ごめん
その頃。私はそんな事態が進行してるなんて知る由も無かったけども。
私の目の前で、ポリーがうなだれていた。
「リン、すまない。私は間違えたようだ。」
私は珍しい姿のポリーを見て、ぱん、と手を叩く。
「あ、やっぱり昨夜のゲームはズルだったのね!どうりで負け続けた訳よ。おかしいと思ったわ。」
「そうではない」
「じゃあ今朝ポリーが起こしてくれなくて寝坊して朝ごはんを食べ損ねた事?午前の授業中、ずっとお腹が鳴りそうで気が気じゃなかったわ。そうよね、大きな間違いよね。」
「そうではない」
「夕べ宿題を手伝ってくれなかったお陰で先生に怒られた事?」
「そう、では、ない」
ポリーはリンの将来が少し心配になってきた。未来を見る事ができないのがちょっともどかしい。
「じゃあ何なの?」
ポリーはうなだれていた首を少しあげてこっちを見た。
「以前、燈子のマッチで昔の記憶を見せただろう?」
「うん、職員さんに持ってかれちゃったけど」
「あれが施設から流出していた。私の不注意だ。」
ポリーは考える。今の姿のポリーは全能ではないものの、現人類を遥かに超越した思考能力を持っている。が、それでもINNRなどに言わせれば銀河で一番の迂闊者なんだそうだ。どうやらそれは本当らしい。またポリーは首を落とす。
「ふーん。でも映像が出るだけでしょ?別に普段ネットワークで見られる動画とかと同じなんじゃないの?」
「そう、その通り。私もこの時代レベルなら問題ないと思っていた。だが...」
「だが?」
今度はこっちが首をかしげる。
「記憶売買の業者がいて、そこに目をつけられた。実は数日前にリンはそいつらに拉致されそうになっていた。」
「らちって?」
「誘拐だ。」
「おおう。マジか。」
リンちゃんびっくり。そんなの娯楽動画の中だけだと思ってた。
「マジだ。緊急だったので犯人全員の記憶操作をして逃れた」
「なるほどわからん」
「その時は、リンの神経系を操作して一時的な速度上昇により逃れさせるよりは騒ぎになりにくいと思ったのだ。しかし実際はその判断のせいで記憶操作がバレてしまった。リンが神業で逃げ出した、と思われたほうが証拠が残らないだけまだマシだったのだが。」
神経を操作?
「なんか怖い事言ってない?」
ポリーは私の言う事を無視して続ける。
「警察に通報され、さきほど警察官が施設に来た。また記憶操作して追い返すしか無かった。すまない。今後収拾を付けるには警察だけでなく既に周知されているであろう国の機関の操作も必要だ。しかしそこまでしてしまうと、更に国外にも影響が出かねずキリがない。」
「なんかもっと怖い事言ってない?」
「私の判断は信頼できないと認めざるを得ない。更にリンには色々な事を知っておいてもらうほうが今後は安全だとも考える。そこで事態の補助に助っ人を呼んだ。INNR-iN7!nC5wGwtXq%GunDPoqwTmYだ。」
言葉の後ろのほうは良く聞き取れなかったけど、ポリーの横に同じくらいの大きさの柴犬のぬいぐるみが現れた。可愛いが、顔つきが若干悪役寄りかも。
「INNR-iN7!nC5wGwtXq%GunDPoqwTmYだリン初めまして。そうだな、私の事はイッヌとでも呼んでくれ」
私の目は丸くなりっぱなしだ。
「犬でイッヌ!ひねりなしかよ!」
ポリーが紹介する。
「イッヌは時空間の専門家だ。もういろいろ隠しても無駄だと判断したので呼んだ。」
私は丸い目のままでつぶやく。
「私のイマジナリーフレンドにしては頭良すぎると思ってたんだよ...二人は宇宙人?」
「宇宙に住んでいたという意味では宇宙人だが、元々は人類だ、未来の。この時代へは色々調査のために来ている。」
うちゅうじん!みらいじん!
「すごいネタバレキタ...ようやく話してくれたね、ポリー。嬉しいよ、って状況は全然嬉しくないけど。」
「今まで誤魔化していてすまない、極力歴史には干渉したくなかったのは判ってほしい。秘密にするのはリンのためでもあった。」
「タイムパラドックスって奴だね。知ってるよ、こないだネットで映画見たもん。でも、前にも聞いたけど、何故に私?たまにポリーが言ってた『あのまりー』ってヤツ?」
長年の疑問が解決した。我ながら理解が早い。そしていつもの質問もしてみる。
「それはまだ勘弁してくれ。リンのためだ。」
うーん。
「またそれかあ」
ポリーは意図的にそれを無視して続ける。
「そして私は基本的にリンから離れられない。そこでイッヌには周辺警戒と作戦立案と遊撃を担当してもらう」
「物騒だなあ。戦争かな?」
ポリーが答える代わりにイッヌが小さいふさふさの胸を張って尻尾を左右にブンブン振った。犬の目がギラリ、と光ったように見えた。
「おまかせあれ」
ポリーは半眼でイッヌを見やった。
...そういうのどこで憶えるんだ、INNRよ。




