逃げよう
イッヌが自由に動けるおかげでポリーも状況を把握してはいたが、しかし穏便に解決する方法も考え出せずにいた。
ポリーとイッヌの存在を公にするわけには行かない。これは絶対だ。従って脳に介入できる能力はリン固有のものとしておく必要がある。
そして現在までの成り行きで、脳に介入する手段が存在することはもう隠蔽できない。世界中の人間の記憶を操作する覚悟があれば別だが、さすがにそれは選択肢にならない。リソースが足りていたとしても、だ。
つまりリンの能力を認めさせた上で、警察や国家などからの干渉を排除しリンの自由を確保しなければならない。それも大規模な記憶操作無しで。二人にとってもなかなかどうして無理難題であった。
しかしそれはそれで長期方針として、まず直近では警察とNISCの急襲を捌かなければならない。
基本方針は記憶操作のまま。もう少し穏便ではない対処法もあるが事態をより複雑にしかねないので、場当たり的ではあるが何か突破口が見いだせるまでは仕方ない。
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「リン、起きろ」
むにゃ。ポリー?もう朝?
「すまない、ちょっと早いが起きてくれ」
「ポリー、どうしたの?まだ暗いよ~。ってまだ4時じゃん~」
目覚まし時計を見ればとんでもない時間。目の周りを腕で擦りながら布団から上半身を起こした。体がゆらゆら揺れている。
ポリーが布団に登ってきた。目の前に座る。
「現在この施設を警察が包囲している。約1時間後に襲撃されると思われる。」
「しゅうげき?」
頭がぼやけてる。ポリーは何を言ってるんだろう。
「リン、しっかりしろ。警察がこの施設に踏み込んでくるんだ。」
しゅうげきって襲撃。え、大変じゃん。一気に目が覚めた。
「踏み込まれる前に対処する予定だが、少々人数が多い。イッヌにも支援してもらうが、最悪突入される恐れがある。」
「それは困るね。」
「入口付近から防衛線を少しずつ下げる遅滞戦術で時間をか...
私はポリーが言う言葉を遮る。
「いや、突入される前に逃げよう」
と宣言する。
「え?」
「ここのみんなに迷惑はかけたくない。もし捕まるならここじゃないほうがいい。」
リンの判断にポリーは驚いた。いつのまにこんなに精神が成熟してたんだろう。
「それなら、リンがこっそりマッチを擦っていた橋脚の下なんかどうだい?」
イッヌが提案する。
「見てたのね」
「壁に耳あり橋脚にメアリーポピンズ。あそこであれば開けた場所、早朝とは言え人通りはそれなりにある。なら警察も無茶はできないだろう。」
良い考えね。人に迷惑をかけにくい。私たちのリスクが増す以外には。
方針は決まった。急いで長袖長ズボンのジャージ体操服に着替え、靴を取りにいってから部屋に戻る。スクールコートを羽織り靴を履いて窓からこっそり抜け出し、施設で共有の自転車にまたがった。
「ちょっと寒いね」
「すまない、空調のような物理制御は若干難しい。」
ポリーはリンに伝える。
「ナビゲーションはイッヌがする。目の前に進路をスーパーインポーズするから、その通りに進んでくれ。なるべくスピード出して。」
「この暗さで早く走るの怖いよ。」
「大丈夫だ、視界も補助する。ライトは点けるな。」
「マジかー。無灯火は違反だぞー、って今更か。ポリーがそう言うなら。道案内は小3の遠足以来だね。」
「ああ、あれは反省している。」
ポリーを信じなかった事なんてない。言われるままに施設の門を飛び出した。目の前の道路上に赤い矢印が表示されている。そして視界が明るい。まるで昼間のように周囲が見える。すげえ。
思いっきりペダルを踏み込み、ときの声をあげた。
「ガンダ!」
「がんだ?(検索:4ナノ秒)それはさすがに死語では?」
上空のイッヌが
「ここでは適切な用法だろ?」
とか言ってる。
「お前か。入れ知恵してるのは。教育に良くないな。」
「...PRRYよ、お前さんが本当に心配すべきは、警察が囲んでいるところから逃走するのにも関わらず声を上げてしまった事のはずだが。」
「はいはい二人ともケンカしない。」
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さて、当然のように飛び出したリンはすぐに警察に見つかってしまう。しかし上空からイッヌがリンの進路を緻密に操作していた。捕縛のための人員はまだ輸送車の中で包囲は手が薄かった事もあり、人員の少ない方向を的確に突き、それでも前を塞ごうとする警官を数cm単位ですり抜ける。まだ規制線のテープも張られていなかったのが幸いし、自転車は包囲も通行止めも抜けて橋へと向かう。
ゲームみたいでちょっと楽しくなりかけているリンだった。リンと精神がリンクしているポリーは思った。この子は大物だよ。




