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川野課長の憂鬱〜ブルーでライトな横浜凱旋〜  作者: 桃山あんづ


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6/6

誰目線ですか?

湯川の、割と重大なプライベートの話題を耳にした一同。

当の本人は、離婚してから1年も経っていたので、ケロッとしている。


ビールをグイグイ飲んでは、結婚のデメリットを延々と話したり、時々、声を張り上げ“恋人募集中!”や“誰かいないか?”などと、女性社員にアピールしたり、やりたい放題だ。


周りは、どう反応して良いか分からず、湯川の機嫌を損ねない程度に相槌を打っては、提供された料理を黙々と食べていた。



「本島は、彼氏はいないのか?清楚な顔してるから、モテそうだけどな。」



酒の力で、更に勢い付いた湯川が尋ねた。



「私ですか!?⋯⋯今はいませんがっ。」



とても真面目な本島は、あまりこういう軟派なセリフを誰かに言われた事が無いので、返答に戸惑ったようだった。


返事をしたあと、湯川から少し顔を背け、ビールを飲みながら頬を赤くしている。



「そうか!イイ奴が見つかると良いな!で?佐々木は結婚してるんだよな?」



本島に聞いた割に、あっさりと佐々木へ話題を移した湯川。


てっきり口説かれると思っていた本島は、飲んでいたビールを、思わず噴き出しそうになった。



「はいっ!私は新婚で主人とラブラブなので、無理です。」



先程、湯川から詰められた人とは思えないくらい、きっぱりと返した佐々木。


思わず、湯川が笑った。



「ははははっ!佐々木の事なんて、狙ってないから安心しろよ。俺はな、若い女より、もっと大人の女が良いんだよ。こっちから願い下げだよ。はははっ!」



理想の女を、自分が選べる立場なのだという事を、信じて疑わない湯川。


その態度に、両腕を組みながら冷たい視線を向ける川野。



「なぁ、光!お前は当然、いないだろ?」



湯川は、川野から軽蔑されている事にも気付かず、そう尋ねて来た。



「私ですか?私はいますよ。大好きな彼が。」



「えっ?」


「ゴホッゴホッ!」



川野の言葉に、周囲はザワついた。


湯川の箸は止まり、山口は思わず、川野に顔を向けた。


向かいの佐々木は両手を組んで、目を輝かせて微笑み、本島は衝撃のあまり、とうとうビールでむせてしまった。



「それって!佐渡係長ですか!?」



本島が凄い形相で、川野に食って掛かってきた。



「違うっ!違います!営業部ではなく⋯」



「増岡か!!」



川野が説明しようとすると、被せるように湯川が答えた。

ムッとする川野。



「違います!人の話を聞いてください!私は、第二支社の経理部の山本君と、婚約しています!なので、湯川次長。対象外だとは思いますが、念のため。私も無理ですっ。」



話を聞こうとしない、せっかちな湯川と本島を黙らせるように、川野は負けじと早口で声を張り上げ、そう宣言した。



「山本?えっ、あの?⋯⋯お前さぁ~、何やってるんだよ!あんな年下の色男を捕まえるなんて。絶対、浮気されるぞ?」



湯川が、ため息交じりに言った。


彼は、山本とは部署は違うが、本社で何年か一緒に働いていたので、面識があった。


もちろん、同じ企画・営業部の佐渡の事も、本社では一時期、上司・部下の関係だったので知っている。



「心配ご無用です!それに、他人の大事な人を、蔑まないで下さいっ!」



いくら上司だからって、言って良い事と、悪い事がある。

湯川の否定的な言葉に、我慢せずに切り返した川野。



「いや、別に馬鹿にはしてないよ⋯⋯。でも、お前は年下より年上の方が合ってると思うけどなっ。だいたい、お前は結婚なんて向いてないよ。ガサツだし、マイペースだし。」



「余計なお世話です!結婚目前の部下を捕まえて、夢のない事言って、何が面白いんですか?」



「でもな、光⋯。結婚は人生の墓場だって言うだろ?俺も散々、痛い目に遭ったし⋯。」



モゴモゴと、歯切れが悪くなる湯川。





「川野課長〜、おめでとうございます!」



この変な空気を読まずに、祝福する佐々木。



「山本かぁ⋯⋯。この半年の間に、姉さんが、まさか婚約して帰って来るなんて⋯。」



頭をもたげ、目頭を少し押さえる山口。



「あのっ、川野課長、佐渡係長は元気ですか?」



川野の相手が佐渡ではないと知り、コロッと柔和な態度を取る本島。



「佐渡君は、とても元気にしてますよっ。」



川野は、サラッとそう言って流した。

佐渡が、自身に最後まで想いを寄せていた事、彼が同じ部署のギャルに、最近アプローチされている事など、本島に話したら大変、面倒なことになるので、川野はそれ以上、言わなかった。



「そろそろ、お開きにしましょうか。」



腕時計に目を落とし、幹事の山口が言った。



終わった。

何とか終わって、本当に良かった〜!


川野は約2時間の、この地獄の様な歓迎会を乗り切った事に、心から安堵した。



「二次会は自由参加なので、参加する人は駅前のカラオケ屋に移動して下さ〜い!」



二次会の幹事も、兼任する山口。

彼は、こういう仕切りが非常に上手で、穏やかな性格なので、幹事を頼まれると断れない質なのだ。



湯川からの解放の時間となり、そそくさと席を立つ佐々木と本島。



「皆さん今日はありがとうございました!今後とも宜しくお願いいたします。では、お先に失礼します。お疲れ様です!」



川野も、周りに会釈をしながら挨拶をすると、荷物を持ち、その場を去ろうとした。



その時。



ガッ!ドスッ―


「痛っ!」


非常に重たいものが、川野の肩をホールドした。

湯川のムキムキに鍛え上げられた、腕だった。


無理矢理、再び席に座らされた川野。




「何するんですか!?」



「光っ!!俺は、お前の結婚を認めないぞっ!」




酒に飲まれて、呂律が回っていない湯川。


以前は酒が入っても、この様な醜態を見せることは無かったのだが。




「誰目線ですか?はぁ⋯。湯川次長の許可なんて、どうだって良いですっ!お疲れ様です!おりゃぁぁー!」




川野も負けじと腕に力を込め、湯川の重たい腕を引き剥がし、勇ましく立ち上がった。


振り返ると、湯川の顔は赤く瞼がすでに閉じており、今にも寝てしまいそうだ。



「もうっ!何やってるんだかね〜。川野ちゃん、あとは任せて!⋯⋯ほらっ!湯川君、店を出るよ!」



離れたテーブルにいた木村さんが見兼ねて、助けに来てくれた。


山口君も、木村さんと一緒に、湯川の介抱をしようとしてくれている。



「ありがとうございます!すみませんっ。」



川野は2人に一礼をして、店を後にした。

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