第三百九話 救世の宣言/記録用
「話は簡単。ミィを助けるためにこう……色々頑張ってたって感じ!」
「その色々が大事なんじゃないの!? って感じなんだけど!?」
「そこはほら、説明が面倒くさいというかなんというか?」
「さっき説明するって言ってなかったっけ」
「痛い!? ちょ、ソレ冗談抜きに痛いからっ!?」
ぐにぐにと顔が横に縦にと変形しているのはきっと見間違いだろう。
鬼の形相をしているとはいえチャチャも麗しき乙女の中の乙女なのだ。そんな野蛮なことはしないハズなのだ。
「ジーンも見てないで微笑んでないで助け――」
「ふんっ」
「ぴぎぃっ?!」
触らぬなんたらにほにゃららがどうたら。
知っているか相棒よ。見て見ぬふり知らぬ存ぜぬ阿呆の真似事は上手く生き残るための術なのだよ……。
とでも内心で語っているのか、一部始終をただ見守るだけのジーンなのであり。
そして裏が無いとはいえ。ミィのためとはいえ。
何も語ることなく伝えることなく行動していたのは良いとは言えないのではないか?
俺はいいけど皆の気持ちも少しは考えような?
などという思いもあり、やっぱりただミカの行く末をちょっと憂うだけで済ませるジーンなのであった。
「……はぁ、賑やかなのは良いことですが。時と場合? 的な部分を心配できるともっと良いかと思う母なのですが?」
怒り呆れなんて感情はとっくの昔に捨てていた彼女。
今まさに胸の内に膨れ上がっている感情は一体何であるのか、知ることもそして気付くこともできないままに。
「やーい、チャチャってば怒られてる~」
「あなたもですよ」
「あいたっ!?」
デコピンなのか。誰に当たることもない場所での素振りだけを見せる世界の意思だったが。
何故かどうしてかミカには世界の意思の指先が届いたらしく、威力こそ見た目通りのハズなのに大袈裟な声と態度で主張するのは何故かどうしてか。
「分かったよ、言うから。ちゃんと言うから!」
「詳細はこの際どうでもいいことです。必要ならば後に語りなさい。それくらいの時間などすぐにでもできるのですから」
「んと、じゃあ一番大事なところからだね」
「えぇ。“どうやって世界を救うのか”を一言でお願いしますね」
「もー、恥ずかしがっちゃって。素直にミィを助け――ハイ。えっとその、ジーンには犠牲になってもらいます」
これ以上はダメなのだと直感したミカは即座に自身に与えられた役目を果たすために語り始めた。
どうやって世界を救うのか。犠牲にと告げるその言葉はこれは決定した事であるかのようであった。
「最初からそのつもりだが?」
が、しかし。
それがどうしたとジーンは顔色を変えることなく話の続きを目で求める。
「動揺とかないんだ」
「もう今更って感じだな」
「まぁ、再確認というか改めての宣言というか。証拠を残すためにももう一度だけジーンの意思を聞いてもいい?」
「ミィを救うために俺はこの命を捧げよう。それが世界を救うことになるって言うのなら、ついでにやってやる」
「……おっけー! ばっちしかも!」
証拠とは何のための証拠なのか。
記録を残すのは、いつ使うためであるのか。
これでいいよね? とミカが世界の意思へと顔を向ける。
「まぁいいでしょう。これで世界に宣言が刻まれました。あとは観測者ですが……」
「な、なによ」
「本当に、隣に立つ者としての覚悟はありますか?」
世界の意思が顔を向けた先にいたのはチャチャ。
チャチャは投げかけられた質問に即答することができず、言葉の意味を理解しようと沈黙をその場へと招くことになる。
「……よく、分からないんだけど」
「これよりジーンは世界を救う者として生きていくことになります。人としての生を捨て、この星が破滅するその時まで救世を求めて。あなたはその救世の物語を見守る覚悟がありますか?」
ゆっくりと。理解を阻害する意地悪など一切なく。
世界の意思はチャチャへと語りかける。
「断っても構いません。観測者とはあなたでなくとも誰でも何でも良いのです。それこそ精霊でも魔法でも。ただ、永遠である存在の方が都合が良いという話なのであなたが第一候補になるのです」
「永遠である、存在? 私が?」
「薄々、というか理解しているでしょう? 隠す必要はありません」
「いや普通に死ぬし寿命もあるし……」
「認めたくないからこそ理解を拒んでいるのか、本当に勘が悪いだけなのかは知りませんが。そう思っているのであればそれは間違いであると言う他ありません。あなたは既に肉体は人のそれとは異なるモノであり精霊ともまた異なる存在となっています」
「既に、人じゃない……?」
「器であった影響なのか、穢れに染まった影響なのか。死を経験したからなのか、それとも様々な要素が重なった偶然なのか。この際、理由などどうでもいいのですが」
沈黙、というか絶句の果てというか。
瞬きの隙を見いだせない時間が続き、チャチャはモノを見るのではなく無駄な情報を得るために瞼を動かさない。
それは意識しての事ではなく衝撃のあまりにそうなってしまっただけではあるが。
これはチャチャが受け入れるべき事実であり、他人の手を借りるのは逆にチャチャの首を絞めることになる。
それを理解している者しかいないため心配はすれども誰もが声をかけない。かけられない。
いや、違うか。
心配していない者しかいないからこそ誰も声をかけないのか。
「――そこまでスーパーな存在になってたとは。あれ、もしかしなくても私ってば最強?」
「自惚れも程々に。寿命はまぁ考えなくても良いのは事実ですが、不死ではないので。思ったよりもあっさりと普通に死にますからね」
「でもでも不老ってことはこのぴちぴち美少女のままってことでしょ? ジーンを魅了し続けられるってことでしょ??」
衝撃を受けていたというのは事実。とはいっても、負の感情を揺さぶられたわけではなく正の感情を揺さぶられていただけ。
リィや神子はチャチャの態度にため息が大きく出てしまうことになる。予想通りというか、予想を上回ったというか。
「あ、一個だけ一番大事なこと聞いてもいい? ダメって言われても聞くけど」
「ダメです」
「不老ってことは性欲も無限大だったり?????」
「恐らく、とだけ。ただし子を孕むことが人より難しいのは間違いないでしょう。子沢山を望むのならば覚悟が必要でしょうね、主に我が子の方が」
「ふ~ん? 覚悟、だってさ」
話が逸れてませんか? なんてジーンの言葉は虚しくも各々の耳へと届くだけ。
届いただけで即時、雑音判定にされ会話のきっかけにもなることなく終わる。
孫の顔が見てみたいという冗談か本気かその表情から読み取れない世界の意思からの言葉の圧と。
ちょんちょんっ。つんつーんっ。と腕やわき腹を小突く可愛さ全開のアピールをするチャチャ。
かと思えばにんまりと笑って笑って笑って笑って笑って笑って。
「だってさ」
「分かったから。その話はまた後でするから」
「やった。おっけおっけなりますなります。観測者だっけ? やるやる。具体的に何すればいいのか知らないけどやりまーす」
それは食後にデザートを口へと運ぶかのように当たり前に。
チャチャらしい物事を重く考えないからこそというか、ジーンが関わっていれば何でも良いというか。
悩むまでの道のりはあれども悩むということは無く。
「今はその身軽さを好ましく思います」
「それで、あたしは何をすればいいの?」
「別に。これといって特に。これまで通りで問題はありません」
「観測者っていうくらいなんだし、常に隣にいなきゃいけないんじゃないの? 監視、みたいな」
「魔力の交換で事足ります。直接、あなたの眼で、全てを視る必要は無いのです。……さて、救世主と観測者が揃えば後はどうにでもなるでしょう」
これは記録。実際にあった出来事として世界に残すための時間。
これから先を枝分かれさせるための分岐点の作成。
始道の果てであるこの空間で行うことで“どの時空間にでも干渉できる出来事”として記録が残せたことになる。
ジーンの宣言がチャチャの決意が世界の誕生と同時に行われた出来事であるとするのならば。という“もしも”が生まれたということでもある。
もっとも、それほどに残酷な使い方をするはずもないが。
「じゃあ、次は――」
そして。いよいよ。
「――リィの番だね」
「は? 俺?」
本格的にミィを救出するための行動に移り始めていくのであった。




