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満身創痍

閲覧ありがとうございます。

お暇ならぜひ読んでいってください。

ガチャリ、ガチャリと金属がぶつかる音がする。

少しの獣臭と寝る前に嗅いだ香の落ち着く匂い。

手の平を撫でる柔らかい毛。

夢見心地の中、五感からの情報がスローモーションで、まだ重い頭に流れ込む。


このまま目を閉じていたいけど、喉が張り付くほど渇れてる。

呼吸が少し痛い。


……水が飲みたい。


身体の欲求に逆らえず、ノラがゆっくりと瞼を上げると見覚えのない光景が目に入る。

白い布の壁、幾何学模様の絨毯、木製のベンチチェア、そして焦げ茶色の毛皮を黒く染めるほど流れ出ていたらしい涎。頬が少し冷たい。


微睡んでいた意識が急速に戻り、ガバッと身体を起こす。


「ほわあぁぁあぁぁあ~~~っ!!」


口元の涎を手の甲で掬うと、自分がやらかした小さな水溜まりを見て、恥ずかしさで頬を染めながら慌てて袖で擦る。

ゴシゴシと毛皮を擦りながら、はたと、手を止め辺りを見回す。


そうだ、昨日の戦闘のあとここに案内されたんだった。

彼女は無事だろうか?

振り返り目を覚まさないアリシアをじぃっと眺める。

クゥクゥと気持ち良さそうに寝息を立てて大分深そうな眠りに付いている。

額と、腫らした足首に濡れタオルが置いてある。

あの男がやってくれたのだろう。


命に別状は無さそうでホッと胸を撫で下ろす。

ノラがキョロキョロと辺りを見回しながら次の行動を考えていると、厚いカーテンの様な入り口が開いて、のそりと男が入ってきた。


多少驚いたのか、座ったままのノラの肩がぴょこっと跳ねる。

男はちらっとノラを見るが、特に気にすることもなく、持っていた斧を木製のウェポンラックに立て掛けた。

そして棚から不格好な素焼きの湯呑みを掴み、ズイッと彼女に差し出す。


ノラがおそるおそるそれを受け取ると、また棚に戻り、今度は陶磁風の水瓶を持って彼女に差し出した。


「冷ました…白湯だ。ゆっくり…飲め」


そう言いつつ、トプトプと湯呑みに注ぐ。

並々と注がれた湯呑みを一瞥すると、彼女は両手で持ちゆっくりと口をつける。

水が喉を伝って胃に落ちていくのがわかる。うるおいが喉を満たし、もっと寄越せと身体が催促を始める。

堪らずぐいっと湯呑みを煽ると、ゴクゴクと喉を鳴らして、一息に飲みきってしまった。

はぁ~、と深い溜め息を漏らし、湯呑みを口から離すと、男は再度そっと水を注いだ。


「じき昼だ……。この時間から…では…何も出来ないだろう」


そう言って寝床の脇に水瓶を置くと、入り口に向かって歩き出す。


「あ、あの!」


話す事が多過ぎて、何を喋ったら良いのか全くわからないが、外に出ようとしている男に思わず声を掛ける。


「横の女は、疲れと…足の怪我で…少し熱…を…出している……。目を…覚ますまで…寝かせておけ…」


「おまえも…まだ……休んでいろ」


男は振り返りそう言い残すと、幕から出ていった。


状況がうまく飲み込めない。取り敢えず何かしたいが、身体が酷く重たいし、何をして良いかもわからない。

結局、寝ることも部屋を散策することも出来ずに、毛皮の上でちびちびと水を飲みながら暫く呆けていると、横でもぞもぞと動く気配がした。


「随分と助けられたみてえだな」


額の布を外しアリシアが声を掛けた。


「アリシア!起きてたんですか?」


「いや、たった今だ。あの男は?」


「武器を置いて外に出ましたけど、何をしているのでしょうか?」


「ま、取り敢えず取って食われる事はなさそうだ。そんなことより身体中が痛え」


と、言いながら身体を起こす。上半身の鎧を慣れた手付きで外していき、スカートとタンクトップ一枚の姿でぐっと身体を伸ばすと、確かめるように身体のあちこちを探った。


それから少しの間を置いて、男が黒鉄の鍋を提げて戻ってきた。

それを部屋のまん中にある、1m四方ほどで、中に砂を敷いてある囲炉裏的な所にのせる。


「起きたか…。食えるか?」


男が空の椀を二つ、目の前に差し出す。


「いや、水をもらいたい」


と、椀を受けとって、ノラに注いでくれと頼む。

男はもう一つの椀をノラの前に置くと、囲炉裏の側に腰を降ろし、鍋の粥を自分の器に盛ると、飲むように啜り始めた。


水を煽りながらジッと動きを見ていたアリシアは、これまで全て右手で事を済ましていることに気付き、椀を持った手で男の左手を指しながら訪ねる。


「あんた、怪我は平気なのか?」


男は動かない左手を指している事を理解すると、椀を床に置き、中指と人差し指がない甲冑を弄りながら答える。


「首は…問題ない。こっちは……飾り物だ……」


ガチャっと手首から先を外して、事も無げにプラプラと手招きするように動かす。

鎧を外した手首から先は、あるはずの物が無かった。手首の断面は黒い金属が詰められているようだが、はっきりとはわからない。


「義手だったのですか。壊してしまって申し訳ありません」


動かないものでも義手は安くない。金属製のアーマーなら尚更だ。それに気付いたノラは慌てて謝る。


「いや…、仕方のなかった…事だ……。気にしなくていい…」


と、謝るノラを諫めながら、指のない鋼鉄の手をまた嵌め込んだ。


椀を寄せろと言うように、お玉で粥を掬いノラに差し出すと、彼女はそっと囲炉裏に近付き、足を崩して座る。

男は、おずおずと差し出された椀に粥をよそいながら説明を求めた。


「そちらの…話を…聞かせてくれ…」



読んで頂きありがとうございました。

ブックマークと感想がちょっとづつ増えてまして、これが思ってた以上に励ましと後押しになります。

興味をもってくれた方々、本当にありがとうございます!

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