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サンダリア隊

「という訳なんだけど、ミハイルはどう思う?」


「ダイタイ ワカッタ」


 ミハイルは本当に疲れていたのだろう。朝日が出るまでずっと眠り続けていた。起きてすぐにこんな話をされても困るとは思うが、仕方がない諦めてもらおう。


「僕はもうちょっと作戦を詰める必要があるとは思うけど、やってみる価値はあると思う」

「ハラショー」


 ミハイルは了承の意を短く答えた。


「ハヤトニ マカセル」


 幾ら何でもそれは不味くないか?少なからずリスクはあるし、むしろ御膳たてをしてくれたミハイルの意見を尊重すべきだと思うのだが、


「ミハイル コトバ ムズカシイ マダ。ハヤト ジョウズ」


 言葉が難しくても、考えるくらいいいじゃないか。と思うが黙っておいた。それよりも話を進める方が重要だと感じたからだ。


 特にあのクソ上官をどう言いくるめるかが大切になってくる。こちらの話を聞く気など絶対ないだろうし。聞いたとしても話半分ですぐに奴隷待遇に戻すはずだ。


「そう言えば僕たちって、クソ上官以外のあの国の人と喋ったことあったっけ?」

「ナイ」

「よく上の者が上の者がとかいうくせに見たこともないよね」


「捕虜持って帰ってきたら普通は別の人間が当たると思います。そう言えば、作戦中も上官さんが指示をしていたのですか?」


 少女改めマリンは的確に軍の基本を教えてくれる。常識的な部分でわからないことが数多くあることは否めない。そうした部分も今のうちに習得する必要があるだろう。


「チガウ。サクセン AR オシエル」

「奴隷部隊は徹底的に本国の人間とは離すのですね。情が湧くのを防ぐためですかね」

「シラン」


 情報が少なすぎて、もはや行き当たりばったりになるのは目に見えている。しかし、前に進まないことには何も得られないだろう。なんとかしたいところだがネタ切れというのが本音だ。


「カンソー キドウスルカ?」

「そうだね。このまま動かないままだと、いつ毒で死ぬか分からないし。マリンさんもそれでいいかな?」

「キクヒツヨウ ナイ」


 マリンは肩をすくめるだけで、特に反対しなかった。


「「【換装体起動】」」


出撃の時に比べて、ガロンが十分に回復していたのか、すんなり起動が終わった。


今まで気にも留めなかったが、AR(拡張現実)には現在の通信状態が出ているようだった。


【通信状態 △】


ロード画面とでも言えばいいのか、携帯が通信を接続し直しているよなマークが表示され、その後


【通信 lll】


 恐らく十分に通信ができるようになったのだろう。と想像できるマークが出現し、同時にいくつかのウィンドウが表示された。


健康状態(バイタル) 良好】【命令 どこにいる?】【通信 通信失敗時間12:45】【リアクト なし】【命令 応答しろ】【命令 生存報告】【オートリプライ 第15奴隷小隊全滅】【命令 48時間以内に通信がなければ守秘措置】【共有 敵性新装備について】【命令 全軍撤退】【共有 撤退進路】【戦闘ログ自動送信 失敗】



うわっ最悪


 小さな項目(タイトル)だけでも10以上ある。それに全部の文章を読もうとするとどれだけ時間がかかるだろうか。


 思わずミハイルの方を向くと、なかなか渋い顔をしている。とりあえず片っ端から関係なさそうなものを閉じていく。


「48時間以内の通信だから、間に合っているはず。とりあえず生存報告するか?」

「ソウダナ」

「ていうか、僕らって15小隊だったんだね。全然気にも止めてなかったよ」

「サンジュー アル。アイツ イッタ」


 奴隷小隊だけで30もあるのか。一部隊3〜5人って考えたら最大で150人も奴隷がいるのか。なんということだ。


 確かに結構人数は多いと感じていたが、そこまでとは思わなかった。


「通信、第15・・・奴隷小隊ハヤト生存、帰還方法不明につき案内要請っと」

「毒のことも一応書いた方がいいと思います」

「それもそうだね。守秘措置撤回要請っと」


 ミハイルは生存報告だけ行なっているようだった。


「撤退進路のファイルも開けてみるか__【閲覧権限なし】とか、まじか」

「ムリダナ」


 当たり前だが奴隷兵に地図なんて渡すわけがないか。撤退命令を出さず肉の壁にしないだけ、ましかもしれない。されたと思うと、ゾッとする。


【戦闘ログ,メッセージ, 生存報告,現在位置 自動送信】


 メッセージの送信ボタンを押すと同時に通信が全回復でもしたのか、一斉に自動送信が始まった。遅かれ早かれ送られていることを考えると、当たり前か。


「マツ」

「そうだね、しばらく暇になりそう・・・・・もう返信帰ってきた」


【帰還命令 15Γ後回収予定 現在地で待機せよ】


 なんか文字化けしてる。迎えにきてくれるのか。本当に助かる。しかしなんだこの記号、どのくらい時間がかかるのか全くわからん。


 

「行き方はわかりましたか?」

「うん、、、あ!!マリンさんのこと何も書いてない」

「書かないでください。いきなり来た方がインパクトあると思います」


こんなグダグダで交渉なんてできるのだろうか。


「シャベル ナシ。マイク」

「ごめんそうだったね。ここからは慎むよ」


 下手なことをうっかり喋って不利になるのは避けたい。そうでなくてもこれは綱渡りのようなものだ。ここで交渉に失敗したら、後々に響いてくる。自分たちの状況がわからないところはこんなところにまで響いてくるのか。


 しかし、この謎の記号の単位がどういったものかによっては、一度換装体をといた方がいいのかもしれない。15時間とかだったら本当にシャレにならないだろう。それか時間の単位ではなく作戦の単位とか。本当にやめてほしい。






 迎えは割とすぐに来た。それこそ15分もかかっていないだろう。もしかしたら、時間の単位は地球とは違うのかもしれない。というか一緒の方が変な話だ。


【合流要請 サンダリア隊】

【了解いたしました 位置はわかりますか?】


「近くについたみたいだね、なんとかなってよかった」


 メッセージを送るのと同時に、味方を表す緑のマークが出現した。相変わらずこの機能は便利だと本当に思う。


「いたいた〜。やっほ〜」


 軍隊での礼儀がわからないので、僕とミハイルは頭を下げた。これで合っているのだろうか。灰色に橙色のラインの入った軍服を着た人間が手を振っている。


 クソ上官のような人間がいることを考えると、奴隷の扱いに期待はできない。それこそ不敬罪でいきなり斬首はシャレにならない。


「そんな畏まらなくても大丈夫だよぉ。とにかく、無事でよかったねぇ」


 軍人らしい人が来るのかと思えば、あまりそういう雰囲気ではなかった。優しそうな感じの男性である。だが自分より上の人間であることは間違いない。失礼が無いようにしなければ。


「第15奴隷部隊 ハヤトです」

「オナジク ミハイル デス」


 僕らはそう言って頭をあげ、そのまま気をつけの姿勢をとった。どうするのが正しいのかは分からないがとりあえずこれで間違いないだろう。

 男性は手を振って、緊張を解くようジェスチャーをした。


「楽にして楽にして、僕ねぇ、そういうの苦手だからぁ。元々貴族だしぃ」

「「サーイエッサー」」

「ハヤトくん、ミハイーラさん。はじめまして、僕はサンダリア隊の隊長でサンダリア・ウィスク・ブラハセンテだよ。気軽にサンダリアって呼んでほしいなぁ」


 流石に敬称無しはダメだろう。サンダリア隊長とでも呼べばいいのだろうか。この世界の文化は分からないが、軍隊では後ろに階級をつけるのが当たり前だろう。AR(拡張現実)で分かればいいのだが。


【サンダリア隊 サンダリア】


 無情にもAR(拡張現実)は階級を教えてくれないようだ。これは困った。どうしよう。


「サンダリア タイチョー。ヨロシクオネガイシマス」


 僕の葛藤をよそに、ミハイルはさっさと挨拶をしてしまった。

 隊長でいいのか本当に。こういうのは考えるよりも先に言ってしまった方がいいのか。


「ヨロシクお願いします」


 なんとなくミハイルにつられて、片言になってしまった。仕方がないじゃないか。このくらい許してくれるだろうか。落とした視線を恐る恐る上げた。


「よろしくねぇ」


 サンダリア隊長はご満悦のようだった。優しい人が当たったのは幸先がいい。状況をうまく説明して仲間に引き入れたいところだ。


「さて、早速だけど、そこのお嬢さんは誰なのか紹介してくれるよね?」


僕ら3人の間に緊張が走った。


「捕虜を捕らえました」

「捕らえちゃったかぁ」


 相変わらず緩い雰囲気ではあるが、少し疲れた表情になった。捕虜はやっぱり不味いのか?なんかそういえば出撃前に換装体が解けたら基本的に殺せって言われていた気がする。


「あぁ、もちろん大丈夫だよ。使えるものは使うし。そもそもその辺のこと知らずにやったんだよね?」

「すみません」

「送られてきたログを見たから全員殺したのかと思ったよ。捕虜かぁ。まあ、折角捕まえたし・・・うんうん。ちょっと一回確認してもいい?」

「サーイエッサー!」

「緊張しないでよぉ。それもやめてよぉ。苦手なんだよねぇ」


 僕の緊張を和らげようとしているのか、手をヒラヒラと振っている。


「次から返事は”はい”で十分だから、わかった?」

「サー・・・はい」


 サンダリア隊長はできの悪い子どもを見るかのような優しい表情を浮かべた。


「確認なんだけど、捕虜のことはメッセージ送ってないんだよね?」

「はい」

「それはどうして?」

「対応が分からなかったからです」

「あれ、、、あっそうなの」


 サンダリア隊長の開いた口はゆっくりと閉じられた。


「じゃあ、捕虜の対応とか勿論知らないよね」

「すみません。知らないです」

「いいよいいよ。代わりにやっとくねぇ」

「ありがとうございます」

「尋問は本部でやるけどいいかな?」

「勿論です」


 そういうと、僕らから視線を外してAR(拡張現実)を操作し始めた。なんとかやり過ごせたかな。

 サンダリア隊長は腕を組んで頭をひねり、空を見たり地面を見たりしている。時折、こっちをちらっと見ることもある。すごく困った顔をしているが大丈夫なのだろうか。


 詳しい報告の為に聞いたであろう質問は僕たちの不意を突くのに十分すぎた。


「そういえばさ、空白時間何してたの?」


 復習したつもりであっても、あらかじめ打ち合わせしていた言葉は咄嗟に出ない。口をパクパクして何かを言おうとするものの動揺しているのがバレてしまう。


「イドウ」

「あーなるほど、、、ってごめんごめん、移動しよっか。ここは交戦地帯で危なかったね。呑気に話している場合じゃなかったよ」


 ミハイルの機転がなければ本当にまずかった。そんな僕の焦りを知ってか知らずか、揚々とサンダリア隊長は臨時のキャンプ地としていた岩の影から出て、迷彩されたバイクに向けて歩いて行った。



 バイクには、大きめのサイドカーがついているものの、3人で座るのは難しそうだ。


「元から2人だし、1人は僕の後ろに乗ってもらう予定だったんだよ?」


 サンダリア隊長はどこか言い訳をするかのように話した。


「捕虜のお嬢さんは縛らないと不味いし、僕の後ろにはハヤト君乗ってもらえるかな?」

「はい」

「ミハイーラさんは、サイドカーね。見張る意味って意味でもしっかり捕虜を見とくんだよぉ」

「ハイ」


 満足そうに頷き、すぐにバイクにまたがった。それに遅れまいと、僕らは慌てて乗り込んだ。両手が縛られているマリンが乗り込む時に一悶着あったが、すぐに発進準備は整った。


「じゃあ行こうか」


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