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俺には精霊がついているらしい  作者: あいえる


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第三百三話 穢れは消えることなく

 

「……。いったな」


「はぁ、あなたが行かせたんでしょ。何言ってるのよ」


「不満なのか?」


「不満って言うよりも不完全燃焼? みたいな?」


「それこそ何言ってんだ、って感じだよ。最初に投げ出したのはそっちじゃねぇか」


 ジーンらを見送った後。

 世界の意思によって生まれた精霊たちは暇を解消すべく談話を開始していた。


 ティティはもう姿の見えなくなったジーンの背をいつまでも想いながら。

 ラキドゥは相も変わらず寝そべったまま、白い部屋の天井を眺めながら。


 互いに、互いのことを考えているようで実のところ何も考えていない。

 そんな似た者同士の精霊はこの先をどう見ているのだろうか。


「にしてもなんだアイツ。急に出てきて急に消えてよ」


「なんだも何も、彼を助けるための存在としか言えないじゃない」


「ある程度の事情を把握してるテメーだからこそのまとめ方じゃねーか」


 “アイツ”とか“彼”だとか。それは勿論クーの身体を借りて顕現していたもしものジーンのこと。

 彼女自身、やはり詳細を口頭で伝えようとする気は無いようではあるが。


 しかし、寝そべったまま動かないのはどうしてなのか。

 仕事が終わったのならばここに留まる必要など無いはずであるのに、ラキドゥは“何かを待っている”かのように動かない。


「あの『してやったぜ』って顔が気にくわねぇ」


「それだけあなたの存在が大きかったんじゃないの、多分。好き放題してるのは変わらないってことね」


「だからオレはあっちの事情なんて知らねぇんだっての」


 愚痴というやつなのか。それにしてはティティの顔には苛立ちや憤りといった感情が表れていない。

 それよりも愉快だと感じている部分の方が大きいようであった。


 お互いに会話というものが面倒であるとは思っていないらしい。

 適当な相槌だけで済ますこともなく。それが必要であるのかどうかなんて気にもしていないように。


 しかし、やはり先に口を動かすのはティティばかり。

 ティティとの会話は自らが積極的に行おうとしているわけではなく、聞かれたら答えるくらいのものであった。


 だが、そんなラキドゥが唯一ティティへと話しかけたことは何であったのか。


「あなた。どうして、まだ残ってるの?」


 すべき事は終わった。ジーン達、つまりは世界の意思に反する行動を起こす者達の処理であるわけだが。

 結果は失敗に終わっているのだとしても、やるべき仕事はもう無いことに変わりはない。


 物事の結末を見届けるのならばここに残る必要はなく、他にやる事があるのならば尚更ここに留まっている理由はないだろう。

 というのがラキドゥからの問いだった。


「てめーがいるから、しかねぇだろ……」


 問いかける相手の顔すら見てはいないラキドゥには察することなどできはしないが、ティティがそう語るその顔には呆れが混じっていた。


 長年付き合ってきた、という割には共に過ごしてきた時間は短い彼女ら。

 お互いが、お互いのことを全て理解しているわけではない。


 なんとなくこう思っているのかな? こんなこと考えてるのかな? こうしたい、して欲しいのかな? みたいに感じられる程度のこと。

 要するにそこかしこに生きる人々と何も変わらないということだ。特別な役割を与えられていたのだとしても彼女らは万能の存在ではないのだ。


「ん? この感じ……」


「あらら。どうかしたの?」


「ったく。何があららだコラ。これが狙いかよ」


 そんな万能ではない、ちょっと強い力を持っただけの精霊達が目を向ける先には黒い靄。

 人のような影だけがそこに在るように思えるソレは一体何であるというのか。ティティは薄っすらとその正体に気付いているようであった。


「穢れか?」


「そう。流石に鈍感なあなたでも分かったのね」


「うるせぇよ。……じゃなくてだな、どうしてこんな場所に溢れてきて――あいつらか」


「そ。彼らが大きな力を手にした今、何かでバランスを取らなきゃでしょ? 驚くことじゃないわ」


 あいつら、というのはジーン達のこと。

 穢れが溢れて出てくる原因となっているのがジーンであるということ。


 そこまでを理解してティティは溜息が出そうになる。これも仕事の内であるとはいえ面倒に感じる部分が大きいからだ。

 いくらか体力の余裕が残っているとはいえ弟子との戦闘の後である。やる気は出ないしなによりも地味なのである。


「この大事な時にガキどものケツ拭かなきゃなんねぇのかよ」


「馬鹿ね。“この大事な時だからこそ”よ」


「何言ってんのか全然伝わってこねーよ……」


 イマイチ繋がらない。何が大事なのかどうして馬鹿とまで言われなければならないのか。

 ラキドゥが言う、だからこその中身がピンと来ないティティはムスッとした顔をして剣を抜く。


 ジーンへと向けていたあのギラギラとした闘志は引っ込んでしまって。

やる気は出ないがやるしかない。


 向かう先には穢れ。滅ぼすべき負の存在。

 白い部屋のどこから湧いて出てきているのか人型の穢れが軍隊のように並んで迫ってくる。


 鎧を身に纏ったモノ、丈のあっていないローブを擦り這わせるモノ、槍の石突を床へ打ち鳴らし行進するモノ。

 剥き出た牙そして四つ足に爪を尖らせるモノ、翼を以て天から狙うモノ。


「何故、これだけの穢れが生まれるのか」


 ラキドゥが問う。


「何故、先を()く者を追うのか」


 ラキドゥは問いかけそして身体を起こす。


「何故、負の象徴である穢れがこれほどにまで溢れ出すのか」


 そして彼女は槍を変形させ魔力放出に適した杖を手にして告げる。


「それは彼らの征く道の果てが“正しい世界の姿”であるという証拠に他ならない」


「……のかもしれない。くらいのもんだろ」


「はぁ。この際だから言うけど、あなたのそういうところ昔から大嫌いなのよね」


「この際もなにも何度も言ってるからな、お前」


「あら失礼。言葉には出していないつもりでしたのよ、おほほほほ」


 世界を救う者がいるのならば。

 世界を変えようとする者がいるのならば。


「準備はよろしくて?」


「お前こそ。先に投げ出すんじゃねぇぞ?」


 一騎当千、どれだけの数を前にしても揺るがない武力を持つティティと。

 援護だけに留まらず後方からの砲台に成り得るだけの魔力を持つラキドゥの。


「おっしゃ! 始めようぜ――」


「さぁ、始めましょうか――」


 世界の意思に創られた守護者たちの戦いはこれから始まるのだ。


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