秘密会議
メモリアコーポレーション、最上階の重役専用会議室には、CEOの森に加えて役員の中でもグレー/ブラックな案件に関わる者たちが集合していた。
リンのマッチの噂は、メモリアのクローラーもキャッチしてAlertを上げていた。一般部署のクロール担当AIはありがちな与太話として無視していたが、CEO室専用AIはこれがブレインハックである可能性があるとして、秘匿事項として重役連に報告していた。
メモリアの暗部、それはインプラントにしかけてあるバックドアだ。インプラントの定期検査時にはメモリア製の機器と物理接続が必要で、その時に記憶データをこっそり抜き出せるようになっている。それは世界でも最優秀なメモリアのAIによって幾重にも偽装されたもので、露見する恐れはまったくないと森は考えている。
メモリアはこのバックドアを通じて市民の記憶にアクセスできた。抽出した記憶のうち印象的なものを再構成してパッケージ化し、試験的に市の要人に提供する。これは一種のハニートラップとして機能し、提供を受けた側が気づいた時にはもう公にできなくなっていて、もうメモリアの言いなりだった。
現在はS市での実験段階で、いずれ国の機関にも広げるのが森の野望である。
「このマッチとやらが我々の脅威になり得ると報告があったが、詳しく説明してくれんかね室戸君?」
CEO・森は技術担当役員に尋ねた。
「はい。もしこのマッチが見せているという映像がオカルト話ではない場合、バックドアを利用されている可能性があります。」
「偽装が破られているという事か?本当なら大ごとだぞ?」
セキュリティ担当役員の田中が声をあげた。バックドアの存在が外部に漏れたらメモリアの存続自体が危うい。刑事責任は技術部署が勝手にやった事にしてなすりつける算断になっているから役員が刑務所に収監される恐れはほぼ無いが。
「単なる動画データの送信ではないのか?」
「我々も最初はそう思いました。しかし画像を見たとされる人物周辺の通信ログを精査しても、該当するものが存在しなかったのです。」
つまり非公式な経路で送受信されているという事だ。
実際は脳に直接干渉するような馬の謎技術なので、AIや役員の意見は見当外れなのだが、現象はいっしょ。
「このマッチ自体に何らかの仕掛けがあるという事になるのか?薬品か?これの出どころは掴めているか?」
田中は資料をぱらぱらめくる。
「はい、市役所の税務データから最初の売り主は特定できています。市内の児童養護施設で保護されているHという高校生でした。親による虐待被害者で5年ほど前から施設で保護されています。」
「高校生?それはさすがにインプラントのハッキングなんて無理じゃないか?」
「はい恐らく。調査した彼の来歴ではコンピューターサイエンスの学習歴は全くありませんし、学力的にも平均をかなり下回ります。」
森は首をかしげる。
「つまりそいつは犯人ではなく、マッチを渡した別の誰かがいるという事だな?よし、その高校生を確保して入手先を聞き出せ。」
県警に知られる前に対処しなければならない。急がなくては。




