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商人の親子

商人の男に案内され、厩舎にそれぞれの騎乗獣を預けると、一行は魔石や貴金属を換金するために換商へ向かっていた。


歩きながら周りを見れば、集落と言うより、ほぼ街と言っても過言ではない建物と人の多さだった。

石造りの建物が多く、多くは鉱物や金属を取り扱っているのであろう、何かを叩く金属音や、時折感じる炎の熱気と、魔力ではなく蒸気を使った機械が街の至る所にあるのが印象的だ。


蒸気の水抜き(ドレン)がそこかしこで白い煙を出し、人の多さと高い外壁のせいで、少し蒸し暑さを感じる道を歩くさなか、商人の男が呆れたように話す。


「無一文……って訳では無さそうだが、貨幣も持たずに移動してたのかよ……」


「悪いな。生存圏外の移動が続いてて、換金する間が無かったんだよ。換金したらまとめて返す」


「中々立派な担保も貰っているし、別に構わんよ。」


男はそう言いながら、ぽっこりと膨らんだ腰のバックを軽く叩いた。

換金までの担保にと、拳大ほどの魔石を預けたノラが、それを見ながら男に聞いた。


「でもそれだけだと、同等には足りませんよ?」


「換金額よりあんたらの信用の問題だ。このサイズの魔石をポンと出せる上に、髪飾りに使う余裕がある程の実力者ってことだろ?そんな奴らが、この程度の()()()金でどうこうするなんて事ぁ、まず無いな」


飄々と、推理をするように自論を並べて男が話せば、カレタカは自分が指された事に気付き、髪に編み込んだ魔石を軽く指でつまみながら尋ねた。


「目立つ、か?」


「その魔石か?それともあんたの事か?もし、自分が目立たないと思ってんなら、俺はその辺の石ころくらいの存在になっちまうな。それに比べたら、髪に付いてる石ころなんてどうってことないさ。商人()()にはな」


そんな軽い会話をしながら街中を進んでいくと、程なく換商に着いた。

入口には魔石を始め、貴金属や鉱石、魔力カートリッジなどの様々な換金レートが張り出されている。


「着いたぞ。宿も取らにゃならんから手早くな。三人で一週間なら20万もあれば事足りる」


そう言うと、男は換商の脇で煙草を咥え、火を付けた。

換商はそれほど広くなかった為、入っても役に立たないであろうカレタカも二人に換金を任せ、その商人と共に外で待つことにした。


男はカレタカのその独特な容姿をまじまじと見つめると、煙草を差し出す。


「吸うかい?」


「いや、いい。気にするな」


そんなそっけない返事に会話が続かず、お互いにぼんやりと街ゆく人をながめていた。

暇を持て余した商人の息子が、先ほどからチラチラとカレタカを見ていたが、やがて緊張した面持ちで話しかけた。


「鎧……、格好いいな……。お兄さんは兵隊なの?」


カレタカは話しかけられた事に、ちょっとだけ驚いた様に軽く目を開くと、少し空を眺めた考えた後に息子に答えた。


「戦士……、いや、探索者(シーカー)だ。……軍人は嫌いでな」


「あ……、ごめんなさい……」


少年は、嫌いなものに間違われた事に気を悪くしていると思い、おどおどしながら謝るが、カレタカはストールを巻かれた少年の頭にそっと手を置くと、優しく答えた。


「気にするな。それに、格好良い、と言われたのは初めてだ。作った奴も喜ぶ」


「ほんとう?よかった!ねぇ、触ってみても……良い?」


頭を撫でられて緊張がほぐれたのか、少年は好奇心と憧れの混じった、キラキラとした目でカレタカの義手を見つめる。

カレタカは少し困ったようにしていたが、少年の期待の籠った眼差しに負けると、ゆっくりとしゃがみ込み、少年の前に義手を差し出した。


煙草をふかしながらやりとりを見ていた男が、初めて見る玩具の様に、ペタペタと義手を触る息子を軽く(たしな)めながら、カレタカに礼を言う。


「鎧も立派な武器だ。丁重に扱うんだぞ?あんたも、構って貰って済まないな」


「紹介が遅れたが、俺はアゲートだ。息子はジェードと言う」


「カレタカだ。中の二人は、自分で言うだろう」


「見た目といい名前といい個性的だな。暫く忘れる事はなさそうだ」


お互いに名を明かし、多少は打ち解けられた所で二人が出てきた。

若干嬉しそうな笑みを湛えてこちらへ向かってくる。


「お待たせしました。こっちは魔石のレートが良いんですね」


「金は問題なさそうだな。んじゃま、宿に行くか。馴染みの所があるから、そこでどうだ?風呂は外に出なきゃ無いが、鍵付きの部屋があるぞ」


金銭面に問題が無いと判断したアゲートは、馴染みの宿に案内した。

外装を石レンガで組み、要所に丸太と分厚い合わせ板を使った、質素だが頑丈そうな作りの宿だった。

アゲートは中に入ると慣れたやりとりで手続きを進める。そしてノラを呼んで支払いを即した。


「俺とカレタカ、そっちのご婦人方で二部屋だ。一週間取ってあるが預かり金(デポジット)は三日だからな。三日後にまた支払ってくれ」


「契約もしてないのに相部屋か?」


「部屋代浮かすのにどうせ誰かと一緒になるんだ。それならせめて名前知ってる奴の方がいいだろ。それに、護衛の話は俺の中じゃ決定事項だ」


やや強引だが、これまでの親切と併せて子連れという見た目からか、どこか憎めず、結局アゲートに押し切られる様な形で、部屋の割り振りは決まった。


一行はそれぞれ鍵を受け取ると、二階の部屋に移動した。

部屋の中は、藁をふんだんに敷き詰めた小奇麗なベットが二つと、荷置きの茣蓙(ござ)が一枚、大きめの窓が一つと、部屋としての最低限の物しか置いてなかったが、暫くの間、野営しかしてこなかった三人には十分すぎるほどだった。

そこで、旅の疲れを溜息と共に吐き出しながら、荷を降ろし装備を外していく。

身軽になった状態になると、一度廊下で顔を合わせ、後の相談をした。


「あんたらは結構長く旅してきたみたいだし、一度体を綺麗にしてきた方がいいな。細かい話は夜にでもしよう。俺は商談があるから少しばかし別にさせてもらう。ジェード、浴場に案内してやれ」


そう言い残すと、男は大きめの背嚢を二つ肩に掛けると、早々に降りて行った。

アリシアがそれを見送りながら、呆れた笑いを浮かべながら話した。


「あの野郎、ガイドとか言いながらカレタカに子守り押しつけて行きやがった。これだから商人は油断できねえ」


「ごめんなさい……。ちゃんと案内もしますから」


自分が邪魔になっているのでは、と考えてしまったジェードが謝ると、アリシアはバツが悪いように頭を掻き、ノラは冷めた目と無言の圧力を彼女に送っていた。


カレタカは、ジェードの頭をポンと軽く叩き、擁護するように言った。


「大丈夫だ。浴場までの案内(ガイド)をよろしく頼むぞ」


ジェードはカレタカに任されたのが嬉しかったのか、ハイ、と一つ元気な返事をすると、部屋に準備をしに戻って行った。


「ジェード君に随分と懐かれてますね?」


不思議そうにノラが尋ねると、カレタカは義手を軽く掲げて言った。


「鎧や武器が嫌いな男はいないだろう?」


それを聞いたアリシアとノラは、そういう使い道もあるのかと、妙に納得してしまった。

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