ、中衛はレンカとアメリア、
後衛はアネットで行く。いいか、では出発」
周りの冒険者達が『三姫』の登場に騒めく中岩壁にパクリと
空いた洞窟、鉱山迷宮ダスカムへと足を踏み入れて行く。
「これがダンジョン・・・」
「まだここはエントランスに当たる部分だがな」
リーダーのフランソワが説明した様に入り口から迷宮内へと入ると
そこは入り口の大きさからは想像出来ない様な広大な空間が広がっていた。
エントランスと呼ばれる空間にはいく筋にも別れた洞窟の入り口が見えている。
昨日渡されたダンジョン地図を取り出し進む先とリアルな迷宮内を見比べる
レンカだった。
「計画通りここ鉄窟エリアは最短で抜けて銅窟エリアへと向かう。
陣形を崩すなよ、行くぞ」
「はいさー」
「後ろはしっかり守るからお二人共頑張るのよ」
「はいっ」
フランソワの合図とマリアローゼの軽いノリで出発したパーティー。
レンカとアメリアはクルタにタイトなパンツを履き黒のロングコートを
羽織ったアネットに後ろを守られながら迷宮内を進んでいく。
鉱山迷宮ダスカムの第一迷宮は鉄が採掘出来る1〜3層の鉄窟エリア、銅の採れる
4〜6層の銅窟エリア、銀の採れる7〜9層の銀窟エリアに分かれていた。
レンカとアメリアの現在のレベルに合わせ4層目を目指し出発したのだった。
「3層目までは雑魚に構わず一気に行く」
最短で行っても1キロメートルはある1層目の洞窟を『五姫』は速足で進む。
『あっスライム・・・あっゴブリン』
初めてのダンジョンにワクワクしながら通り過ぎる魔物や景色を眺めるレンカ。
途中スライムやゴブリンが出て来たが進路の邪魔になる魔物だけ前衛の二人が
斬り退けて後の魔物は無視して進んで行くと1層目の出口に到達した。
そして、『五姫』は2層目も同様にして突き進んで行く。
「ここから3層目だ。予定通りあれが出たら狩って行く」
フランソワがそう言いパーティーが3層目の洞窟を進んで行くと
3回目の魔物との遭遇で遂に『あれ』が現れた。
「ツルハシを持ったゴブリン・・・」
レンカが呟く。
「そうだあれがアイアンピックゴブリンだ。アメリアとレンカで
やってみろ」
レンカ達『五姫』の前に現れたのは3体のゴブリンを従えた
鉄のツルハシを持ったゴブリンだった。フランソワの指示に従い
軽鎧にマジックローブ纏いマジックロッドを持ったアメリアが
ロッドに魔力を込める。アメリアの持つロッドは『クリスタル』の
工房で作られた火属性の魔石を持つファイアロッドであった。
『火衝球』
レンカもアメリアに合わせ右手を前に構え呪文を唱える。
『土弾』
「二人ともいい魔法だ。守りは任せて続けて撃て」
二人の放った魔法がゴブリンを捉える。アメリアの魔法は小さな火の玉が
飛んで行き敵に当たると一気に燃え上がりゴブリンを包み込んだ。
そして、レンカの放った土の弾丸がゴブリンの胸を撃ち抜く。仲間を倒され
それに怒ったアイアンピックゴブリンは持っていたツルハシを振りかぶり
地面に打ち付けた。
『土走塁鉄撃』
すると地面を走る様にレンカ達に迫る土塊。それが最後には鉄塊となって
襲い掛かった。アイアンピックゴブリンが持っていたツルハシは土属性魔法の
土走塁鉄撃を放つマジックアイテムだったのだ。
「うわぁーっ」
アイアンピックゴブリンの魔法攻撃に驚くレンカ、それに動じる事なく
長剣を構えるフランソワ。
「私には無意味な攻撃だ」
フランソワは手にしたミスリル製の長剣に魔力を込め鉄塊に込められた魔力を
綺麗に打ち払うとぼろぼろと土塊に戻り崩れ去る敵の魔法。それを驚きの目で
見詰めたレンカ。
「今だ撃て!」
「はいっ」
レンカとアメリアは準備していた魔法を放つ。再び放たれた火衝球と土弾が
それぞれのゴブリンを捉える。
「やった!」
『ギョエーーッ』という声を上げ消えたゴブリン達。ダンジョンでの初の戦いを
経験し少し興奮気味のレンカ。ゴブリンを倒した後には4個の魔石と3枚の鉄の
コインと1個の鉄のインゴットが残されていた。
『おーっ、ドロップ品だ』
「やったねレンカ」
「うん!」
ダンジョンでの初のドロップ品にワクワクの止まらないレンカだった。
ゲームの世界が現実として目の前に広がり、それを体験するという不思議さ。
「これがお目当てのドロップ品だ。アイアンピックゴブリンが落とす
1キログラムの鉄のインゴット、これが3層目に存在する転移門を
利用するのに必要なアイテムだ。他のみんなは登録済みだからこれは
レンカが登録するのに必要な物だ。次は転移門を目指す」
アイアンピックゴブリンのドロップする1キログラムの鉄のインゴットは
転移門に冒険者を登録するための対価であった。必要なのは初回だけで
一度登録すれば迷宮入口のエントランスにある転移門との間を自由に
往き来できる様になる。
そして、ドロップ品を回収した『五姫』のメンバーはフランソワに率いられ
3層目にある転移門を目指すのだった。
『このダンジョンでレベルを上げればエイミーを探しに行ける。
私頑張る・・・』
転移門へと洞窟を進みながらレンカはこれから始まるダンジョンでの
本格的なレベル上げの戦いに強い決意で挑もうとしていた。
異世界に来てはじめてダンジョンに入ったレンカ。
次回は「レンカとダスカム第一迷宮」です。レンカサイドの話が続きます。




