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なぞとき



「単刀直入に聞くが」



 無言のまま約三十分。

 普通の令嬢であれば、疲れたと音を上げる所であるが、レジーネはそういった普通の令嬢とは昔から違っていた。


 それはただ単にリムタス家が没落家族だったから、という単純な理由ではない。



 表現しにくいが、レジーネにはかつて生きていた時の記憶があった。

 その中で自分が生活していた世界は確かに色々と便利だった気もするが、自らの力でやらなければならない部分も多々あり、そのお陰でなのか、レジーネとして、今の人生をスムーズに生きていけていると考えていた。


 そうやって呑気に過ごしていた子ども時代。


 昔から時折、不思議な経験をしていたが、それが一番顕著に出てきていたのは眠っている時だった。

 夢に出てきているのはレジーネで、それを自分が俯瞰して見ているという事に気が付く。


 夢で見たものが現実に起こってしまった時には戸惑い、誰かに伝えたかった。

 それは、自分一人で抱えるには重すぎて、いつも近くに居てくれる姉に頼ってしまった。

 初めは冗談半分で聞いていた姉も、何度か繰り返す内に力を貸してくれるようになった。



 頭に浮かぶのは、この世界では見たことのない様々な四角形をした箱に映るものや、ソフィオーネが大好きで読んでいる小説。


 たまたま夢の中で見てしまった一文。

 レジーネはそれを読んで、自分がそこに書かれている存在なのでは、という事に気付いてしまう。


 何故そんな不思議な現象が起きているのかは分からないが、夢の中で知ってしまったレジーネは、その通りに動かなければならない、と、思い込んでしまった。




「君、もしかして転生してきたんじゃない?」




 真剣な面持ちで聞いてきたフィーバーフューは、レジーネの返答を伺う。

 その言葉に反応すれば彼女は自分と同じ立場にいる、という事だから。


 もし、そうであれば、彼女の今まで言ってきた突拍子もない言葉や行動が合致する。


 だがいつまで経っても彼女から答えはなく、首を傾げ「転生って?」と聞き返されてしまった。




「レジーネ。君は『花の国シリーズ』を知らないのか?」


「何ですか?それは」


 彼女からの答えにフィーバーフューは言葉を失う。


 なら今までの言動は何なのだ。



『お姉様は私を殺そうとした罪で遠い辺境の地へ送られてしまうの。けれど安心して。そこで素敵な辺境伯と出会って幸せになれるから』


 などとレジーネが人目を憚らず話していた場面に遭遇してしまった時には、思わず「何を言う」と飛び出して行きそうになってしまった。


 それ以来、フィーバーフューは時折時間を作っては彼女を監視する様になっていた。


 それはせっかく自分がここまで平和に作り上げた世界を壊されたくなかったから。

 だが、彼女は戦を企てようだとか、自分が国を陰で支配するなどといった類の事は考えていなさそうで、毎日、ただ楽しそうに呑気に生活している様に見えた。

 その副産物として、冷害に強い麦の開発やまたそれに伴い国全体の納税額も増え、国費は潤う事が出来た。


 彼女の言葉にリムタス家の生活が以前の様に戻った事は事実で、彼女が王太子に会いたいが為にそうしてきたのだという事は、監視していて知った事だ。


 だが、何故、そうなる事を知っているのだ。

 未来を見る力でもあるのか。

 周りの誰もその事に疑問を抱かないみたいだが、彼だけは違った。

 何故ならこの世界の基本を把握していたから。


 そして、その理由を簡単に導き出す事が出来た。


 それは、彼女も自分と同じ『花の国シリーズ』のゲームに転生してしまったという事。


 タイトルは女性物っぽくはあるが、ゴリゴリの領土拡大ゲームであり、選択したキャラクターを演じ、自分の領土を拡大していく。


 ゲームをしている側ならそれでよかった。

 それはいつでもやり直しができるから。


 だが、実際、そんな世界に巻き込まれた彼がまず先に思った事は「死んでたまるか」という事。

 幼い頃、自分の頭にある事が実際に繰り広げられていき、何度も命の危機が訪れた。

 父親が戦地に向かい、息も絶え絶え帰宅した時には「こんな世界、クソ喰らえ」と思った。




 人が容易く死ぬ世界。




 ゲームの中では戦力10000だの25000だのといった数値が簡単に増えたり減ったりしていくが、これはその戦に徴収された人間の数だという事を何故画面の向こうに座る自分は想像できなかったのか。

 何故それは犠牲になってもらい、こっちを取ろうと容易く選択できていたのか、と、フィーバーフューは落胆した。

 いずれ自分も成長し、大きくなれば必ず戦わなければならない。

 つまり、死と対面しなければならないという事。


 彼は恐怖に身震いした。


 だからこそそれを回避する為に、また戦が起きたとしても出来るだけ負傷者は少なくあれ、と、国を内側から支えられるポジションについた。

 運の良い事に、この国の時期国王であるソレイユ王太子と同級生という立場も加わり、努力すれば発言は認められるまでに上りつめる事が出来た。


 

 やっと戦を仕掛けられる事の少ない、平和な世界を作り出せた。と、フィーバーフューが安堵していた時。


 一度男爵位にまで爵位を下げたリムタス家が再び子爵の地位を与えられたという小さな噂が耳に入ってきた。

 一度は関係ないと放っておいたのだが、何故滅多にない陞爵なんて事が可能だったのだと気になり、秘密裏に見に行ったら、事の発端はリムタス家次女レジーネの発言がきっかけだったという。


 冷害で穀物が取れなくなるという事も、実際ゲームの中にはあったし、政略結婚して国交を結び戦を優位に運ぶという表現もあった。


 だが、それらはゲームを操作していた頃のフィーバーフューにとってただの記号でしかなく、重要視することではなかった。

 しかし、この世界に来てしまってからは違う。

 ここでは皆が息をし、食事をし、生活しているのだ。


 笑い、泣き、怒り、また人を好きにもなる。



 確かにフィーバーフューが仕えるソレイユにも政略結婚の話は山ほど来たし、ゲーム上では誰と婚姻するかで戦力も変わってきた。


 しかし、今この国は他国が侵略して来ても直ぐ対応できる術を身に付け、実際、定期的に他国や他の領地の人間と会合を開催したりして、自国の強さをアピールしている。



 だから、平和になった今だからこそ、政略結婚なんて煩わしい事などせずに、ソレイユには自分が好きになった人と結ばれて欲しいと思うようになってしまった。



 ロマンチストと言われてしまえばそうかもしれないが、やはり、自分の知る範囲の人間には幸せになってもらいたい。


 その為に邪魔になる人間は容赦なく排除するのだ。




 フィーバーフューは、本当に心当たりの無さそうなレジーネ相手に、ため息を吐く。



「ゲーム……とか、知らないか?」

「ゲーム?」


 情けない事に、自分の早とちりだったか。と。

 今の自分は彼女にとって頭のおかしなことを言う人間になってしまったな。と、意を決した告白を後悔していた頃。



「ゲームって四角い前に座ってするやつ?」



「だったり、携帯してやるやつとか……って、お前なんで知ってる?」

 久しぶりに他人の口から聞いたその単語にフィーバーフューはつい反応してしまった。先程彼自身も口にはしたが、もし、ずっとこの世界にいる人間であれば、その単語は出てこない筈だ。

 まして、液晶を見ながらやる、とか。



「知ってる……というか、見ていた……というか」


「見てた?」


「はい。多分そう……です。私は出来なかったので」

「できない?」


 レジーネの言葉を反復し、彼女はまるで怒られているみたい、と錯覚して一歩後ろへ下がる。


「多分、ずっと見ていた……誰かの横で。……男の人?撫でられたり……そう。女の子はよくその隣に座って楽しそうにおしゃべりしてた」


 何かを思い出しながらぽつりぽつりと言葉に表す。


「その中で多分、私はソレイユ王太子様の名前やお姉様の名前を聞いていました」


 一度言葉にしてしまうと、不鮮明だった映像がはっきりと見えてくる。


「そこにいる女の子が『私、王太子ルートが好き』と言って、楽しそうにおしゃべりしていたり……鏡に映る今の私と同じ顔をしたレジーネがそのゲーム?に映ってて。あとはたくさんの絵がかいてある本があったり。その二人は思い思いに楽しんでました」


 フィーバーフューは頑張って言葉を繋げようとしているレジーネの話を聞きながら、頭の中を整理していた。



 レジーネの記憶にあるのは、やはりゲームの『花の国シリーズ』に違いない。

 そして、プレイはしなくとも間接的に知っている。『花の国シリーズ』はイラストが美しく、女性層にも人気があったらしく、そういった中で一部の人間は……。




「二次創作?」




 彼はポツリとその単語を漏らし、そして何かが繋がった様な気がした。


 主となるゲーム自体に、前述している誰かのルート、という事はない。

 だが、創作活動をする人間はお気に入りのキャラクターを主人公に、妄想力を働かせて楽しんで話を作るらしい。


 もし、ここが『花の国シリーズ』本体でなく、それを軸とした物語の中であれば……?



 そこまで頭を働かせたフィーバーフューは、自分自身の予想を遥かに超えているであろう自らの転生に、考える事をやめた。



 ここは確かに『花の国シリーズ』の中である事に違いはない。

 

 けれど、この世界でここまで自分が動いてきたのは自らの意志だ。


 誰かに操られ、動かされているなんて考えたくもない。



 フィーバーフューは、何かがフッと吹っ切れた面持ちでレジーネを見下ろす。




「今まですまなかった」

「え?ええ?突然何がですか?」

「俺が今日話した事は忘れてくれて構わない。分かったとしても、俺も今の生活が気に入っているし、どうこうするつもりもない。だからお前もお前らしく生活していけばいい」


 今まで硬く鋭い空気を纏っていたフィーバーフューが、今や憑き物が落ちた様に穏やかに見える。


「じゃあ、まだフィー様の事好きでいてもいいですか?」

「何だお前。さっきは『なかった事に』ていっていたじゃないか」

「だって、私らしく生活していけばいいって言ってくれたじゃないですか。なら、私はまだフィー様の事が好きなので、やめたくないです」

「でも、俺は誰かと婚姻を結ぶとかそういった事はまだ」

「ソレイユ王太子様がいらっしゃるからですか?」

「ああ。それもあるな。ひとまずあいつらにくっついてもらって後継産んでもらわないと、せっかくここまできたのに、どっかの知らねぇ誰かに王座を奪われちまう事になるから、早くして欲しいんだよ。なのにソレイユはウジウジして中々動かない」

「早くお姉様と結ばれてほしいということですか?」

「まぁ、そういう事だな」


 まるで悪戯っ子の笑みの様にニヤリとするフィーバーフューの顔は、やはり格好いい。


 一度は抑え込んでいた彼に対する恋心が、そのままでもいいと言われてからドクドクと煩く鼓動を続ける。



「では、同志!という事で、今は一つ手を打ってあげます」

「それは頼もしい」

「でも、終わったら待っていて下さいね。色仕掛けを使ってフィー様を落としにかかるので」


 

 レジーネは言いながら一歩大きく近付き、楽しそうに宣誓する。



「そんなに簡単に落ちねぇよ。せいぜい頑張れよ。俺様ルート攻略を。な」




 今度は拒絶されなかった。


 自分の気持ちを認めてくれたフィーバーフューをレジーネは嬉しそうに見上げる。


 そしてこれからやるべき事は、大好きな姉がソレイユ王太子と幸せになってくれる事だ、と、二人の背中を押す為に努力しようと誓った。






ここまでお読み下さりありがとうございます。



少々分かりにくくあるかもしれませんが、一応、ここで完結になります。



また次の作品も楽しめるものになるよう、頑張りますので、よろしくお願い致します。


興味を持って下さりありがとうございました。



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