深夜2時25分
ガラガラガラガラガラガ…ピシャンッ!
自動ドアの外にシャッターが降りる。
店長代理から説明された通りの行動だったのだが、それによってもたらされた結果はかずまの予想していたものでは無かった。
かずまはてっきり、非常ベルでも鳴って強盗が逃げ出すような展開になるのかと…
「何だこれ、強盗を閉じ込めてどうする気なんだよ?」
ゆうまの呆れたような声に我に返ると、助けを求めるように店長代理へと視線を移した。
店長代理は何故か、窓際のニット帽のおじさんを鬼のような形相で睨んでいた。
当のニット帽にサングラスのおじさんはというと、閉じられたシャッターを凝視しながらヘナヘナと床にへたりこんでしまっている。
「…なんだよ、これ?」
カウンターに座って呆気にとられていた強盗が、ようやく我に返って自動ドアの前へと駆け寄った。
自動ドアはピクリとも反応しない。
すごろくはドアの前でダンダンと床を踏む。
自動ドアはピクリとも反応しない。
今度はドアの上のセンサーに向けて大きく両手を振ってみる。
自動ドアはピクリとも反応しない。
「…どうなってんだよ!」
ドアに向かって叫んだところで状況は何も変わらなかった。
誰もが出入口に注目する中、突然みやびが走り出す。
みやびが向かったのは出口ではなく、真逆にある店の奥の男子トイレだった。
他の客が動けない中で咄嗟に動けたみやびは凄いが、謎の行動だったのは間違いない。
…が、みやびにしてみれば死活問題だった。
冗談じゃない、と。
女子トイレが占拠されて25分以上が経過しているのに、近所の職場へ駆け込む選択肢すら奪われたのである。
生き恥を晒すくらいなら男子トイレで…という究極の選択をしたのだった。
声を掛ける間もなく、みやびが男子トイレに駆け込むのを見て、らむは悟った。
みやびは旧友である私を置き去りにして、自分だけが安全地帯(男子トイレ)に逃げ込んだのだと。
そんなとっ散らかった状況で強盗犯に向かって最初にアクションを起こせたのは、意外な事に現状で最年少だと思われる男子中学生のしゅうやだった。
「おじさんの目的は…お金なの?」
お菓子に手を伸ばしたままの状態でしゅうやは強盗へと静かに語りかけた。
「…何を言ってんだ?強盗が他に何を欲しがると…」
すごろくは突然の問い掛けに少したじろぐ。
「防犯カメラがあるのが分かっていて顔も隠してすらいない。…元から捕まるつもりなんじゃないの?」
しゅうやの声に感情はなく、淡々とすごろくに語りかけている。
「何を訳が分からない事を言ってんだ!?」
図星だった為にすごろくの語気が荒くなり、胸元からつい包丁を取り出してしまった。
「きゃっ!」
らむが短い悲鳴を上げる。
「ただ捕まるつもりなら、それはしまっておいた方がいいよ」
そこでようやく、しゅうやは強盗の方へと顔を向けた。
眼鏡の奥の目は、すごろくの手にした包丁を見ても少しのかげりも見せずに鋭くすごろくの目へと向けられる。
…なんなんだこのガキ…包丁を見てもまるでビビってねぇ…だと!?
包丁を握った手が震える。
圧倒的に優位な立場の筈なのに、すごろくの方が追い詰められているような空気が漂う。
「僕みたいな子供を刺したら…強盗なんかより大変な事になるよ」
「お、お前らが変な事さえしなければ…無事に帰してやるよ!」
「…だからさ、扉が開かないんじゃ帰りようが無いでしょ?」
しゅうやの呆れたような物言いに、一瞬「そりゃそうだ」と納得してしまった。
すごろくにしてもコンビニで人質をとって立て籠るなんて馬鹿な真似をしたい訳ではない。
「僕ならその扉を開けられるから、帰らせて欲しいんだけど」
これはハッタリだったのだが…
あまりにも堂々と発せられたしゅうやの言葉に、すごろくは素直に応じる事にした。
「で、出来るって言うんならやってみろ。変な事をするんじゃねぇぞ!」
キャンキャン吠えるすごろくを相手に、全く臆する事なくスタスタとその横を通り過ぎながら、
「えっと…渡辺かずま…さん?手伝って貰ってもいいですか?」
と、かずまに手助けを求めた。
自動ドアはセンサーが切れているとはいえロックされた訳では無かった。
しゅうやはまず、店の売り物であるドライバーで自動ドアの両扉の間に隙間をこじ開けると、かずまと息を合わせて両方に引き戸のようにスライドさせていく。
自動ドアさえ開けば後は簡単で、シャッターをただ持ち上げるだけで店内に外の空気が流れ込んできた。
「おお~…」
店内に安堵の空気が一瞬流れたその時、
ドカッ!…っという派手な音が聞こえた。