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獣は安息を求めるか

閲覧ありがとうございます。

お暇ならぜひ読んでいってください。

二人は簡単に食事を終えて、薦められた通りに身体を拭かせてもらいながら、カレタカの行き先を考える。


「墓地、ですよね」


「そりゃそうだろ。あたしらがいたって、やることは変わらない。あれがアイツの日常なんだよ」


飯を食い、墓を守る。

もちろん眠ることもするのだろうが、人の生活とはおよそかけ離れたそれを、どれだけの歳月積み重ねてきたのだろう。

積み重ねた物は後悔か、 寂寥(せきりょう)か、それとも全く違う何かなのか。

想像することすら憚られる。

例えば、出口が星の瞬き程しか見えないトンネルを、ただ一人、延々と歩いてみれば、その気持ちは分かるのだろうか。


ノラは思う。

明日、彼が積み重ねたものは音を立てて崩れていくだろう。

どんな思いであれ、高く高く積み重なったそれは、彼にとっての唯一の標だったのではないか。

なら、標を失ったらどうなる?彼はどこに向かって進んでいけばいい?

守人の役目を終えた彼の行く先が考えられない。

不安な事ばかりがぐるぐると頭を回る。


私は、彼と彼らを救うと言った。けれど、もしかしたら、救われるのは彼(・)ら(・)だけではないのだろうか。


不安に耐えきれず、助けを求めるようにアリシアに尋ねる。


「あの人は全てが終わったあと、どうなってしまうのでしょうか……」


体を拭き終え、すっきりした面持ちで寝床に寝転がっていたアリシアは、事も無げに言う。


「さあな。このままここに居るのかもしれねえし、どこかに流れていくのかもしれねえ。全て抜け落ちて、余生を過ごすように生きていくのかもな」


「私は、彼を助けてあげられるのでしょうか」


アリシアは体を起こし、ノラに向き合った。


「ノラ。おまえは確かに明日、あいつとその一族の魂を救う。その事に疑問を持つなよ?後の事なんざ考える必要もねえ。あたしらにも、あいつにとっても、今、この場が全てだ」


「あたしらは確かにカレタカに命を救って貰った。ノラの力を借りて恩を返すのも吝かじゃねえ。

だが、あたしもあんたも導師様じゃねえんだ。魂を掬い上げて道まで示そうなんて、思い上がりも甚だしいってもんだ」


ノラはその言葉を聞いて、理解はしてるが納得はいかない。そんな顔をして、俯いたままスカートを握りしめていた。

アリシアはそんな彼女を見つつ腰を上げると、ベンチに腰掛け足鎧を履き始めた。


「とは言え、うまい飯を食わせて貰った借りもある。事が片付いて森を抜けることになったら、町の一つでも案内するさ」


「アリシア………」


彼女が一つだけ示した優しさに、ノラは安息の声を漏らした。


「ノラはもう休みな。魔力が足りなくて出来ませんじゃ洒落にもならねえ」


「そうさせてもらいます。アリシアも夜風に当たりすぎないようにして下さいね。足もまだ治ってないんですから」


分かってるよ。と、言いながら腰に剣を下げると外套を羽織って外に出て行こうとするが、入口で足を止める。


「カレタカは強い。役目を終えたからといって迷子になるようなタマじゃねえよ。ちいとばかし泣き虫みたいだけどな」


「そうですよね……」


アリシアの言葉に、ノラは自分に言い聞かせるように肯定する。

ノラを見ながら、アリシアはニヤッと笑いながら続けた。


「カレタカを案内して、おまえの乳も(・)い(・)で(・)。戻ったら忙しいな」


「アリシア……。台無しですよぅ……」


気を紛らわそうとしているのは分かるが、今までのやりとり全てを無かった事にするようなアリシアの下ネタ(ジョーク)に、ノラは呆れとため息しか出てこなかった。



サラサラと、夜風が草原を撫でていく。

獣たちもどこか気持ち良さそうに見える。


夜になると今にも動きだしそうに見えるのは、なんでなんだろうね?餌やったら食いに来そうだ。

と、とりとめの無い事を考えながら墓地の中を歩いていく。

目の前には獣避けに身を照らされている、倒木に腰を掛けた大男。

目の前に対峙すると、今(・)日(・)は(・)声を出した。


「来たのか……」


「無くなっちまった刃の変わりくらいにはなるかと思ってね」


彼女は破壊した斧を一瞥して言った。


「ここは人がいなくなってから随分経つ。憑魔は殆ど出てこない……。獣も大分寄り付かなくなった」


「刃が無くなった事も、どうってことはない」


カレタカは斧を軽く持ち上げて、無くなった刃を見ながら、気遣いを返すように話す。


「そうかい、なら安心だ。すまなかったね」


大丈夫だ。と言われれば、もう用件は終わりだ。かといってこのまま戻るのはどうにも忍びない。

星を眺めながら会話を探すうちに、一つの疑問が出てきた。アリシアは思ったことをそのまま口に出した。


「なぁ、あんた…、いつ寝てるんだ?」


予想外の質問に少し驚くも、カレタカは所作を交えて説明を始めた。


「何かに腰掛けて、こう、片眼を手でしばらく覆っていると、もう片方の目は起きてはいるが、頭が休み始める。昼でも夜でも、眠気が来る前に、こうやって、目を隠して休めている」


何とはなしに聞いただけだったが、その答えに瞠目する。


「驚いた……。あんたもう…、立派な獣じゃねえか……」


片眼を瞑っている間、頭の半分を寝かせて、残りの半分の頭で活動する生物がいる。と聞いたことがある。

目の前の男は、人であるにも関わらず、それを行っていた。


「何度も失敗はしたさ。その度に傷を負い、死にかけた。いつからか徐々に眠りが浅く、短くなっていき、こうなった」


「苦労とかそういう段階じゃねえな…。良く今日まで生きてたもんだ」


素直に感嘆のため息を漏らし苦労を労う。


「片目で眠るのも今晩が最後になるな」


「そうなると良い」


アリシアは暫し考え、再度カレタカに聞いた。


「あんた、もう一度、両目を閉じて背中を付けて眠ろうと…、思うかい?」


彼女の問いの答えには暫くかかったが、出てきたのは一言だけだった。


「わからない…」


アリシアはその答えを聞くと、ゆっくりと踵を返した。


「そうかい…。ま、よく眠れる寝床でも探しておくんだね……。

風が随分と冷たくなってきたから戻ることにするよ。」


そう言って彼女は天幕の方へ戻っていった。


カレタカは、あぁ…、と小さく返事をしてアリシアを見送ると、そっと右目を隠した。

読んで頂きありがとうございました。


今日は少し早めの投稿です。

話を書いていて、1000文字程ですが誤って消してしまうというアクシデントがありました。

言葉が出ないとは正にこれだ、と痛感しました。

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