渡辺てつろうの哲学
これは運命だったのかもしれない。
決勝戦の相手は血を分けた息子のけんやだった。
まだまだ読みが甘いな…
結果は私の勝利である。
息子相手に遅れをとるほど、私もまだ衰えてはいないつもりだ。
「おめでとうございます。続けて明日の挑戦にも挑みますか?」
背後に控えていたタキシードの男が涼しげに声を掛けてきた。
「いや、ここで降りさせて貰おう」
私は椅子を立ち上がるとそう言った。
「しかし、これだけの設備を管理するとは…よほどの大物が背景にいるようだな」
タキシードの男は首を傾げる。
「出来れば運営している方に挨拶したいのだが…」
ここはストレートに切り出してみた。
「…あぁ、そういう意味ですか」
タキシードの男はうんうんと頷くと、
「私たちがこのシステムの管理者です」
と答えた。
「私…たち?」
てつろうはタキシードの男に目を向ける。
30歳にも届かないような若さだが…
「ええ。恐らくですが、例のポイント換金システムについて誤解しているのではないですか?」
「あれだけのスポンサーの商品を回せるだけの背景があると睨んでおるんだが…」
「私たちも慈善事業でバラ撒いてる訳ではございません。出資者という事でしたら…」
と言うと、タキシードの男は天井のカメラを指で差す。
「あのカメラの向こうにいる片方が…という事になりますね」
どうも会話が噛み合っていない気がする。
「その方には…会わせる訳にはいかないと?」
タキシードの男は少し困ったような表情をすると、
「この特別ステージが始まる前に『投票結果』をご覧になりましたよね?あの数字が全てです」
「…つまりは、このトーナメントが博打の対象になってる…とでも言いたいのか?」
「何だ、分かっているんじゃないですか」
タキシードの男はニヤリと笑うと、
「裏のばいばいげぇむ…とでも申しましょうか、一口いくらで優勝者を当てた場合、掛け金が倍になるという仕組みです」
「フィクサーは世界中にいるって事か…」
てつろうは唸るしかなかった。
「1Pが1千万と高額ですが、御多数の方に参加して頂いております」
イカサマ防止の為のカメラだとばかり思っていたが、あのカメラの向こうでは出資者たちがレースを見る目で楽しんでいたという事なのか…
同時に、16人がそれぞれ1万P近い投票だった事を思い出す。
「察して頂けましたか?1人あたり1千億を掛けられたげぇむだったという訳です。
特別ステージは10人以上揃わないと開催しませんが、今回は半年ぶりという事で大盛況でした」
「私も…そちら側で参加する事は可能なのか?」
タキシードの男は頷くと、
「裏にアクセスする方法をお教えしましょう。…但し、こちらは現金でしか参加出来ませんのでご了承下さい」
「てっちゃん、何で10億まで粘らなかったのよ~」
愛人のみゅうが大袈裟にため息をつく。
例の廃墟でのバトルを終えた私は、その足で彼女に会いに来ていた。
「遊びってのは本気になったらおしまいなんだよ」
所詮はアプリ上の数字であり、むしろこれを現金化する方が至難の技とも言えた。
欲をかいて10億を手にしたところで、素人には減らさず現金化する事は難しいだろう。
「まぁ、いいわ。世界一周旅行で許してあげる」
みゅうはすっかり現金を手にしたように、はしゃいでいる。
「とりあえず今日は疲れた。寝かせて貰うよ」
明日から忙しくなる。
いかに減らさず現金化するかを考えているうちに、夢の中へと引き込まれていった。
翌朝、隣で寝ていたみゅうの姿が無かった。
無くなっていたのはもうひとつ。
…私のスマホである。
テーブルにはスマホの代わりに小さな手紙が置いてあった。
『てっちゃんへ。
彼女の誕生日をパスワードに使うというのは、嬉しかったけど流石にどうかと思うよ。
遊びは本気になったら終わり…だったっけ?
ありがたいお言葉と、てっちゃんのスマホは頂いて行きます♪
可愛いみゅうより』
~てつろうEND~




