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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・2学期】
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匙を投げるにはまだ早い。(お泊り勉強会編その2)

「ただいま。」

家に帰ると既に玄関にはたくさんの靴があった。どうやらもう全員が来ているらしい。

「あぁ、雪。ちょうどよかったわ。これ、太陽の部屋に持って行ってあげてくれる?」

「分かった。」

お菓子とお茶が乗ったお盆を手にまずは自室に向かい、私服に着替えてから太陽の部屋に向かうと中からぎゃあぎゃあと外にまで聞こえる音量で会話がなされている。

「お前って、ほんっとに究極の馬鹿なんだな。」

「そんなに強調しなくていいじゃない!!」

「いや、感動した。ここまで出来ないやつがいるとは…効率が悪すぎるという表現では済ませられない。脳の処理能力に問題があるとしか思えない。」

「うるさいわねっ分かってるわよ!」

「夏休み明け試験でなんで120番で収まってるのかは、俺にとってはこの問題集のどの設問よりも難しい問題だと思う。」

「こうして!努力してた結果!」

「そーか、そーか、それでか。ならお前には生まれつき勉強の才能がねーんだよ、ばーか。」

はぁ。太陽、あんたは小学生か。

コンコンとノックして「入るよー。」と声をかけてからドアを開ける。

「お姉様ぁ!!」

ドアを開けた瞬間にいつも通り葉月が抱きついてくる。

「師匠ー!!相田くんが虐めます!!」

と逆サイドから祥子も抱きついてくる。

「あわわわわわわ!危ない!お盆!」

「おっと。」

手前にいた弥生くんがギリギリのところで支えてくれた。

「ありがと、弥生くん。」

「いえ僕が一番近いですから。」

二人を両脇にくっつけたままだと全然座るスペースがない。

太陽の部屋は私の部屋より広くて、秋斗の部屋と同じくらいはあるが、それでも高校生男子3人に女子3人が入ればいっぱいいっぱいだ。

太陽と弥生くんには太陽のベッドに乗ってもらってようやく私が立つスペースを確保してから、太陽を見る。

「太陽、あんたまた祥子にきつい口調で言ったの?」

「そいつが馬鹿なんだよ救いようがないくらい!」

「褒めるのも大事って夏に俊くんに言われてたでしょ?」

「褒めるとこがねーくらい酷い。俺、匙投げたい。」

「そんなになの?」

「…湾内は9月授業分はほぼまるまる入ってません。」

「つまり二学期分は0スタートです。」

「祥子は効率が悪かったから生徒会の仕事でいっぱいいっぱいになってしまったんですわ、お姉様。」

三人も全く祥子をフォローすることなく太陽の言葉を補足してくれる。

あー恐れていた最悪の事態が起こっている。

先輩たち(3年生)私たち(2年生)もわりとハイスペックな人が多いお陰でこの問題に直面したことはなかったが。

「うーむ。どうするかなぁ。生徒会メンバーが成績落とすのはまずいんだよね…。祥子は元が100〜120番くらいだから、そこには入れたいね。」

「でもねーちゃん。そいつ、メネラウスの定理の証明すらできねーんだぜ?」

「……。」

「師匠黙らないでください〜。」

予想より深刻な事態に眉間に自然と皺が寄る。

「太陽、祥子は全科目9月分はダメなのね?」

「あぁ。」

「夏までの分は?」

「夏期課題のお陰でなんとかギリギリ平均レベル。」

「…とりあえず、今から15分以内に残り一週間の学習計画を立ててあげるから、それに従ってやってみて。記憶物は風呂や歩いてる時にでも思い出すのが基本。机の前でうんうん唸らない。赤シートで隠してやるのもスキマ時間で。でも今は時間ないから例外的に、机使えない時間に時間制限ありで覚えて誰かと一問一答形式でやりなさい。机の前でやるのはノートを使わないとなんともならない数学、物理、化学計算、それから現代文の漢字を。いい?」

「お姉様かっこいいですわ!!」

「そこまで雪先輩が必死になる理由はやっぱり生徒会のためですか?」

「そうだね。祥子自身のためと、生徒会と先生方の関係を悪化させないため。最近ようやく改善傾向にあるからね。これを崩すわけにはいかないから、私も教えるよ。」

「…でも相田先輩も中間の勉強ありますよね?」

「それもやる。でもまぁ、私の方は大体は網羅し終わってるから。」

「さすが師匠…!」

「言っとくけど、ねーちゃんの網羅はなんとなく終わってるー、じゃねーからな?ほぼ完成段階にあるってことだよ分かってんのか?」

「わ、わかってるわよぅ…。」

太陽がじろりと祥子を睨み、祥子が申し訳なさそうに縮こまった。

冬馬に勝てるかは怪しいところだ。

これから先はますます勝てなくなりそうなのが悔しいんだけどな…。

「まぁ勉強するしかないね。それにしてはこの部屋は密集しすぎだから、私の部屋も使っていいよ?とりあえず、三枝兄妹はこっちにおいで。祥子は数学の分からないところを太陽に教わって。」

「はい!相田くん…あの」

「…はぁ。さっさとしろよ。弥生、お前も手伝えよ?お前もほとんど自分のは終わってるだろ?」

「はいはい。分かってるって。」


私の指示に素直に従った三枝兄妹を連れて自室に入ると、葉月は早速私のベッドにダイブした。

「お姉様のっ、お姉様の香りがっ!!きゃあああ!」

顔を擦り付けてくんかくんか匂いを嗅がれると複雑な気持ちだ。

とても変態ぽいぞ葉月。

三枝兄(保護者)の方が妹を見て私に珍しく謝ってきた。

「…すみません、相田先輩。葉月が暴れてまして。」

「予想済みだからいいよ。それに普段からそこ結構他人にゴロゴロされるし。」

「…それは上林先輩ですか?」

「未羽よっ!!!!…ふぅ、私の部屋は机、これしかないから、とりあえず書いて勉強するものやりたい人が座って?」

そう言ってルーズリーフと紙を挟むプラスチック板を出すと床に座り、祥子の勉強計画を立て始める。

そんな私をベッドから上半身を乗り出すようにして見て来る葉月。

「お姉様がTシャツGパンなのは新鮮ですわっ!」

「家用私服だからね、そんなに綺麗な服は着てないよ。理想崩したらごめんよ。」

「いえいえっ!!素敵ですわぁ。」

「…葉月、お前勉強しに来たんだろ?さっさとやれ。」

「もちろんやりますわ。お姉様、今日は一緒に寝ましょう!」

「そのベッドは一人用だから。」

「愛の力があれば平気ですわっ!それにどちらかと言えば葉月は狭い方がっ!」

「葉月が頑張って勉強したら添い寝くらいなら考えてもいいけど。」

上の空で言っていたら、葉月はまるで明後日の方向を向きながら致死球(キラーパス)を投げるかのような質問をしてくれた。

「そういえばお姉様。」

「ん?」

「普段の添い寝は上林先輩とはなさるんですの?」

「したことないよ……ってあんたたちはさっきから何を聞き出そうとしてるの!?さっさと勉強しなさい!そうしないと葉月、あなたに今夜パジャマ貸さないよ?」

「…葉月にお姉様のパジャマを貸していただけますの…?」

「ちゃんと勉強したらね。今日中に…そうだ、太陽理数系のテストをクリアしたらいいよ。」

途端に葉月の鼻息が荒くなった。

ちらりと見たその目には「お姉様のパジャマと添い寝!!」と書いてあった。

分かりやすい。

「葉月はかつてない勢いで勉強しますわっ。テストのことを相田くんに伝えに行ってもよろしいですの?」

「どーぞどーぞ。あ、ちょうどいいからこれを祥子に持っていって。」

出来た計画表を葉月に手渡すと、葉月はそれを持って風のように飛んで行き、あとには、三枝くんと私だけが残される。

「そういえば、三枝くんと二人だけで話したことってほとんどないね。」

「…そうですね。今のこの状態を上林先輩にばれたら殺される気がします。」

「えー。別に勉強してるだけじゃない。」

「…相田先輩の部屋に二人だけでいるっていう状況自体がまずいんです。」

「そんなもんかな?まぁ私はお母さんの夕飯の手伝いに行ってくるから出るよ、安心して。」

私が部屋を出ようとすると、三枝くんはあの、と私を引き止めた。

彼にしては珍しく自分から会話を始めようとしている。

どういうことだろう。設定でないことは本人が転生者であることからも明らかだから単に無口なだけなんだろうけど、彼が特に二年生に自ら話題を振ることはなかったはずだ。

「何?」

「…弥生の、ことなんですが。」

「弥生くん?彼がどうしたの?」

「…あいつ、最近悩んでるみたいなんです。…恋愛系で。」

「あーそんなこと夏の合宿でちらっと聞いたかも。」

「本当ですか!?」

「うわぁびっくりした。三枝くんがそんなに乗り出すとは。」

「…すみません。その話というのは?」

「相手は知らないよ?ただね、確か、親戚のお姉さんか、既婚者だった気がする…。やっちゃいけない恋を自覚したらしくって悩んでたよ?」

「…やっちゃいけない…?」

「うん、それらしきことを言ってた気がする。お役に立てなくてごめんね。太陽の方が知ってるかもしれないから訊いてみて?」

「…分かりました。」

まだ一人で考え込んでいる様子の三枝くんはよっぽど幼馴染(弥生くん)が心配なんだろう。

弥生くんはそういう幼馴染が傍にいて幸せだね。

私の幼馴染は今頃どうしているだろう。

そう思いながら私は部屋を出た。




夕食準備はお母さんと。まだ9月末だというのにキムチ鍋。お母さんの頭の中では人数が多い=鍋になるらしい。

「言ってたとおりね!みんな美人さんやかっこいい子ばっかり!雪や太陽の学校にはあんな子たちがいっぱいいるの?」

「そんなことないよ、彼らが特別なだけ。生徒会にそういう人が集まってるんだ。」

ゲームのせいでね。ちなみにいえば私と弟もそうですが。

「太陽が仲良い女の子はどっちかしら?黒髪の子…確か、葉月ちゃんね、と、桃色の髪の子と。」

「うーむ。他の不特定多数の女子よりは明らかに違うけど、まだどっちでもないのかな。あ、でも、桃色の髪の子、祥子っていうんだけどね、祭りであの子の射撃を手伝ったりはしてあげてたよ?」

「あら、あの子が!」

お母さんが目を大きく見開き、ぱくっと口を開けて手を当てている。

「お母さん嫉妬しちゃうー?」

「しないわよ~私にはお父さんがいるもの。さ、そろそろ準備できたけど、呼んでもらっていい?」

「オッケー。」


そうして我が家初の大人数での夕食を取ったが、祥子は「メッカからメディアへ…聖戦が…正統カリフ時代が始まって…アブーバクルの、次がウマル、それからウスマーン…それから」とぶつぶつ世界史を繰り返す世界史マシーンになっていたし、葉月は「リアカーなきK村…」と科学の炎色反応を呟いており、食事どころではないらしかった。

一方の男子たちは三枝くんが豚肉ばかり取るのを見た太陽が「お前野菜も食えよ…」と呆れ、弥生くんは豆腐をつつきながら苦笑しているという状態だった。


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