海サイド
「暴れてる若者衆止めにいけ」
海は部下に命令を出し、礼をしてから部下は出ていく
ドカッと座った椅子は大きく凹む
「しかしあの女、あんなに堂々としていたか?」
海の記憶の中では深白は紅哉の後ろに隠れ、名前を呼ばれるたびにビクビクとしていた
そんな記憶しかない
あんな拳銃をぶっぱなしたり、喧嘩をうるような肝が据わっている人ではなかった
「女は化けるってことか」
かつて居た深白の母を思い出した
「咲白か…あいつも化けたよな」
咲白は深白の母の名である
――
「わしは何もせん!おどおどすんなや!」
「…ごめんなさい」
わしは組長に命令を受け、咲白の話し相手になりにきていた
しかし咲白の震えは止まらずわしと目を合わせることはない
その様子に苛立ちを隠せない
「女!何がそんなに怖いんや!言ってみ!」
咲白は目を合わせることなく、俯いている
わしはもう一度怒鳴ろうと口を開けた
しかし
「怖くはないんです…」
か細い声で答えた
「ただ誰も頼る人がいないから、不安なんです」
咲白の声は震えていた
考えてみればそうだ
組長がこの女を誘拐してきたのは知っている
枷は付いていないがこの家から一歩でも出てしまえば捕獲対象になる
見えない枷…といえば分かりやすいだろう
この幼い子供は浦組という大きな勢力による枷が付いている
誰も頼れないその様子に怯えるのも納得がいく
「お前の気持ちは分かった
すまんな、怒鳴ったりして」
「…?」
初めて謝られたのか
不思議なものを見るかのような顔をした
そこでやっと目が合った
驚いた顔をしていたが組長が惚れるのも分かる
白い肌に紅を落としたような頬
パーツが整っており、それを潰すことなく顔に配置されている
美人…というのはこの人のことをいうのだと納得がいくほどであった
「名前、咲白と言ったか?」
「…はい」
また俯いた咲白に言う
「組長の命令に外さない程度は助けてやる
わしを頼ればいい」
こちらに希望によって輝いた目が向く
「本当にいいんですか?」
「いいと言ってる」
咲白は頭を下げた
その時の笑顔がとても可愛いと思った
組長がいなければわしがさらっている
その数年後咲白の子供、深白が生まれた
その時の咲白は重い腹を抱えながら、
奪われるかもしれないわが子のために組長と対抗していた
その時咲白は怯えなどなくただわが子を守るための母の顔になっていた
結果として深白は若頭によって守られたのかもしれないがあいつは命を落とした
それでもあいつは強かったとわしは思う
――
「女だからあそこまで化けたのかそれとも…
咲白の娘だから化けたのか」
海は部下が戻ってくるまで物思いにふけった




