最後の守人
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「カティナは物心が付く頃から、”知恵ある獣”と心を通わすことが出来る。知恵ある獣を、俺達は"導く者"と呼んでいる。導く者に出会い、対話をし、偽らず、晒け出し、認めて貰う事が出来たのなら、導く者が加護を授けてくれる。カティナはそこで初めて成人と認めてもらえる」
「導く者から加護を貰い、人の生を全うした者は、己の魂と身体を獣に捧げ、導く者と共に大地へ還る」
ノラは聞きながら考える。
「獣に捧げる」とは、おそらく言葉通り、遺体を獣に食わすのだろう。
別の部族だったが、獣葬と言う弔いかたを聞いたことがある。
死んだ後の人の身体は、有り体に言ってしまえば肉の塊だ。運が悪ければ死体を媒体に憑魔が産まれる。
そうさせない為に、あえて獣に食わせて、後の憂いを無くすのだ。
残酷な話だが、埋葬も管理も出来ない流民には、理に叶っている。とも思った。
「だが、生を全う出来ずに死んでいった者、加護を授かっていない者は、魂が未熟なために大地に還る術を知らない」
「未熟な魂は、大地で眠らせ、大地と獣達に魂を育てて貰う。時が来たら巫師が呼び起こし、獣に道を示してもらい大地へ還る」
言葉を読み解いてみれば、若く幼い者、望まない死を遂げた者が、今ここに眠っているということだ。
この村はとても小さい。多く見積もっても30人かそこいらだろう。だがここにある像はパッと見でも同じくらいある。
カレタカが話した通り、本当に”守り抜くか死”だったのだろう。
きっと、血ではない、魂で繋がった家族を、奪われないが為に戦ったのだ。
「巫師ももういない。彼らはここで未だに眠ったままだ」
「彼らの眠りを守り、魂がいつか旅立つのを見送る為に、俺は守人としてここに残っている」
二人はここで全てを理解した。
彼らを弔い、遺体を荒らされないよう、穢されないよう、彼はずっと守り続けているのだ。
彼は、襲われたのは十二の時と言った。
今の彼から察すれば、恐らく10年、もしかしたら20年近くもの間、たった一人で墓を守り続ける、一族唯一の生き残り。
死人を守り続ける。
端から見れば異常以外の何物でもない、常軌を逸した行いだ。
しかし彼は、彼らは違う。
自分達の教えに、信念に従って、戦い、守り、死んでいく。
それは至極当たり前で、そして何よりも尊く、変え難い事なのだ。
その身が枯れて、命果てるその瞬間まで彼らの魂を守り続ける事を誓った、鋼鉄よりも固く重たい枷を心に嵌めた一族最後の男。
それはなんて強く、なんて悲しい呪いだろうか。
ノラは一筋の涙を流した。
掟も。教えも。信仰も。全部忘れてしまえばいいじゃないか。
全てを棄てて逃げてしまったとしても、思い出しか残っていないこの地で、誰がカレタカを責めるというのか。
枷など壊してしまえばいい。
彼女は叫びたかった。死んでしまった人の為に、自身の人生の全てを捧げるなんて馬鹿げている、と。彼らはそんな事を望んで死んでいったのではない、と。
しかし、それでは駄目なのだ。そんな陳腐な言葉では彼を解放することは出来ない。
あの時、戦うことも出来ず、死ぬ事も出来なかった彼は、何があろうとも自分を許しはしない。
自分より部族を、家族を愛していて、誰よりも自分を責めているからだ。
この愚かで気高い部族を、彼を救ってあげたい。ノラは本心からそう思った。
彼と彼らを、呪いのような枷から解き放ってあげたい。
なにか、なにか、出来ることは無いだろうか。
ノラは話を終えたカレタカの背中を見つめながら、何度も今の話を反芻し、考えを張り巡らす。
そして彼女は思い至る。死んでいった者がここに残している物。自分が出来る唯一の事。
意を決してカレタカに呼び掛けた。
「カレタカさん」
力強く、確信を持って言い放つ。
「彼らを呼び起こし、大地へと還してあげましょう」
心臓が一つ、大きく跳ねる。
身体の中から胸を強く殴られ、驚きと圧迫感で息ができなくなる。
過去を語り、やっと喋ることを思い出した喉と舌が、再び痺れたように動かなくなった。
ノラの方へ向き直り、一言一言、確かめるように唇を動かす。
「でき……る…のか……?」
彼女は頷く。
おそらく、とは決して言わない。
彼の人生を賭けた悲願を、偶然の出会いで生まれた一縷の望みを、絶対にここで壊してはいけない。
「私の術式で、彼らを解放します」
その言葉を聞き、彼は膝から崩れ落ち、頭を垂れた。
そして震える手で彼女のスカートを強く握りしめ、懇願した。
「頼む………頼…む…!」
ノラのブーツの先に、大粒の雫がポタポタと落ちて流れていく。
陽はすっかり傾き、紫がかった空に導き星が瞬き始めていた。
夕陽に背中を焼かれ、女に懇願をする男は酷く小さく見えた。
読んで頂きありがとうございました。
今日は2話掲載することができました。
題名と副題が一緒ですが、間違いではないです。
12話まで来て、やっとの事、タイトルコールと言った所でしょうか。




