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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・2学期】
216/258

秋の夜空の下のままならぬ青い春。(お泊り合宿編その4)

そのあとはもう修羅場だった。

浴室のドアを私が閉める前に祥子が勢いよく投げた風呂掃除用のミニブラシは太陽に直撃し、太陽のおでこに赤い痕を残した。パジャマに着替えて出てきた祥子は怒り心頭の太陽に謝りに行ったのだが、太陽は確実に見てしまった祥子の裸姿への罪悪感とそれへの少年らしい焦りからか、「イノシシ女の裸なんか金払われても見たくねーよ!自意識過剰なんだよバカ!」と言ってしまい、祥子は祥子で好きな男の子のあんまりな言葉につい手が出て太陽の頬を平手打ちしてから私の部屋に篭ってしまった。

葉月はこの事故を引き起こしたことに号泣して祥子と私に平謝りしてからずっと私の部屋で篭る祥子に付き添っている。

太陽の方はあんまりな言葉を放ってしまったところをお母さんに聞かれ、かつてないくらいこってり絞られて、不機嫌絶頂でこっちはこっちで自室に篭ってしまった。これを弥生くんがフォロー中だ。

三枝くんは妹の不始末とこの顛末を私と母に詫び同じく太陽のフォローに回っている。誰もが既に勉強どころではない。


私はキッチンで冷たいお茶と適当な夜食をお盆に乗せ太陽の部屋に持っていく。ノックで開けてくれた弥生くんの困った顔からしても太陽はイライラ最高潮らしく、問題を解きながらシャープペンの芯を折りまくり、書き進めることすらできないことに余計苛立ちが募っているのか髪をぐしゃっと掴んでから眉間の皺を押さえている。

「三枝くんと弥生くんも、お茶とか持ってきたから、飲みなね。」

「ありがとうございます。」

「すみません、本当に。」

「太陽、ちょっと話いい?」

「んだよ、ねーちゃんも俺が悪いって言うのかよ!」

拗ねまくり太陽に近づき、むにーとその頬を引っ張る。

「なにふんだよねーひゃん!」

「拗ねすぎ、太陽。別にあんただけが悪いわけじゃないよ。最初のは事故だし、その後祥子があんたのこと殴っちゃったのは祥子が悪い。」

引っ張られた頬を押さえて太陽がようやく顔を上げて私を見た。

「でもあんたがやったのも結構ひどいことだよ?それは自覚してる?」

「……分かってるよ。」

むくれる太陽は、高校という外の世界で見せている冷徹(クール)な男の子より幼い。その姿に昔を思い出してつい太陽を抱きしめてしまう。

高校生男子の弟を抱き締める1つ上の姉という構図はよろしくない気もするが、やましさはまるでないのでセーフだと思っている。…のは私だけかもしれない。

「なっ!ねーちゃん放せ!!こいつらもいるから!」

「ふふっ。あんたも幼いからねー。動揺しちゃったんだよね?祥子に。」

「なっ!違っ!」

「正直に言うの恥ずかしいもんね?祥子はスタイルいいし、そうじゃなくてもあんた女の子苦手で避けまくってたからこういうの免疫ないもんね?つい照れ隠しで言っちゃったんだよね?」

「………。」

私に怪我をさせないよう注意しながら逃れようとしていた太陽の顔が真っ赤になった。

うっわ可愛い。久々に弟を猫可愛がりするダメな姉モードに入りそうになる。

「祥子だって反省してるんだよ、あれ。」

先ほど祥子と葉月にお茶を持って行きがてら自分の部屋に入ったら、

「ししょお〜!!あたし絶対相田くんに嫌われちゃいましたよねぇ――――!?どうしよう―――!あたしっ、なんで殴っちゃったんだろぉ!!!ししょー、あたしぃ!わ――――ん!」

と叫んでいたから、太陽に嫌われるのが怖いというのも泣いている理由を占めていると思う。

「…あいつ。」

「ん?」

「あいつ、泣いてたよな?」

「うん、泣いてたね。」

ぽつり、と言ってから、はぁ、と大きく息を吐き出す太陽。

「…くっそ、あんなに泣かなくてもいいじゃねーかよ。そんなに見られたのが嫌なのかよ。一瞬でほとんど見てねーよ。」

ちょっとは見たんだな、弟よ。

「まぁ、恋人でもないのに見られたら普通は嫌だろうね。」

「ねーちゃんは泣いてないだろ?」

「葉月が抱きついてたから実際にはほとんど見られてないと分かっているもの。その見た相手だって弟とその友達の後輩でしょ?撮影されてネットに配信とかでもないし、減るもんじゃないよ。」

「…すっげー冷静かつ合理的ですね、相田先輩。」

三枝くんの目には呆れと感嘆の色が混ざっている。

「そうだよ。だから『普通は』って言ったでしょ?私を女子の平均値で考えるのは間違ってるよ、未羽なら絶対そう言う。まぁとにかく、太陽は意地になるのはやめた方がいいと思うよ?喧嘩両成敗というか、どっちが悪いっていう問題じゃないと思うから。多分あの感じだと葉月も祥子も勉強どころじゃなくて寝ちゃうだろうから明日ちゃんと、お互い謝りなね?」

軽く小突くと太陽はしぶしぶ、だがしかしきちんと答えた。

「……分かったよ。」

「はい、いい子。」

太陽を抱きしめたまま頭を撫でると、太陽は重苦しくため息をつく。

「…あのさぁねーちゃん。」

「んー?」

「俺、すっげーたまにだけど、上林先輩に同情する時あるぜ?」

「なんで?」

「……そのすげー無自覚で無防備なとこ。高校生男子3人がいる部屋にその格好で入ってくるのも普通はアウト。それから、確かにねーちゃんと俺は紛れもなく実の肉親で俺も人間としての常識持ってるから姉ちゃんをそういう意味で見たことはねーけど、それでも薄いパジャマで1歳違いの弟を抱きしめんなよ。自分の歳考えろ。」

16歳って感じで羞恥を感じられないのは脳みそ通算年齢がアラフォーなせいなのかな。

「…パジャマの時でも下着は着けてるよ?」

「そーゆー問題じゃねー!!むしろ着けてなかったら速攻でアウトだバカ姉貴!」

「あー…だめ?でも太陽は太陽だしなー。」

「俺は諦めてるけど、一応こいつらのことも考えろ!」

「はいはい。分かったよ、ごめんごめん。邪魔したね。あんまり遅くまで詰め過ぎないようにねー。おやすみ。」

太陽の部屋を出てから自室を覗くと、予想通り二人はシングルベッドでぴったり寄り添うようにして寝ていた。美少女二人のそんな姿は天使が寝ているようで邪魔出来ない。

まだ横で布団を敷いたりしたら起きてしまうだろう。

二人が完全に深い眠りに落ちるまで待つことにした。



「とりあえず勉強するかなー。」

リビングで用意したあったかいお茶を手にベランダに出る。

「免疫系統の働き方はっと…」

暗いからノートは見られないけど、頭の中でやったことを思い出すようにひとつひとつチェックしていけば机の前じゃなくても勉強はできる。

「…こんなとこで勉強してるんですか?」

声に振り返ると、風呂上がりと見える弥生くんがベランダに出てきたところだった。

「太陽が、あのままだと雪先輩は部屋に戻らずに外出てそうだからこれをって渡されました。」

そう言って太陽の上着を渡してくれる。

「わざわざありがとう。ごめんね。太陽は?」

「風呂入ってます。」

「そっか。太陽、こういうところはちゃんと気がつくのになぁ。全く。」

上着を着ながらぶつぶつ言うと隣にやってきた弥生くんが苦笑した。

「太陽は鈍いですよね。…湾内の気持ちに気付いてないみたいですし。」

「弥生くんは気付いてるんだ?」

「俺だけじゃなくて五月も気付いてますよ。気付いてないのは当の本人だけです。」

「あちゃー。ちなみになんで分かったの?」

「湾内、教室とかでいつも太陽のこと見てますよ?それに祭りの時の様子も見てますし…今日だって、僕や五月もいたのにあいつにだけ突っかかって泣いてるの見たら分からない方がおかしいですって。」

他の攻略対象者様が気付いているというのに全く…。

「それはそれは。…友達としてはどう?」

他の攻略対象者様から見たらどうだろう?やっぱり主人公取られたらまずいんじゃないか?と身構えたが、何のためらいもなくあっさりと返された。

「うまく行けばいいんじゃないですか?太陽の気持ち次第でまだ時間はかかると思いますけどね。」

「あっさりだねぇ。」

「その女子がよっぽど酷いやつとかじゃないなら、友達が友達に惚れてるっていうのをあえて反対する意味あります?」

「確かに。恋愛といえばだけど、弥生くんは平気なの?」

「平気と言いますと?」

「三枝くんが心配してたよ?あの夏の時に聞いた恋愛の悩み?なのか知らないけど、最近弥生くんが悩んでるみたいだって。一応太陽に訊いてみてって言ってみたけど、太陽鈍いから意味なさそうだよね。…私でよければ聞くって話有効だけど、大丈夫?」

「…あぁ…そのことですか。…雪先輩、去年、上林先輩と付き合う前、ずっと幼馴染の新田先輩と一緒にいたんですよね?」

弥生くんは重いため息をついてから、話題を変えた。

やっぱり地雷だったのかな、と少し反省する。

「そうだよ。小学校の時からの幼馴染。太陽にとってはお兄ちゃんだけどね。」

「恋愛的に好きってなかったんですか?」

「うーん。分からなかった、っていうのが正しいのかな。近すぎて、恋愛に発展するものだって思ってなかったのよ。」

高校に入るまではね。高校に入ってからは転生やら乙女ゲームの設定やらそっちでいっぱいいっぱいになってむしろそこから離れていくことを考えていたからね。言えないけど。

「…そうですか。恋愛じゃなくても、新田先輩と雪先輩には強い絆があったって上林先輩に聞きました。上林先輩がそれを切るような形で介入して雪先輩を新田先輩から奪ったってことも。」

「冬馬、そんな言い方したの?それは違うよ?」

「え?」

ベランダに吹き付ける風で煽られる髪を押さえて遠くに光る星を見る。

生徒会合宿で冬馬と一緒に見た星はこの中にきっとあるんだろう。

そして今は遠いところにいる幼馴染もこの星空の下にはいるんだ。

物理的に遠くなっても、私と秋斗の距離は変わらない、と信じたい。

「確かに私と秋斗の間には冬馬や、未羽ですら入れない絆があると思う。それは間違いない。介入したっていうのは正しいかもしれない。でも冬馬はそれ(私と秋斗の絆)を断ち切ったわけじゃない。私と秋斗の絆は私が冬馬と付き合っても残ってるよ。正確には、二人が残してくれようとしているの。」

「…そんなのできるんですか?一方が恋愛的に好きだって思って、それからそれを相手も認識してしまった後に、また元の関係に戻ろうなんて。」

「私もね、そんなことできないって思ってたの。ずっと。」

転生に気づいてから。前世のことを思い出してから。ずっとずっと。

「でも、そうじゃないって秋斗は言ってくれたし、そうじゃないことを示そうとしてくれてる。そのリハビリのために私から秋斗の恋愛としての気持ちに終止符を打って、しばらく時間と距離を置くことになってるけどね。それがどれだけ辛くても、それは私が乗り越えなきゃいけないことだし、できないってことはない、ないはずだって信じてる。」

「そうですか…。」

弥生くんは遠くを眺めながら私の話を自分の中で咀嚼するように聞いているようだ。

話題を避けるために聞いたにしてはあまりに真剣な表情だったのでつい尋ねてしまう。

「弥生くんの恋も確か、叶わないやつなんだっけ。」

「…そうですね。叶わないと思います。」

「思います?既婚者とかじゃないの?ちなみに親戚のお姉さんでも、3等身以内じゃなければ法律上の結婚はできるんだよ?従姉妹とかならね。叔母さんは無理だけど。」

「まだそれなんですか。僕それ一回も肯定してないんですけど。」

弥生くんは苦笑してから続けた。

「既婚者じゃないですよ。でも、僕の手の届かないところにいる人です。」

「へぇ。弥生くんって話聞いてるともっと淡泊な恋愛するのかと思ったけど、そんなに無理な関係なのに想っている人がいるんだね。どんな人か訊いてもいい?あ、嫌だったらいいんだけど。」

弥生くんはしばらく黙り、大きく息を吐いてから答えてくれた。

「僕も自分がこんなに一人を熱く想う人間だとは思っていませんでした。その人は…大人な人です。基本的にびっくりするくらい大人で、でもたまにものすごく幼くて、可愛らしい人です。デキる女性なのに抜けてるところとかが多くて、ときどきヒヤヒヤハラハラさせられて。でもその人の一番の魅力は、そうですね。好きな人への想いがまっすぐで一途なところです。」

「今の話だと、相手は好きな人がいる人なんだね。年上か同年齢、だけどまぁ年上かな?それから、ドキドキハラハラできるくらいだからわりかし近くにいるのかな?」

「…さすが。そういう洞察力はさすがですね、雪先輩。」

「そういう、は余計よ。」

「その気持ちが僕に向けられたらな、向けてくれたらどんなに幸せだろうって思って苦しいんですよ。でも、その相手の人も僕は好きなので、傷つけたくないんです。」

「それは苦しい恋だね…。」

軽々しく聞いてしまった自分が恥ずかしい。

彼は葛藤の中で自分の立ち位置を確保しようとしているのに。


「僕も、どうしてこんな恋をしちゃったのか、自分でも全然分からないんですよね。できれば叶う恋がしたかった。自分の気持ちに振り向いてくれる相手を好きになりたかった。」

苦し気に呟く彼を見ているとなんだか放っておけない気がする。

「振り向いてくれないかどうかはまだ分かんないじゃない?気持ちは伝えたの?」

「伝えてません。僕のことは恋愛対象にすら入ってませんから。伝えたら、その関係は崩れてしまうんで。」

「同じだ。」

「え?」

「んー?去年の私と同じ。動いたら、伝えたら全部の関係が崩れちゃう。そう思って足踏みしてるとこ。」

冬馬が好き、秋斗への好きは恋愛じゃない。気づいたのは12月の半ば。なのに、それを伝えられたのは2月になってからだ。

そのせいで秋斗が追放された、というさっき知ったばかりの事実が私の口をどんどん滑らかにしていく。

「…私があんなに遅くに伝えなければ。もしかしたら未来は変わってたのかもしれない。」

「は?」

自嘲気味に呟くと、弥生くんは意味が分からないように見てくる。

「へへ。後悔してるんだ。もっと早く気持ちをちゃんと伝えるべきだったってね。そうしたら変わっていたかもしれないこともあったから。…だからさ、弥生くんは同じ失敗をしないでほしいかな。ちゃんと相手に自分の気持ちを伝える努力をしてね。私の二の舞にならないように。」

「雪先輩…。」

いかん、空気が重くなりすぎてしまった。

ちょっと明るくしないと。

「いやーしかし、今聞いた感じ、もし私が同じ立場だったら辛くて辛くて逆に早く言って楽になろうとしちゃうかも!弥生くん、そんなに我慢してるとか、大人だなぁ。本当に15歳?」

「僕もう16歳です。」

「え。同い年!?誕生日、3月とかじゃないの?」

「それいつも言われますが、誕生月4月なんですよ、僕。」

なんで、弥生にしたんだよ、ゲーム設定者!!ばっかじゃないの!太陽にしても、いろいろ間違えてるだろ!!

「そうなのかー16歳か。じゃあ太陽より断然私の方が歳近いじゃん。私2月22日生まれだもん。早生まれもいいところだからね。」

「そうですね、ほとんど同年齢ですね。この年だとたった1,2か月の違いで、学年も全部違うことになりますもんね。」

「そうそう、80歳とかになったら絶対1歳の差って大したことないのにねーおかしいよね、1年の歳の差で敬語使ったり逆に偉ぶったりするやつがいるなんて。…あ、私大丈夫?偉ぶってない?」

「大丈夫ですよ。全然偉ぶってないですから。…すごく素敵な、お姉さんです。」

緑色の美しいアーモンドの形の目を細める彼。

「あ、その目の色。」

「え?」

「秋斗よりはちょっと濃いかな?でも似てる!エメラルドグリーンだ。」

じっとその目を見る。

「暗闇なのに、キラキラ光って宝石みたい。綺麗だね。」

にこっと笑うと、弥生くんは笑顔を浮かべる。

どこか、傷ついたような。

「え、ごめん、何か気に障ること言っちゃった?」

まさかその好きな相手にも同じこと言われたことがあるとか?

私は傷を抉ってしまったとか?

「…そんなことないですよ。」

「それにしては、弥生くんなんだか」

「弥生。」

いつの間にか、三枝くんが後ろに立っていた。

「…こんなとこにいたのか。相田先輩も。それ以上いると冷えますよ?」

「そうだね。…そろそろ葉月たちも寝ただろうから戻るかな。二人ともまだ寝ないの?」

「僕はもうちょっとここにいます。最後戸締りすればいいですか?」

「鍵閉めといてくれればいいよ。三枝くんも?」

「…はい。一緒に閉めておきます。」

「夜更かしはよくないよー?ほどほどにねー。」


それから私は自室に戻って熟睡する天使のような美少女たちの寝顔を堪能した後、寝た。


※10月8日の活動報告に以前リクエストいただいた三枝兄の小話前編を載せています。これまでの小話の中で最もやらかしてしまったR15なので、見てご不快になられる方もいるかと思われます。予めご了承の上、よろしければどうぞ。

後編はそのうちにあげます。

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