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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・2学期】
251/258

直感は大抵あたるもの。(修学旅行編その1―1日目)

 新幹線で最初に向かった先は広島だった。

 この大阪・神戸コースは、初日は広島、二日目と三日目が大阪、四日目と五日目に神戸を訪問する予定になっている。広島駅に着いて、原爆ドーム、平和記念資料館なんかがある平和記念公園に行くという修学旅行定番予定コースを巡ったころにはあっという間にお昼ご飯タイムになっていた。


「お昼ご飯はやっぱり!」

「広島焼きだよねぇ!!」


 食べ物担当こめちゃん一押しのお店で、広島焼きを堪能する。生地が薄めでキャベツや焼きそばやイカ天といったたくさんの具材が入ってていろんな味が楽しめるのがいい。


「自宅で食べる時はいつも関西風だから広島風を食べるのは初めてなんだよねー!」

「広島の人で『これこそがお好み焼きで関西風はお好み焼きじゃない!』とまで言ってる人もいるって聞いたよ」

「その辺は譲れないらしーな!関東では結構関西風が多い気がするけど!」

「どっちも美味しいよう!」


 明美が感動する横で、遊くんとこめちゃんがわき目もふらず目の前の食べ物にがっついており、口の周りがソースだらけになっている。


「二人ともそんなに慌てなくてもなくならないよ」

「うむむむ?」


 ほお袋をいっぱいにするリス化したこめちゃんに紙ナプキンを差し出すも、こめちゃんの右手はお好み焼き用のお箸、左手はお皿で埋まってしまっている。代わりに口を拭ってあげる隣では、例の如くいつもの通りの光景が広がっている。


「上林くん、やきもちとか妬いちゃう?」

「妬くか。横田、俺はそんなに簡単にからかえないぞ?」

「そんなこと言ってられるのも今のうちよぐふふふふ」

「未羽さん今度は何を企んでるの……?」

「雪ちゃん俺も拭いてー」

「野口、ほら俺の分もやるよ。まだ足りないだろ?」

「上林、それやきも……もがっががあ!」

「大変だ!遊くん、のどに詰まらせてる!水!水!」



 そんな騒がしい面々を微笑ましく見守っている京子は、相変わらず楚々としたたたずまいで微笑んでいるもんだから、一人だけ高級日本料理を食べているような空気を漂わせている。


 京子、やっぱり箸の使い方、上手だよなぁ。私は箸を使う物なら広島焼き(卵で包んでも具を落としてしまいそうになる)、フォークでいうならミルフィーユはいまだに苦戦するもんなぁ。

 そういえば京子にはあの動物園デートの時に東堂先輩と一緒にいた理由をいまだに訊けていないっけ。今回の合宿の夜にでも絶対に訊かなきゃ。





 昼食の後は世界遺産の厳島神社を見学して、そしてその近くの宿に宿泊。それすなわち。

 

「明美さん!!!」

「うわ―――ッ!分かったから、雨っ!抱きつかないでッ人前だからっ!」

「人前じゃなければいいんですね?じゃあ俺たちの部屋行きましょう!!」

「早速!?待って待って待って!」

「久しぶりなんだから当たり前ですっ!」

「昨日の夕方会ってるじゃないの!」

「何時間経過したと思ってるんです?これを久しぶりと言わずして何を久しぶりと言うんですか?」

「まさに昨日ぶりって言うのよ!!」

「俺は二十四時間三百六十五日隙間もなく明美さんと一緒にいたいんですから、離れた時点で久しぶりになるんです」

「どんな論理よっ!」

「まぁ落ち着けよ、雨。いきなりそういう行動取ってると君恋高校の先生方に警戒されてこの修学旅行中一切の交流禁止にされるぞ?まずは挨拶に行っとかねーか?」


 発情中の犬にような雨くんと明美の間に割って入って暴走を止めたのは兄の雹くんだった。残りのいつものお世話係二人はやれやれといった表情で見守っているだけだ。まぁ、あの剣幕の雨くんを止められるのは彼くらいしかいないし、身内として責任をもって処理してほしいところだから妥当といえば妥当な人選かもしれない。


 雹くんの全くと言っていいほどの正論にはさすがの雨くんもはっとしたように落ち着き、雹くんと一緒に君恋の教師陣に挨拶に行った。


「雹くんは生徒会長っぷりが板についてきたね」

「本当だな。あいつすごく成長したよな」

「うん。かっこよくなった――」


 冬馬と一緒に見守る後ろ姿は、君恋の集団に紛れた途端に小さくなっていく。まるで塩をかけられたなめくじのようにしおしおと縮んで、最終的には雨くんの後ろに隠れたまま、君恋の女子生徒から一番遠くなるルートで一番女子生徒に人気のない先生に接近していた。


「――かと思ったけど、やっぱりそうでもないね」

「確認するまでもなく変わってなかったな、ここは」


 言っていることとやろうとしていることがまともなだけに残念だ。


「そりゃ、そう簡単に苦手意識はなくならないでしょ」


 神出鬼没の不審キノコこと未羽は私と冬馬の間ににょっきりと首を生やしてきた。


「まーたどこから生えてきてるの、あんた」

「らぶらぶぅでしっとりまったりしていらっしゃるからここなら湿度も高いかなーって」

「キノコの自覚あるのかよ……」

「ふっふっふ。どこにでも駆けつけられるという点でならカビに例えられても褒め言葉として受け取るわ」

「未羽さんも相変わらずだな」

「……あぁ、鮫ちゃん。久しぶり」


 キノコ未羽は、伸ばしていた首を戻して、声をかけられた方向に軽く手を振る。


「今日も絶好調ねー雨君は」

「明美ちゃんとの4泊5日が嬉しくて仕方ないんだろうねー」


 ボストンからカメラを取り出して撮影していた未羽に鮫島くんと斉くんが混ざって会話している。

 いつもの光景だけど、未羽の返答が少しだけ遅かったことが気になった。


 きっと他の誰にも気づかない程度の小さな違和感があった気がする。が、鮫島くんと斉くんと未羽が話しているそこに、こめちゃんや俊くんたちも混ざった今の未羽はいつも通りだ。


 気のせいなのかな。

 あまりに些細なことに、その時はそのことは忘れてしまった。





 夕食後。私と冬馬は恒例の班長会議に出席し、班長会議では、天夢高校との交流についてお達しを受けた。


「天夢高校の生徒さんとの交流をすること自体は咎めません。ただし、当然ながら常識の範囲内でのみです。不純な行為が認められ次第交流禁止とします。消灯時間を過ぎてからの他フロアないし他の部屋への出入りは厳禁です。違反が認められた場合には自由行動時間は短縮され、反省文を書いていただきます。それから情操上の配慮から部屋常備の浴衣の使用は禁止になりましたので班員に伝えて下さい」


 今年は、去年と違って、構内名物カップルの一つの彼女として名を馳せる私の前で冬馬に声をかける女の子はおらず、冬馬と一緒にホテルの廊下を歩いて部屋まで戻る。

 みんなに知られるって悪いことだけじゃないね。――いけないいけない、こんなことを考えている場合じゃない。



「先生がここまで譲歩してくれたのって、多分、空石兄弟の手腕だよね」

「俺もそう思う」

「だけどそれにしても譲歩し過ぎじゃない?今回の君恋側の部屋割りって、男子が二階で女子が三階なのは去年同じだけど、三階の一部から上の階が天夢高校の宿泊部屋なんでしょ?どうして君恋側と天夢側の先生方で事前に部屋の階を変えるという協議をしておかなかったんだろうね?」

「それは天夢生徒会が宿泊場所の選定権を得た時期の問題だろうな。君恋と被るって話が公表されたせいで大阪への修学旅行参加希望者が急増して当初の三倍くらいの人数になったんだと。結果、宿泊部屋数が足りなくてこういうフロア配置にならざるを得なかったらしい。」

「その辺って、雨くんの計算かな」

「だろ。その辺りに関しての頭の回りは間違いなくいいだろうからな、雨は」

「天夢の人たちもまんざらじゃないみたいだったし、やっぱり女の子がいる方がいいんだね。そんなもん?」

「共学じゃないやつらからしてみれば出会いの機会だからな。ちなみに雹たち(あいつら)の部屋は鍵を常時かけといて、かつベランダ側のカーテンもきっきり閉めてるらしい。そうじゃないと君恋の女子生徒が潜り込みにくるからだと。逆に襲われてたまるかって雹が鳥肌立ててるらしいよ」

「こっちみたいに三馬鹿の警護はないもんねー」


 今年も彼らは先生の目をかいくぐって警護をしてくれるそうだ。桃にねぎらいの和菓子でも


「風呂を出たら 四階の雹くんたちの部屋に遊びに行くのでよかったよね?」

「そんなに急がないでいいからな?」

「うん、ゆったり浸かって疲れを取るよ。冬馬もちゃんと疲れとってね。またあとで!」


 ばいばい、と笑って手を振ったところで「雪」と呼ばれる。


「ん?」


 振り返って顔を上げたところで黒い前髪と柔らかい感触が頬に触れた。


「と、冬馬っ!どこだと思ってんの!!」

「俺はこっちの方が疲れ取れるから」

「こっちはどっと疲れるよ!こんなとこ誰かが通ったらって思ったら気が気じゃない!」

「最近してなかったから忘れられないようにと思ったんだ。じゃあとでな」



 いたずらっぽく笑う冬馬は、雨くんに負けず劣らず、奇襲攻撃が得意なようです。


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