第161話 説得
ヘンゼル病、それはこの世界における不治の病とされるもので、症状として感染してから1年で定期的な発作が発生し、皮膚の一部がパリパリと剥がれる、そして3年でもう起きることが出来なくなり、今度は一部ではなく全身がスライムのようにドロッと溶け、やがて白骨化して死ぬという病である
これは感染した時点で治療不可能であり、かつて史上最高の勇者のパーティーのメンバーの僧侶が治療したという記録があるが、それも定かではなく、脚色だろうというのが現在の見解である。
「なぁ、この人は感染してから何年経っている?」
「・・・3年と4ヶ月程度だ…」
(末期も末期じゃねーか!)
その言葉を飲み込んでゆっくりと首を動かしてベットに寝かされている患者を見る、息はしているし多少の身体の自由は効くが、やはりもうかなりの進行具合だということは誰からの目から見ても明らかだろう
『アグレディア、あと2分で到着します』
(わかった、直ぐに治療に入る準備を)
『了解』
(さて、、説得タイムに行きますか…)
身体を回して後ろを見る、すると後ろには黒いフードを被ってはいるが、明らかに女性的な特徴があり、この人が女性だということはすぐにわかった
「おい、誰が後ろを向けと言った…!」
女から殺気が溢れてくるが、感覚的にまだ全開ではなく、今後ろのベットに居る人に殺気を当てないように調整しているのが分かる
「今からこの人を別の場所へ移すぞ」
「お前、何を言っているのか分かっているのか!」
「分かってるよ、けどここに居ても何もできないぞ」
「だとしても!゛姫様゛のこの様なお姿を人前に晒すわけにはいかん!」
「・・・ほう?」(姫様ねぇ…?)
「ぐっ…」
女は自分が失言をしたことを把握し、それと同時にその剣を構え、俺に向ける、斬りかかられるのは時間の問題だろう
「言っておくが、俺もここで殺される訳にはいかないんでね、攻撃すれば相応の反撃が飛んでく…」
言いかけたその瞬間、女は俺の視界から姿を消した
(・・うわ、気配を消せるってことはかなりの実力者だな…)
『艦長!後方と上部に反応アリ!』
(そんなん対処できるかぁ!こうなったら一か八か!)
そうして俺は咄嗟に上を向き、銃を抜いて横に構える
ガキンッ! 部屋の中に金属がぶつかり合う音が響く
「なっ…!」
「危ないな、、運が良かったな…」
「・・なるほど、確かに只者ではない…」シュタッ…!
そう言って女は軽やかに身体を回転させて地面に着地する
「ん、、だ、、れ…」
後ろからとても掠れた声が聞こえる、どうやら姫様が金属音を聞いて起きたようだ
「姫様!」
そんな声を聞いて、女は俺に目もくれずベットの方へ走っていく
(あの態度、、姫様付きの女騎士ってとこか、ローブは何で羽織っているんだろうか)
そう思いながら俺もベットの方へ歩いていく
「姫様、申し訳ありません」
「だい、、じょう、、ぶ…」
もう喉の筋肉が溶け始めているのだろうか、帰ってくる返事はやはりとても掠れた声だった
そしてゆっくりとベットの中を除くと、そこには姫様と呼ばれている少女が居て、女騎士はその少女に寄り添っていた
「ここでの治療は絶望的だ、別の場所へ移そう」
「貴様まだ言うか!」
「ここに居ても何も改善しないだろうが!それとも何だ、ここに居ることでこの人の症状が軽くなるとでも?」
「うっ、、それは…」
女が目に涙を貯める、やはり自分でも分かっていたようだ
「今からでも遅くない、治療する手立てはある」
「ッ!その言葉、嘘ではないな!」
「保証する、だからその人を別の場所へ移すんだ」
「・・だがどうやって姫様を移動させる?とてもじゃないが歩けないぞ」
「だったらこうすれば良いだろう」
そう言って俺はベットの下部分を掴み、一気に力を込める、地球ならば到底不可能だったろう、しかしこの世界ではステータスというものが存在する為、力でゴリ押しすることが可能なのだ
「失礼、姫様」
「ちょっとま、、ええぇ!?」
「ほら、お前は反対側を持て」
「急過ぎるだろう!やるなら事前に話せ!」
「あーもううるさいなぁ、黙って反対側持ってろ」
「貴様なんだその態度はぁ!」
お互いにいがみ合いながら俺は歩を進め、壁の端まで移動する
「一体何を…」
(やれ)『はい』
次の瞬間、俺たちが居る所の反対側の壁が突如音を出して崩れ、黒味がかかった鋼色の大筒が顔を覗かせていた
(砲身で壁を割るとは、アグレディアも大胆なことを言い出すもんだ…)
「な、何だこれは!?」
「話は後だ、行くぞ」
そうして俺は大穴が空いた所へ、ベットを持ちながら進むと、そこには空中へ浮かぶアグレディアが浮かんでいたのだった…




