0077
一部改訂。
どうやら神様は意趣を利用したらしい。
お陰で連日取材の波に追われて困っていたんだけど、ようやく沈静化したようだ。
つまりさ、オレ達は勇者召喚に巻き込まれただけで、必要無いから追い返されたって事になった。
もっとも、集団幻覚とか言われたけど、それなら残りの人達はどうなったかって話だよな。
当事者であり、一番辻褄の合う話、だけど荒唐無稽ってのが今の立ち位置になっている。
だから取材と言ってもその手の話が受ける業界からの取材のみで、オレ達の話は一般的に集団幻覚でオチが付いた。
ただ、そうなると残りの生徒の行方が不明って事だが、それは当局が好きに探せば良いだけの事。
信じない輩の苦労など、知った事ではない。
それはともかく、1年弱振りに戻った面々に対し、進級か留年かの問題が発生していた。
本来ならば有無を言わさず留年のところ、理事長からの提案で追加補習付き進級という道が示されたのだ。
あり得ない程の優遇に対し、皆はこぞってそれを希望した。
(しかしですね、あの子達だけに優遇するような事は……既にの、その事で寄付を受けておるのでの、経営には問題無いぞぃ……それでですか……おぬしが問題にするのなれば、寄付を突っ返す事になろうが、その補填はやれるかの……いくらですか……今までに合わせて3億じゃ……な、そんなにも。それでは何も言えませんね……補習担当の教師達には追加報酬を渡してあるのじゃし、それも全て寄付でまかなっておるのでの、問題提起は大変じゃぞ……問題提起が無理なのは分かりましたが、せめて寄付の相手ぐらいは教えてくれますよね……悪いがそれは言えぬ。漏らさぬ約束になっておるのでな……そうですか、分かりました)
あの理事長に何か要望がある時は、1億の寄付の提示で何とかなるから楽でいい。
行方不明の間の授業の分を補習でクリアして、次年度から他クラスに編入になるというプランの元、新学期からは補習三昧になるらしい。
そうしてオレ達の事はその頃にはすっかり沈静化して、速やかに記憶の底に沈む事にするからと神様に言われている。
元々居なかった事にするには時期が悪いらしく、辻褄合わせの為の芝居のようなもの。
早急に沈静化させるから少し我慢してくれと言われ、そう言う事ならと諦めて受け入れたんだ。
あいつらは補習の傍ら、甘いミカンのブローカーをやり始め、すっかり元のような暮らしに戻っている。
そういうのは慣れているのか、オレも見習わないとな。
そんなオレは今、向こうで拵えた『抗年薬』のブローカーをやっている。
これってこっちの世界でもかなりの効果があるようだけど、向こうでひたすら作っておいて正解だったな。
やはりマナの無い世界でのMP消費の機会は少ない程ありがたいから。
それでも材料はまだまだあるんだけど、それはそのうちまた異世界交易の合間に何とかしようと思っている。
転移に干渉されてのモンスター退治の結果、いくつかレベルが上がっていたんだけど、それでも使えば無くなるのがマナだ。
て言うか、あの世界のあの階層はマーキングと言うか、クイーンの波動を記憶してあるから何時でも行けるのは内緒だ。
どのみち次元が使えない管理なら、オレの転移を探知出来ない訳だし、こっそり行って果実の回収もやれる訳で、無くなったらそうしようかと思っている。
しっかし参ったな。
すっかり転生体験がおじゃんだ。
微細な違和感は既に消したし、すっかり元の暮らしに戻りはしたけどさ、もう元のようには過ごせないかと思うと残念で堪らないよ。
春休みも後少しで補習もあらかた終わったんだけど、高校2年生かぁ……どうすっかな、これから。
本来ならまだまだ単位が足りなくて留年するところ、進級して休みのたびの補習で遅れを取り戻す方針になったのは良いけどさ、補習スケジュールを見て嫌になったんだ。
だってさ、黄金週間も夏休みも冬休みも全部補習で埋まっているんだ。
だからさ、テストの点で判断してくれと談判したんだけど、授業の単位は決まっているから無理だとのたまいやがったんだ。
あいつらは補習を受けて進級するらしいけど、オレは留年しようかと思っている。
その返事が今日までなんだけど、あいつらにその事は告げてない。
さすがにネタがバレたらもう、かつてのような親友な間柄は無理だしさ。
つくづく残念で堪らないよ。
そんな訳で電撃留年なオレに対し、あいつらはオレを詰問したけど知らないよ。
精々、補習漬けの日々を送るがいい。
「くそ、オレも留年するんだった」
「ふふん、休みの間中、補習とかご苦労な事だ」
「言ってくれよな」
「いかに違和感を消したとは言え、中々にインパクトのある事件だ。その手の趣味持ちの記憶からは中々脱落しないとなると、同じクラスになったりしたら蒸し返される怖れもある」
「ああ、それがあったな」
「やべぇな。そんな事をされたら他の奴らに波及しちまうぞ」
まあ、頑張ってくれ。
さてと、ダブリは良いんだけど、単位がそんなに大事かねぇ。
再度の2年生となり、全く新しいクラスに編入となり、これから1年間共に過ごす者達に挨拶をする。
中々にとんがった存在も居るようだけど、かつてのオレと同じに思う事は死を意味するぞ。
以前でもかなりピーキーになってはいたけど、記憶が戻ったオレに妥協は効かないと思ってくれ。
「沢田高次、趣味は秘密です」
「おいおい、秘密ってなんだよ、言えよな」
「秘密です」
「ううむ、どうしても言えないのなら無理にとは言わんが、そんなに変わった趣味なのか? 沢田」
「そうですね、余り一般的では無いと思います」
「そうか、それなら聞けんか。よし、次だ」
さすがに言えんよな、殺しと拷問が趣味とかさ。
かつてはそうだったオレだし、記憶が戻れば趣味も戻るってもんだし。
そういや、あっちじゃ盗賊もかなり殺したけど、こっちじゃおいそれとは殺れないんだよな。
もっとたくさん殺しておけば良かったな。
まあ、また殺りたくなったらあの世界に不法侵入してこっそり殺れば良いか。
ふふん、戻ったからと安心しているだろうけど、次元転移を探知出来ないとか、侵入してくれと言っているのも同じだ。
まだまだ意趣返しには足りてないんだからな、オレの気の済むまで遊ばせてもらうぞ、その世界で。
クラスメイトの自己紹介も終われば、今日の行事は終わりとなる。
あいつらは最後の学年として、補習と進学の為の準備でてんてこ舞いになる事だろう。
そんなオレは1年余裕が出来たって事になるし、あいつらが大学浪人すれば同学年もあり得る。
どんな大学を狙うのかは知らんが、あんまり高望みすると本当に同学年になるぞ。
既に勇者召喚のくだりは皆の記憶の底に沈んでいる事だろうし、当事者と同学年でもなければ早々思い出しもしないはず。
心機一転で新たなフレンドツリーの構築でもやりますかね。
あいつらもそれなりに過ごしているようだけど、もうあの変な言動はやってない様子。
オレの近くに居たからこそ、殊更にオタクを演出していたんだなと今更ながらに思う。
今あいつらは普通の学生のように振舞っているようだし、それならそれで構うまい。
これからは少し離れた位置取りの知人としての立ち位置でやっていこうぜ、お互いにな。
それはそれとして、今この世界はシナリオ中だと言っていたけど、どんなシナリオなんだろう。
まだまだ新しい世界だから、行方不明にするしかなかった突発的勇者召喚事件。
もっと安定化された世界なら、多少の無理も効くから元々居なかった存在にする事も可能らしい。
だけどシナリオ中は色々と不安定になる要素があるから、そういうのもやれないって話だった。
世間でのニュースでも特に変わったニュースも無い事から、かなり小さなシナリオの可能性もある。
よくある恋愛小説のように、学校の中だけで終わるタイプだと、どっかの県のどっかの学校の中だけのシナリオになる。
そういうのは世界への影響も殆ど無いだろうから、殊更に変わったニュースになったりはしない。
さすがに世界を震撼させるようなシナリオだと、それはニュースになるだろうしネットの話題にも登るだろう。
だけどそんなのは一切無いから、恐らく小さな世界で終焉を迎えるシナリオなんだろうと思われる。
んで、そういうのをあちこちで同時にやっている可能性もある訳で、神様の腕前が何処までなのかは窺い知れない。
では何故、世界はシナリオをするかって事になるんだけど、これは宣伝みたいなものらしい。
人は死んでまたこの世界で産まれる場合と、違う世界へ誘われる場合があるとか。
その場合、いくつものシナリオがあれば、次は他のシナリオへと誘われる。
これは本人の趣味の環境への誘いとなり、恋愛物が好きな存在はまた違う恋愛物のシナリオに導かれる。
だから同じ世界に違う恋愛物がたくさんあれば、違う世界に行かずに元の世界での転生になる。
世界は魂が多い程に安定し易いらしく、何処の世界でも魂の誘致には余念が無いとか。
だからより人を集めるシナリオが人気なので、有名なストーリーのシナリオは人気が高いんだけど、そうなると競争倍率が高い事になる。
うちの神様はそんな競争倍率の高い有名なシナリオは用いず、小さなシナリオをたくさん同時にしているらしい。
まあ、このらしいってのも確定じゃないけど、現にニュースにもサイトにも変わった話題はあんまりない。
もっとも、オレもここで2つ目の世界だから、事によると既にシナリオど真ん中で気付かないだけって可能性もあるけど、それならそれで構わない。
てかさ、そんなシナリオど真ん中なら神様が教えてくれるよな。




