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俺には精霊がついているらしい  作者: あいえる


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第三百十話 我儘の気配


「覚えてなくて当然なんだけど、リィってば何でそんなに自分が弱体化してるのか気にしたことない?」


「弱体化、って言われてもな。昔からこんなだぞ」


「あれ。その辺も含めての契約だっけ」


 ミカが口にした弱体化の意味とは。

 リィ本人は何のことやらと疑問しかない様子。しかし、ジーンは納得する部分があることに気付く。


 ミィが語った兄の姿と、実際に目の前にいるリィの姿と。

 比較してみるとそこには差があった。


 今まではそれほど気にもしていなかったものの、弱体化していたとなれば理解ができる部分が多いのだ。


 その戦闘面での立ち回りや、普段の態度。

 一人戦場を戦い抜くだけの力があるようには思えなかった。


 頼りになる兄。強かった兄。ジーン達に劣るもののそこらの手練れの戦士と比較をすればリィが優勢ではある。

 しかし、ミィが語った姿とは違っていたと言わざるを得なかったのだ。


「んー、じゃあ色々説明しなきゃだね。まずは契約内容からっ」


 ・契約内容を忘れること

 ・一日毎に最大魔力量の八割を受け渡すこと――


「――ってことで、えいっ☆」


「おいちょっと待て説明が面倒になったからといってぐっナニコレ頭がガガガ」


 ミカの指先に魔力を感じたかと思えば様子がおかしくなるリィ。

 恐らくは契約どうのこうのが関係しているのだろうとジーンは結論付ける。


 何をどうすることもできないジーンはただ待つことしかできない。


「どう?」


「……はぁ。相変わらず強引というか適当というか」


「記憶諸々戻ったみたいだね」


「お陰様で、というか全部俺から頼んだことだったけどな。何自分の手柄みたいな顔してやがる」


「はいはい次いこ。次」


 無事、なのか。特別に問題もなく諸々が済んだのか。

 詳細も知らされず何がどう変化したのかほとんど分からないまま、話は進んでいく。


 ジーンに理解できたことといえば溢れんばかりの魔力の反応くらい。

 先程までとは人が変わったかのようなリィを見て驚くことになる。


 ゴム風船がパンパンに膨らんだような。

 今にもはち切れてしまうと思う程の気配だ。


 だが、荒れる波でも吹く烈風でもなく。

 それはとても静かな気配であった。


「喜ばしいことです。役者は揃い、征くべき地点――救世の果てを示す準備は整いました。後は最初の一歩を踏み出すのみです」


 それは世界の意思の言葉。

 終わりのない旅の始まりを祝福する言葉。


「――まだだ」


 まさにこれから、というところで待ったの言葉を発したのは本来の力を取り戻したであろうリィ。


「最後というか最初にというか。諸々の前に一つだけいいか?」


「それは、必要な事なのですか」


「いや。俺の我儘だと思ってもらって構わない」


「……いいでしょう。時間の許す限りお好きにどうぞ」


 事を急く側の人物であるはずのリィが立ち上がる。

 一秒でも早くミィを助けたいと思っているはずの彼がここにきて寄り道を選んだのは、彼の言った通りにただの我儘。


 ミィの救出と同等の、いやそれ以上に価値があると判断したソレは一体何なのか。


「さぁ、バトルだ。救世主さん」


「俺か?」


「兄として本当に妹を任せられるのか知りたい、って気持ち。分かってくれるだろう?」


「いや俺兄弟とかいないし」


「馬鹿お前最後くらい素直に言うこと聞けっての」


「はぁ? なんだよ最後って」


「それはほら、殴り合ってりゃ分かるかもな。あぁ待て言い方が悪かった安心してくれ本当に拳と拳で語り合うわけじゃないからだからその握りこぶしを俺に向けるのやめてくれないかチャチャ。あれだよあれ、シミュレーションというか思考実験というか怪我とかしないやり方だから、な?」


 話の途中ではあったのだが。

 物騒な言葉を聞いてジーンよりも先に立ち上がったチャチャへの説得が始まる。


 あれやこれやと言えども語れども中々手強い難敵チャチャ嬢を前に、彼女を慕っていた妹のセンスを少々心配したりしなかったり。

 どうしたものかと予想外の障害に、いつまで呑気に眺めているんだと視線をチラりジーンへと向けるリィなのであった。


 自身に向けられていたはずの挑戦状をチャチャに横取りされて『あれ、俺に向けられた話だったよな……?』なんてモヤモヤとけむたい杞憂を払いのけて。

 早口でも丁寧に説明を並べていくリィではなく、バトルを了承したジーンによってチャチャはその凶器もとい拳を下ろすことに。


 ジーンの言うことは比較的素直に聞くことができるチャチャなのである。


「ちょっと行ってくるわ。お茶でも飲んで菓子でも食って待っててくれ」


 何かと相性の悪いチャチャから逃げるように。

 リィは再び突っかかられる前にジーンを連れてその場を離れていく。


 何処までも続くように見えて薄いカーテンに覆われているような空間。

 ペラリ暖簾をくぐるみたいに曖昧な境界をいつの間にやら超えていった二人を、気付けば残された者達は見送ることになっていた。


 そして、いつまでも誰も居ない場所を眺めているわけにもいかず。

 リィの言葉通りに菓子でも食べようかとチャチャが準備をし始める。


 そして、それに続くようにして神子が食器類を並べていくことに。

 日頃からうーちゃんの相手をしている彼女にとっては慣れたものであった。


「果たして私の口に合うモノはあるのでしょうか?」


「不味いって思うんだったら別に無理して食べなくてもいいでしょ」


 そしてそして世界の意思はというと何もしない。

 口を出すだけで自らが動くことはしない。


「えー? せっかくなんだし楽しく女子会やりましょうよー」


「女子会って……」


「何かおかしなところでも?」


「だって女子って歳じゃ――」


「はて。女子という言葉に年齢制限があるとでも?」


「……まぁ、言われてみれば確かに気にすることでもないか」


 歳とか気にするんだ。なんて言ってしまえば何をされるか分かったもんじゃない。

 一人女子枠から外れているミカは首を突っ込むことなくその場を乱さないことに徹するのである。


 性別など元から変幻自在で老若の見た目も思いのままであるミカではあるが、自ら火に入る必要などないのだ。

 仲間外れなんて気にしている場合じゃない、というのがミカの思いなのであった。


「しれっとジーン達についていけばよかったなぁ」


 誰にも聞こえないように。

 自身の耳にも届かないように。


 後悔を吐き出して頭に残らないように、そっと零すだけ。


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