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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・2学期】
249/258

最後に正義が勝つ


 それからほどなくして、流血騒ぎに気付いた近所の人と未羽に呼ばれた警察が来てラクダ&コバエ軍団(あくやく)回収(たいほ)された。

 俊くんの傷は幸いにして浅く、縫う必要もない程度だったのだが、念のために呼んだ救急車で運ばれた。俊くんよりも、私のペットボトル攻撃で気絶させられたラクダ男と魘されるコバエ―ズと人一倍嗅覚にすぐれた祥子の方が重傷だったかもしれない。


 警察の事情聴取の際には当然、あのペットボトルのことを訊かれた。

 あ、シャワーを浴びて三回は全身洗ってから着替えた後なので悪臭はしていませんよ!


 私は身分を証明する学生証を提示し、身分を明かした後、ペットボトルを渡したうえで正直に答えた。


「今日は学校創立記念日で休みだったので東京まで遊びに来ていたんです。ちょうど弟たちが修学旅行でこっちに来ていたので会っていこうかって話になって。それで手作りのお弁当を持って――。あのペットボトルですか?もちろん『飲み物』です。あ、私が作ったものではありません。先輩が『彼らに会うならぜひ渡してくれ!修学旅行というのは大抵はしゃぎすぎて疲れるものだからな!疲れをとってスタミナがつく飲み物を作ったんだ!私自身で効果を試したんだが、これは私が作ったもの中でも最高傑作と言っていい!ぜひ感想を聞いてきてくれ!』と言ってくれて。その先輩も味見はされていると思うんですけど、極度の味オンチな上にお腹がやたら強い方で……でも学校でも上下関係ってありますから、ご本人にそんなことを言えなくて……だから好意だけ受け取るつもりで受け取って、一応持ってきたんですけど、あの時までにあれを開けたりすることは一度もしていなかったんです。――まさか、あれほど強烈な臭いのするものだとは思っていませんでした。私はてっきり味付きのお水くらいに思っていたものですから、頭からかければきっと落ち着くだろうと思っていたのに……あ、ですから、きっとあれは『食品』だけで作られていると思います」


 嘘はついていない。ただちょこっとだけ裏事情を話していないだけだ。

 取り調べのプロである警察官を、こんな供述とショックで震える少女の(てい)で切り抜けられるとは思っていなかったから、一応冬馬のムービー映像なんかも証拠として用意していたが、予想よりもずっと追及されなかった。

 被害者になった俊くんのお父さんが実は警視庁の警視正だったということが関係しているのかもしれない。ご両親が東京にいると聞けば兄弟二人だけで暮らしている、という話もこれで得心がいく。しかし。


「未羽のご実家に行ったときにもしやとは思ったけど!なんで私の周りにはこう、普通のサラリーマン家庭が少ないの!?君恋ってそういうのないんじゃなかったの!?」

「何度も言ってるけど、攻略に関係しない範囲ではって言ったでしょ」

「うっ……。そ、それで俊くんは?」

「もう処置してもらって警察の事情聴取中。俊くんは被害者だから問題ないんだけど、彼の家庭事情も特別だから取り調べ側も慎重にやってるみたいで時間かかってる」


 こちらも参考人取り調べが終わった後の未羽が腕組みをしたまま答える。未羽の身元がアレなので、警察にはすぐ連絡が行ったらしく、珍獣を見る目で周りから見られているが、未羽自身はそれに慣れているらしく、「怖がる世間知らずのお嬢様」になりきってきたらしい。


「よかったね、俊くんが大したことなくて」

「ほんと。大怪我だったらどうしようかと思ったわよ……」

「私は未羽が襲われそうになった時も心臓握りつぶされそうになったけどね」

「ま、万事丸く収まってよかったわ。これでちゃんと条件はクリアできたし」

「そうね」

「何がそうね、だよ!!!」


 警察の施設で騒ぐと迷惑になってしまうので外のベンチで待っていたところに烈火のごとく怒る太陽が怒鳴り込んでくる。


「偶然、なんて言葉で終わらせるつもりじゃねーよな、ねーちゃん。あんなんで誤魔化されると思ったら大間違いだぞ!?」

「あー……。いやほんと偶然って怖いねぇあははは」

「シラ切りとおそうったって意味ねーからな……?」

「太陽くん落ち着けって」

「あんなとこで、あんな場面で、なんで『偶然』なんて言葉で終わらせられるんだよっ!!ねーちゃん何隠してんだよっ!?」

「いやー何も隠してなんかいないよ」

「しらばっくれんな!ねーちゃんが嘘ついているか俺が分かんねーわけねーだろっ!それでも言わ――」

「あ、あたしが呼んだのっ!!!!」


 祥子が怒れる太陽がぎょっとするほどの大音量で叫んだ。さすが体育会系野生児。


「あたしがっ……その。師匠たちがこっちに遊びに来るって言ってたから……あたしも会いたいし、葉月も会いたいだろうし、相田くんもその方が嬉しいだろうなって思って待ち合わせしてたの。だからちょくちょくあたし電話で話してたでしょ?あの後、スカイツリーのところで会おうと思ってたんだけど、予想より早く着いたからって。サプライズしようとしてて……」

「お前、その無理な理論――」

「相田それは本当だ。俺も協力してたからな」

「五月まで何言ってんだよ!?なんなんだよみんなしてっ!」


 なんとかして誤魔化そうとする周囲のせいで太陽の目が再び険しくなったところで、祥子だけが再び大きく頭を下げた。


「それ以上は言えませんっ!だから相田くんっ!師匠になにか怒る前にあたしに怒って!あたしが悪かったの!あ、あ、甘んじて受けますっ!!」


 そう言って、涙目で目をつぶって頭を叩かれるのを待つ祥子。


 中間試験の勉強の時は散々「バカ」だの「お前の脳みそは人じゃねー!」だの「IQが猿から進化してねーのかよ!」だの暴言をぶつけられ、丸めたプリント(さすがに二枚くらい。冊子レベルの束で叩かれるのは桜井先輩の特権)でぺしぺし叩かれていたせいか、怒った太陽への条件反射が出来ているようだ。


 だが、演技でなく、ただただ実直に謝り、涙目でぎゅっときつく目をつぶってぷるぷると細い肩を震わせる、子犬のような超絶美少女を前に頭を叩ける男がいるだろうか。

 いたらそれは男じゃない、いや人間じゃない。

 太陽も人であり一人の男の子であったようで、「くそっ……あぁ腹立つ」と幾度か呟いた後、ちっと小さく舌打ちした。


 溜飲が下がったわけではなさそうだが、ひとまずこの場では引くみたいだ。

 私をすごい目で睨んで来てるけど。ごめんよ太陽、可愛い弟をこれ以上危険に巻き込みたくないんだよ私は。


「そうだ、相田くん、さっきは庇ってくれてありがとう!!かっこよかった!!」


 明らかに今思いだしたという顔をしているが、ベストタイミングだよ祥子!

 顔を上げ、にっこりと笑った(天然のヒロインスキル)祥子を見て、太陽が頬をかっと赤らめた。


「……こっち見んな!!」

「え!?まさかあたしなんかすごい顔になってる!?」


 明後日の方向に焦り始める祥子の問いには答えず、ふい、とそっぽを向いたまま乱暴に桃色の髪を撫でてから、太陽はにやにやとそれを見守っていた冬馬の前に立った。


「わんこたちだけじゃなくて上林先輩たちもねーちゃんが何でここに来たのか知ってるんでしょう。今この場では訊きませんけど。でも、どうしても俺に教えたくないなら――俺をその情報から排除するなら、ねーちゃんのこと、きちんと上林先輩が守ってください。ケガさせたら許しませんから、俺」

「言われなくても。雪は俺が守るから。……それは俺のことを認めてもらったってことでいいのかな?」

「認めてはいませんっ!!それとこれとは話が別です!俺の目が届かないところは仕方なくってだけです」

「へぇ。そろそろ君はお姉さんを卒業して自分のことと向き合った方がいいと思うけどな。君にだってお姉さん以外に守りたい子ができたんだろうし?」

「はっ、はぁ!?俺にはねーちゃんが一番大事ですからっ!」

「そんなに真っ赤な顔をしたまま言っても説得力がない。」

「やっぱ俺、あなたは嫌いです!!」


 冬馬が茶化すとすかさず太陽も噛みついてくる。

 冬馬、なんだかんだ太陽と言いあうの楽しんでいるよなぁ……。


 そんな様子を、当然のように未羽がケータイをいじるふりをしながら録画している。


 未羽、未羽、だらしなく口が開いているから。ケータイでエロ画像検索している青少年にしか見えないから。


「じゃあ会えたのは運命ってことですわねっ!!」

「え?」

「お姉様が、この葉月に会いに来てくださったんでしょう!?それであんなピンチなところで助けに来てくださった…!まるでヒーローのほうに颯爽と!これはまさに運命。お姉様と葉月は運命の赤い糸で繋がっているんですわねっ!!」

「だからお前は何度言えばわかるんだっ!!ねーちゃんから離れろって!!!」


 葉月がぎゅむーっと私に抱きついてくると、すかさず太陽がこっちに戻ってきた。

 太陽、君、なんだかんだ元気だよね。


「嫌ですわー!4日ぶりのお姉様の体や香りを心ゆくまで堪能しますの!」

「……葉月、お前、変態チックになってないか?」


 三枝くん、気づくの遅いからね?わりとさいっしょからだよ、これ。


「太陽も忙しいね」

「太陽くんの成長のためにはこれも必要なことなんだよ、弥生くん」


 沈んだ空気が徐々にいつも通りになっていた時、最後の事情聴取組だった弥生くんと俊くんがようやく解放されて出てきた。


「弥生くん!俊くん!」

「俊、もう大丈夫か?」

「うん。平気。大したことないのに大げさだよね、これ」


 腕に包帯を巻いた俊くんは痛々しく見える。


「し、俊くん、悪かったわね……。大丈夫?」

「だから、大したことないってば。みんな大げさだよ」


 未羽が珍しく真面目に頭を下げ、俊くんが苦笑している。


「ただの切り傷。紙で切ったのとそんなに変わらないよ。だからもうそんな申し訳ない顔しないでね。」


 にこりと俊くんが微笑むと、未羽もようやく表情を明るくした。


 一方の弥生くんは冬馬の前までまっすぐに歩いていった。


「上林先輩」


 弥生くんがまっすぐに冬馬を見る。私とのいざこざ以来、初めて正面から冬馬の前に立った姿に、周りが注目した。


「僕を助けてくれてありがとうございました」

「――どういたしまして」

「……僕、相田先輩のこと好きでした。……でも、僕がここまで相田先輩に興味を持ったのはきっと上林先輩の彼女さんだったからだと思うんです。そんな僕じゃ、上林先輩にはどうあがいても勝てません。あの鼻の曲がりそうな中で戦の女神みたいないい顔で笑う先輩の近くにいられた上林先輩見て、例え同学年で同時に戦えたとしても勝てないなって思いました」


 どういう意味だ。


「負けるつもりはないよ。どんな状況でもな」


 冬馬の挑戦的な笑顔に、弥生くんははい、と明るく笑った。


「だから、これですっぱり諦めがつきました。でも先輩方面白いから、これで離れちゃうのももったいないなって思いました。だから僕、これからもずうずうしく先輩方の傍で後輩やらせてもらいます。これからもよろしくお願いします!」

「……それも当たり前だろ。俺にとってお前は前と変わらない一番の後輩だよ。」


 晴れやかな表情の弥生くんに、冬馬はふっと笑みを見せて頭を撫でた。



 その後、予想通り学校側からこの乱闘騒ぎについて追及があったのだが、冬馬のムービー映像で一方的に因縁をつけられただけであること、手を出したのは相手が向かってきたときの防衛だけであることが証明されたので処分は下されなかった。

 私たちがなんであの場にいたのかについては何人かの教師には訊かれたけれど、うやむやのうちに誤魔化していたら深くは突っ込まれなかった。愛ちゃん先生から後から聞いた話だと、校長が止めたらしい。おそらく去年天夢高校に編入したときの成果やらなにやらで便宜が図られたとのことだった。



 ゲームが無事に補正できたことを知った私と未羽は抱き合って初勝利を噛みしめたのだった。


※ 章タイトルはつけていませんでしたが、これにて補正編は終わりです。お読みいただきありがとうございました!


おまけ


未羽「そういえばあの『飲み物』、本当に飲ませるつもりだったの?」

雪「まさかー。成分聞いただけでもやばそうな感じしたもん。殺人になりそう」

未羽「美玲先輩が作ったってだけでやばそうな予感はしてたのよ。…何が入っていたか訊いていい?」

雪「あ、やっぱり訊きたい?」

未羽「人って怖い物知りたさってあるわよね。あえてホラー映画観ちゃう心理」

雪「いいよ。私が訊いたところによると、アボガド、キュウリ、スイカ、ホウレンソウ――」

未羽「まともじゃない」

雪「青いトマト、ケール、ゴーヤ、鷹の爪、わさび――」

未羽「……なぜに青いトマト限定?苦いのか辛いのかよく分からないけど、青汁でも目指したの?」

雪「ドリアン、パパイヤ、ニンニク、納豆、ブルーチーズ――」

未羽「臭いがきつい元凶たちね」

雪「高麗ニンジン、マムシ、ウコン、ジオウ、サンザシ、乾燥させたトカゲのしっぽ――」

未羽「ねぇ食べ物じゃないもの入ってない!?ねぇ!」

雪「あとね――」

未羽「まだあるの!?もういい!もういいわ!」

雪「分かった。その他残りのもろもろを牛乳で割ったんだって」

未羽「……それ、美玲先輩は飲んだのよね?」

雪「うん。その後は目がぎらぎらして30時間ぶっ続けで起きていられたって。はははははは!!って高笑いしながら深夜に近所のランニングしてたんだって」

未羽「立派に劇薬レベルだったわね…。ぶるぶる」


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