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VORTEX (ヴォルテックス)  作者: 九川 滉
第1章 導入

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1-01-04 変化の兆し


寄波32年10月1日 午前8時



朝食の後、リュウは3人分の食器を洗って、2階の自室に戻ってきた。


コウとルリは職場に向かうため、先に家を出ている。

修学棟に所属する学生達の始業時刻はずらされているので、朝の皿洗いはリュウの担当となっていた。



コウはたまに「俺達は家族だ」と口にしてしまう。

リュウも「家族」や「夫婦」という言葉は知っているが、寄波ではそれらを規定する制度はない。


寄波の住民管理システムは個人に重きを置いていて、個人同士の繋がりは重要視されていない。

住民情報として記録されているのは、かなり大まかに言えば、誰が親かということと、どこに住んでいるかだけ。


コウやルリの情報には、リュウが子であることは含まれていない。

また、コウの情報からルリの存在は読み取れず、逆もまた然り。


リュウの情報を見ても、コウとルリが夫婦であるとは書かれていない。

移住する前に夫婦になったから、今も夫婦と自称しているに過ぎない。


公的には、リュウ達はたまたま同じ家に住んでいるだけの集団として扱われてしまう。



個人同士の関係性が意味を持たないのだから、親が子を育てる義務はなく、子が親と暮らす権利もない。

そのため、同じ家で生活しようとするなら、全員の同意がなければ成り立たない。


本人が望んだかどうかは別として、親から離れて一人で暮らす子がいることをリュウは知っている。

それもあって、家族とはどういうものなのか、よくわかっていないのが実情だ。


一緒に住むのだから、助け合う。

リュウ達3人が同居を続けられているのは、同じ方針を全員で共有できたからだ。


助け合いの具体的な形の1つとして、家事を分担しているのだった。







部屋で少しゆっくりしてから、家を出る準備を始める。

まずはクローゼットから制服を順に取り、着替えていく。

学生の制服は白いシャツと、灰色を基調としたズボンとジャケットからなる。

ズボンとジャケットには藍色のワンポイントがあり、これが寄波を表す色となっている。


リュウが使う鞄は、持ち手が長く、四角いタイプ。

そこに荷物を入れていく。と言っても、持っていく物は2つだけ。


1つは、折り畳み式で2画面のタブレット端末。

修学棟の教材データが全て入っており、授業中のメモもここに書くので”ノート”と呼ばれる。


もう1つは、朝にアラームとしても使っていた手の平サイズの携帯端末。

こちらは”カード”と呼ばれる。


カードは寄波の全住民に配付されており、住民であることを証明するものでもある。

そのため、常に携帯する義務がある。


何かを購入する際の支払いや、特定の相手との通話・通信の機能があり、さらには家の鍵の開け閉めにも使うので、これをなくすと寄波での生活はほぼできなくなってしまう。


だからこそ、確実に持っていくために最後に手に取る――

「ん?」

掴もうとしたカードの上に、指輪が乗っていた。


「……何だこれ?」

指輪をつまみ上げ、色々な角度から眺めてみたが、全く見覚えがない。


指輪は幅が1cm近くあり、装飾は無色透明の丸い石が付いているだけ。

リュウはアクセサリーには詳しくないが、シンプルな部類のデザインだと思われる。


それが何故、リュウのベッド(そば)、わざわざカードの上に置かれているのか。

少なくとも、起きたときにはなかったものだ。



「……良い事って、これなのか?」

先ほどの父の台詞が脳裏に浮かんだ。

状況には目をつぶり、物だけを見れば、綺麗な指輪だと思う。


リュウが気付かないうちに、彼がここに置いた?

もしくは置かれることを知っていた?

それとも、彼は関係なく単なる偶然?


気にはなるが、それを考えている余裕はあまりない。

出発のタイムリミットが近づいているのだ。


帰ってから両親に聞いてみればいい。

そう考えて、指輪は鞄の適当なポケットに放り込む。


カードを掴んで、部屋を出た。







家からほんの少し歩くと、広い交差点に出る。

左に曲がり、まっすぐ13分ほど歩けば、修学棟に行くことができる。

しかし、リュウはそこで立ち止まる。徒歩ではなく、バスを使うからだ。


「……」

目的地と逆方向、つまり右側を見る。

こちらは200m先で壁に突き当たる。

そして、それはただの突き当たりではない。


寄波は海上に浮かぶ、半径2kmの正円形の都市。

中心部に修学棟などの主要な施設が集まっており、外周部は高さ10mの壁で完全に囲まれている。

この壁は藍色の金属製。外の波を防いでいることから、通称は”防波堤”。



すなわち、この突き当たりは寄波の端も端。

リュウが住むのは寄波で最も外側にある家だった。


住居となる建物は主要施設よりも外側に同心円状に広がっている。

当然、中心に近い方が人気ではあった。

それでも人口の割に都市の面積が広いので、余っている建物は十分にある。

人混みを避けるにしても、こんな外側まで来る必要はない。


だと言うのに、コウとルリはここに住むことを選んだ。

「開放感があっていい」という理由らしい。それが本心かどうかは知らないが。


おかげで、周囲にあるのは無人の建物ばかり。

今ここでバスを待っているのもリュウ一人だけ。



そんなことを考えている間にバスが走ってきて、リュウの前で止まった。

車体前方にあるドアから乗り込む。

座席は車体の左右に、向かい合うように取り付けられている。

定員は6人だが、まだ誰も座っていない。最も外側なのだから当然。


ちなみに、バスは寄波のシステムによって走行しているため、本当にリュウしか乗っていない。

ドアの向かいの席に腰を下ろし、発車を待った。







バスに乗って数分。未だに乗客はリュウのみ。

ほとんどの学生は中心部から1kmも離れないから、徒歩で事足りるのだ。

今も、数人が歩いているのが窓から見える。

リュウだって、理由がなければ歩いて通っているだろう。


到着まで残り半分、というところでバスが止まった。

ドアが開いて、わざわざバスを使う”理由”が現れた。


リュウは立ち上がり、ドアに近づいて声をかける。

「おはよう、ユイ」


そこに立っているのは、灰色の制服を着た小柄な少女。

名は(ツムギ)(ユイ)

修学棟に所属する前に知り合った、リュウの幼馴染とも言える存在だった。


「……おはよう」

少し間が空いてから、か細い声でユイが応えた。





今週の投稿は世界観の説明が多くなってしまいました。

次回から、キャラクターが増えてくる予定です。

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