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AIRPORT 4 : 東京航空交通管制部  作者: Sully Hughes and Jeff Wright
Chapter 6

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23/26

5

日が沈み、夜が訪れる頃、東京コントロールの空気は張り詰めていた。外では吹雪が東日本全域を覆い、北日本の空港では遅延や欠航が相次いでいた。無線から流れる各地の報告が、重苦しいリズムで空気を震わせる。


午後9時過ぎ。一機のフライト情報が赤く点滅した。


「緊急です!ニューヨーク発、成田行きユナイテッド航空1513便が降下中に計器異常発生。オートパイロットが使えない状況です。」


中山の報告に一瞬、管制室の空気が凍りつく。B777――大型機だ。満席であれば300人を超える乗客が乗っている。


北村が息を呑みながら画面を見つめた。


「この便、新セクターのエリアを飛行してます。」


松本がすぐに端末に手を伸ばし、表示を切り替える。


「今システムの負荷を確認してますが、通信遅延も発生しています。」


北村の指先が震えた。


「片山さん、セクター内のデータ更新が遅れています。トラッキングに数秒のズレがあります。」


片山は一瞬もためらわず指示を飛ばした。


「伊東、周辺の航空機との位置関係を確認。干渉がないか即座に報告してくれ。」


「了解。」


伊東の声は低く鋭い。モニターを操作しながら、眉間に皺を寄せた。


「周囲に3機。うち1機が同高度で南西から接近中。衝突リスクは低いですが、進入経路が近いです。」


「中山、すぐにその機体へ進路修正を指示。」


「了解!」


中山の声が管制室に響き、無線のノイズにかき消されていく。


そのとき、UN1513便から通信が入った。途切れがちな雑音の奥に、焦燥を押し殺したパイロットの声が聞こえた。


「東京コントロール、こちらUN1513……計器にエラー。オートパイロットが機能しません。恐らく凍結の影響だと思われます。すべて手動で飛行してますが、雪影響で視界はゼロに近い。」


片山がヘッドセットを装着し、即座に応答した。


「UN1513、こちら東京コントロール。了解。現在、機体はセクターB-7を通過中。ILSアプローチの設定を確認しています。高度1万フィートを維持、姿勢を安定させてください。」


「了解……手動でトリムを調整中。操縦桿が重い。」


モニターの航空機シンボルが微妙に揺れた。風に流されている。


松本が声を上げた。


「データ遅延が進行中です。負荷分散の切り替えを行います!」


「お願いします。」


片山は短く言い、北村に目を向けた。


「恵理、成田側のILS状態を確認しろ。」


北村は即座に応えた。


「成田タワーより、ILSは稼働中。ただし横風が24ノット。ギリギリの条件です。」


梶原が片山の横で低く告げた。


「片山さん、成田の誘導担当がスタンバイしています。最終進入はパイロットの判断に委ねる形です。」


片山は頷いた。


「分かった。全員、集中を切らすな。」


その間にも、UN1513便の呼吸音混じりの通信が続いた。


「視界ゼロ……姿勢保持困難。警報が鳴り続けています。」


片山は落ち着いた声で応えた。


「UN1513、あなたは正しい航路上にいます。そのまま降下角を維持。風の乱れを感じたら即報告してください。すぐに補正をかけます。」


「……了解。」


北村が息を詰めるように呟いた。


「オートパイロットなしでこの風速……」


松本が画面を見ながら応えた。


「負荷分散完了。データ更新が安定しました。」


片山が即座に通信を送る。


「UN1513、こちら東京コントロール。通信およびデータリンクは正常化。成田アプローチへ移行を許可します。健闘を祈ります。」


一瞬の沈黙ののち、ノイズの向こうから声が返った。


「東京コントロール……ありがとう。こちらも最善を尽くします。」


最後の通信。その言葉を最後に、無線が静まり返った。ヘッドセット越しに聞こえるのは、風切り音と電子音の残響だけ。


モニターには、UN1513の小さな点がゆっくりと滑走路へ向かっていく。高度計の数字が減るたび、北村の喉が鳴った。成田の気象データが刻一刻と変わる。風速26ノット。突風が入り、機影が一瞬ぶれる。


「……流された?」


北村が呟く。


「落ち着け。」


片山が短く返す。

祈るようにモニターを見つめた。


管制室にアラームが鳴る。ILSの補正値が一瞬乱れた。


だが、再び安定。


そして、モニターからUN1513のアイコンが消失した。


秒針の音すら聞こえそうな沈黙。誰もが呼吸を止める。


――そして数十秒後。


梶原が声を張った。


「成田から報告!ユナイテッド1513便、着陸成功です!」


その瞬間、抑えていた息が一斉に解き放たれるように、管制室に安堵の波が広がった。片山は深く息を吐き、モニターを見つめながら静かに言った。


「よくやった……。」


北村が目を潤ませながら呟く。


「……本当に、よかった。」


高橋が片山の背後に立ち、穏やかに言葉をかけた。


「冷静な判断だった、片山。あの状況でよく持たせたな。」


片山は首を横に振った。


「全員の動きが完璧でした。誰か一人でも遅れたら危なかった。」


安堵の空気が一瞬広がる。だが片山はすぐに顔を上げ、全員に声をかけた。


「だがまだこれからだ。次の便が待ってる。気を抜くな。」


「はい!」


全員が力強く応えた。


モニターの光が再び反射し、キーボードを叩く音が戻る。外は依然として吹雪。東京の夜の中で、彼らの戦いは続いていた。


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