てつろうの誤算
「相手は子供だし…騒ぎを大きくするなよ?」
それは親心から出た言葉でもあったのだが…
「あんまり店に顔を出すなよな」
けんやは軽く肩をすくめると、そう言い残して少年の方へと警戒を強めたようだ。
やれやれ…少し甘やかし過ぎたかな。
あの道楽息子が他所で勤まる訳がない。
年中遊び歩いてる私が説教したところで、説得力が無いのも分かっていた。
とはいえ、一応雇われでも店長としての自覚はあるようで一安心…と、胸を撫で下ろしたところで、その声を耳にした。
「ちょっと、待って下さいよ!」
店内に緊張が走るのに十分な声色だった。
見ればカウンターに40歳くらいの男が腰かけている。
下手に動けばどう出るか分かったものではない。
手ぶらなように見えるが、対峙している店員の青冷めた顔は相手の胸元を凝視している。
何か凶器を持っているのなら…逆らわない方が無難だと思える。
レジにはお釣り用に札もいくらかは入っているが、かき集めても10万円にも満たないだろう。
支払いの一万円札はレジ下の金庫に入れるルールで、金庫の鍵は店長代理の息子ですら持っていない。
高いリスクを犯してまで強盗する価値は無いとも思えるが、強盗側にそんな店の都合など関係がある筈もなかった。
とか考えていると、若い店員の右手がカウンターの下へと伸びるのが気配で分かった。
息子の防犯教育はちゃんとしていたようで、マニュアル通りの行動だと褒めるべきところなのだが…
そこで私はようやく、その行動の意味に気付く。
…いかん!そのボタンを押したら…!!
ガラガラガラガラガラ…ピシャンッ!
唯一の出入口である自動ドアの外に、シャッターが降りてきた。
24時間年中無休のコンビニには無縁のそれなのだが…
私が店を作る時に防犯の一環として用意したのだった。
…どうせ強盗なんか入る訳がない…と。
…強盗が入ったら閉じ込めてやる…と。
冗談半分で作った檻に、まさか自分が閉じ込められる事になろうとは…!!
ちなみにシャッターが降りると自動ドアも開かなくなるという仕組みになっている。
…誰だこんな仕掛けを作ったのは!
…止めるヤツはいなかったのか!
嫌な汗が大量に背中を流れ落ちる。




