[物語の始まりは電源ボタン]
数ヶ月たって、学校中にうわさが広まった。
「なんか、これが(小指を立てて)これらしいよ(お腹のふくらみを表現)」
とにかく、こんな話を俺はよく聞いた。誰のことをさしているのかは定かではなかった。どうして、こんな噂は中学ではよく広まるのであろうか。思春期という毒牙にやられたアホは男たちが、言いふらしているヘンテコな噂話にきまっていると俺は思っていた。
生徒会室にいくと、奈津子ちゃんが座っていた。
「おはよう」
彼女は笑顔で挨拶をしてくれた。
「お、おはよう」
俺は、もちろんぎこちない挨拶をした。彼女のことは好きだと思う。でも、やはり少々固めになってしまう。俺は、女兄弟がいないからか少々女の子が苦手である。コイツはモテないだろうと、思われる男であっても女兄弟が居る男は、なぜだが女の子の扱いが巧いのが世の常だ。今からでも、遅くはないのだろうか。お母さんに頼みたいところである。
そんな冗談を考えながら席に着いた。我ながら偏屈な人間だと思った。
「で、先輩たちは?」
俺は、聞いた。
「ああ、なんか先輩たちだけ先生に呼ばれたらしくてまだこないってさ。さっき、森本先輩から連絡がきたよ」
「あ、そうなんだ」と僕は、返事をした。そして、心の中では何かが踊り始めていた。まさか、まさかの展開とはこのことだろう。努力とは、自分の意志で行い、自分を追い込んで行うものだが、大抵は空回りしてしまうことが多い。しかし、このような偶然に空回りなど存在しない。
どうしてくれようこの状況。俺は、思った。何を話していいのかさっぱり思いつかない。うーんと唸るばかり。いや、彼女は平然と本を読んでいる。しかし、近所の本屋で買ったであろうカバーがついている。阿弗利加書房と書いてある。なんと読むのだろうか。まさかアフリカではあるまい。本のサイズからして漫画ではない。文庫でもない。何を読んでいるのか気になってきた。
「ねぇ、何読んでるの?」
初めからこれを聞けば良かったんじゃないかと我ながら思ったのだった。
「ああ、この本?えっとね……カラマーゾフ」
「ああ、カラマーゾフね」
か、か、カラマーゾフ。なんじゃそりゃ。彼女はよくわからない本を読んでいる。カラマーゾフとはなんぞや。なんかの料理の本であろうか。話題を変えねば。
「そういえば、その髪のブックカバーってどこの本屋さんの?なんか難しい漢字の本屋さんだよね」
「なんて、読むでしょう」
彼女は、俺にいたずらな表情で質問を質問で返してきたのだった。なかなか可愛いのです。そういうとこ。
「うーん。アフリカかなと思ったんだけど」
「あれま。正解ですね」
彼女は、まさか一発でというような表情をし、残念そうだった。これは、これで不正解だったのかもしれない。仮に、俺がアヒリカとか言っていれば、その後に彼女の得意げな表情を拝めたのかもしれない。むむむ。至極残念。
結局、30分しても先輩たちは現れなかった。とてもとても、長い先生たちからの呼び出しをくらっているのか。いやしかし、二人きりの時間はとても嬉しいのだが、緊張しすぎて疲れさえ感じてきている状況であった。俺は、また何か話の種はないだろうかと辺りを見回した。すると、あの古ぼけたパソコンが目に入ってきた。
「そういや、こないだ俺パソコン直したんだ」
「へーすごいじゃん」
彼女は、驚いた表情を見せた。なぜだろう。どうやら、俺はパソコンなど触るような人間には見えないらしい。正しいのだが。
「まぁ、天才ですから」
「はいはい」
俺は、また、あの古ぼけたパソコンに電源をつけてみた。そして、いつも通りの真っ青な画面が登場したのだが、数秒たっていきなり画面に文字が表示された。
「サンカカンリョウ。プログラムノジョウケンガトトノイシダイジッコウスル」
参加完了?条件が整い次第実行する?なんなのことだろうか。そして、また数秒後にはパソコンの電源がプスンと落ちてしまった。俺は、なんども電源ボタンを押したが反応はなかった。
「どしたの?」
本を読んでいた彼女が俺を呼んでいた。いいや、なんでもないよと俺は答えた。なんだったんだろうか。誰かのいたずらだろうか。いずれにしても、目の前のパソコンはうんともすんとも言わない。ただの産業廃棄物になったらしい。先生ごめんなさい。
「ねぇ」
またしても、彼女に呼ばれた。
「ちょっと、こっちきて」
俺は、彼女の方に歩いた。彼女が座っている椅子の横に行くと彼女は俺に抱きついた。一瞬何が、なんだかよくわからなかった。
「あたし、君のことが好きなんだ」
「え?」




