第21話 神殿
水の宮殿フロアでの激戦を制したエイミーとロイド、マーラの三人は
地下水路の続く神殿へと入って行った。パルテノン神殿のような作りの
神殿の中を流れる地下水路を進んで行くとその先に出口が見えて来た。
「神殿抜けたらまた外。何この空!空がキラキラと揺らめいてる」
『凄いのー、不思議なのー!』
「いやはや、これまた絶景ですな。それにあの柱」
神殿を通り出口を抜けた三人の目の前には森が広がっていた。そして頭上には
空ではなく天井の湖とも呼べるような広大な水の天井が覆い煌めいている。
その水の中を動き回る魚影のようなものまで見えていた。
そこから地上に向かって六本の巨大な水柱が立っているのだった。
目の前の森を貫くように水路が通っており遠くその先に神殿の様な建物群が
見えていた。
「神殿か・・・まずはあの水の柱から確認。リッカ開扇『探リート』。
みんな行くよ、扇移『突ピート』閉扇」
『パンッ!』
エイミーは糸を近場の水の柱に送るとそこへみんなを連れ瞬間移動した。
水の柱の元へ移動した三人の前には巨大な池がありそこから幅50メートルの
水柱が天井へと伸びているのだった。池の周りは森が囲っており水柱の立つ
池から神殿の方へと水路が伸びていた。
「神殿の方から何か来る」
「お嬢様如何致しましょう」
『真っ黒な樹が歩いて来るのー』
「もうマーラったらまた勝手に、でも真っ黒な樹?うーん・・・どうしょう」
「もしや魔樹の森のあれかもしれませぬ。情報収集が必要かと」
「それなら隠れて様子見ようか。開扇『飾リート』よ樹木を装い
我らをカモフラージュせよ」
エイミーは森の樹々の側まで行くと飾りの糸によって周囲の景色に擬態する
偽りの樹木を作り出し三人で中へと潜み覗き窓から歩いて来る黒い樹の様子を
伺うのだった。
「あれってブルータルトレント!?えーっ水の柱に吸い込まれて上がってく」
「もしやここにもマザーが。何故に水の柱から上に?あの水の天井は・・・」
「あの錬金術師ギルド地下の資料覚えてる、迷宮は樹海湖に繋がってるって」
「このフロアの水の天井は樹海湖という事ですかな。それはまた奇妙な」
三人の目の前で水柱へと向かって歩いて来たブルータルトレントはそのまま
水の柱へと進み吸い込まれると柱を上に向かって上昇して行くのだった。
「なんか面白くなってきたね、開扇『探リート』やつらの後を追え。
遠隔透視『遠シート』」
エイミーは探りの糸でブルータルトレントの行く先を追っていく。
そして魔樹の様子を『遠隔透視』により見ていくと水柱を登りきり出た先は
水底に開いた10メートル程の穴だった。フロアの天井を覆うほどの
水の広がりが柱の先に出るとその程度の幅の穴でしか事実に驚きつつエイミーは
トレントの後を追っていく。魔樹は水底に出ると蔓を上手く使って這う様に
陸へと向かっている様だ。浅瀬へと辿り着いたブルータルトレントは立ち上がり
歩いて陸へ上がって行った。
『お姉ちゃまどうなのー』
待ち切れなかったのかマーラが聞いてきた。
「やはりあの水柱の先は湖だったよ。その周りには森が広がってる。そこへ
ブルータルトレント達は向かって行った。念の為、糸を空まで伸ばして見たら
よーく分かった。あそこは樹海湖で間違いないよね」
「という事はブルータルトレントも正陽神教団の仕業ですかな」
「ほぼ確定ね。そしてこのフロア何かある。探るわよ」
「楽しみですな。あの先の神殿の様な場所に何があるのか」
「ここからは隠密行動ね、出来るだけ戦闘は避けて情報収集優先で行くよ」
『ハイなのー』
我先に行こうとするマーラをエイミーは捕まえて肩の上に乗せると
ロイドと共に擬態状態のまま『扇移』で神殿近くの森の中へ跳んだのだった。
森の中に隠れながら様子を伺うエイミーの前には湖上に浮かぶ神殿庭園と
呼ぶべき光景が広がっていた。
中央に古代ギリシャ風の大きな神殿が有りその周りにも数棟の建物が並ぶ
庭園広場がある。それが人工的な湖の中にあり中央に広場へ渡る橋があった。
湖は多角形の様でその辺に当たる森側の部分に半円形の突出し部分があり
そこに真っ黒い巨大な樹が生えていた。
「あれマザーじゃないかな。しかもあれが何箇所もある」
「四本は見えますな」
『六本なのー』
「またマーラったら、でも6体もいるなんて。ここは調べる必要がありそう」
エイミーは『探リート』を神殿の方へ伸ばしていく。森を出た糸は湖を越え
神殿のある島へと潜り込む。
「遠隔透視『遠シート』」
送り込んだ糸の先の様子がイメージとしてエイミーに流れ込んで来る。
「ギルドの地下にいた人型樹人がいる。白いローブを着た人もいる。
教団の人間かしら」
「ここが教団の活動拠点ですかな」
「そうかもしれない」
神殿庭園内には複数の人間が活動していた。白いローブ姿の者が指示を出して
いるようだ。人型樹人は建物の入り口の警護や運搬作業などをしていた。
「建物の中で何してるんだろう」
糸を神殿庭園内の建物にエイミーは侵入させていく。どうやらそこは実験棟の
ようだった。複数のカプセルが並び溶液の中に黒い植物が蠢いている。
白いローブの研究員が黙々と作業をしていた。
また別の建物に送り込んだ糸から伝わるイメージではカプセルの中に人がおり
体の一部が樹人化しているのだった。
「人型樹人は元は人なの・・・ここで人を変異させて人型樹人にしてる。
酷いわね正陽神教団」
「酷いですな」
『酷いのー許せないのー』
更に糸が建物の奥に侵入していくと地下へ続く階段がありそこを降りていくと
人型樹人の見張りがおりその奥は地下牢になっていた。そこには十数人の
男女が捕らわれていた。
「人が地下牢に捕らわれてる。人型樹人にするつもりね・・・ここは潰す!
そしてこの人達は助け出す」
教団の醜悪さを知り怒りを覚えるエイミーだったが気持ちを抑えて調査を続けた。
その他の建物も探って行くと資材や食糧の置き場や住居棟であった。
そして神殿本体とその脇に並ぶ副神殿の様な場所へ糸を忍ばせる。
「神殿の祭壇には正陽神教のシンボルがある。一番の問題はプラチナのローブに
白い魔法状を持った奴がいる・・・潜水艦があった時点で予想はしてたけどね」
「使徒ですかな、それは厄介ですな」
「隣の小さな神殿はやばい!人が魔物の生贄にされてる。皆病んでる人ばかり。
許せない調査はここまで助けるわよ。ロイド、マーラはバトルモードへ移行」
そう言うとロイドとマーラの衣装がバトルモード用に変化し、エイミーも
戦闘タイプのセーラー服にチェンジアイテムを使い変身したのだった。
「まずは小神殿に跳ぶからロイドとマーラは魔物を倒して、私は地下牢の人達を
助けて来る。行くよ扇移『突ピート』閉扇」
『パンッ!』
小神殿内は奥の方の半分が湖と繋がっており、そこでは水中から現れた魔物
クラーケンが生贄を喰らっていた。それを横目に見ながらエイミーは二人を
小神殿に送り届けると地下牢へと『扇移』した。そして、即座に人型樹人を
無力化し地下牢を解放する。
「助けに来たよ、みんな静かにね」
「本当に助けてくれるの?」
「バケモノになりたくない」
「みんなもう大丈夫だから落ち着いて」
エイミーはみんなを落ち着かせ集めると『扇移』でタッカール爺さんの
店まで跳んだ。一瞬の出来事に戸惑う助けられた人達を他所にサリアの所へ
向かうエイミーだった。
「サリア、急なんだけどこの人達を助けるの手伝って欲しい。事情は後で詳しく
話すからね。それとまだ連れて来るから」
「えー急に何なのよこの人達は。あれっエイミーが消えた!ちょっとー」
エイミーは『扇移』で小神殿へと跳んだのだった。
神殿内では巨大なクラーケンの前へ病人を生贄として人型樹人が次々と
捧げていた。そこへ急に現れたロイド達に混乱する神殿内だった。
「何だお前らは、一人消えた!?侵入者だ!」
白いローブの者の前で突然現れロイド達を残し消えたエイミーに驚いた様だが
すぐに警戒する教団の者達。ロイドはそれに構う事なくクラーケンに対峙する。
「マーラ嬢、一気に仕留めますぞ」
『ハイなのー、今のマーラはちょっと違うのー』
クラーケンは異変に気付きロイドに触腕を打ち付けて来る。
それを華麗に躱す執事と攻勢に出るマーラだった。
『氷は縛鎖の獄陣、コオリハアナタヲムシバムのー』
マーラが呪文を唱えると魔方陣が展開し湖から多数の氷の鎖が生まれ
クラーケンを縛っていく。それに抗おうと暴れるが氷の鎖は次々と絡み付き
クラーケンの自由を奪っていく。そして、巻き付いた鎖がクラーケンを
蝕むように凍らせていきパキパキに固まってしまった。
そこへマーラの呪文を見届けたロイドが迫っていた。
「流石はマーラ嬢、クラーケンよ塵と消えよ!念刀極断『極滅細剣』」
マーラの攻撃により冷凍にされたクラーケンはロイドの滅殺の一撃により
粉々に砕け散ったのだった。
「皇帝が倒されただと・・・樹人兵供奴等を捕らえよ」
皇帝クラーケンが倒された事に驚いていた教団の人間が樹人兵を使い
ロイドを捕らえようと動き出したその時エイミーが小神殿に戻って来た。
「クラーケンは退治したようね」
そう言うと樹人兵がロイドを捕らえようと伸ばした蔓を『斬リート』で断ち切り
糸の刃で敵兵を斬り伏せていく。そして、抵抗する白ローブの者たちを糸の繭に
包み捕獲していくエイミーだった。
「制圧完了!ロイドまた地上に行って来るから」
「はいお嬢様」
エイミーは生き残りの病人と繭を連れ再びサリアのいる店に跳んだのだった。
混乱に包まれた店にエイミーが多数の病人を連れて現れる。
「えー!エイミーがまた、何この人達・・・」
「サリアこの人達頼む、病人だから万能薬飲ませて頂戴」
「一体全体何が起きてるの。エイミーちゃんと説明して」
「帰ったらちゃんと説明するからゴメンね」
「あっまた消えた!もうっ・・・」
エイミーは万能薬入りの箱と困惑するサリアを残してまた消えたのだった。
小神殿内で合流した三人の前に宝箱がポツンと置いてあった。
「彼奴らが皇帝と呼んでいたクラーケンがこのフロアのボスでしたかな」
『でも弱かったのー』
「まぁ・・・マーラはチートだからね。宝箱回収して敵に備えるよ」
エイミー達が宝箱を開けて中に入っていたアイテム『水剣アクラ』を手に入れた
その時に小神殿の入口の方から声が聞こえて来た。
「我が迷宮基地にとんだネズミが入り込んだものです。愚かにも我が計画に
泥を塗るとは」
小神殿の入口を塞ぐように立つプラチナローブの男は正陽神教団の計画を
邪魔された怒りに白い魔法状を床に打ち付けるとその衝撃波がエイミー達に
襲い掛かった。
『お姉ちゃま』
「あら、使徒来ちゃったね」
「今度はどんな奴でしょう?楽しみですな」
突然の攻撃にマーラがビックリしてエイミーに飛び付いて来たが
二人が衝撃波を念動で打ち消し何食わぬ顔で会話をしていると使徒が
不機嫌そうに睨み付けてきた。
「使徒・・・何故それを知っているのでしょう。もしやメッターリエールを
倒したというSランク冒険者か。ククククククッ私は運がいい。愚かにも
我が前に現れようとは。樹人兵の良き素体となる事でしょう」
不敵に笑い的外れな事を言う使徒に呆れとそれ以上の怒りを二人は感じていた。
「あなたがここでやってる事は決して許さない!神の使徒とか聞いて呆れる
蛮行、ここであなたは終わりよ」
「ここで我を終わらす?愚かな・・・思い上がるのもいい加減にしろ!
神の使徒たるこのヴィオラエールがお前達に裁きを下す」
エイミーとロイドの前に再び現れた使徒との決戦に緊張高まる小神殿内。
張り詰めた緊張を和らげる様に鳴り響く小神殿内の湖の細やかな水音。
そしてマーラもまた緊張感とは無縁にフワフワと浮いていた。
地下水路迷宮を攻略した末に正陽神教団の使徒と対峙するエイミー達。
次回は「使徒再び」です。




