困った時の親友だより。(対新聞部編その3)
あれから、会長様は大泣きしている大事な彼女を家に送り届けに帰った。
今回の写真たちは話がでっち上げ出ないことを基礎づける証拠となるし、こめちゃんたちの調査によって「新聞部が盗撮している」という証拠はかき集められた。
私は今、下校して部屋で私服でくつろいでおり、未羽が夕食を食べに来てそのまま部屋で今日の話をしているところだ。
「へぇー。新聞部、ねぇ。それはイベントじゃないんでしょ?」
「違うよ。祥子の話だとそんなイベントはなかった。これは単なる新聞部の現実の暴走だよ。」
未羽は私のベッドに仰向けに転がって足をばたつかせている。スカートではないので許容範囲だと思っているに違いない。
太陽は部屋に引きこもっているのでここでの会話は未羽とだけとはいえ、くつろぎすぎだろ。
「なんかね、新聞部は顧問も一緒になってやってるんだって。前に会長が予算を削減したときも顧問が庇おうとしたのにあっけなく会長に手玉に取られて逆恨みしてるっぽいんだよね。」
「海月先輩と戦えるのはあの校長せんせーくらいだろーねぇ。」
「今回もあの顧問を押さえるために裏から情報網を駆使するらしいよ。他の物的証拠は大体押さえたから。ね、未羽。」
「んー?」
「あんたは知ってた?写真の売買のこと。いや、あんたが学校の攻略対象者に関わることを知らないわけないと思うんだけど。」
「知ってたわよー。」
「じゃあなんで教えてくれなかったのよ。」
「知らなかったの、それが禁じられてるってこと。校則とか新聞部の規則なんて私、知らないも―ん。」
ああ、そうですね。君恋も関わらないみたいだしね。
「…でもさすがに女子更衣室の盗撮の件は知らなかったわ。」
未羽がベッドの上から身を起して胡坐をかいた。
いや胡坐はどーなんだい、お嬢さん。
「そこなんだよね。なかなか証拠が掴めなくてさ。こういうのって被害者の女の子も出てきづらいし…そこがネックなんだよねぇ。最悪、私が囮になって盗撮の対象になろうかって言ったら冬馬と太陽にキレられた。」
「そりゃそうよ。」
そう言って少し顎に手を当てて考え込んだ後に未羽が私を見た。
「……雪、それ、私がなんとかしてあげましょっか?」
「え?!本当!?」
「私の情報収集能力だったら証拠までばっちりあげられちゃうけど?」
「本当に?会長ですら手こずりそうだって言ってたのに?」
「ふふふ。この未羽様をなめんな。こと構内の情報に関してはあの会長様にも負けないわよ。」
未羽様すげー。怖いよー。
「…どれくらいでできる?」
「ふむ、今日入れて5日かな。」
「実質4日…。作戦期間と同じだなぁ。」
「海月先輩様はどんな計画を立ててるわけ?」
私が未羽に概要を話すと、未羽は一気ににやにやと口角を上げた。
「そりゃあ面白い。盗聴でそこだけ聞こえなくてさぁ。」
「あぁ、会長からメールで指示が来てるからね。なにせ今回会長、完全にぶっち切れちゃってるから、もう、手の込んだ計画だこと…既に物的証拠も押さえてるのに、ここまで手の込んだものをする?って感じだよ。巻き込まれるこっちの身にもなってほしい。」
「あれでしょ。完全に新聞部の息の根を止めて、退学処分まで追い込もうと考えてるんじゃないの?顧問は懲戒免職とかさ。」
「冗談じゃなくそれを狙っているとしか思えない。まぁ、悪質性から見たらそれくらい行くからね。それで未羽、どう?やれる?」
「ん。ま、やったる。その代わり…」
「何?」
「その計画最終ステージの時、私にもちゃんと参加させてよ。」
「えぇ!?どーやって。」
「そこは雪さん、あんたがその明晰な頭脳を使って言葉巧みに説得してちょうだいよ。」
「ううう…あんたさ、スチル見たいだけでしょ?」
「へっへっへ。もっちろんさ!」
「…分かった。会長には女子更衣室盗撮の件の証拠は私があげるって言っておく。言ったからには確実にお願いよ?」
私が念を押すと彼女はベッドの上で立ちあがると腰に手を上げて私を見降ろした。
「誰に物申してんの?」
「…横田未羽様でした。」
それから未羽は既に何か目まぐるしく考えているのか、ふざけた口調に反し真剣な顔をし、立ち上がった。
「さて、そうと決まれば今日から動かないとね。ご褒美があると思えば頑張れるわぁ。」
「そういえばさ、未羽。」
「んー?」
「あんたがしてるのも盗聴と盗撮よね?…同じことしてるって分かってる?」
「なーに言ってんの。盗聴も盗撮もあんたの同意あるじゃないの。明示または黙示に。他の人のとこは盗撮も盗聴もしてませーん。」
去年は確実に事後承諾だったろ!
「それに、私は人に不快な思いをさせてそれを売りさばこうとなんか考えてないわ。私個人が楽しむためだけよ。ましてやそれを使って脅そうなんて。盗撮魔の風上にも置けないわ。」
大事なことを忘れているようだけど…盗撮魔に風上とか風下とかないからね、未羽。
会長にすぐに未羽の約束してくれたことをメールしたら驚いて電話がかかってきた。
『相田さん、本当にできるのですか?』
「はい。」
『…あなたではありませんよね?』
会長に嘘ついても無駄だろうな。
「…それはそうですが。」
『労力には対価が必要です。あなたの今回求める対価は何ですか?』
「私はいりません。…最終日に、横田さんを作戦に入れてあげてくれれば。」
『横田…あぁ、茶道部の。クリスマスパーティーでお会いした。』
会長と未羽は直接にはそれぐらいしか面識がないはずだ。
「はい。彼女は私を心配していまして。」
『話したのですか?』
「はい。彼女以上に信頼のおける人はいません。」
『さしずめ、その情報は彼女が?』
「申し上げられません。」
『なるほど…。彼女は私のために働く気はあるでしょうか?』
「ないと思います。あの子を縛れるものなんてありません。あの子は自由人で気分屋です。自分の欲求で面白いと思ったら関わるし、面白いと思わなければ関わりません。」
『彼女はいつもあなたのためには動くそうですね?あなたのお願いなら聞くということですか?』
仕方ないな、これは言っておかないと。会長も今回見境なくなってるからな、未羽が会長の道具にされるのだけは絶対に阻止しないと。
「彼女は冬馬くんとも太陽とも『ある点では』やりあえる子です。彼女自身の防壁は高いですよ?そしてそれ以前に私はあの子を守るためなら会長とでも戦いますよ?」
『…なるほど。彼女に手を出すのはやめておいた方がよさそうですね。』
会長が電話の向こうでふふふと笑う。
「私ごときは会長には大したことありませんでしょうが。」
『あなた自身は。』
ちょっとはフォローするとかしてよ!
こういうのは人間関係を円滑にするための謙遜とかも入ってるんだよ!
あまりに即答で凹むじゃないか!
『ですが、あなたはいろんな方に大切にされている。あなたを敵に回せば、上林くんも、相田くんも、新田くんも、そして俊も、一年生の子たちもあなたの方につくでしょう。それはあなたの魅力であり能力の一つですよ。』
「会長。」
『そして何よりまいこさんがあなたを庇うでしょう。あなたと私が敵対することでこれ以上ないデメリットです。ですから私はあなたを敵には回しませんし、あなたを敵に回すことにならないよう横田さんに手を出すことはしませんよ。』
やっぱり行動原理はこめちゃんかい。会長様は本当にぶれないなぁ。
『それより、相田さん、分かっていますね?』
「…はいはい、やります。分かっていますよ。自分の仕事はきっちりこなしますとも。」
『期待してますよ。』
「はいはい、どうもです。」
投げやりな返事を会長に返して、そのまま電話を切った。
短めですみません(最近が1話あたり長すぎただけか!)。
ストックが少なくなったので更新頻度は3日に1度くらいに変更いたします。よろしくお願いいたします。




