クソ豚ども
さて、帰ってきたかと思えば、僕とミハイルは休憩もなしに、上官に再開する羽目になった。頼みの綱であるサンダリア隊長は残念ながら、マリンの尋問へと駆り出されてしまった。
「クソ豚ども、よくものうのうと帰ってきたな」
開口一番の罵声だ。ここ半年朝から夜までずっと聞いていたからか、丸1日開くと久々のように思える。サンダリア隊長の優しさに触れた後だと、その落差がすごかった。
「重要な捕虜を連れ帰ってきたことだけは、褒めてやろう」
「「サーイエッサー」っがはっ」
口では褒めるって言いながら、鞭を振るうのはやめてほしい。これではまるで僕らが敵兵であり、捕虜として捕まえられたみたいではないか。戦闘用ではなく訓練用の換装体に戻されたためか、痛みの設定も戻っていた。
「貴様らクソは、送った生存報告命令に返事をしなかった。重大な命令違反である」
「「サーイエッサー」」
命令が来たのはガロンが切れて換装体が解けた後だ。僕らに非はないはずである。
「さ・ら・に、、、本当であれば、捕虜などとらず全員皆殺しにするのが常識である。そこにも背いた」
「ゴホッ」「サーイエッサー」
今度はミハイルに蹴りが入った。
「お前らと来たら本当に使えない。わかっているのか!!」
理不尽だ。なぜ暴力を受けなければならないんだ。ミハイル同様、僕も蹴り倒して何度も何度も踏みつけてきた。
「くそ蛆虫めが」
上官は執拗に踏みつけたあと唾を吐き捨た。ありがたい訓示はこれにて終了のようだ。
「さて、貴様らにはいくつか伝えるべきことがある」
僕らを甚振ったことで、落ち着いた上官は、おもむろに口を開いた。
「早速だが貴様らは日没後に始まる作戦に参加だ。作戦概要自体はARに直接送られてくる。必ず目を通しておくように。それに向け、貴様らの換装体の調整を今から行う。今すぐ換装体を解いて、牢にある荷物をまとめてついてこい」
「「サーイエッサー」」
休憩くらいよこせよ。そう悪態を吐きたい気持ちをグッと堪え、返事した。
「エリミア。貴様らがいた世界に対するこちらの国、というか世界の名前だ。今この世界は、水源を巡って内戦中であり、それが拉致された理由でもある」
「はぁ」
ゴミと呼ばれた荷物をまとめた後、狭いタコ部屋状態だった牢の3倍くらいの広さで、整理整頓され綺麗な部屋へと連れてこられた。
「既に外に出たから知っているだろうが、この世界は荒野しかない。耕作可能なのは大小8つの水源のすぐ側のみだ。水源がいかに重要であるかは言うまでもない。そして我々は前回の敵の新兵装によって主要な2つの水源を奪われてしまった。これにより、残る水源は本拠地とここの小さな水源のみとなった」
「それって不味いのでは」
「口を挟むなクソゴミが。誰が喋っていいといった!」
「サーイエッサー」
上官は立つのをやめ、すぐ近くにあったソファーに腰掛けた。
「座れ」
「ヨイノデス カ」
「構わん」
先ほどから一言も喋らないミカエルが部屋に来てから初めて口を開いた。しかし、「構わん」と言われたところで、僕らはなかなか行動に移せなかった。今までのことを考えれば、座って上官の話を聞いたことがなく、必ず直立不動か地面とキスしながらだった。
「時間が惜しい、早く座れ」
「「失礼します」」
僕らは葛藤をやめて慌てて座った。
「作戦概要には目を通しただろうが、今回の作戦のメインは水源の奪還だ。貴様らには陽動として、捕虜の情報をもとに新型兵装の参戦を阻止する任務が与えられた」
「陽動ですか」
あの高火力を目にしてどう陽動を行えば良いのだろうか。肉の壁にすらならないだろう。
「敵の砲撃の直撃を受けたにも関わらず生存したんだ、もう一度避けるくらい造作でもないだろう。何も戦って勝てとは言っていない。我々が取り返すまでの間釘付けにしておけばいいのだ」
「お言葉ですが上官、それは」
「ええい口答えをするな!!いいか、この作戦に成功すれば貴様らを奴隷から一般兵に格上げしても良いというお達しも出ている。この作戦室が与えられたのは貴様らに期待してのことだ。異例の対応なのだぞ!?」
上官は唾を飛ばしながら熱弁した。机を挟んでいるにも関わらずかかってきて本当に不愉快である。
「では、、、それに向けて今から作戦を練るということでしょうか?」
「その通りだ」
そう言うと、懐から二つの赤い箱を取り机の上に出した。
「受け取れ」
僕らは恐る恐るその赤い箱を手にした。上官に「開けろ」と目配りされ、慎重に蓋を開けてみた。中には箱と同じ真っ赤な換装装置が入っていた。
「今回の任務に当たって、貴様らに新しい換装体を貸与することになった。製造部門は大分渋ったが、任務に必要だと言って、前回の戦闘で死んだ一般兵の分を融通させた」
くそ役立たずの上官だと思っていたが、その辺の分別はあるようだ。
「そうは言っても所詮は第3世代だ。精々今より換装体が頑丈になって、ガロン武装が一つ増えるくらいに思っておけ。補助兵装も付けられるようにはなるが多く付けても無意味だろう」
「装備が一つ増えるのですか?」
「そうだ」
マリンがそんな事を言っていたような気もする。
「例えば、ハヤト、貴様が使っているのはオーソドックスな銃だ。射程もまあまあでフルオートで面制圧ができるものだ。これからはそれを両手に持つことも可能だ。貴様の命中率は極めて悪いが、二丁持てば大分変わるだろう」
確かにそうだ。
「ブレード フタツ イラナイ」
「ミハイーラ、貴様は通常弾を新しく加えるといいだろう。補助兵装としては、"シールド"を加えておけば今以上に戦いやすくなる」
「バレット シラナイ」
ずっと近接手戦闘訓練をしてきたのだから、至極もっともだ。だが、少し事情を知る僕も弾丸だけでは何もやくに立たないのではないかと言う疑問を抱いていた。
「通常、ガロンで作られた弾丸は射出機である銃を通さなければ十分な射程・弾速・威力は出ない。しかし、数mくらいであれば弾速・威力はそこそこで放つことが可能だ。無論、射出機を通した方が圧倒的に強いが、相手の不意をつくには十分だろう」
「フム」
知らなかった。
「ちなみに射出機を前提とした弾丸であっても起爆だけなら可能だ。射出していない以上威力は殆どの無いに等しいが。他に質問はあるか?」
「ワカッタ」
「あの、補助兵装って何ですか?」
「そうだな、、、さっき言った"シールド"もそうだが、攻撃以外に使えるガロン兵装の総称だ。第3世代機で使えるものといえば、死角にいる敵の場所を割り出せる"ソナー"、自分を含め味方の換装体のガロン流出を止められる"メディック"、攻撃兵装や換装体そのものの出力をあげられる”ブースター”、弾道予測システム"ラプラス"の5つだな。まあ、覚える必要は特にない」
「僕はどれをつければ良いのでしょうか」
上官は態とらしくため息をつき、呆れ顔で僕を見た。
「貴様の場合どれも無駄だろう。この私が、一つ一つその理由を説明せねばわからんのか?ああ?」
「申し訳ありません」
この部屋に入ってからずいぶんマシだった機嫌はいきなり悪くなった。情緒不安定人間なのだろうか。対応する人間の気持ちにもなれ。
「まあいい、、、両手持ちにするなら"ブースター”は必須だ。もう一つ入れるとしたら、伏兵に備えて"ソナー”か、ミハイーラの補助として"メディック"のどちらか。第3世代機だと補助兵装は二つしか入れられない。無論入れればそれだけ、操作感に違和感が伴う。よって補助兵装入れないと言う選択肢も良いだろう」
「わかりました」
「ワカリマシタ」
大まかに僕らの換装機のプランを決めて満足したのか、上官は僕らから視線を外し、すぐ近くにあった携帯端末とARの操作をし始めた。
「設定は後ろの装置だ、30分以内に決めろ。試すなら奥の扉から通じる共用訓練場を使え」
ただのクソで暴力的な上官だと思っていたが、評価を改める必要があるのかもしれない。そう思わざるを得なかった。無論、暴言と暴力がなければの話だが。
折角上官に蹴り飛ばされずに済んだというのに、地面とキスしている様子はさぞ滑稽だったことだろう。
突撃銃の二丁持ちまでは良かった。反動を"ブースター"で押さえ込まなければ一丁の方がマシなくらいだ。
だが、”ブースター”を点けると全く歩けない。
「普通に無理だ。難しいとかそんな次元じゃない」
「ブースター?」
「うん。なんと言うか必要以上に体が動く。ただでさえ換装体って動きに癖があってやりづらいのに、これを発動するとお手上げだ」
「タシカニナ」
人間の体は完璧な左右対称ではない、重心が偏っていたり、微妙に手足の長さが違ったりと。"ブースター"は筋力等だけでなく、人間が無意識に持っていたズレすらも丸ごと強化するのだ。歩けるわけがない。
「あー無理。これオンオフも時間ちょっと時間いるし」
「ムズカシイ ケド ツカエル」
「ミハイルは器用で羨ましいよ」
そう、ミハイルも試しに"ブースター"を取り入れてみたのだが、使いこなせているのだ。数歩程度なら走ることもできるし、強化した腕力で剣を振るうこともできる。
「デモ イマハ イラナイ」
「まぁそうだよな。上官も入れなくても構わないって言ってたし。入れればその分換装体に必要なガロンの消費が増えるしな」
「オレ ガロン スクナイ。セツヤク ダイジ」
「てことは追加するのはシールドだけか?」
「ヤァ」
ミハイルよりはガロンが多いとはいえ、僕も節約しなければならない。両手持ち以外は、"ブースター"だけにしておくべきだろうか。
「入れるとしてもソナーとメディックか・・・」
「メディック イイ」
「敵を抑える」ことが任務である以上、できる限り長期戦に持ち込みたいと言うのが本音である。ガロンが少ないミハイルは長期戦になればなるほど不利になる。そう言う時に、ガロン流出による戦闘不能を防げる"メディック"の優先度は高いだろう。
「それはそうなんだけど、あの威力にメディックって意味あると思う?」
「・・・。」
そうなのだ。押さえ込まなけえばいけない敵の攻撃は「レールガン」である。岩を破壊するなんて生易しいものではない。当たったら一発アウトである。ましてや魔法の如く、瞬く間に傷が塞がると言うものでもなく傷の大きさに比例して時間もかかる代物である。
「そう考えるとソナーなんだよね」
「マアナ。ダガ ヤメトケ」
ミハイルの受けが悪いもう一つの候補"ソナー"最大の欠点は、相手の場所がわかる代わりに自分の場所もバレるのだ。まさに一長一短と言ったところだ。
万が一敵の「レールガン」に方向だけでもバレれば、そのまま直線上をドカンだ。使いどころによってはレールガンの影に隠れていた敵を炙り出せるが、正直なところ微妙と言ったところだ。索敵範囲も半径15mほどで、十分とは言い難い。
「入れるべきはブースターだけかな・・・」
「ダトウ ダナ」
「だよなぁ」
「キニナル コト アル?」
「うーん、あるにはあるんだけど。それはマリンさんから情報を聞いてからかな。それを聞いてから最終使うか使わないかの判断をしたいかな。上官がこのまま機嫌が良ければ、そこの調整の時間くらいもらえるでしょ」
結局は新型兵装の情報を得なければ、如何しようも無いのだ。悩むだけ時間無駄だ。割り切ることが大切なのだろう。
タイトル回収
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