強者のテリトリー
辺り一面が粗い砂利と、酸化して薄茶に変質した溶岩石で覆われている緩やな斜面を、鉤爪の付いた強靭な足が掛け上がっていく。
「駄目だな。追い付かれる」
「クソッ!砂に脚が取られて速度が出ねえ!構ってたらキリがねえぞ!」
懸命に走る三匹の陸鳥を、囲うように追いかける大量の影。
足場の悪い砂利を物ともせず、滑るように走るその姿は、成人の腕程の体に、六本の脚を持つ蜥蜴だった。
「ノラ!荷とコイツらを曳いてこのまま走れ!」
アリシアはそう言い残すと、ノラに手綱を渡し飛び降りた。
意図を察したカレタカも飛び降りて、乗っていた陸鳥の尻を叩き走るようにけしかける。
「どうするつもりですか!」
「少し間引く!追い付かれない程度に走り回っとけ!食われるなよ!」
降りた途端に飛び掛かってきた蜥蜴の首を跳ね、身体強化を掛けて、横を抜けようとするものから切り捨てながら叫ぶ。
カレタカは鉈を振るいながら、囮を買うように前へ前へと出ていった。
「"砂走"は砂漠帯の魔獣だろうよ。火山帯にもいるんだろうが数が多すぎやしないか?」
「小型の六足は大体どれも依存種だ。何かと一緒に着いてきたんだろう」
義手に噛み付かせ、それを別の蜥蜴に叩き付けながらカレタカが答える。
「これだけ連れてきたとか、どれだけの奴なんだよ。遭う前から嫌になるぜ」
「それには会わない事を祈るしかないな」
切っても切っても執拗に襲い掛かってくる蜥蜴をあしらいながら、ノラが掛け上がった方向へ足を進める。
暫く応戦していると、その数も徐々に減っていき、戦わずとも歩ける程にはなってきた。
砂利の斜面を見上げれば、坂の終わりが見えていた。
先行したノラを探すために頂上に立ってみれば、そこは山の終わりではなくて、斜面に囲われた浅く広い窪地の様だった。
見下ろした斜面を、三つの影と一際大きい何かの生物が、こちらに向かってくるのが見えた。
三つの影はノラと陸鳥だろう。ただ、異常事態だと言うことも、すぐに分かった。
「戻って!て言うか、助けて下さぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「ノラ!」
ノラが必死に叫びながら掛け上がってくる。陸鳥も、飛べない翼をばたつかせて、懸命に走る。
大型の何かに追われているノラを確認すると、すぐさま二人は全力で下っていった。
駆け降りてみれば、近寄らずとも巨体と分かる、30フィート近くの二足歩行の爬虫類だった。
翼を無くしただけの、竜そのものな姿に、空を飛ぶ者よりも太く短い強靭な首と、それが支える大きく凶悪な顎。
爬虫類と言えど、竜と比べても遜色のない大型の魔獣だ。
「亜竜か!」
アリシアが間に合わないと判断したカレタカは、持っていた大鉈を全力で投げる。
それは口に吸い込まれるように飛んで行き、亜竜から見れば小枝程度の鉈が、剥き出しの牙を一本へし折った。
目の前の獲物に届くかどうかの矢先、口先に雷が落ちたかの様な衝撃が走った亜流は、怯んだように首を引き、追っていた足を緩める。
ギリギリのタイミングで逃げ切れたノラと陸鳥は、そのまま二人の横を走り抜けて、少し離れた所で停止した。
「カレタカさん!」
ノラは陸鳥に載せていた大斧を、力任せに放り投げる。
だが、それはカレタカを飛び越して、再度足を進めようとした亜竜の前に突き刺さった。
「あれは……、取れん……」
「後で説教だな……」
意図せず亜竜の目の前に落ちた斧は、牽制のような形になり、獲物を前に歩みを止められた亜竜は、苛立ちのピークから咆哮を上げた。
空気と、地面までも震わせる大音量に、周囲の瓦礫がパラパラと転がり落ちる。
「うぉっ!」
あまりの咆哮の大きさに、カレタカとアリシアも大きく怯む。
震える鼓膜の痛みに耐えて亜竜を見据えるが、亜竜の奥に何かが見えた。
カレタカは、それが何かを見定めるとアリシアに伝える。
「アリシア、アイツの後ろを良く見ろ」
即された通りに、目を凝らして後ろを見ると、アリシアの目が途端に険しくなる。
窪地の中央付近に見えたのは、大きな岩ではなく、丸まって寝てはいるが、首を起こしてしっかりとこちらを見据えている、もう一匹の亜竜だった。
腹付近に見える白い物は、もしかしたら卵ではないだろうか?
だとしたら、雌と卵を守る雄は、相当に気が立っているに違いない。
「番かよ……。砂走があれだけ付いて回るのも納得いったぜ」
状況を理解したアリシアが舌打ちをする。
「やり難いな……。かと言って連戦は避けてえ。どうにかなるか?」
「卵を守っているなら、余程寄らなければ雌は出てこないだろう。雄が死ななければな」
吠えた後、威嚇を繰り返していた亜流が、再びこちらへ歩き始める。
「手は無いことは、無い。が、まずはあれが必要だ」
と、カレタカは突き刺さっている大斧を、顎で指した。
了解したようにアリシアが飛び出すと、カレタカも後を追って走り出した。




