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鎧袖一触

額から血を流しながら、男がたたらを踏んで後退(あとずさ)る。

それを逃さないとばかりに、アリシアがテーブルから剣を掴み勢い良く飛び込むと、その男の腹に鞘ごと突き入れた。


「オ……ゴェ……」


低い嗚咽を出して白目を剥きながら男が倒れる。


呆気(あっけ)に取られていた周囲がにわかに殺気立つ。

隊長と呼ばれていた男が咄嗟に銃を抜こうとするが、諦め顔で俯いていたノラがそれに気付くと、目の前のテーブルをひっくり返すように飛ばした。


小柄な女が投げたとは思えない速度で飛んだテーブルに、隊長格の男は反応が遅れた。

抜きかけの中途半端な構えから撃たれた弾丸は明後日の方向へ飛んで行き、ごく小規模な爆発を起こして背中越しの壁に穴を開ける。

飛んだテーブルはそのまま男にぶつかると、次弾を飛ばすのを躊躇させた。


それを尻目に、アリシアはテーブルを滑り、椅子を蹴り飛ばして、路地裏を逃げる野良猫の様に小さく、速く駆けて、銃の、刃の的を絞らせないまま、男達に痛打を浴びせていく。


隊長格の男がテーブルを跳ね飛ばして、体勢を立て直すと怒りに任せ吠えた。


「クソがっ!殺してやるっ!」


男が再度構えて、目の前にいたノラに銃口を向けようとしたが、彼女は既に構えた後だった。

男が瞠目すると同時、発砲音が聞こえると、男の肩が撃ち抜かれた。


「向(・)け(・)ま(・)し(・)た(・)ね(・)?これはやむを得ない防衛処置です」


「てめえっ!こっちは……ガァッ!」


最後まで喋らせず、もう一度、発砲音が響くと、今度は腕に穴が空いた。

二発の弾丸には耐えきれず、痛みで床をのた打つ。



最初の爆発音で異変を感じた外の者達が、装備も中途半端に、慌てて部屋に飛び込んで来ようとしたが、カレタカがそれをさせない。


最初の一人が勢い良く扉を破り、駆け込もうとすると、目に入ってきたのは、カレタカが肩に持つ鋼鉄の塊だった。


カレタカの大猪の様なショルダータックルに、持った武器を振り上げる事も出来ず、身体を歪ませながら外に飛ばされる。


後を追うように外に出ると、20人程の男達が入り口を取り囲む寸前だった。

カレタカはそれを一瞥すると、背中から大斧を取り、飛ばされた男の股を目掛けて、無造作に振り下ろした。


「ヒィッ!」


倒れた男は、迫ってくる死に耐えきれず、意識を手離す。

ジワジワと染みだす液体が、股と地面を濡らしていった。


斧を地面に差したまま手を離すと、腰に下げたトマホークを手に持つ。


「済まないが、今は交渉中だ」


自分達の身の丈に届かんとする斧を片手で振り回す、片腕だけ鎧を付けた大男の存在感は、数の利を忘れさせ、男達を動けなくさせる程度には、不気味で、圧倒的であった。仕掛けるタイミングが伺えず、息をのむ。


雰囲気に呑まれながらも、どうにか反撃をしようと銃を向けた男に、トマホークが飛んだ。

唸りを上げ飛んだ斧は、男の手首を刈り取り、奥の積み上げた木箱に突き刺さった。


「ギャッ!……お、俺の手がぁ……手がねえよぉ……!」


「話が終るのを、待て。害をなそうと言うのなら、容赦はしない。」


今度は背中から大鉈を抜き男達に向けた。

次にあれが飛んで来くるようなら、腕だけでは済まない、と、男達は蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなった。



一方、中では粗方事(・)が片付いていた。

意識が無い者、手や足があらぬ方向に向いている者、死屍累々の状況の中、腕から血を流れる血を押さえつつも、頭にはすっぽりと布袋を被せられた男がいた。


「取ろうとしたら殺す。立ち上がっても殺す。いいな?」


視界が遮られ、何をされるのかわからない恐怖の中、男はガクガクと首を縦に振った。


「さて、交渉は簡潔に、だ。携帯用の地図を出しな。それと騎乗獣を二頭か三頭、こちらに譲れ」


そう言うとアリシアは金プレートを2枚、床に放った。

男は金属音にビクッと肩を揺らし、叫ぶように言う。


「おまえらなんなんだよ!こっちは中央からの依頼で来た、トップクラスの《企業》だぞ!これが知れればサテライトすら入れなくなるぞ!?」


男の脅しにアリシアは鼻で笑う。


「こっちは外で生きてんだ。フリーの探索者が、企業の看板にビビるとでも思ったか?交渉は決裂だな」


ヴゥン……と剣が唸りを上げ始める。

何の音なのか、察する事が出来ない男は、慌てて自分の言葉を否定する。


「待て!待てよ!今のは嘘だ!地図だったな!それは奥の資材庫のテーブルの上だ!」


「騎乗獣は?」


男から奪った大口径の銃を、頭の布越しに押し付ける。


「りっ陸鳥が十頭いる!二人乗り(タンデム)出来る成体だ!悪かったよ!殺さないでくれ!」


アリシアは、男の懇願するような叫びを、黙って聞き終えると、抑揚の無い声で言った。


「援助に感謝するぜ。あたしのを咥(・)え(・)さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)な(・)く(・)て(・)残念だ。じゃあな」


「待っ……!」


男の言葉を遮って、後頭部を銃のグリップで全力で殴ると、意識を無くした体は、ドサリと床に倒れた。


頭を覆ってた布袋を取って、男の意識が無いことを確認すると、倒れていた男達を縛り上げていたノラに向かって言った。


「交渉成功だ。コイツも縛ったら、貰うもん貰ってずらかろう」


「はぁ……。いっそのこと賊になった方が良い気がしてきました……」



剣と銃を手に下げて外に出ると、数人の立ち竦(すく)んでいる男達と、それ以上の地面で悶えてる者達がいた。


「動くな、とは言ったんだがな」


鉈から斧に持ち変えて、仁王立ちになっているカレタカがボソッと言った。


「ま、何にせよ助かったよ。この人数で後ろから攻(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)とか考えたくもねえ」


「さて、話し合いは終わったよ。まだ、続けるか?」


アリシアの殺気混じりの狼のような目と、カレタカの有無を言わさない理不尽じみた力を前に、残った男達は諦めた様に、首を振り、武器を地面に投げた。

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