0076
「それで、逃したと言うのか」
「申し訳ありません。既にもぬけの殻で」
「おのれ、いまいましい。それで、店の中はどうだったのだ」
「それが、何ひとつ残っておらず」
「探せ、そして捕らえよ」
「「ははっ」」
どうにも上が騒がしいので、50階層でしばらくやり過ごす事にした。
クイーンにマナを注いで蜂蜜を受け取り、果実を集めてのんびり過ごす。
仮の店舗は粉砕され、あちこちに手配が成されているようだけど、さすがに50階層に居るとは思わないよな。
公証12階層まで進んでいるようだけど、ここに到達するのはまだ先の話だろうし。
てかさ、よく12階層まで潜れたもんだよな。
だって10階層から19階層までは水中ターンだ。
確かに水面はありはするが、11階層への転移陣は水底にあるんだよな。
水中モンスターを倒したり避けたり逃げたりしながら、水底の転移陣を使って次の階層に進むしかない。
でもって12階層は小島からスタートだ。
まあそこには帰りのゲートが置いてあり、だからこそそのまま帰ったんだろうけど、13階層への転移陣は実はでかいカメのモンスターの背中に描かれていて、水底を這い回っているってオチだ。
まあ、そこから先も同じ感じになっているから、毎回、水底のカメを探し回る事になる。
20階層からまた地上ルートになるんだけど、29階層までモンスターが居ないんだ。
その代わり、転送陣も無い訳で、上の階層まではハシゴで登る事になる。
道は細い板状の物質で出来ていて、所々にロープの道がある。
そんなのがひたすら上まで続いていて、足を踏み外したら20階層に墜落するんだけど、1階層分昇るのが相当に大変なうえに、うっかり上で眠るのも大変な状態だ。
寝返り即墜落な場所での長期探索になり、もし辿り着いた人が居ても、20階層の帰りの転移陣で帰る事になるだろう。
ああ、ちなみに転移陣は帰りは各階層に設置されているけど、行くのは10階層ごとにしか無い。
だから20階層に辿り着けたら30階層までの探索は楽になりはする。
だけど到達した者以外は無理だから、そいつらが引退したらまた最初からやり直しになる。
そんな訳で迷宮の攻略が中々進まない訳でもある。
ちなみにオレはギルドライセンスに記載せずに50階層に到達しているから、ライセンスには10階層の印しかない。
転移陣まで空間転移しての、転移陣の転移で簡単に到達したし、次からは直で行くから問題にならない。
うっかりライセンスに記載なんかしたら煩くなるだけだしな。
そんなオレはまた、カモフラージュの釣具を持ってダンジョンに潜ろうとする。
「また釣りですか」
「中々釣れないんだけどな」
「先の攻略はどうなんですか」
「あんなの無理だよ」
「それでよく10階層に行けましたね」
「運が良かったんだね」
「そうでしょうね」
手続きの間に何時ものやり取り。
銀貨1枚支払って転移陣に乗り、10階層目指して転移。
そのはずだったんだけど、これはさすがに酷いよな。
空中高く転移アウトされ、荷物を倉庫に入れて『フライング』
ふわりと浮かんで事無きを得たが、近付いて来るのがドラゴンとなれば、これは確実な意趣。
大体、迷宮の転移陣の誤動作とか、管理の意趣以外考えられない事。
しかもここ、迷宮の外だしな。
ドラゴンの谷の上空に転移アウトさせるとか、殺す気満々だろ。
万が一助かっても、ドラゴンに食わせて証拠隠滅を図ろうってなもんだしな。
『ウィンドカッター』
さてと、ドラゴン真っ二つは良いけど、これからどうしようかねぇ。
下のほうからわんさか昇って来るんだけど、どうなっても知らないぞ。
『ウィンドカッター・テンペスト』
素材回収しまくるのは良いんだけど、谷が真っ赤に染まっちまったな。
本当ならドラゴンの血も欲しかったんだけど、空中戦での素材確保ではちょっと無理があったようだ。
だって空中解体とか1匹ならまだしも、わんさかだからやれないからさ、谷に落ちたのを全部解体する羽目になっちまって。
可能な限りの素材は集めたんだけど、折角の肉も殆ど泥だらけの粉砕になっちまって残念だよ。
もっとも、この世界のモンスターの肉は大して旨いもんじゃないけどな。
やはり神様の腕次第なところもあるんだろうけど、もっと熟練の神様の世界のモンスターは相当に美味だ。
かつて、そんな世界に誘致された時、あんまり美味いもんだから乱獲しちまってよ、派手に叱られたもんだ。
古代竜が一番美味かったんだけど、どうやらシナリオに絡む存在だったとかで、困った事をしてくれたって叱られたんだ。
さすがに絶滅は拙かったか。
それはともかく、何とか爪やら牙やら鱗の付いた皮やら魔石は確保したんだけど、その他まで手が回らなかったってのが実情だ。
だもんで谷は今、粉砕した肉と内臓と血と骨でドロドロになっている訳で、あのまま放置したら相当の悪臭が……知った事では無いけどな。
そのうちドラゴンゾンビでも発生しそうな状況だな。
変な意趣もクリアしたので、地上に降りて10階層に転移。
その後、50階層へ転移陣での転移……またですかい。
どうにも図に乗っていると言うか、いい加減にしてくれよな。
周囲のモンスターを壊滅させて素材回収の後、50階層に転移。
さすがにオレの転移スキルに干渉は出来ないようで、転移陣のみの干渉になっているようだ。
まあ、オレの転移は次元転移の応用な訳だし、次元転移がやれないと干渉は出来ないわな。
《おい、いい加減、上を何とかしないか……あれ、そっちもやられてんのか……転移に干渉しやがってからに……あれ、転移陣だよな……いや、お前の所に行こうとして、あさっての場所に飛ばされているんだよ……あれ、自前の転移には干渉されてないぞ……それなら来てくれ……あいよ》
やれやれ、またとんでもない場所に送られたもんだな。
それも全員同じ場所に送られたはいいが、現在座標が分からないから転移のしようが無いって訳か。
つまりあいつらの転移じゃあの膜は越えられないんだな。
世界の壁の中に空間を構築してそこに送り込むとか、管理オンリーなスキルだろう。
まあ、オレもやろうと思えばやれるけど、あれって管理だと外からの細工で作れるんだな。
まあいい……転移っと。
「やっほー」
「お前も送られたのか」
「ここって世界の壁の中よね」
「だろうな。この壁の向こうが見えないからよ」
「お前らいい加減、振りはよしてくれよ」
「どういう意味だ」
「職務上、その手のスキルを隠さなければならない掟があるのかも知れないけどよ、オレは使えるんだし別に良いだろ」
「何が使えるって言うのよ」
「オレ、この中を見て、自力でここに来たって言ってんだ」
「おいおい、そんなの普通の転移じゃ無理だぞ」
「まだとぼけるのかよ、てめぇ」
「お前、まさか、次元……いや、さすがにそれは」
うおっ、誰だ、転移して来る存在が……「やれやれ、何をサボっているのかな」
「あ、ボス、これはですね」
「同行になりまして、それでですね」
「君かい、彼の秘蔵っ子と言うのは」
「神様の使徒って事になっているけど」
「そろそろ帰ってはどうかな」
「管理の世界内干渉の罪、頼むな」
「つまりここに送り込まれたって訳か」
「そうらしい」
「と言うのはここには自力で? 」
「オレの転移には干渉されないんだけど、こいつらさぁ、能力を隠してさぁ、使わないんだよ、次元転移を。普通の転移だから干渉されて移動出来ないとか言うけど、次元転移なら簡単に抜けられるのに、どうしても使わないんだよ」
「くっくっくっ……こいつらは使えないんだよ」
「うえっ? 直属の職務なのに使えないって何だよ」
「ああそれで隠していると思ったのか。彼も罪造りな事をする。君は世界内存在にしては稀な存在であり、上でも希少な存在だ」
「何それ」
「彼のような管理は上級管理と呼ばれ、その資格が次元に関する能力となる。だからこの世界の管理では扱えない技能、だから君の能力への干渉はやれないと」
「そうだったのかよ。オレはてっきり、掟とかで……」
「それで君はどうするね」
「そろそろ帰るよ。変なちょっかいするって事は、出て行けって事だろうし。呼んでおいて勝手なものだけど、それが上の流儀なら諦めるだけだ」
「倒さないんだね、あちらの世界の管理のように」
「あれっ、あいつ、死んじゃった? 」
「あれっきり行方不明だから、恐らくは特異点だろうね」
「特異点から戻れないとか、修行不足だろ」
「やれやれ、彼は何処まで……」
「まあいいや、とにかくもう少ししたら戻るから」
「うむ、ならばこいつらは君に任せておこう」
どうやら上司がこいつらの時を止めていたようで、オレとの対話は最初のくだりで終わっていた。
それから任務の継続を認められたとかで、しばらく滞在の後に戻る事になった。
管理には上司のほうから勧告が入ったようで、転移に対する茶々もそれっきり止まった。
半年後を目処に元の世界に戻ると皆に告げ、上司の転移で揃って世界内に転移する。
彼らが使えない以上、そう言うのは余り見せないほうが良いと言われ、半年後に迎えに来てくれる事になった。
こっそり通信で呼べと言われ、波動を記憶して別れる事になる。
しっちゃかめっちゃか混ぜくり倒してやろうと思っていたのに、とんだ茶々が入ったものだ。
強制転移とフタ外しの意趣返しには足りないが、期限限定になっては仕方が無い。
貴重な転生体験がこんな事になったのは残念だけど、後半年は好きなようにさせてもらうぞ。
全員から小麦やら胡椒やら砂糖やら塩を受け取って倉庫に入れ、この手の世界共通通貨も端数を省いて全て受け取った。
あいつらは半年間、のんびりと過ごすらしく、端数の金を持って王都で悠々自適をやるとか。
オレは折角なのでクイーンビィと共に過ごす事にした。
ティムまではいかないけど、相互対話の後に友に近い存在になったんだし、お別れの時までここで過ごそうと思ったのだ。
なんせ、誰も来ない階層のヌシとして、迷宮から得られる微々たる魔力を糧として、細々と暮らしていたあいつ。
マナをやったら派手に喜んで、代わりに蜂蜜をくれる事になった。
今でこそ階層の半分ぐらいを制覇しているけど、かつては広大な果実園の中のその他のモンスターと僅かな蜂型モンスターの構図だったんだ。
オレが消えたらまた元の木阿弥になるかも知れないけど、それでも仕方が無いと言うクイーン。
街に来る塩商人グループへのアプローチも済ませ、街にバレたからと最後の取引を終えた後、彼らの根城での取引なら可能って事にして何度か取引をした。
あちこちの国でも胡椒と砂糖、それに蜂蜜をばらまき、かなりの金貨をせしめる事になる。
世界流通貨幣の量がかなり減ったろうけど、そんなの知った事では無い。
後は時々のマナ供給と蜂蜜調達、それに果実や薬草採取と薬の作成となり、半年はあっと言う間に過ぎていった。
誘致されてから1年が近くなり、在庫の水晶と聖石もかなり充填されたけど、まだ空のがあるんだよな。
それでもこれだけ充填出来たら御の字ってものさ。
【いよいよお別れだ……残念ですけど、仕方がないのですね……これを渡しておこう……これはっ】
お別れにと聖石を傍らに置き、元気でと……(こんな貴重な品を……ありがとう、私の……始めての……と・も・だ・ち)
準備が出来たと通信すれば、すぐに行くと連絡が入る。
皆を集めて人里離れた場所に集い、彼が来るのを待つ。
程なくしてやって来る彼だが、残りの連中はやはり永住になるらしい。
今から戻るけど、巧く帳尻を合わせてくれよな、神様。




