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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
3.召喚の顛末
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0075

 

 荒野の中に、まるでオアシスのようにその街は存在している。


 周囲は乾いた大地だと言うのに、その街は緑溢れる楽園のようだが、住人の半数は冒険者という一風変わった街、そう、ここは迷宮都市と呼ばれる、大陸でも有数の街になる。

 確かにもっと大きくて古い迷宮都市はいくらもありはするが、この都市は街としては若いながらも活気に満ちていた。

 それと言うのも迷宮から獲れるアイテムの中に、他の迷宮では見られない変わった品や高価な品があると言われ、大陸中から冒険者が集まっているからだ。

 情報を得るうちにこの迷宮こそシナリオに絡むと確信した彼らが選んだ都市のようで、珍しいアイテムの情報の中には確かにそれらしき品があるようだった。

 現在、12階層までの到達記録があり、そのうち地図は10階層まで作られているらしい。

 階層が進むごとにその地図の価格は高くなり、10階層の地図は金貨数十枚と言われている。

 モンスターはそこまで強いのは出ないのに、どうして攻略が進まないか。

 それはやたら広い迷路状になっているからであり、持ち運べる食料にも限度があり、地図があればこそ先に進めるようになっているとか。

 

「しかしよ、胡椒の小瓶が金貨100枚ってのはぼったくりだろ」

「いやその容器もな、精巧なガラス瓶でフタは未知の物質と言われていてな」

「そんなの百均の胡椒だろ」

「ああ、確かにそんな感じだったが」

「つまりリアルの品をポイントとかで買って宝箱に入れているって訳だな」

「中々、考え無しだろ」

「つまり、世界の不具合調整を勝手にやってやろうって趣旨だな」

「くっくっくっ、そう言う事だ」

「別によ、プラスチックの製法を世の中に広めてやっても良いんだろ、クククッ」

「まあ、いかんとは言えんよな。同じ誘致者なのに、あっちは良くてこっちはダメってのも不公平だしよ」

「オレなら小箱とか目の細かい布袋にでも入れ替えて宝箱に入れてやるがな」

「そう言う事を思い付かないのが普通の世界内存在さ。だからこそ導きが必要になるんだが、この世界じゃそう言う事をやってないようだ」

「つまり新米か」

「良くても毛が生えた程度だな」

「よし、決めた。オレは潜るより金儲けに走る」

「横取りはどうなったんだ」

「なんと宝箱から胡椒の樽がぁぁぁ」

「うぷっ、くっくっくっ」

「10キロもの量の黒胡椒の樽が出たとかってやってやったら、どれだけの金になるかねぇ」

「天文学的な額になるだろうなってか、そんな物も持っているのかよ」

「かつて大量に仕入れては、こっそり異世界交易をやっててな」

「やれやれ、だから色々言われていたんだな」

「さあ、店をやるぞ。剣と魔法の共通通貨なら山程あるからな」

「元派遣員を誘致したこの世界の未来が怪しいな」

「小麦畑の小麦なら何でも同じと思って調べなかった、この世界の管理が悪いのさ。ちゃんと毒草を省かないとこうなるって見せしめにしてやろうぜ」

「わざと上に聞かせるようにしているな。しかし、反応が無いか」

「ふむ、熟練なら違反覚悟で通信ぐらいはやるものだが、規定に囚われているようなら新米確定だろうな」

「そう言うのはな、やれるものならやってみるがいいって心境さ」

「くっくっくっ、愚かだな」

「特異点の彼方で悔やむがいい」

「お前、そんなスキルまで持っているのかよ」

「特異点って何処にあるんだ? 」

「くっくっくっ」


 いや場所は確かに知らんが、狭間で暴れたら特異点ってのは知っているぞ。

 だからこそその狭間への誘致をさせて、そこで暴れるのと同等のエネルギーの放出をするスキルを開発したんだ。

 あの時もそれを使ったが、あの管理がどうなったのかは知らないさ。


 そんなこんなで街では今、胡椒の……いやな、最初はオークションか何かにしようかと思ったんだけど、そういうのって伝手が無いとおいそれとはやれないらしいんだわ。

 仕方が無いからそこいらの商会に持ち込んだんだけど、かなーり足元を見て来るのには参ったよ。

 あんな小さな小瓶で20グラムしかないのに金貨100枚なのにさ、10キロで金貨100枚って舐めているだろ。


「ならいいよ、別の店に行くから」

「何処でも同じですよ」


 確かにこの店が最後で大体似たような価格ではあるが、そこまで価格が違うのには何か訳があるはずだ。

 でまぁ、軽く探ったらカルテルっぽいのをやっていて、儲けは山分けって事になっていた訳で。

 つまりこの街では安く売って高く買うしかないらしく、買い手を行商人に限定する事にした。

 でもなぁ、街で勝手に商売したらダメとか言うもんでさ、許可を取ろうとしたら税金4割とか言いやがるもんで、門から出てすぐそこって場所で商売をやる訳だ。

 早い話が嫌がらせな訳で、迷宮産のと銘打って、色々な珍しい品を売る店を作った訳で、街を目指して来る行商人達は寸前の安い店に集中したのも当然の話。

 だって、価格カルテルの無い店な訳で、街の中の商会より安く買えるから。


「また嫌がらせか、懲りないな」

「うわわわわ」

「すぐ倒すから」


 どうにもモンスターを煽って襲わせようなんてつまらない事を何度も何度もするんだけど、こっちとしては動かなくても狩りになるからお得って感じで特に困りはしない。

 店から出て迫ってくるモンスターを軽く退治してやれば終わる話だ。


「あんた、強いんだなや」

「あんなの雑魚だろ。ほい、胡椒1キロ」

「これが本当に金貨100枚で良いのかいな」

「ああ、構わないよ」

「街じゃその10倍は取られるぞ」

「売れば金貨10枚って言われるさ」

「それでこんな所で売っているんだな」

「で、何キロ買う」

「そうだな、1キロ良いかな」

「砂糖もあるぞ」

「なんと、それはいくらかの」

「1キロが金貨1枚」

「それはまた安いの。5キロ良いかの」

「売りは何だ」

「塩で10キロで金貨2枚ってとこだがの」

「どんだけある」

「全部だとそうさの、600キロぐらいかの」

「胡椒1キロと砂糖10キロでどうだ。蜂蜜の壺を1つ付けるぞ」

「おお、それはありがたいの」


 かくして街に供給されるはずだった塩600キロをせしめる。

 彼らのグループはこの街に来る一団で、荷物の半数は塩になっているらしい。

 残りの品は生活必需品の衣類や小物類を運んで来る事になっているようなので、全てせしめると街に流れる塩が無くなると。

 4つの荷馬車から塩をそれぞれ運び出し、代わりに胡椒と砂糖と蜂蜜の壺を渡す。

 彼らはそれを分配する為に色々やっているが、その隙にこっそり倉庫に入れておく。


「いやいや、良い商いが出来た。まさかこんなに安く胡椒が手に入るとは」

「また運んで来たら交換してくれるか? 」

「ええ、もうしばらくここに居ますから」

「おい、てめぇら、次は塩を満載だ」

「「「「おおおおー」」」」


 迷宮街専用行商人グループから塩を集めた結果、街から塩の在庫が少なくなり、自然と高騰する羽目になる。

 この店は基本、塩を商売の対象にしていて、塩で買うならかなりお得だという噂にもなり、高騰していても街に塩が流れない訳にもなっている。

 蜂蜜の壺は蜂蜜が1キロ入った代物で、普通に買えば金貨100枚はくだらない。

 それと言うのもこの世界では普通の蜂は希少とされていて、蜂系モンスターが殆どだからだ。

 んでその蜂系モンスターから蜂蜜を得るのは相当に難しく、かと言って希少な蜂での養蜂も相当に難しいと。

 その結果、蜂蜜は超希少な甘味となっていて、それは砂糖よりも高価な贅沢品となっているこの世界において、1キロの蜂蜜がどれだけ貴重な品かという事になる。

 砂糖よりも高価な甘味、それが蜂蜜なのである。

 そんな品をおまけに付けるとあっては、皆がこぞってこちらに来るのも道理なのだが、実は迷宮50階層で簡単に採れたりする。

 現在の公証到達階層は12階層だから、ネタがバレるのも相当先の話になりそうだが。


 今日も今日とて50階層のクイーンビィにMP供給をする。

 かなり賢いモンスターのようで、マナと交換での蜂蜜って取引に応じてくれて、今ではこんな感じになっている。

 大体、行けば100キロぐらいの蜂蜜が採れ、交換に1000MPも渡せば満足している様子。

 彼女達の種族は他の存在からマナを採取して、それを元に産卵をして増えるタイプらしい。

 そんな訳で交換条件になった訳だが、最初は不幸な行き違いは当然あった。

 んでまぁ、巣を殲滅する寸前に念話っぽいのを受けて、話し合いの結果、そういう取引をする事になったと。

 今はオレだけ50階層フリーパスになっていて、珍しい果実や薬草なんかも採り放題になっている。

 地上じゃ稀とまで言われる万能薬の素になる薬草とか、伝説クラスの果実とか。


 特にこの果実なんだけど、食べると若返るって伝説があるらしい。


 果実は単に滋養強壮な成分がたっぷりだから食べれば元気になるだけなんだけど、普通の食事では中々得られない成分が摂れるから、一見、若くなったかのように元気になるって話らしい。

 よくよく調べてみるとカシスとかマカとかウコンとかシナモンとか、そんなのが雑多に実っていたと。

 他にも色々な果実が、広大な階層にわんさかとあるもんだから、採取しまくりになった訳だ。

 後は粉にして混ぜてやれば若さを保つサプリメントが作れる訳で、それを錬金術で加工すればまさに伝説の効果に近い薬になっちまった。

 試しにそこいらの老人で試してみたんだけど、毎日飲ませていたら少しずつ若くなっていくようで、どうにもおかしいから調べてみると、身体改造効果がプラスされていたりした。

 まさかサプリメントにゲノム書き換えの効果まであるとは思わなかったけど、この世界限定な効果ならありえる話。


 なんせこの世界は剣と魔法の世界だからして。


 あちこちの老人を対象とした人体実験の結果を錠剤にして大量生産となり、それらは王侯貴族の垂涎の品と化す。

 いやね、ゲノム書き換えは良いんだけど、薬使うたびに上から何かのアプローチを感じてさ、それを解析したらスキルになっちまったんだけど、これを使えば若返りも可能になりそうなんだ。

 中々安易にスキルを見せるけど、まさか解析もやれないとは思って無いよね。

 ちなみにあの迷宮だけど、51階層というか50階層の下にダンジョンマスターが居て、彼と交渉しようとしたら妙に上から目線を食らったんだ。

 どうやら迷宮の中では死んでも24時間後に蘇るからってんで、不死身のつもりでいたらしい。

 そういうのってオレにはご褒美にも等しい訳で、早速殺してみた訳だ。

 そうしたら24時間後に蘇ったんだけど、またそこで殺してみたんだ。

 んでまた蘇ったから殺そうとしたら、妙に怯えて殺さないでくれって懇願するんだわ。

 なんかさ、痛みは普通に感じるようで、刻んで殺してやったら相当に痛かったらしい。

 まあ、確かに刻んでやれば、痛い痛いと賑やかではあったんだけど、そういうのってゾクゾクすると言うか……


「つくづくお前ってドSだよな」

「うえっ、そうかな? 」

「あいつ、相当怯えてたぞ」

「ああいうの見ると殺したくなるよな」

「それはお前だけだ」


 受け取りに来たあいつらにサプリメント錠と蜂蜜の樽を渡し、代わりに空の籠と樽と壺を受け取る事になる。

 どうやら他国でかなり受けが良いらしい。

 サプリメント錠は『抗年薬』……不老になるって意味合いで付けた名前だけど、本当にそうなのかは万年飲んでみないと判らない。

 毎月1錠で抗年効果があるようで、既に各国の王族御用達になっているとか。

 実際、独占商売になっている訳で、中々作れない希少な薬という触れ込みで、各国の王族の手の者が中立商業国に集まっての協議の結果、価格が決められて購入になるって話になっているとか。

 その時についでに蜂蜜も売るらしく、樽から小さな壺に小分けされてかなり高価で売れるらしい。


「ほい、錠剤100と蜂蜜500キロ」

「これはまた多いな。希少だと言ってある手前、100錠はさすがにな。蜂蜜はまあ良いとして」

「裏で流せばいけるだろ。富豪連中によ」

「それしか無さそうだな。よし、とりあえず貰っていくぞ」

「実際、人件費しか掛かってない品だからな、両方共」

「ぼったくりだな」

「さあ、頑張って市場経済ぶっ潰そう」

「かなり潰れてるぞ。資金が相当に増えているしな」

「小麦はどうなんだ」

「全員のアイテムボックスの中に入れているが、中が小麦だらけになっているぞ」

「そのうちまとめて引き取るさ」

「そうしてくれ。オレらのは抜かれる可能性が高いんでな」

「分かった」


 どうして魂内に設置しないんだろうな。

 やっぱり職務上、そういうのは違反か何かになっているのかな。

 だとしたら後々、同僚ってのも考えものだな。

 好きな嗜好品を持ち歩けないとか、そういうのってつまらないだろ。

 さて、現在の好きな嗜好品は……


「おい、珈琲飲んでいくか」

「待ってました……ううむ、美味い」

「この世界でももどきなら作れるが原種に近いからな、あっちの珈琲には敵わんさ」

「作れる事は作れるんだな」

「闇を飲むような泥のような珈琲になりそうだけどな」

「いや、さすがにそんなのは嫌だぞ」

「それぐらいにしないと、アメリカンより薄味にしかならないようでな」

「コクのある珈琲はこっちでは無理か……ふうっ、旨いな」

「てめぇ、抜け駆けしてんじゃねぇよ」

「あれ、お前らも来たのか」

「毎回、てめぇが運ぶとか、こういう訳だったんだな。おい、オレにも珈琲寄こせ」

「やれやれ」


 所詮は迷宮に生える果実でしか得られず、だからこそ品種改良も不可能な珈琲豆な訳だし、いくら焙煎してもコクなんてロクに無いから濃厚にしても泥のようになるだけだ。

 薄味が好きならまだしも、そうじゃなければこの世界ではそんな泥のような代物で味わうしかないってのも辛い話。

 結果、あっちの品を使うしかないって訳だけど、どのみちダンジョンマスターもあっちから仕入れている訳だし、こっちで売っても構わないだろう。

 もっとも、そのあっちってのがオレ達が来た世界とは別の世界の可能性が高いが、どちらにせよ現代風の世界から来たんだろうし、特に問題はあるまい。

 ただ、神様の熟練度の関係で味が違う可能性もあるが、うちの神様はかなりの熟練度、だからこそ珈琲も美味いと。

 実際、こっちの胡椒……迷宮産の胡椒ってさ、香りも殆ど無いし胡椒らしさが殆ど感じられない粗悪品って感じだ。

 だから百均の胡椒でも良品に思えるぐらいで高いんだろうけど、オレのと比べると雲泥だ。

 そりゃオレのも決して高価な胡椒じゃないけど、粒のままってのがこの世界の胡椒と似てはいる。

 なのに香りの鮮烈さも味も全く違うってんだから、オレの供給している胡椒が王都辺りでは相当な人気になっているらしい。

 なんせ挽く前の状態な訳だから、料理の前に挽いて使えば、それはもう派手に香ると。

 かなり行商人にばらまいた事だし、そろそろ供給を止めても良いぐらいだろう。

 買占めでまだまだ倉庫にありはするが、あんまり大量に供給しても仕方の無い話。


 てか、そろそろ疑惑を持たれそうだしな。


 さすがに迷宮からとか、今まで粒の状態で得られなかったのに、いきなり粒で大量な訳だ。

 そろそろこの国で栽培に成功したとかの疑惑になっている事だろう。

 王都で探った後に、隣の街の中を探った結果、ここに来るのもそう遠い話じゃないはず。

 まあそうなる前にとんずらするのがベストだけど、行商人が尽きないんだよな。

 次から次にやって来て、塩と交換で仕入れていく奴ら。

 とっくに街からも塩が尽き、排除になりそうな訳だし。


「はーい、品切れでーす」

「おいおい、それはねぇだろ」

「次は何時開けるんだ」

「早くしてくれよな」


 開店休業の札を提げ、店を閉めてさようならだ。

 だって塩を買いに来る街の連中との取引とか、やってられないからさ。

 既に胡椒と交換の塩商人との取引は終わり、店の前で騒いでいるのはその塩が欲しい町の住民達。

 高騰価格で少量分けてはいたが、それでも日々人が増えるばかりだったんだ。

 さっき街の貴族館から馬が数頭出てさ、こちら方面に来そうな感じになっていた。

 通達を無視したからそのうち来るとは思っていたけど、あんなの相手にしてられない。

 接収とか言われたら嫌だしな。


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