表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/36

リスクヘッジ

「今、ジェード君の声が聞こえませんでした?叫び声みたいに聞こえましたけど」


「ん?気のせいじゃねえか?カレタカと一緒にいれば、どうにかなる事はねえだろ」


「ん~……、それもそうですねっ」


やや温めの湯でダラダラと過ごす二人。久々の湯浴みだったせいか、今日ばかりは長風呂が苦手なアリシアも、湯に身体を浮かせてのんびりと湯の感覚を楽しんでいた。

その子供じみた行動に、ノラが注意をする。


「行儀悪いですよ?他の方の迷惑にもなりますし」


「こんだけ広いのにわざわざ寄ってくる奴はいないだろうよ。それに気持ちいいからやってみろよって……、もしかして、それのせいで沈んじまうのか?」


アリシアがノラの豊満な胸を指して意地悪く笑うが、ふふんと、鼻で笑った後、ノラは勝ち誇ったように流し目でアリシアを見た。


「アリシア……、あなたは知らないのですね……。これはですね、浮くんですよ?」


「マジかよ……」


自分も持っている筈なのに、それを知ることが出来なかった事にアリシアは愕然とするが、その大きな胸を見ながらある事を思い出した。


「そういや、生き延びたらもぎ取るって約束したっけな」


「え?あれは冗談ですよね?売り言葉に買い言葉ってやつじゃ……」


アリシアが手をワキワキと動かして迫る。


「分け与える量は決めてくれたいのかい?ノラさんよ」


「ちょ、ちょっと待って!手じゃもげませんよ?そもそも取れるものでもないです!」


「取れるかどうかは今から試すんだよっ!あたしも浮かせてみたいんだ!」


ノラが胸を隠してジリジリト後ずさるが、逃がさないとばかりに、悪戯心と嫉妬も混ぜてアリシアが飛びかかる。

周囲の生温かい目に見守られながら、一進一退のじゃれ合いは暫く続いた。


「で、おふざけはこれくらいにしといてよ。この先どうすか」


「はぁ……、はぁ……。私、汚されちゃいましたぁ……。周囲の目が痛いですぅ……。この後のことですか?」


「カレタカとこの先どこまで一緒に行くか、だ。どう思う?」


さめざめと泣くノラを無視して、アリシアは岩場に腰かけて話す。

ノラが居住まいを直して、考え込む。


「まだ何とも言えないですけど、悪い人では無い事は、間違いないですよね」


「十数年、魂を守るだけの為に村を守り続けて来たんだ。悪人な訳がねえ。エルフからの信頼も厚かったし、信用も信頼もできる。ただな……」


「他に何か?」


「あいつは、人狩りに来たのは軍だと言った。都市か国家かわからねえが、普通なら素性を隠す為に傭兵あたりを使って、痕跡は消すもんだ。

それなのに軍が出張った来たって事は、バレても問題が無いほどの大国か、第三者に知られたくなかった何かがあったのか……。どちらにせよ、カティナには人狩りをさせる程の何かがあるんじゃないかと、あたしは思っている」


アリシアの推測に、ノラも納得する。


「ただの労働力を求めた流民狩りじゃなく、エルフの様に一族を狩る事に意図があったと?」


「そうだ。考えが合っているなら、カレタカは超が付く特大の厄ネタだ。遅かれ早かれ何かしら起こる。面倒見てやるなんて言ったが、どうしたもんかね」


確かにアリシアの言うとおりなのかもしれない。このまま同行していると、何かしらの事件に遭遇するリスクは高い。が、これまで一緒に旅をしてきた事を思い返せば、少なくない情もある。ノラはそんな、リスクと情を秤にかけたあいまいな考えを、特にまとめようともせず、ぼそりと呟いた。


「これまでの事を考えると、見捨てるのは忍びないです……」


「あたしたちの命を天秤にかけてもか?街では無理かも知れないが、あいつなら多分、一人でも生きていけるぞ?」


アリシアの厳しい質問に、ノラは返す言葉がなかった。答えを出せない彼女は、逃げるようにブクブクと鼻まで湯に沈んでいく。

アリシアはそれを見ると、諦めたように天井を仰ぎながら、言葉を続けた。


「とは言え、今すぐに言葉を返す気はねえさ。あいつへの恩を返し切ったつもりもねえし、何より戦力がず抜けてる。現状何も分からないこの土地じゃ、見えないリスクを心配するより同行した方が確実だ」


アリシアもおそらく同じ事を考えていたのだろうか。カレタカが隠すリスクよりも、同行を選択した。

これまでの彼女なら、もっとドライに割り切っていたかもしれない。

不安な面もあるが、短くも濃い旅路の中で育んだ縁は、自分たちが思っていたよりも大きくなっていて、存外居心地も悪くないようだ。


不透明だが、一端の方向性が決まった二人は、約束の時間が迫っている事を確認すると、湯から上がり、酒場に向かう事にした。


酒場の外のテーブルでは、周りより一際大きい、片腕だけ甲冑を付けた男と少年が、複数人に囲まれて騒がれているのが目に入った。

二人は知らないが、それは、先ほど浴場でジェードの機嫌取りを手伝ってくれた男たちだった。

それぞれジョッキを持ち、思い思いに騒ぎ、笑っている。


その光景を見ながら、ノラがほほ笑む。


「意外と街でも暮らしていけるかもしれませんよ?」


「あいつ、意外と人たらしなのかもな……」


過ぎた心配だったのかもしれない。と、アリシアも肩を竦めて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ