日常が終わりを告げる日。2
鼻に一撃を浴びた俺は、遠のいた意識のなかで走馬灯のようなものを見た。
生まれは田舎の普通の町。
コンビニも近所に3、4件ある。
30分に一本は電車やバスも通ってる。
ごくごく普通のどこにでもある町。
ド田舎って訳じゃない。
顔は普通。
身長もそこそこの175ぐらい?
猫背だから低く見えるかもしれない。
でも普通と言っても、髭とか眉毛とか髪とか剃って整えたらの話ね。
今は落武者みたいな顔になってる。
多分…
俺は小中高と公立で、大学には行ってない。
就職した方が賢いと思った。
………それは、大学に行ったのはいいが行ってあそび呆けるより、働いて金もらってる方が生きてる心地がすると思ったから。
それと親が嫌いでコンマ一秒でも家を出たかったから。
家を出て一人暮らしをはじめてから親とも疎遠にり連絡も一切しなくなった。
就職先は五年ぐらいまともに働いたが人間関係が嫌になりやめて、週3程度でバイトを始めた。
家賃やら光熱費やらタバコ代とか払わないといけなかったから。
趣味で始めた小説もうまくいかず、一冊出したがそれのみで、売れずに編集者に捨てられた。
それから、3年ほどたった頃だろうか?
両親が病気で亡くなったとの知らせを聞かされたのは…
まさか、同級生が近所に住んでて、うちの親と連絡とってた何て知らなかったし、ましてや顔を近所で一度も合わしてないし、名前も知らない。
弟と妹もいたが、今どうしてるか知らない。
戸籍は親元に残ってたらしく、財産はある程度貰えた。
それから十年ぐらいだらだらとバイトしながら、売れるわけもない小説を書きながら今に至る。
書いた小説は今までで百冊を越え出版社に出してみたが全部蹴られた。
まぁ、自分の好きな話を書きまくって、それを読んで満足してたし、気にしてない。
でも、今日あの娘が現れて、世界が動こうとしていることは確かにわかった。
当たり障りのなかったこの日々が当たり障りのある日々に変わろうとしている。
まるで自分が書いてきた、小説のように………
目が覚めると、心配そうな顔でのぞきこむ彼女がいた。
どこからひっぱりだしてきたのか上に白いワイシャツをきて、下に男物のトランスを履いてる。
なんと、まぁイヤらしい格好なこって!じゃなくて!
「また、鼻に喰らいたいですか?」
「スイマセン。勘弁してください。」
両手で鼻を塞ぎながら、その姿を盗み見る。
彼女は額に青筋を立てながら、拳を握っている。
(女の子がそんな顔しちゃいけません!)
「ともかく!速く支度をしてください!あまり時間がありません。」
「いや、もう少しきゅ…………」
「30分も寝てましたから大丈夫です!」
「あっ、はい。」
床から飛び起き、支度を始める。
(支度っつっても何を用意しよう?)
「服などは向こうで用意するので、適当に貴重品等の詰め込みを。」
頭のなかで考えた事がわかるらしいのであまり口にしなくてもいいらしい。
(てか、キャラがコロコロと変わってるよな?最初のイメージは恥らってたり、ちょっと天然ぽかったのに………)
「誰が天然ですか!速く支度をしてください!一人で来させますよ!それと、風呂はいって髭とか剃って来てください!みっともなくて目も当てられません!」
そう言われ、仕方なく風呂場に向かいながらシャツをあっちにポイッ。
ズボンをこっちにポイッ。
そしてトランクスに手をかけたと同時に背後からバッタさんの特撮顔負けの跳び蹴りを喰らった。
どうやら彼女は読心術と格闘に関してピカイチなようだった………
「がはぁっ!はぁーっ。はぁー。」
意識を取り戻したと同時に空気を肺いっぱいに取り込む。
(こんのっ!暴力的なやつは)
「んっ?なにか言いましたか?」
屈伸しながら、こちらを見ずに呟く。
「世界がパニックになる前に死にたいらしいですね♪行くのか、逝くのかハッキリしてください。それによって4thと5thに連絡いれないといけないので。」
顔が怖いです。いや紫色のオーラがユラユラ見えてますよ?
やめて!目だけ見開いて無表情はマジで!怖いからっ!
「ほんと、スミマセンデシタ……」このとき俺は最上級の土下座をした。
それは、正座をし頭を床に付けるタイプじゃなく、気を付けのまま正面を床に付けた状態。
「そっそっそっ……」
(よしよし。この姿を見て己の行いを少しでもやり過ぎましたと後悔しやがれ!)と思っていたのだが…………
「そんな格好で反省してるんですかぁっ!」
と、怒鳴られた。
怒鳴られて、気付く。
パンツ一丁で床に寝てる姿なんか、ただの変態か変態だっ!
「風呂っ行ってきます!」
顔も見ず、ほぼ全裸で風呂にやっていく。
…………
ポチャンっ。
(そういや、さっきの格好惨めだよな~まぁ、非!日常!みたいな感じでいいけど、名前って聞いたっけ?1stって呼ばれてたけどあの娘の名前もしくは呼び方は何なんだろうか?4thと5thってどんな感じなんだろうか?気になる。)
ブクブクブクブク……………
ザバァーッ!!!
剃った!整えた!髭とか下のとか!
えっ?下は整えないの?(・・;)
誰と喋ってるかって?鏡の向こうの別人のおっれ♪
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
ビクゥッ!
「くだらないことしてないでさっさとして下さい!」
「酷い言われようだな。」
言いながらわざと隠さずに出る。
まさか、その格好のまま出てくるとは思っていなかったらしく面食らった顔で上に下にと繰り返し視線を動かしている。
「あっあわわっ」
顔を赤くし、耳先まで赤くし足りず、頭から湯気がたっている。
「その、そっ粗末なものを隠して下っさい!」
「そこを退いてくれないと、バスタオルが………」
洗濯用の粉石鹸が投げられた……
しばらくして正気に戻った彼女は涙目で部屋の隅で体育座りのまま虚ろな目でブツブツ何か言ってる。
「あんなものを生まれてハジめてみた。あんなグロテスクなものうま、マレテ……」
いや、正気じゃねぇ~な。
「さてと、俺は持ってくものを~♪この2月の雑誌!コスプレ特集と!そしてこの6月の水着とくしゅ………」
目覚まし時計がこめかみにクリーンヒットした。
おふっ…
「い、いりません!そんなもの4th、5thに見せれませんし、そんなもの持ってる人に会わせられません!穢れる!純粋な無垢なあの子達がっ!」
途中から明後日の方向に向きなが、拳をガッツポーズのようにして言ってらっしゃる。
(おぉ~い。戻ってこ~い。ルールルルルルルルー)
「はっ!とにかく携帯とか、その辺のものを見繕ってください。」
「へぇ~い」
そして俺は、支度。もとい見繕いを始める。
携帯と充電器等一式。ひちゅじゅひんだ!言えてない...
アクセ類。これはお守りの代わり。
それと文庫本を一冊。これは俺がはじめて出した、生涯最後の一冊。これだけは持ってきたい。
「なんの本ですか?錬金術とか魔法書の一種ですか?実物は見たことがありませんが...」
珍しそうにその様子を覗こきこんできた。
「そんなんじゃないよ。これは俺の本。」照れながら答える。
彼女は何も言わなかった。
まとめてみると、小さいものだった。
左肩から右腰に鞄をかける。
昔流行ったメッセンジャーバックみたいなやつ。
真っ赤でメッシュ生地の通気性のいいやつ。
柄はなくシンプルなもの、チャック等の部分も赤いやつでかける部分は白っぽい色だ。
一番のお気に入り。
「いい色ですね♪準備はそれで終わりですか?」
なにか懐かしそうに、こっちを見ながら聞いてくる。
「あぁ、これだけでいい。」
住み慣れたこの部屋をぐるりと見回し、物思いにふけていると...
「では、移動します。しばらくのあいだ眠っていてください。」
「えっ?」不意に声をかけられそちらを振り向く。
チラッと見えたのは銃器の様なもの?
次の瞬間俺は顔から床に意識とともに落ちた。




