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1. 待つ身がつらいかね

 クルアハはやけに緊張していた。なぜなら、今日、夫となる人に初めて会うからだ。クルアハは緊張知らずであった。どんな戦場でも落ち着いて頭を回し、身体を動かすことができた。冷静さを欠くことはなかった。しかし、今、クルアハは手を震わせ、口は乾き、冷や汗をかいていた。着慣れた騎士服をギュッと握りしめている。 

「落ち着け、クルアハ。きっと悪い人ではないはずだ。話がわかる人のはず……。だいじょうぶ、だいじょぶ。……上手くやれる」

 クルアハは自分に言い聞かせ、新居にて、婚約者を待っていた。

 クルアハは隣国との戦争で名を上げた平民出身の騎士である。およそ10年、クルアハは戦い続け、ランス王国に多くの勝利をもたらした。ランス王国と隣国であるギーリース王国は計15年にも渡り戦争をしていたが、1年前に敵将の死によって幕を下ろした。クルアハはその敵将の首を取り、大手柄を立て、英雄となった。数々の功績の褒美として、所属する騎士団の副団長の地位、貴族の身分(条件として魔法省のデュドネ・ド・ソレイユ公爵との婚姻)、宮殿近くの屋敷、お肉10年分が与えられた。

 クルアハは国王からの褒美を初めて聞いた時に以下のように思った。

 

 副団長の地位はありがたい。騎士団団長レヴィアンは戦友でもある。彼を支えることは本望だ。

 貴族の身分は心情的には不要である。それでも、今までは平民というだけで馬鹿にされ、相手にされないことがあったが、国王様から貴族という身分を与えられたとなれば、直接馬鹿にする人数も減るだろう。副団長の地位を得るにも必要だ。(デュドネ・ド・ソレイユって誰?誰なの?怖いよおッ!!)

 宮殿近くの屋敷は職場へ通いやすい。しかも、執事、庭師、使用人付き。ありがたいことだ。欠点と言えば、広すぎて迷いそう、どうすればいいかわからない、なんか不安になってくることだ。

 お肉10年分はテンション爆上がり!キャッホー!!国王に褒美は何がいいか聞かれた際に、お肉1年分と答えたら、周りの重臣は呆れていたが、国王は鷹揚に笑って10年分もくれた。いい王様だ。


 とどのつまり、クルアハの懸念はデュドネ・ド・ソレイユとの結婚だけであった。

 クルアハなりにデュドネのことを調べたが、巷の評判は散々な男だった。

 デュドネ・ド・ソレイユ、24歳、男。爵位は公爵。長身痩躯、やたら長い黒髪、目つきの悪い黒い瞳。発明した魔道具は数知れず。功績だけ見れば早熟の天才の成功例、性格は黙して語らず。通称、魔法省の異端児……。

 クルアハはこの噂を聞いた時、これは褒美なのかしらんと首を傾げた。タチの悪い売れ残りを押し付けられた気がした。しかし、それも仕方ないかとクルアハは思った。こちらもかなりの不良物件なのだ。

 クルアハ(姓はなし)、26歳、女。平民出身。騎士にしては長い金髪、一つだけの青い瞳。戦場で殺した人間は数知れず。功績だけ見れば戦争終結の立役者、性格は身内が人でなし具合にガチギレするレベル。通称、ランスの悪魔……。

 クルアハは己のスペックを指折り数えた。お相手に申し訳ないくらいだ、私でいいのかなとクルアハは自嘲した。


「失礼いたします」

 クルアハが慣れない自室で悶々々々としていると執事のミレーが仰々しく入ってきた。

「奥様、旦那様がご到着されました」

「…………ああ、私か」

 奥様、はてな?とクルアハは自分の呼び名を理解するのに手間取った。

「慣れんな」

「時間が経てば慣れます、奥様」

「そーかな、アリガトウ」

 クルアハは奥様と呼ばれるとゾワゾワするが、これもいずれ慣れるのかと不思議な気持ちになった。

「待て、旦那様が来たって……?」

「はい。ソレイユ公爵様が1階の玄関でお待ちでございます」

「そっかぁ……、変じゃない?平気かな?」

「安心なさいませ。お綺麗でございます。鏡をお持ちしましょうか」

「いや、遠慮しとく。……見てもよくわかんない」

 クルアハは大きく息を吸って吐き、意を決して玄関に向かった。














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