終. 好みの顔であればよしとしよう!
「おはよう」
デュドネが目が覚ますとクルアハがいた。どうしているんだっけなとデュドネは身体を起こした。
「寒くないか?」
ずいっとクルアハが黒い上着を差し出してきた。そういえば、デュドネは怪我を負い自前の魔道具で治療した後すぐに寝てしまい、上には何も着ていなかった。デュドネは上着をありがたく受け取った。
「後で髪を整えないとな」
クルアハは寝乱れてぐちゃぐちゃになった黒髪を大事そうに触れた。
「クルアハ、見てくれ。僕の魔道具の出来はどうかな」
デュドネは背中を向け、一番上手く治療できた肩甲骨周りを見せた。傷痕ひとつ残っていないはずだ。治療時はかなり痛かったため、身体が動き上手く治療ができなかった場面があったため、次からは麻酔か何かと併用してみようとデュドネは改善点を見出した。
「…………」
デュドネが自己採点している間、クルアハは何も言わずデュドネの肩を眺めている。
「どうした?何かあった?」
デュドネは重い沈黙に耐えられず、首を後ろに向けクルアハの目を見た。クルアハはじっとデュドネの首元を見ている。気になって触ってみると、固まった血がこびり付いていた。
「聞いたよ。あいつのこと庇ったんだってな」
「庇ったというか……」
咄嗟に身体が動いただけだとデュドネはもごもご口を動かした。
「あんな人でなしは護らなくていい」
クルアハがその辺にあった白い布でデュドネの首筋を拭った。
「そういうわけにはいかない」
先程のもごもごした口調とは打って変わってデュドネはきっぱりと言った。
「……やめると言ってくれ」
頼むとクルアハは珍しく縋るような物言いだった。
「やる時はやるだけ。……クルアハは騎士団もレヴィアンのことも大事にしたいと思っているからね」
「だから何」
「僕は愛する人の大事なものを護りたいだけだ」
「…………勘弁してくれ」
真っ直ぐな目をしているデュドネにクルアハは途方に暮れた。あてもなくデュドネの首筋を拭った白い布を見ると赤黒く汚れていた。デュドネには到底似合わない色だなと思った。
「今、痛感しているが、デュドネも大事なんだ……」
クルアハはこのままデュドネが血とは無縁の世界で何も損なわず幸せになってほしいと痛感した。自由であるがままで、何に縛られるかは自分で決断し、誰にも騙されず、利用されず、自分の愛を大事にしてくれる人を見つけ、尊厳を護られていてほしい。自分のような血腥い人でなしと結婚したことは何かの間違いだ。
「デュドネ、好きな人ができたら私のことは気にしなくていいから」
「……何の話?」
デュドネにとってはまさに青天の霹靂の一言であり、何があったんだとクルアハの方に身体を向き直した。
「あなたが好きで愛してる僕に解るように説明して」
デュドネは目を瞑ってこちらの顔を見ようともしないクルアハに苛立った。
「あなたが私を愛してくれているのはまあわかった。ただ、私は人でなしだから、……あなたの愛を受け入れ、返すことはできない。私に愛の本質は理解できない」
「愛は難しいからね」
「そんな私を見放す日が来る。嫌になる日が来る」
リリーのようにクルアハの人でなし具合に怖気付く日が来る。兄のようにクルアハの人でなし度合いに嫌気がさして見放す日が来る。そうに違いない。
「来ないよ。僕は一途だ」
「……私はあなたを夫としての価値があるから大事にすることしかできないよ」
「僕は公爵で魔法の天才だ。だから大丈夫だな」
「…………私が人でなしであることに傷つく日がいつかきっと来る。あなたを傷つけたくないし、……あなたに見放されたくない」
「ふふふ」
「……なにがおかしい」
「いや嬉しくて」
傷付けたくないなんて!見放されたくないなんて!デュドネはそれって愛してるってことでは?と自惚れた。クルアハは愛を難しく考え過ぎている。高尚で難解なものと思っているのだ。
「クルアハ、人でなしを愛したっていいじゃないか」
「…………どうだろうか」
「僕がよければそれでいいんだ」
愛を素晴らしいと思っているからこそクルアハは自分なんかを愛してくれるのかと不安で仕方ないのだろう。
「僕は傷付かないし、あなたを見放さない」
愛してるとデュドネはクルアハを抱き締めた。いつかクルアハが自分の愛に気付けますように。デュドネを傷つけたくない、見放されたくないと思う気持ちが愛だと言える日が来ることを祈った。
「ねぇ、クルアハ。僕のこと好き?」
「……顔は好みだよ、本当に」
いつかデュドネに愛していると言える日が来るだろうか。もし自分が愛を理解して誰かを愛していると言うならばデュドネがいいと願った。クルアハは目を瞑って縋るように背中に腕を回した。今できる精一杯をクルアハは示した。
今はこれでよしとしようとデュドネは笑った。




