悪意の波
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残り火に土を被せながら森を抜ける算段に付いて話す。
「それで、ここからどう抜けて人里に出るんだ?」
「二日程歩くが、そこに俺と同じく森で暮らす民がいる。少しだが交流があってな、俺が一人になってからも少なからず世話になっていた。まずはそこに行きたい」
「二日なら悪くない距離だ。道中の案内は任せたよ」
「道と露払いは引き受けよう。アリシアはノラに付いてやってくれれば良い」
「了解だ」
家を潰し、穴も丁寧に埋め戻し終わり、カレタカが斧を背負って出発の合図をする。
「出よう」
ノラとアリシアもその声に頷き、再び森の中に足を踏み入れた。
道のない木々の隙間を、迷いなくザクザクと歩を進める。
時折葉の隙間から見える太陽を見ては、辺りを確認し、また歩き出す。
「森を知ってるとこうも違うのか。歩く早さが段違いだな」
「本当ですね。私とアリシアの時は怪我もありましたけど、この荷物が無くても、ここまで早くは歩けなかったです」
二人はカレタカの森の歩行術に目を見張る。熊のような体躯をもちながらも、歩みは縄張りを回る狐のように、迷うことなくしなやかに進んでいく。
「長年歩くと、それぞれの獣道が分かる。蹄を持つ獣は固い地面を好む」
その答えに呆れるように感心する。
「戦士だけじゃなく、スカウトとしても一流だな。あんたならどこでも生きていけそうだ」
「そうだと、良い」
歩きながらカレタカが問いかける。
「ノラは、戦うことはないのか?」
「私は殆ど戦えません。人より力はありますが、感?とか反応とか……、咄嗟に動けなくて」
アリシアがそこに続ける。
「あたしが戦い守って、ノラは歩荷兼ナビ兼治癒だ」
「アリシアに治癒魔法は一度も使ったことないですけどね。武器も銃一つしか持ってません」
「だが、あの時の動きは良かった」
初めて邂逅を交わした時の事だろう。あの時カレタカは、指を2本弾き飛ばされた。センスがないとは思えない。
「それだよ。並みよりは上だが強い訳じゃない。そんな奴が武器を持つと、どうやったって"戦う"って選択が生まれるんだ。戦うか退くか迷いが出ると、その分命を縮める」
「あたしらは戦う為じゃなくて生きるために武器を持ってる。引き際を間違えない様にするためにも、ノラには護身用以外はもたせないのさ」
不安定な要素を排除し、自分が守れる範囲を明確にして常に退路を考える。
マンパワーは落ちるが、生き残る事を考えたらそれなりに合理的だ。
全てを一人でこなす彼にとっては、それは新鮮な考えだった。
「探索者は良く考えているんだな」
感心しながら静かに腰に手を寄せ、提げていた投げ斧をそっと持つ。
「二匹。左を頼む。投げたら合図だ」
アリシアが音を立てずに近寄り、カレタカの肩を叩くと、そのまま奥へ進んでいく。
カレタカはトマホークを構えて一瞬溜めた後、腕を一気に振り下ろす。空気を切り裂く聞こえ、それの脳天に突き刺さる。
「ギッ!」
小さな鳴き声の後、身体が霧散していく。
石に金属が跳ねる音が聞こえた。
片割れの異変に気付き、何かを呼ぶように声を上げようと空を見上げた瞬間、ドンッ!と胸に剣が刺さる。
白濁した目がアリシアを睨み、持っていたボロボロの錆びたナイフを振り上げた。
彼女はそれを意に介さず、刺さった剣を力任せに捻る。
振り上げた腕を降ろすことはなく、ナイフが手から零れ落ちて徐々に実体が薄れていく。
一歩下がり剣を構え直す。周囲に気配は感じない。
「終了だ」
カレタカのトマホークを拾い、カレタカに投げる。
回転しながら放物線を描いて飛んできた斧の柄を器用に掴み、腰に提げ直す。
「小鬼だったな。これで3回目だ」
小鬼。二足で歩く人型に近い憑魔。容姿に統一性はなく餓鬼のような姿からしっかりとした体格の成人まで様々だが、どれも生気のない爛れた様な肌と、白く濁った黒目のない瞳を持っている。道具を使ったり群れを作ったりする程度の知恵はあるが、愚鈍で人を殺すか食うことしか考えていない。
「少ない内はいいが、群れにぶつかったら厄介だな……」
カレタカが呟いたそれは、夜になってから現れた。
その晩、ドームの様に拓けた場所で夜営をしていたら小鬼が現れた。一匹、二匹と倒した所で周囲からかなりの気配があることを察した。
「囲まれる寸前だ。どうする?」
アリシアの問いに、大斧を持ち上げ答える。
「ここまで寄られたら逃げようはない。火を焚いて視界を作れ」
そう告げると、粗末な武器を手に持って駆け寄ってきた小鬼に対し、凪ぎ払うように斧を振るうと、小鬼は胴から二つに別れ霧散していった。
その一体を皮切りに森の奥から小鬼達が押し寄せてくる。
「前は全て引き受ける。ノラを守れ。」
パチパチと火が上がり始めるとカレタカは吠えた。
その声に反応するように小鬼がカレタカに殺到していく。
斧を振るう。小鬼が二匹、三匹、凪ぎ払われるように吹き飛ぶ。
振るった勢いを殺さず、そのまま身体を回転させ袈裟懸けに振り下ろす。棍棒を持った大柄な小鬼が真っ二つになる。
地面に刺さった斧から手を離し、裏拳気味の拳を顔に叩き込む。
首から上が弾け飛ぶ。
腰のトマホークを手に取り、腹を突き上げるように打ち込み、引っ掻けたそれをそのまま放り投げる。
「ウオオオォォォォォォォ!!」
小鬼の波が一度止まった時、カレタカは再度、吠えた。蜜に群がる蟻のように小鬼が押し寄せる。
瞬く間に十匹、二十匹と小鬼がかき消えていくのを傍目に、零れてきた小鬼を処理しながらアリシアは呟く。
「なんだよありゃあ……。まるで暴風じゃねえか」
カレタカが斧を、腕を振るう度に、振るった以上の小鬼が消えていく。息を上げる事なく、止まる事なく刃を振るい続ける彼は、さながら森に叩き付けられた暴風の様だった。
小鬼の波が引き、滲み出た靄で足元が見えなくなる程の穢貨が散らばっているなか、カレタカが言った。
「小鬼の数が異常だ。夜営はせず、歩いた方が良い。この穢貨は捨て置こう」
「確かに多すぎる。巣穴が近いのかもな。ノラ、行けるか?」
荷物を背負い直したノラも同意する。
「私は大丈夫です。行きましょう」
その晩彼らは、時折来る襲撃に休みを取らせて貰える事が出来ず、それに耐えながら静かに、迅速に夜の森を歩き続けた。
日の出が近くなり、視界がどうにか確保出来るようになった頃、カレタカが目的の地に近い事を知らせた。
「そろそろだ」
流石に疲れたのかアリシアが村の事を聞いてきた。
「着いたら少し休ませて貰えるとありがたいね。どんな奴らなんだい?」
カレタカは一言で答えた。
「森の人だ」
読んで頂きありがとうございました。
いつもより少し早く投稿することが出来ました。
一応、ここからを二章の始まりとしています。




