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導き

どれくらい眠っていたのだろうか、全身が重りをつけているようにだるかった。琥珀はなんとか立ち上がった、目に入ってきた景色はいつもの教室ではなかった。琥珀が踏みしめている地面は、ぼんやりと光る白い地面で、その地面は地平線の果てまで続いていた。空と思われるところは、何の輪郭も感じられない深い闇に包まれていた。

「ようこそ、世界の隙間へ」

後方から声がして振り返ると、そこにはいつの間にか、一人の女性が立っていた。女性はスラリとしたモデルのような体形で、落ち着いた紫色のローブを身にまとっていた。女性は琥珀に向かって歩き始めた、一歩一歩踏み出すたびに腰まで伸びた金色の髪が揺れた。琥珀は警戒して後ずさりをした、

「あら、別に殺そうとしているわけじゃないのよ」

「すぐに信じられるか?」

睨みつけながら強い口調で言い放った、女性は薄く笑うと静かに言った。


「私たちの世界を、救って欲しいの」

直球だった、遠まわしにも騙そうともしないで、純粋で真っ直ぐな願いだった。琥珀は戸惑い、言葉を返せなかった。

「聞いていいか」

やっと出た言葉は返答ではなく、質問であった。

「なぜ、俺なんだ」

女性はしばらく考えるしぐさをすると、口を開いた。

「私が選んだから」

落胆なのか有頂天なのか理解できない感情が体の中で渦巻いていた。そんな琥珀を見て女性はいたずらな笑みをした、

「自己紹介がまだだったわね、私はあなたを呼び出したエリスよ。気軽に呼んでね」

「聞いてねぇよ」

そういわれたエリスは何か思いついたようで、いきなり指を鳴らすと、光る地面から一体の鎧が現れた。鎧は西洋によく見られるような鎧で、頭から足のつま先までの全身鎧だった。もしこの鎧を人間が着たならば、大変動きにくくて転んだら自力で立つのが難しいと思えた。

「これが、私たちの世界を脅かす脅威」

「脅威って、ただの鎧じゃないか」

エリスはひとつ咳払いをすると、説明を始めた。

「こいつらは急に現れ、世界を壊し始めた。こいつは一番多く見られるタイプで、他にも動物や化物の形があるの。これ私たちは総称して【ノーネーム】と呼ぶわ」

説明を終えると、エリスは再び指を鳴らした。すると琥珀の目の前に一振りの剣が現れた。

「もう一度だけ聞く。私たちを助けて」

琥珀は不意に一歩、後ろに下がった。その時、足に何かが当たった。足元を見ると、それは読みかけの本だった。琥珀は拾い上げ、ぺらぺらとめくった。まだ、読んでいない本がある。琥珀は本を閉じ、本と剣を交互に見た。

今、自分は今までの日常を持っている、平和な世の中の温かな日なたで、本を読んでいる自分を持っている。しかし、目の前の剣を取ればそれらは一変する。もしかしたら、死と隣り合わせの道を歩み、後悔するときが来るかもしれない。


もう、見知った顔や家族には会えないかもしれない。正直、怖いんだ。この身に世界なんて、重すぎる。

本の中の主人公なら、すぐに剣を取って世界を救うのだろう。それには理由があるからだ、大切な人を守るためとか、復讐をするためとか。

「お、俺には・・・」

そんな理由、ない。きっと敵を目の前にしたら、足が震え、剣を持つ力さえなくなる。


・・・。


それでも、琥珀は剣を手に取った。絶対に放さないように、痛いぐらい握り締めた。

「これを取った先に、何があるのだろう。俺は、知りたいんだ」

だからこそ、琥珀は本を捨てた。自分の世界を、捨てた。


「・・・いいのね」

エリスはやさしい笑顔になったかと思うと、厳しい顔つきに変わった。今度は両手を強くたたき合わせた、すると突然、鎧が動き始めた。

「剣を前へ!」

何も感じなかった鎧からは、殺気があふれ出し、琥珀を標的に見据えていた。

「おい!急にこんなのって!」

鎧が琥珀目掛けて走り出した、見た目からは考え辛いほど俊敏な動きで、あっという間に距離を詰められた。鎧は右拳を固め、大きく振り上げた。琥珀は紙一重でかわし、腹部を切りつけた。しかし剣は鎧に弾かれ、琥珀は鎧に蹴り上げられた。腹に衝撃を受けた琥珀は一瞬息が出来なくなり、その場に膝をついた。

「そんなのでは駄目、一撃で相手をしとめるの」

琥珀はもう一度剣を握り、立ち上がった。鎧は間髪を容れずに打撃を繰り出した、一度は避けたものの、二発目を顔面に受けた。琥珀は倒れこんだ、顔には焼けるような痛みが走り、口の中には鉄の味が広がった。

「・・・かっこ悪」

琥珀はこれまで、殴り合いの喧嘩というものをしたことがなかった。たびたび、人気のないところで弱そうな人が複数人から暴行されているところをみたが、琥珀は無視し続けた。痛みが怖かったから。

鎧を見ると、あの時暴行を加えていた人と同じように、何にもためらいなく止めをさそうとしてきた。剣を手に取った時と比べると、自分が情けなくなってきた。

「もう、捨てたんだ!」

琥珀は踏みつけようとしてきた鎧の右足を受け止めると、立ち上がると同時に押し返した。鎧は一瞬態勢を崩したが、すぐに構えて拳を振りかぶってきた。

「こんなところで!」

琥珀は拳を交わすと同時に、思い切り剣を振り上げた。何かを切った感触の後、近くで鎧の右腕が光る地面にたたきつけられた。鎧は残った左腕で琥珀を殴りつけたが、左腕は琥珀を捕らえず、空を振った。琥珀は鎧の頭部に剣を突き刺し、そのまま光る地面に突き立てた。鎧はしばらく足掻いたが、深く突き刺さった剣に為す術なく、動かなくなった。

「おめでとう、合格よ。覚えなさい、戦えば確実にあなたは強くなる」

エリスが歩み寄ってきて、琥珀の額に手を当てると、琥珀の意識は途切れた。

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