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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
2.放置の対策
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開始早々難産です(汗

 

「そんなにやりたいもんかねぇ」

「約束だよ、承認して」

「アタシは金を貸さないからね。小遣いが無くなったらもう終わり、いいね」

「うん、それでいいよ」

「後ね、次からのテストでも平均50点を下回ったら、それは禁止にするから」

「そんなぁぁ」


 夏休み直前のテストの結果、承認は貰えたものの夏休み明けのテストでも平均50点以上にしなくてはならなくなったか。

 毎回、調整の苦労は要るが、ひとまずクリアになって安心した。

 オレが何故、成績をギリギリにしているか、それには他にも意味がある。

 あの親と称する存在達は、階段を1つ昇ればそこが最低地点になるんだ。

 つまり、平均70にしたとすれば、そこが最低地点となり、68点でも取れば派手に叱られる事になる。

 それが平均80でも同じ事で、上げればそこが最低地点となるのだ。

 となれば表向き、赤点ギリギリにしておいて、何かの要望でギリギリ上げるという手法を使わざるを得ない。


 さて、ここまで聞いてオレが悪いと思った人もいるだろうけど、その要望が問題なのよ。

 実はオレ、幼稚園も保育園も通ってなくてさ、親に聞いたら金が無いの一点張りなのよ。

 まあ、実際、無かったんだろうな。

 兄貴も姉貴も有名私立幼稚舎とやらに入れる為にさ。

 そんな放置されたオレはさ、独学で学ぶしかなかったんだ。

 それでも何とか、意味は分からないものの、沢田と漢字で書けるまでになったんだ。

 んでさ、小学校入学前に名前を書けと親に言われたんだ。

 教えもせずによくそんな事が言えると思ったけど、必死で覚えた沢田を書いたんだ。

 そうしたらその時だけかな、ほんの少し、ほんの僅か、人生で唯一、ちょっと褒めてくれたんだ。


 でもその後がいけない。


 すっかり書けるのが当たり前になって、次々と書けと言って来るんだよ。

 独学で必死で何とか苗字だけは漢字で書けたのに、次は名前だ住所だ何だかんだと。

 そうして書けないと知るや、やれ出来そこないだの、ろくでなしだのと散々でさ、そりゃ兄貴や姉貴と比べられても困るよな。

 あっちは有名私立の幼稚舎で学んだんだろうから、書けて当たり前じゃないかよ。

 その時から少しずつ、親に対する考え方が変わっていったんだ。

 期待しなくなったのは親だけでなく、オレのほうもなのさ。


 それから実力を見せる事はなくなり、平々凡々な表の芝居になった。

 苗字を漢字で書いた時は、兄姉に続く才能とか言われてたけど、すぐにそう言う声もなくなり、叱られるままに母親もキッパリと割り切りったんだろう。

 それからはオレの事を眼中に入れなくなった。

 成績が赤点の時は叱るけど、ギリギリなら何も言われないと思い、それをキープするようになったんだ。

 え? 良い成績で見返してやればいい? そう思うなら君がやれば良いでしょ。

 教えられなくても自力で学んで親の期待に答える人生とか、そんな事はやりたくないんだよ。

 しかもそんな事を小学入学前の子に強いる親の期待? くだらない。


 まあ、そんな訳で今だけど。


 大学4年の兄貴には月額3万、姉貴には2万、オレには1500円の小遣いになっている。

 兄貴も姉貴も小遣いが足らないと、時々バイトなんかもやっているらしいが、それでもオレは足りないと言った事はない。

 どうせ言っても成績に結び付けるのは分かっているし、平均上げたらそこが最低点になるのも分かっていた。

 朝食をください⇒成績。昼食を⇒成績。夕食⇒成績。お風呂に⇒成績。洗濯が⇒成績。服が⇒成績。

 生活必需品を得るのに成績しか道が無く、だからオレは最低の生活をしてきた。

 上げたらそこが最低点になるんだし、将来の破綻は目に見えているだろ。

 100点以上に点が無い以上、100点が当たり前になったらどうやって要求を通せば良いんだよ。

 そもそも、そんな成績ありきの生活とか、オレはやりたくないんだよ。

 だからオレの食生活は、朝は食パン1枚と水、昼の給食が唯一の料理、夜はカップ麺1個。

 実際、公園で出会ったおっちゃんが居なかったら、今のオレは生きていないかもしれない。


 また話がずれたな。


 表向きの収入の話がなんでこうなったのかな。

 とにかく、表で稼いで税金の支払いまでやって、それがオレの収入と思わせる必要がある。

 だから何を置いても親の承認を得て、VR株式取引をやる必要があった。

 そして何かの要求で成績が出る前に、儲けたからと家に金を入れてみようかと思ったのだ。

 それで緩和するようなら、それを継続すれば良いだけの話だから。

 どのみち表の稼ぎはカモフラージュの為なので、全て貢いでも問題無い。

 しかしそれで金稼ぎの才覚と思ってくれて、商業系に向いていると思えば、今の普通科が合わない理由にもなる。

 大学に行くならそっち方面を勧めてくるだろうし、親父の商売の手伝いに発展するかも知れない。

 そうして少しでも待遇改善になってくれないと、このままではオレは親に失望する。

 いやもうしているんだけど、何とか少しでも改善して欲しいと、僅かに期待しているんだよ。

 そうしないと、将来の暗い閃きに対し、助けようって気が起きないからさ。


 夏休みに入り、いよいよゲームが一般公開された。

 兄貴も姉貴もそのゲームに病み付きになり、オレもやっていると答えている。

 だけどまだキャラメイクすらやってない。

 そんな事よりVR株式取引をやらないとな。

 1ヶ月で元手の300万が倍になるぐらいのしょぼい儲けだが、表向きの稼ぎ元にはちょうど良い。

 だけど、やっているうちにでかい儲けの取引も出て、これが意外と儲かりそうな閃きだ。


 本当に不思議な能力だけど、初めて褒められた後に叱られてから、オレは閃くようになってこれを活用している。

 ここで頑張ったらどうなるか、なんてのが何となく分かるようになったんだ。

 だからこそオレは表向き平凡を装うようになった。

 しかし、情けないよな。

 毎回、暗い閃きしか出なかったんだから。

 つまり、やっても無駄って閃きな。

 そんなのを得てまでやれるかよってな話だ。


 隣町の駄菓子屋にも世話になったが、今でも行けば当たり小僧って言われる。

 当たり付きの駄菓子で毎回のように当てていたからだ。

 つまりさ、馴染みのガキとつるんでさ、当てるから当たったら寄こせとオレが選び、金を使わずにアイスや駄菓子を食う作戦な。

 わざわざ隣町まで行ったのも閃きの恩恵。

 近所で評判になると拙いって閃きを得たからだけど、あちこちの駄菓子屋を巡っていたにも関わらず、すっかり有名になって行けなくなったのは残念だった。


 閃き……それは予知と言うべきか、予感と呼ぶべきか、その効果は広範囲に及ぶ。

 それはアイスの当たりから駄菓子の当たり、テストの回答から果てはナンバーズにまで及ぶ。

 そう、VR株式取引は表向きの事であり、実際の利益はナンバーズを経て裏の商売に至る。

 閃きのままに数字を記入し、でかい儲けを獲得する。

 その金は別口の口座に送られ、裏の仕事に使われる。

 閃きのままに選んだ弁護士の協力の元、その口座の金に対する税金の処理を任せてある。

 親に知られると盗られると言えば、子の才覚の横取りは許せんって言って、快く雇われてくれたのだ。


 だからその口座の額はともかく、資産はかなり増えた。


 ひたすら貯めないと将来に困るという閃きを得たが、そいつは恐らく兄貴か姉貴の金遣いの問題じゃないかと思っている。

 そんな訳もあり、裏の商売も何とか軌道に乗り、順調に利益が得られる今となっては、表の商売の必要性も出てきたと。

 あんまり連続も拙いと最近やってなかったナンバーズだが、どうやら繰越しになっているようで、ここいらで回収しようと思った。

 それと共に兄貴をまた嵌めてやろうと思ったのだ。

 何の事は無い、もしかすると将来の兄貴の破綻は、オレが作るのかも知れないよな、クククッ。


 ああ、閃き君、肯定しないで。


 やれやれ、参ったが、そう言う事ならそれなりに動くとしますか。

 そう思ってつらつらと見ていくと、何とも難易度の高いナンバースを見つけた。

 その桁数実に22桁で1等は1000億とか、実に派手だ。

 さすがにこれを当てると世界中で有名になりそうなナンバースだけど、フリメで兄貴にリークする事にした。

 その影なら通常のナンバースでいくら当たろうと、話題にも何にもならないと閃きは伝えている。

 その閃きのままに、発覚が一番悪そうなフリメを選び、世界中を経由して後に兄貴のメアドに送り込む。

 どうやら兄貴は全く信用しなかったようだが、欲が深いから10口買ったらしい。

 1口1万円って、賞金の割りに破格な購入資金だったのも理由だろうが、オレ元手の商売も順調だから、また気が太くなっているんだろうな。


 思ったとおりだ。


 仕込みは終わったので兄貴が話題になる直後のナンバースをつらつらと予知し、16桁、14桁、12桁、10桁の4つのナンバースの1等を1口ずつ購入。

 16桁は1口5万円、14桁が2万円、12桁が1万円、10桁が5000円になっている。

 1等は16桁がオーバーフロー中で50億+850億、14桁も同様で20億+440億、12桁も同様で15億+165億、10桁は通常の10億になっている。


 昔はもっとつつましい額だったらしいが、今ではこんな高額になっていて、掛け金の額も高くなっている。

 これは胴元が国であり、その国の財政破綻がどうのこうので、味をしめた結果らしい。

 オレが生まれた頃の好景気の頃に、巷の金を合法的に回収しようとそんな額の賞金に変化していったらしい。

 お陰でナンバース富豪が稀に出るようになり、今では10桁の1等ぐらいでは話題にもならなくなっている。

 それでもさすがに16桁を当てる者は出ず、開催してから今までずっとプールされたままになっているとか。

 そんなのを普通に当てると大騒ぎになるから、今まで見逃していた。

 オレが狙うのは話題にならない10桁のみで、だからこそ10桁にはオーバーフローは発生していない。


 そしてその収益は10億だったり5億になったりしている。

 まあそれは予測の横流しとでも言うべき、注目の分散策だけどな。

 全く知らない奴にリークするのも何だと、契約中の弁護士に流したのだ。

 1口限定でと頼み、彼が購入する時は賞金は半額になっている。

 彼も連続は目立つからと、たまに購入して当てている。

 そんな訳で彼への報酬はそれで有り余ると言われ、表面的な金の流れは無いのが実情だ。


 だが今回は違う。


 兄貴が買った以上、大々的にオーバーフローの回収を目論む。

 閃きが構わないと告げる以上、遠慮は無用と思うが故だ。

 8万5000の投資で1550億獲得しても、1000億の兄貴の話題の影に隠れられるとか最高だよな。

 もちろんあちこちのネットバンクの口座を活用し、4つのバンクでそれぞれ購入し、当選金は税金処理用の口座に送金される手筈だ。

 それぞれの口座には少しずつは残額を残してあり、今回もそれを使っての購入になる。

 例え金の流れを掴んだとしても、弁護士が管財人の口座に手が出せるなら出してみるといい。

 今時の個人情報保護法はかなりきついので、下手をすると記者生命は元より、雇用先の会社までヤバくなる。

 素人なら誤魔化せても、プロはそんなに甘くない。


 うっかりでもリークしようものなら、きつーい反撃が待っていると。


 個人がいくら大金を得ようと、芸能人でも無い限り公表の義務は無い。

 それを暴くのは単なる個人情報の暴露に該当するって判例が既にある。

 それを使えば大抵勝てるので、それを知る者には手を出さないのが業界の常識になっているとか。

 先人の功績は活用させてもらうって事で、オレの収益の情報は闇に葬らせてもらう予定になっている。

 どのみち表で派手に金を使えばそこから発覚するだろうが、オレは表に出さない。

 自らバラすような事はやらないので、あの金はそのまま裏の商売に流れている。


 確かに最初は将来の為の保険だった。


 兄や姉の将来に対する閃きが、深淵しんえんの中を覗くように悪かったのがその発端だった。

 もっとも、その発端がオレの仕掛けにあるようなので、これは自業自得になるのかな。

 たかが100万の仕返しにしては事が大き過ぎると思うだろうが、これは今まで全ての事に対する、一括での仕返しのようなものであり、対象の破綻を誘発させる罠のような仕掛けなのだ。

 精々大金取得で気が太くなり、湯水のように使った挙句に金遣いが破滅的になり、使い切っても足りなくなって金を借り、自己破産もやれないヤミキンに手を出して進退窮まって行方不明にでもなればいい。


 なんかさ、オレってその手の倫理観って言うか、情ってのが分からないんだ。


 よく家族の情とか言うけど、今のオレは未成年だから親の庇護が得られていると、普通なら思うよな。

 実際、兄貴が高校生の時の小遣いは、月額2万円だったはずだ。

 姉は15000円だったはずで、オレが1500円ってのと比べて余りにも違う。

 確かに兄も姉も成績優秀で、母親勤務の会社の内定も受け、前途有望かも知れないけどさ、クラスの奴らも平均5000円ぐらい貰っていると聞けば、冷遇されているってのは嫌でも分かる。

 しかもだよ、その1500円の中に、昼食代も含まれているんだ。


 酷いだろ。


 いくら土日が休みで月に20日の学校と言っても、1日75円で何を食えと言うんだ。

 昼は抜けと言われているのも同然で、実際、学校近くのスーパーでパンの耳を仕入れ、後は水で済ませている。

 表向きはそうして過ごし、裏では生命維持はやっているけどな。

 あんな親にオレの資産が知られたら、確実に盗られるのは分かっている。

 だから表向きは月額1500円で質素に過ごしているように見せているのだ。


 そんなオレに部活は本来無理なんだけど、オレの内職で部費を出している。

 そいつは表向き、親戚の例の彼……口座譲渡の彼との契約の元、彼が出しているって事にして、月額5000円の部費と同額の協力金合わせて1万円の自動振込みを以って成り立っている。

 それが一番ましな親戚と言うんだから、本当にこの世に情なんてものが存在するのか、オレは今になっても分からないままだ。

 

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