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旅路か逃避行か

戦意の喪失を確認した三人は、必要な物の確保を行うことにした。


カレタカをその場に残し、ノラとアリシアは倉庫に向かう。

倉庫内を漁り、紙製の地図と、汎用性のある魔力カートリッジや探索用具を見繕ってリュックに詰め、他のカートリッジや装備を、雑に部屋の中央に集め外に出ると、残したカートリッジや武器に向けて、奪った銃で適当に数発撃ち込んだ。


カートリッジと火薬が爆ぜて、倉庫から魔力の残滓が舞い、火が上がる。

それを見届けると、続けて二人は陸鳥が繋がれてる厩舎へ向かった。


中に入ると、陸鳥が行儀良く、鳥房に収まっていた。

駝鳥(ダチョウ)種より更に大きい体と、それよりもやや短く、太い首、頭には翼竜を思わせる三角のトサカを被り、足は太く、膝まで毛が覆っている……その鳥を、ノラが見定める。


その中から三頭の陸鳥を選ぶと、手早く装具を取り付ける。

そして残った陸鳥を次々に放していると、事が起こる前に逃げろと進言してきた男が駆け寄ってきた。


「ちょっと待て!全部逃がすのは待ってくれ!」


軽く息を整えると、ふたりに向かって感嘆の声を出す。


「あんた達、強かったんだな……。俺は要らない助言をしちまった様だ」


「いや、あれは助かったぜ。お陰で躊躇なく動けた」


男はその返答に、呆れるように少し肩を竦めた。


「そんなのが無くても、結果は変わらなかっただろうよ……。それよりだ。陸鳥を一匹こっちに譲ってくれ」


「ここから逃げるのか?」


「あぁ。こんなになっちまったら、もう何処にいたって一緒だ。それなら俺は一日でも早く帰りてえ」


逃げる覚悟が出来たと、男が言った。

アリシアはそれを聞くと、陸鳥に装具を載せ男に引き渡す。


「付け方くらいはわかるな?」


「こう見えて昔は探索者だったんだ。戦闘じゃなくて調査専門だがな」


「そうか。こっちも持っていきな」


と、アリシアは奪った銃と、弾丸にカートリッジを数個手渡した。


「結構な上物だぞ?いいのか?」


「飛び道具は苦手でな。それに、銃は弱い奴こそ持つもんだ」


「予備に持ってきた物ですが。一日も走れば補給所(ウォーターフロント)があるようです。まずはそこを目指すと良いと思います」


そう言いながら、ノラが地図とコンパスも渡した。


「済まないな。準備したらさっさと出ることにするよ。あんたらも上手くやれよな」


背を向け再び準備を始めた二人に、男は再度話しかける。


「小さいが食堂をやってるんだ。いつか中央に来たら、寄ってくれ。飯と酒くらい奢らせてくれ」


手を止めずに二人が返す。


「いつか行くかもな。蒸留酒をキープしておいてくれよ」


「あ、私果実水でお願いしますね」


男は返事に満足したのか、少し眉を八の字にして笑うと、陸鳥を連れて足早にその場から去っていった。



厩舎の陸鳥を放し、三頭だけを連れてカレタカの所に戻ってきた二人は、用意が出来たことを伝えた。

着々と準備を進めている三人を見て、誰かがボソッと呟いた。


「おい、あの女達……"帰還者"じゃねえか?」


「なんだそりゃ?」


「探索者の中で、そこそこ出回ってる名でな。

無所属(フリー)の女二人組で、どんな依頼からでも必ず帰って来るんだってよ。それこそ全滅って状況でもだ」


「生き残るのに手段は選ばないらしい。そん時の仲間捨ててでも、自分達だけは絶対に帰ってくるから、付いた名が"帰還者(リターナー)"よ。

任務放棄でも帰ってくるから、卑怯者だとか生き汚ねえって言われてるけどよ、腕の方はめっぽう立つって話だ」


鋼夫(ドワーフ)混じりの"もどき"の巫女と、鬼みてえに強い女剣士。多分間違いねえ。とんだババを引いちまったもんだ」


その声が聞こえたのか、ノラが手を止めて、話していた男を睨む。

そして、カレタカが持っていた斧を強引に引ったくると、ズルズルと引き摺りながら男の前に歩み寄り、斧を振り上げた。


「ヒィッ!」


本人より大きい斧を、軽々と振り上げるその姿に驚き、堪らず尻餅を付くと、刃が目の前に振り下ろされ、轟音と共に地面に深く突き刺さった。


「私は間違いなく()です!私達に!二度と!その言葉を使わないで下さい!」


「す、すまねえ!悪気は無かったんだ!許してくれ!」


何に怒ったのか察した男は、冷や汗をかきながらも、媚びた笑いを見せながら謝る。


ノラはその男を見下ろすと、フンと荒々しく鼻息を出し、ズンズンと音が立ちそうな足取りで戻っていった。


「凄いな……」


まさか手から斧を持っていかれるとは思っていなかったカレタカは、驚きで自分の掌とノラを交互に見て呟いた。



程なく準備が終わり、三人はフォアフロントを後にした。

アリシアとノラは2人乗り(タンデム)、カレタカはソロで、もう一頭に荷物と斧を載せて引いて走る。


途中、水を与える為に休ませつつ南下を続け、陽が落ちると、程よい水場の側で天幕を張り、野営を行った。


「あいつら小型の遮蔽器まで持ってやがった。これから野営が楽になるな」


「どこでも結界を張れるのは便利ですね。これから何処まで行きますか?」


「あそこまでやっちまったからな、ここいら辺りの都市郡は駄目だろう。面が割れる」


「そしたらせめて気候が変わる区域まで行かないとダメですね」


思案する二人の話を聞いてカレタカが提案する。


「森を迂回しながら進め。その先の火山を越えれば人の住まう場所がある。ここに来る以前にいた土地だ」


「山を越えるなら手は届きにくくなりますね。決まりでいいかと」


大移動になれているのか、事も無げに決まった。

カレタカがふたりに尋ねる。


「今までも、こうしてきたのか?」


「女二人だからな。一度舐められたら仕舞いだ。多少敵に回してでも噛みつかないと今日みたいな目に遭う。馬鹿どもは生存圏から離れれば離れる程、タガが外れるからな」


少し考え、労うように言う。


「苦労をしてきてるんだな……」


「何、あんた程じゃあないさ。しかしサイプレスの野郎め、適当言いやがって。なぁにが溶け込める、だ。今度会ったらぶん殴ってやる」


()()が二人いたら大丈夫だと思ったのでは?私も時々分からなくなりますし。仕方ありません」


アリシアは、サイプレスの的外れだった助言に憤慨していたが、ノラの発言を聞くと半目で一睨みして、その張り出た胸を横からペシン、とビンタした。


「キャンッ!そういう所です!分かってるんですか!ちょっと、聞いてますか!?」


羞恥で胸を隠し、顔を真っ赤にして怒るノラと、それを無視をする様にケラケラと笑うアリシアを見ながら、カレタカは呆れるように呟いた。


「結界を張った、意味はあるのか……?」


一行は火山帯を目指す。

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