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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
2.放置の対策
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7/19改訂

  

「おっちゃんに頼みがあるんや」

「どないな頼みや、言うてみ」

「ワイな、おっちゃんのこの新聞見て、ちょいと閃いたんや」

「それ、買え言うんか? 金は出すんやな」

「ここに1万ある。9レースのな、9-8-6頼むわ」

「おいおい、そいつぁ、大穴もいいとこだぞ」

「せやけどそう閃いたんや」

「まあええやろ。けど、当たったら山分けやで」

「そない言うなら自分も乗ったらどないや。リスクだけ背負わせて分け前とか、セコ過ぎるぜおっちゃん」

「甘ぅないな」

「当たり前や」

「まあええやろ。ならな、酒の1杯でもおごってくれや」

「当たったらな」

「よっしゃ、ほな、買いに行くで」

「悪い事は言わん。ちぃとでも乗っとき。たんまに閃くんやけど、今回の閃きは洒落にならんで」

「しゃあないな。そら今まででもたまにあったが、そこまで言うんやったら、まあ、500円……ええい、1000円乗ったる」

「ワイは知らんで。あり金勝負しとったら良かったとか、後から悔やんでも」

「そないな冒険、やれるかいや」

「堅実な投資やのに、残念やね」

「まあええ、ちぃと待っとき」


『1着9番、2着8番、3着6番……3連単48500円』


「うおおおおお、マジで来やがった」

「48万4000円の儲け、良かったな、おっちゃん」

「あり金勝負やっとくんやったわ」

「せやから言うたやろ」

「けど、そっちは大儲けやな」

「まあな。100円が48500円になるんや、万札なら485万や」

「今度は何時、閃くんや」

「そんなん分かるかいや。けど、当分は無理やろな」

「ええか、閃いたらワイに言うんやで」

「まあ、そのうちやな」


 やれやれ、これで何とかVRマシンが買えるな。


 小学の頃から小遣いとは名ばかりの、まるでお賽銭のような有様で、マシンとか夢のまた夢だった。

 成績が良ければ親にねだれるかも知れんが、うちの家に限ってはそれも無駄な努力になるだろう。

 それぐらい酷い待遇な沢田の次男坊だが、52万8500円という高いマシンを買うのにも理由がある。

 もし、小遣いの額に甘んじ、内職無しに育った場合、衰弱死の可能性もあるぐらいなのだ。

 なのにそれなりの体格で育っている以上、そこに何かの介在がある事を示している。

 しかしそういうのは疑われて先の話なので、これは予防線という事になるのかな。

 もし、金の事がバレた先、入手先にと設定した代理購入。

 確かに未成年の購入は違反だが、代理購入までは定めてない。

 というか、単なる予測に罪はなく、品物の代理購入にも罪は無い。

 車券を買う行為のみ成人が行い、法律に触れない所は自分で行う。

 いわば法律の抜け穴のような行為なのではあるが、協力者が居て才覚がありさえすればまさに、小学生でもやれるという点が理想なのだ。

 そしてオレはその協力者を得て、小銭稼ぎをしていると。


 まあ、家からの告発は無理だな。


 何たってそんな事をすれば、オレを冷遇していたってのが世間にバレる。

 世間体を重視するあいつらに、そんな事がやれるはずがない。

 となると外からの告発になるが、そいつも可能性は低い。

 なんせおおやけには居ない子扱いの次男坊なので、直接家に来る親戚以外の、親の仕事関連の連中は知らないのだ。

 後は部屋の中を勝手に捜索して見つけて没収という可能性だが、そもそもオレが稼いでいる事は知らないのだ。

 あいつらは放任主義という名の育児放棄を行っていて、だからオレの育ち具合などには興味も無く、だから気付かないのだ。


 閑話休題それはともかく


 帰りにCD機キャッシュディスペンサーで400万をネットバンクに入金し、予約取り置きのVR機を買いに行く。

 入荷したとのメールを受け、そして今日の稼ぎになったという訳だ。

 開催日が数日後だったのがまだ幸いだったが、あれが半月も遅れたらヤバかったかも知れない。

 なんせ汎用の中で一番高価なVR機として、高いにも関わらず人気商品なのだから。

 現に1週間しか待たないという返信メールを受け、今日は何がなんでも稼がなければならなかった。


 残金32万余りを持ったまま、VR専用機を持って家にこっそりと帰る。

 もっとも、高いけどその分小型軽量なのが幸いし、部屋まで出会わなかった事もあってバレるような事はなかった。

 親はともかく、兄貴にバレるとその場で接収になる可能性が高く、それを怖れていた。

 兄貴は親に専用機を買ってもらっているにも関わらず、それが新しいという理由だけで盗るだろう。

 そして運が良ければ兄貴の使い古しを渡されるだろうし、運が悪ければそのままになる。

 部屋に持ち帰ったVR専用機を枕に隠し、各部屋に用意されているVR回線と接続する。

 ここは物置だが、予備の回線置き場として押入れにあるのを発見して以来、今日の日を待ちわびていた。

 確かに兄貴のお古もありはしたが、回線にマシンの性能が追いつかないって普通逆だよな。


 ああ、ちなみに兄貴の部屋は冷暖房完備の12畳、姉貴の部屋は8畳の冷暖房完備でシャワー室が付属しているらしい。

 でもってオレの部屋は兄貴のお古の机と、姉貴のお古の……小学生の頃に使っていたというカラーボックスの他は何も無い、3畳の物置部屋だ。

 ちなみに布団は中学の頃までオレが幼い頃からの布団で、煎餅のような布団だったが、これも兄貴のお古だ。

 敷布には兄貴が当時描いた地図が描かれており、洗っても落ちないのだ。

 もっとも、身長が伸びた今となっては布団の長さが足りず、フリマで買って使用している。

 つまりそんな昔から内職をやっていた訳であり、それがオレの生命線になっていた。


 話をしているうちに初期設定が終わったらしい。


 VR支払いの設定は、ヤポンネットバンクのデビットカードを挿入しておく。

 これはゲームだけではなく、様々なVRのコンテンツに必要な資金の融通先になる。

 本来なら未成年なら手続きの後でコンビニ払いとか、そういうのを親からもらって払うのが一般的だが、そもそも親に知られる訳にはいかない資金だ。

 だからオレは親類でも一番まともな人を頼り、ネットバンクを作成してもらって譲渡を受けた。

 一番まともと言っても、それはビジネスライクな人という意味で、契約として請けてくれたに過ぎない。

 つまり、ネトギン口座を購入した形となったのだ。

 確かに表ではそういうのは認められていないが、裏では当たり前に行われている。

 戸籍の無い移民者でも口座が持てる方法として、戸籍持ちの貧乏人の内職になるぐらいだ。

 当時の彼はオレの資金調達力を全く信用してなかったが、それでも前払いと後払いで契約に応じてくれた。

 前払い10万、後払い290万、合わせて300万で口座を獲得した。

 親戚割引と言われたが、当時のオレには高い壁に思えたものだ。

 後金を1ヶ月以内に支払わなければ、口座は没収になるという契約もあり、何とか後払い金の多い契約にしてくれた。

 それでオレは口座獲得後、数字当てクイズの期限が迫っているのを幸いに、残高全ての5万を閃きのままの数字を入力。

 そして払い戻しを受けて残金を入金したという訳だ。


 閃き? オレの能力な。


 なので本来なら稼がなくても金はあるはずが、裏との付き合いは何かと金が掛かるもの。

 ちょうど融資の件もあってギリギリになっていたのと手持ちの資金が尽きた為、今回の稼ぎになったという訳だ。

 夕食のカップ麺に鍋から沸かした湯を注ぎ、部屋に持ち帰ろうとした時に兄貴とバッタリ。

 オレの貧しい夕食を一瞥するも何も言わず、自分の興味の話を始める。

 そう、兄貴もVRゲームにはまっていて、以前それを紹介されたのだ。

 まあ魂胆は分かっている。

 中で何かと手伝わせて、ゲームを有利に進めたいのだろう。

 突っぱねるのは簡単だが、兄貴の機嫌を取るのは絶対だ。


 もう分かっている。


 この家ではオレ以外の意見が正しくて、オレは何を言っても取り合ってもらえないと。

 以前にも参加を強制されて、オレは巷のVRリースに通った。

 中学の小遣い200円では何度も通えないが、1分10円のリーズナブルな店は愛用した。

 兄貴の的になる為に。

 オレの小遣い事情を知っているのに、それを使い切るまでに強要し、1日1ログイン即キルを小遣いが尽きるまで強要されたのだ。

 あれは対人ゲームの部類で、敵陣営のプレイヤーをなるべく短時間でキルすればそれだけランキングが上がるとか、そんなゲームだった。

 その後、次に兄貴が夢中になったゲームでは、オレは兄貴が飽きるまで付き合わされるのを嫌がり、金が無いと断った事がある。

 その時に親に告げ口され、オレが悪いと叱られたが、VRリースに通う金が無いからと言い訳の結果、兄貴が新しいVR機、つまり今のVR専用機をおねだりし、お古の汎用の安いVR機を渡されたのだ。


 それから何かと利用される事になったが、やり方が分からないとか、指定の町に行けないとか、そんな理由ですぐに止めるオレに対し、あんまり言わなくなっていたんだけど、つい先日、またしても対人系の戦争ゲームをやってみてはどうだと、以前より柔らかい口調で言われたのだ。

 これを断るとヤバいと、閃きはそれを警告し、とにかくチュートリアルをやってから決めたいと答えておいた。

 だが、兄貴は何かの理由でオレにそれをやらせたいのだと、サイトで色々調べた結果、どうやらキルした時に相手の装備とかを奪えるらしく、それを資金源にしようと思ったのだろう。

 つまり、兄貴はオレを中で働かせ、装備を買ったうえで兄貴に殺されて装備を奪われる役回りをやらせようとしているのだろう。

 本当に腐った性根だが、いい加減愛想も尽きたし、そろそろその根源を断とうと思う。


 あいつは金が絡めばすぐに乗ってくる。


 だからオレの計画にもすぐに乗ってきて、オレの参加とかどうでも良くなるはずだ。

 400入金した事だし、100をくれてやろうな。

 戻らない貸金と分かっていて、それでもあえて儲け話を持ちかける。

 やれやれ、空しいけどこれで根源を断つ一歩になると思えば、別に何とも思わないさ。


 兄貴お勧めのゲームはパッケージ販売ではなく、月額課金だった。

 後は課金アイテムの類がいくつかあるらしい。

 月額5000円はネトギン引き落としに設定し、課金用通貨を100万円分購入。

 100円で1ポイントになっていて、1万円で105ポイント、

 10万なら1100ポイントって事になるらしい。

 しかし、50万で6000ポイントで100万で15000ポイントって、ちょっとインフレが酷すぎるだろ。

 誰も纏めて買わないと思って、煽り過ぎじゃないかと思う。


 だからって訳じゃ無いけど、オレは100万コースで15000ポイント獲得だ。

 こんなに買ってどうするかと言うと、これを月額課金に流用出来るんだ。

 しかも、年払いにすれば10か月分の支払いで1年間有効になる。

 なので2年間有効で1000ポイント支払い、残りのポイントが14000ポイントとなる。

 さて、計画の開始だ。

 通称、半額課金、さあ、兄貴よ乗ってこい。

 お前の好きな金儲けの提案だぞ。


「お前もアレ、やるんだってな」

「半額課金だけどな」

「おいおい、そんな金、どうしたんだよ」

「バイトで稼いだ」

「お前がバイト? そんなの何時やったんだ」

「割のいいバイトがあったのさ」

「そんなのあるなら教えろよ。オレも小遣いピンチなんだ」

「あのね、今のゲームさ、100万で15000ポイントになるよね」

「ああ、だけどあんなの買えるかよ」

「しかも年間契約にすればもっと下がる」

「だからの半額課金にしたんだろうが、それがどうしたよ」

「残りのポイント、売れると思わない? 」

「何っ、あっ、そうかっ」

「兄貴の大学の知り合いとか、金に困っている奴、居ないかな? 」

「みなまで言うな。よし、そいつをしようが、山分けでいいな」

「うん、良いよ」


 やれやれ、金が足りないとか、オレの10倍小遣いもらっている癖に。

 1ヶ月50ポイント、年間割引で500ポイント、2年で1000ポイント。

 残りの14000ポイントを渡して100万円返却で、その差額は兄貴の利益って事になった。

 山分けと言っていたのは何処に消えたんだよ、てな話だが、こんな事はよくある事だ。

 振り込んで後に話を変えるぐらいだ、金が手に入ったら恐らく貸した金もとぼけるに決まっている。

 儲け話を渡したせいか、オレのバイトの話は言及してこなかった。

 話せない内容なので、追求されたらどう誤魔化そうかと少し焦っていたからな。

 利発という兄貴の評判も、金で眩むんだから大した事は無いのだろう。

 やれやれ、これで当分はおとなしく欲の為に動くだろう。

 そう思っていたら案の定、オレがゲームをやるかどうかなんてどうでも良くなったらしい。


 現金なものだ。


 どうやら兄貴は5ポイントを4500円で売る商売をやったらしい。

 大学の知人連中に1割引でゲームがやれるって宣伝して売りまくった結果、13000ポイント売り切って117万稼いだらしい。

 そうして買ってくれた知人連中と飲み会をやり、16万使ったけど1万残ったと喜んでいた。

 何とも出入りが多くて儲けの少ない商売をやったものだが、兄貴はやはりオレの思うままに動くらしい。

 オレに返すはずの金で追加で100万課金をやり、15000ポイントでまた商売を始めた。

 思った通りに動く兄貴に少し呆れ、分かってはいるが借金の話を聞いてみた。


 そのうち返す。


 見事なぐらいに的中するオレの予測。

 もっともこれは閃き無しでも分かる簡単な今までの事からの推移に過ぎない。

 見事なまでに腐った兄貴の性根だが、オレの金の出所を疑えない今の状況を理解してないのが情けない。

 オレの手の平の上で転がされているのを理解してないのが情けない。

 そんな兄貴は今、オレの金を元手にした、儲け独り占め計画に夢中になっている。

 それにしても、そんな小銭でご苦労な事だ。

 さっきも数字当てクイズに申し込んでおいたけど、毎回1等は目立つから3等にしておいた。

 数字の桁数の少ないのもいくつかやり、2等やら4等やらと小さく当たるようにしておいた。

 これも小銭と言えば小銭だが、兄貴のとは単位が違うよね。


 兄貴のは万単位、オレのは億単位だし。


 さて、表向きの金の稼ぎ元を設定しようと思う。

 さすがに数字当てで稼ぐのも良いが、あれは注目を浴びるとヤバい稼ぎ方。

 そう思って裏での商売を始めたが、これが実に調子が良い。

 先日の融資の件というのもそいつであり、追加融資になっただけだ。

 名前の漢字のアナグラムで始めた偽名での裏商売だが、最初の漢字から今ではコウと呼ばれている。


 本当は姉貴に名義を借りて始めようかと思ったが、姉貴は兄貴以上に金に汚い。

 名義使用料とか取られては敵わんので、一番嫌だけど一番後々の布石になる相手に頼む事にした。

 さて、どんな見返りを要求される事になるのやら。


 リアルでも18才から参加可能になった株式取引だが、VRの場合は年齢制限がもう少し下がり、12才から可能になっている。

 だけど未成年って事で親の承認が必要になるので、母親に小遣いの範囲でやるからと、何度か頼んでなんとか承認が得られたんだけど。


「ならさ、次のテストで平均50点取れたら承認してあげる」

「うぇぇぇ、そんなの無理だよ」

「しっかり勉強するのね」

「はぃぃぃ」


 平均50点か、しっかり計算して大きくオーバーしないように気を付けないと。

 しかし、普段は平均32~38点でやっているのに、いきなり50点とか承認する気も無いんだろう。

 やはり成績を出してきたか。

 こいつは何かの交換には必ず成績を持って来る。

 だからこそ普段から赤点ギリギリにしてあるんだけど、こういう時には役立つよな。

 殆ど解けるテストのうち、採点を考えて何とか平均52点を獲得し、母親も渋々承認になった。


 計画通りにな。


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