第十五話「エルフ・9/アギト国・2」
エルナ王国に派遣した人たちが大量の食糧と共に帰って来たのは僕が交易を提案してからひと月が経過したころだった。結局交易以外で食料の確保をする案は出なかった為にかなり危ない状況にあったけど無事に食料を確保する事が出来たことで一安心する事が出来た。
畑の方も拡張して収穫さえ出来れば何とか養える分は確保できそうではあるからこの一年を乗り切る事が出来れば何とかなるかもしれない。
「魔獣の骨とか角とかがめちゃくちゃ高値で売れたぜ。向こうじゃ魔獣の食えない部分は高級品扱いみたいだ肉もそこそこの値段で売ってくれるとよ。正直魔獣の肉を売って他の食料買った方が手に入る食料は多くなりそうだったぜ」
「そうなると今後魔獣の肉はなるべく売却用に取っておくべきか。それが出来る程の余裕が出来れば、になるだろうだがな」
偵察してきた人の話にベルゴさんがそう完結させていた。実際、魔獣の肉を売りに回せるほど余裕はないからね。少なくとも小麦が収穫できるようになるまでは食べられる物は何でもなんでも食べている状態だからね。今年の冬は何とか餓死者を出さないで済むかもしれない程度の備蓄量しかない。
それでも交易で多少なりとも食料を買い込むことが出来たのは重畳だったね。エルナ王国もそこまで余裕はなさそうだけどそれでも買えるだけマシだ。
「エルナ王国に関してだけどどうやらあまり良い情勢ではなさそうだったぜ。なんでもエルナ王国の南にも国家があってそこが厘並みの大国でそちらを警戒しないといけないらしい。そのせいでアギト国とかもう一国と戦力差が広がっているらしい」
「ふむ、エルナ王国に頼ってばかりいては滅びた時にこちらも共倒れになる可能性が高いか。やはり重要な部分を他人頼りにするのは得策ではないな」
エルナ王国もエルナ王国で色々と問題を抱えているようだな。僕たちから見れば頼もしい大国だけど上には上がいるってわけか。上すぎてこちらかだと天井が全く見えないくらいの差があるけどね。
「とにかくご苦労だった。これで当面は大丈夫だろうが定期的にエルナ王国に交易の為に向かってもらう事になるだろう。頼んだぞ」
「了解です」
とにかく、エルナ王国を永続的に頼る事は出来なさそうだけどそれでも交易相手としては十分すぎる国家である事が知る事が出来たし十分すぎる成果だったと言えるかな。これからも交易相手として利用させてもらうとしようかな。
一方、アギト国では度重なるエルフ族討伐の失敗を受けて上層部は荒れていた。これまでの討伐軍で6千以上の兵を出しているがそのうち半数を失う程の損害を出していた。この損害は決して無視できるものではなかった。イルミテット王国との戦力差が縮まってきている中で余計な損害を出すのは得策とは言えず、上層部では意見が割れ始めていた。
当初はエルフ族を討伐し、奴隷とする事でイルミテット王国との戦争が始まった際には使い捨ての駒として利用する予定であった。しかし、想定外の損害を出したことでエルフ族を討伐する事で得られる利益よりも損害が勝っている状態となってしまってこれ以上の討伐軍を派遣する行為はただのプライドの為に行う事になるだろう。
しかし、それでも蛮族と見下していたエルフ族にいいようにやられているという事実に苛立ちを抑えきれない者達はいた。それがゼルム将軍を始めとする派閥である。ゼルム将軍は外縁部の村々を襲撃して利益を得る方法を提案した人物でもあり、人間至上を掲げ、エルフ族を見下していた。そのため、彼は今回の討伐に対して最も乗り気であったのだ。
「このまま見逃していれば我が国の沽券にかかわる!」
ゼルム将軍は何度も上層部に対して討伐軍を派遣する許可を求めてきた。それも自らが率いるとまで宣言しており、その異様とまで言える程執着を見せていた。
「ゼルム将軍、貴殿程の人物が失敗するとは思っていない。しかし、現状では時期が悪すぎる。エルナ王国はともかく、イルミテット王国は急速に力をつけてきている。彼らに備える意味でもこれ以上無意味な派兵は許されん」
ゼルム将軍が直談判を行った時にはアギト国の上層部は討伐軍の派遣は行わいという方向で話が進み始めており、彼一人の言葉に行動を方針する事は出来ない所まで来ていた。
しかし、それで引き下がるほどゼルム将軍はプライドがないわけでも、ただただ直談判したり無断で兵を率いる程愚かでもなかった。むしろ直談判を可能にすることが出来る程度には理知的であり、策略家でもあった。
「であればこれよりイルミテット王国に攻め入りましょう。幾度か兵を率いて侵略を行い、国力を削ぐのです。5千の兵を貸していただければ国境部の砦をいくつか落としてきましょう」
「それでイルミテット王国との戦争になったらどうする? 勝てるのかね?」
「無論です。イルミテット王国は兵数では膨大になっていますがそれを率いる将までは育っていません。むしろそれほどの大軍を率いたことのある将もおりません。大軍を出せば必ず勝てます」
ゼルム将軍はアギト国最高の将であり、かつては何万もの兵を率いて戦った歴戦の猛者でもある。そんな彼が自信満々にそう告げたことで上層部も段々とその気になっていった。
「であればイルミテット王国の国力を見事削ぐことが出来たらエルフ族の討伐を許可しよう。それまでは討伐は行わずに静観する。それでいいな?」
「勿論です。5年以内に全て片を付けて見せましょう」
こうしてアギト国はイルミテット王国の国力を削ぐことを優先し、エルフたちの対応を後回しにする事となった。そして、ここで得られた時間によってエルフ達の部族連合は更なる発展を遂げる事に成功し、アギト国は後の歴史に大きな影響を与える事に大帝国の前身を潰す唯一の機会を逃す事になるのだった。




