1-01-02 寄波の住人
リュウの親を含め、その世代の人達は元々、日本という国に住んでいたらしい。
十数年前、何らかの理由によって日本を出ることになり、当時はほぼ無人の都市だった寄波に来たのだという。
このとき移住したのが600人前後。
――というのが、彼らの歴史としてリュウが知っている事実の全てだ。
事実というには内容があいまいだが、これはリュウが不勉強というわけではない。
彼の同級生に聞いても同じように答えるだろう。
リュウは寄波で最初に生まれた子供達の一人。
最初と言っても、同じ日に生まれたのではない。1年弱の幅がある。
つまり正確には、寄波の教育施設である修学棟に入学した最初の学年ということになる。
その修学棟のカリキュラムには、寄波の成り立ちや寄波の外のことは含まれていないのだ。
ちなみに、移住についての話は社会科の単元の1つだったのだが、1週間の2コマで終わるくらいの内容しかなかった。
教師達も移住してきた当事者のはずなのだが、寄波に来るまでのことはあまり語りたがらない。
授業を担当していた教師も同様だったが、説明の合間合間にこぼれる言葉は「日本の端の端」「あそこは日本ではない」等々。
元々住んでいた場所をあまり良く思っていないのは伝わったので、クラスでは誰も深く追及したりはしなかった。
親世代は皆似たような雰囲気だったので、寄波生まれの学生達は日本について知ろうとはしなくなった。
過去を気にするより、未来に目を向けようという空気になっている。
過去のことは気にしないのが寄波の文化となりつつあるが、彼らのルーツが日本にあることは事実。
彼らが使う言語は日本語であり、これを「寄波語」とは呼ばない。
また、外見も日本人と大差ないらしく、自身を「寄波人」とは言わない。
ただし、こちらは言語とは違い、間違っても「日本人」とは言わないのが移住する前からの習慣らしい。
そのため、もし訊かれたら「寄波に住む人間」と答えるのが住人達の共通認識となっている。
外との交流はないので、そう答えるような状況にはならないのだが。
そんな日本というのがどのようなところなのか、と思わなくもないが、リュウは寄波の外に出たいと考えたことはなかった。
心理的にも、物理的にも。
リュウは寄波での生活に満足しているのだ。
さて、リュウは鏡の前で長々と寄波住人について振り返ってきたが、今必要な情報はたった1つ。
彼らの外見は日本人とさして変わらない。
つまり、その髪色は基本的に黒。茶色みが強いくらいならあるかもしれない。
しかし、生まれつき髪が紅いことはない。
そう言っても、反例が目の前に映ってしまっている。
リュウはこの髪に不満があるわけではない。
昔、教室の前の方に座っていたときに「気が散る」「後ろに行け」と文句を言われたことはあるが、彼自身も正当な言い分だと思ったので、特に気にしていない。
なお、今ではどの教室でも一番後ろが彼の指定席となっている。
特に実害はないのだから、考えても仕方がない。
いつもと同じ結論に達したところで、リュウは家族のいるリビングへと向かった。
親世代が住んでいたのは架空の町です。
現実の日本との関係はありません。




