かずまさという男
俺の戦いはまだ始まったばかり!
…そう心に決めたのだが、店員の1人が本棚のコーナーへと真っ直ぐに向かってきた。
乱れている本を無言で整理しているが…
「長時間の立ち読みはご遠慮下さい」
という副音声が聞こえたような気がした。
これはまずい展開である。
一度本棚のコーナーを離れると、戻って来るのが難しい。
別にコンビニに決まったルートがある訳では無いけれど、何となく何周もするのは躊躇いがある。
今は他にも客がいるから目立つ事はないが、独りでウロウロしていたら間違いなく変な目で店員に見られる事になるだろう。
この俺、渡辺かずまさ23歳大学生。
男性店員を相手にエロ本の購入を躊躇するような男ではない。
期待していたサークルの合コンが不発に終わり、行き場のない欲求を少しでも発散させる為に深夜のコンビニに来ているのだ。
…自分でも何を言ってるのかよく分からないな。
早くも心が折れそうになる。
店員はまだ本の整理をしているし、障害となっていたおじさんは…動かない…だと!?
週刊誌を手にしたまま店員と並び立っている。
マジか…どんだけマンガ読みたいんだ…
ニット帽にサングラスのおじさんに動く気配は全くない。
あの図太さは…見習うべきか、どうなんだろう…
よく分からない敗北感を胸に、渋々本棚のコーナーを離れる事にした。
適当にジュースでも買って帰るか…
切り替えが早い男。それがかずまさ。つまり俺。
カウンター奥のホットドリンクのコーナーから粒入りのコーンポタージュを1本手にして振り向くと…
カウンターにおじさんが座っていた。
「…………は?」
行儀が悪いとか、そういうレベルじゃない。
40歳くらいのおじさんは当たり前のようにカウンターに腰かけて足をプラプラさせていた。
「聞こえなかった?早く金を出せよ」
「ちょっと、待って下さいよ!」
若い店員が真っ青になって裏返った声を上げた。
そんなに怒鳴ったら………を怒らせちゃうぞ?
…ん?…何だこの状況?
頭がうまく回らず、俺はコーンポタージュを握って呆然としてしまっていた。