表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/42

小話2. 人でなしが二人

 これはクルアハが故郷に帰るため、しばらく留守にする直前のことである。

 クルアハは普段のように騎士団長室で駄弁り、軽い世間話のようにレヴィアンに言った。

「そういえば、出掛ける用事ができた」

「……お前の個人的な事情か」

 レヴィアンはクルアハの故郷に思いを馳せた。最近、あのロシェクールが別荘を構え、不穏な気配を漂わせている。何かよからぬことをしているのだろう。

 大事だからこそ遠ざけてしまうクルアハの故郷はレヴィアンにとっても大切な場所だった。

「仕事絡みにもなるだろうな」

「俺も行こうか?」

「ひどい冗談だ」

 半分本気だったのになとレヴィアンは眉間に皺を寄せた。あのロシェクールを相手取るなら流石に心配だ。

「……まあ、その前にデュドネになんか言っとけ」

「なんで?」

「騎士団の介入がいずれ必要になる。いいか、クルアハ。一人で解決は無理だ。やめなさい」

「わかったよ……」

 ロシェクールのバックには王弟がいる。クルアハが一人で無理に解決しようとすれば確実に騎士団やデュドネに迷惑がかかる。クルアハはわかっているだろうが、釘はささないとダメなのだ。

「……私は彼の相談で動くのがベストだと思う」

「巻き込めって?」

 オイオイ嘘だろとクルアハはドン引きの感情を隠さない。副団長の夫にも関わらず第三者と思っているのだ。

「もう既に遅い」

「…………うーん」

 それも一理あるなという顔をクルアハはした。デュドネを介入させれば、必然的に騎士団だけの問題ではなく、魔法省も絡ませることができる。お偉い人を倒すためには多くの組織を巻き込んだ方がいい。揉み消すことが難しくなる。

「……しかし、お前に相談するかねぇ。胡散臭信用ならん馬鹿(お前)に」

「するよ。彼はお前を愛してるから。俺にはわかる。あとお前が俺のことどう思ってるかもわかったから。……そんなに胡散臭いかなぁ」

「ようわからんなぁ。……お前が胡散臭いことだけは確かだ」

 目頭をつまみ、難しい顔をしている唐変木をレヴィアンはとても微笑ましく感じた。クロムはクルアハ()に人の愛に触れ悩むことを望んでいたからだ。

「んで、愛してるとしてだから何だ」

「……心配して探すだろう」

「そういうものか」

「お前だってクロム()を愛しているから戦場まで探しに来たんじゃないのか」

「……それは建前よ」

 クルアハは皮肉気に口を歪めた。

「本当はやることが無くなっちまったからさ。しってんだろ」

 どうしようもないなとレヴィアンは目の前の人でなしを見た。孤児院のために自分を置いて戦争に征った兄を善と感嘆して兄に置いてかれた自分を納得させた幼い子供で、手段はさておき、兄のようにと孤児院を護り切ったが、平穏を迎えた孤児院に自分の居場所はないと判断した愚か者、兄を探すという口実で戦争に征って、兄を失い、それでも戦場で走り続けた英雄。願わくば、幼い子供に寄り添い、愚か者を愛し、英雄の帰る場所になってくれる誰かがいないものだろうか。

「私は私なりのやり方でやるから後はよろしく」

 クルアハは物思いに耽るレヴィアンを置いて、騎士団長室からぬるっと退出した。

 あのランスの悪魔が好き勝手やるらしい。手間のかかることだ、後始末や帳尻合わせは少々厄介なのだぞとレヴィアンは仕方なさそうに笑った。

「まあ、俺も俺のやり方でしかやれんがな」

 クルアハのことを人でなしやら手のかかる奴やら思っているレヴィアンであるが、彼もまた同様に人でなしであり、そして、クルアハ以上に手段を選ばない人間であった。



 そして、事が終わり、静養中のクルアハの元にレヴィアンが訪れた。

 デュドネは席を外していたようでクルアハは一人で黄昏ていた。クルアハが大人しくベッドで横になっている様はとても珍しいとレヴィアンは微笑ましく思った。

「有意義な休暇だったみたいだな」

「なんだ来たのか」

パトリア(ここ)には一度来てみたかった」

「どうだった?」

「朝日が綺麗だった」

「そうかぁ?」

「真っ赤だった」

「ふーん」

 つまらなそうにクルアハは夕日に目をやった。赤い光が金色の髪と相まってとても美しい。こちら側からは見れないが、一つ残された青い瞳も夕日と混じり合い艶やかに輝いているのだろう。

「デュドネはお前を心配していたろう」

「……どうやら私を愛しているらしい。目を煌めかせていた」

「どうやら?らしい?……うわ~、ボンクラ発言きた、さすが愛初心者!よっ、一年生!先達が導いてさしあげようか」

「目的の手前を終点と思い込みそうだ」

「先達がいるから平気だ。頼りにしたまえ!」

「やかましい」

 クルアハは心底迷惑そうに言い、窓の外の夕日を眺めながら器用にも出口はあちらだと言うように指をさした。

「デュドネにちゃんと向き合えよ。いくら眩しいからといって目を逸らすなよ」

「……そっくりそのまま返す」

「俺は向き合った」

「現在進行形で願いたいものだな」

 クルアハは現在は結婚したブランシュにきちんと向き合えと言っているのだ。真っ当で薄情なことだ。

「で、私を揶揄いに来たわけじゃないだろ」

 用件を言えとクルアハは急かすがこの願い、レヴィアンは叶えてあげたことがなかった。

「……世にも珍しい古狸の命乞いが観られると聞いてね」

「はぁ、楽しめたか……。見どころは頬の垂れ下がった皮膚だ。あれがブルブル揺れる様を見ていると全てが愚かしく思える」

「そうだな、あいつの娯楽のために人が死んだと考えると全てがやるせなく思えた」

 戦場で人は馬鹿みたいに死んだ。クロムも死んだ。戦場という異常事態が命の価値を狂わせたのだ。今回の件では、平和の世でロシェクール侯爵という愚か者のせいで命の価値がおかしくなった。もし、戦争がなかったら誰も彼も、クロムも死ななくてすむと思いたいが、ロシェクールみたいな奴がいるとそうとは断言できなくなる。

 これはレヴィアンにとって無力感を伴った怒りを覚えさせた。

「で、もういらなくなったのか?」

 クルアハはいつの間にか夕日ではなくレヴィアンを見ていた。

「知りたいことは知れたし、あとは裏取りゃいいだけだからな」

 ロシェクール侯爵の身柄は王都に移送することになった。裁きは国に委ねるとしてゆっくりと王都に向かっている。レヴィアンがその旨をロシェクールに伝えると、誰にも儂は裁けーんガーハッハッハッ、と醜悪さは健在であった。未だ、王弟の庇護の元、傀儡師として暗躍する気満々らしい。

「で、どこからどこまでがお前の手のひらの上?」

「……いつも言っているが、お前を算段に入れるにはちと暴れん坊が過ぎる」

「じゃじゃ馬ならしはしないのかい」

「お前はそんなタマじゃない。馬に失礼だ」

「馬よりもまずは目の前の相手に礼を尽くせ」

 呆れた顔でクルアハはレヴィアンを見た。

「俺の本領発揮はこれから。だから、ランスの悪魔は少しここで英気を養っててくれ。ほらお見舞いの品だ」

「……ありがとう」

 レヴィアンが指輪を返すとクルアハはふふふと嬉しそうに笑った。あんなにもはにかんだ顔は見たことがなかった。誰かを護るために自分の手放したくないものを切り捨て、諦め、それでも戻ってきたことが嬉しいのだ。

「大事なものをほいほい渡すなよ。……昔クロムに怒られただろう。自分を大事にしろってな」

「そうだっけなぁ」

 クルアハは神妙な顔をした。その真剣な様子はフリだけでどうして以前兄のクロムに怒られたのか、どうして今レヴィアンに大事なものを切り捨てるな、自分を大事にしろと諭されたのか解っていないのだ。兄は心の柔らかな部分を傷付けて人を護る妹を黙って見ていられないんだとレヴィアンには我が事のように解っていた。

「で、休暇命令とは珍しいな」

 内心、何をする気だ?一枚噛ませろと意気込んでいるクルアハを華麗に無視してレヴィアンは話を変えた。

「ところで、悪魔の血を飲むと大変なことになるんだなぁ、れゔお」

「……ガキでもわかる世の摂理だろ」

 レヴィアンが腹の内を話す気がないと理解したクルアハは追及を諦めた。

 クルアハの治癒魔法は手が込んでいて、クルアハの体液を自身が使うと自動回復も可能だ。たとえそれが自分であっても、全くの他人であっても自由自在に行使できる。ゆえに、その代償についてクルアハはもちろんのことレヴィアンも戦争を通じて把握していた。

 


 その後、王都への道中、どういうわけか、ロシェクール侯爵は死亡したという報せが届いた。死因は心臓の病だそうだ。恐らく年のせいだろうとレヴィアンとクルアハはその死を悼んだ。

 









 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ