091. 孤児
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夕食後、部屋でくつろいでいるとノックがあり、出てみるとセリーナとシャロンだった。何か相談したいことがあるらしい。
「アラン、私たち帝国軍も、王都にいる間に人材の確保をおこなったほうがよいのではないでしょうか?」
先程ダルシムから文官候補や、冒険者の雇用状況の報告があったばかりだ。報告によると予想以上に順調で、既に文官候補は三十人以上、冒険者は八十人近くの人材の確保ができているとのことだった。
もちろん、正式に雇用したわけではなく、文官候補の人材は試用期間を設け、冒険者達はとりあえず樹海の奥までの護衛を依頼するという形をとっている。
恐らくセリーナ達はその報告に影響を受けて、俺達帝国軍も動いた方が良いのでは、と考えているのだろう。
「今の時点では特に考えてなかったな。今、集めても忙しくてきちんと教育していくことができないだろう? それとも、誰か目を付けている人がいるのかな?」
「いえ、それはまだですけど、孤児はどうかなってシャロンと話していたんです。アランの言う通り、まだ訓練とかは出来ないと思うので少人数でも確保できればと思って……」
「なるほど…… 孤児か」
確かに孤児は良いかもしれない。
セリーナ達の部下になるのだから、彼女たちの年齢は近いほうがいいだろうし、家族がいない孤児ならば機密が漏れにくいというのもある。
領地の運用が上手くいっても、直ぐに条件に当てはまる人材が確保できるとは判らないし、人材の確保をおこなっておくべきかな?
少人数であれば、あまり負担にはならず、良いモデルケースになるかもしれない。
「いいんじゃないか。もし、樹海の奥の街に行ってもいいっていう孤児がいれば、の話だけどな」
「よければ、私とシャロンで孤児院に行って調べてみます」
「そうか。じゃ、二人に任せよう」
例え集まらなくても特に問題になることはないし、彼女たちに任せることにした。
その後の話し合いで、孤児を連れていくにあたっての条件などを話し合って打ち合わせを終えた。二人は、さっそく明日孤児院に行ってみるらしい。
◇◇ セリーナ視点 ◇◇
翌朝、シャロンと二人で宿から一番近い孤児院に向かった。大尉によると、孤児の人数は六十人程度で、王都でも五指に入る大きな孤児院とのことだった。
孤児院は、宿から三十分ほど歩いた王都郊外の寂れた地区にあった。
孤児院のドアをノックすると女性聖職者、シスターと思われる中年の女性が姿を現した。大尉の情報通り、孤児院は教会関係者によって運営されているようだ。
「私達は、冒険者クラン、シャイニングスターの者です。院長様にお会いして相談したいことがあるのですが、いらっしゃるでしょうか?」
不審な者に見えないように、先日購入したキレイめの洋服を着ている。帯剣していることから、辛うじて冒険者と判るだろう。
「まぁ、可愛らしい冒険者様ですね。院長様は、もちろんいらっしゃいます。こちらにどうぞ」
入り口近くの応接室のような部屋に通された。すぐに院長らしき年配の女性がやってきたので改めて名乗る。
「私は、冒険者クラン、シャイニングスターのセリーナといいます」
「シャロンです」
「まぁ! シャイニングスターというは、確かドラゴンを討伐したという冒険者の方々ですわね? 子供たちが大騒ぎで話していました」
「そうですね。まずはこちらを。これは私たちの主、アラン・コリント卿からの寄付になります」
そう言いながら、金貨一枚、一万ギニーを差し出した。
「まぁ、こんなに!? ありがとうございます。コリント卿に私たちの感謝をお伝えください。…… それで私に相談というのは?」
「私たちは今、人材を募集しているのです。この孤児院に私たちと一緒に領地にいってもよいという孤児がいれば、と考えているのです」
「子供達を開拓民として連れていきたい、ということですか?」
「いえ、開拓民というわけではなく、何らかの形でコリント卿にお仕えする人材と意味です」
「まぁ! 男爵様の家臣に取り立てて下さるというのですか?」
「家臣……かもしれません。ゆくゆくは側仕えや料理人、武官や文官になるかもしれません。そういった人材です」
「まぁ! なんて素晴らしいお話でしょう! …… 年齢は何歳ぐらいを御希望なのですか?」
「成人近くの年齢で、十四歳から二十歳くらいでしょうか」
「あぁ…… やっぱり。…… 孤児院にはその年齢の子供はいないのですよ。十二歳が最年長です」
「え? 孤児院では成人の十五歳まで面倒をみるのではないのですか?」
「もちろんそうしたいのですが、孤児院にはその余裕がないのです。十三歳を迎えた子供たちには、院を出て自活してもらうようにしています」
そこまで孤児院の経営が苦しかったなんて……。
十二歳…… 今の状況では、さすがに若すぎる。せめて自分の面倒をみることのできる年齢でないと厳しい。
「どこの孤児院も同じ状況ですか?」
「そうです。この王都や近隣の街の孤児院は同じ状況です。孤児の数に対して孤児院が少なすぎるのです。やはり十二歳では厳しいのでしょうか?」
「はい、私たちもそれほど余裕があるわけではないのです」
「そうでしょうね。…… 残念ですが仕方ありません」
院長はしきりに残念がっていたが、今の私たちに子供の面倒をみる余分な人手はない。余裕ができたら連絡する旨を伝え、孤児院をあとにした。
「簡単にはいかないわね。良い案だと思ったのに」
「本当ね。領地が整備されたら孤児を引き取って育てていくって感じにするしかないのかも」
シャロンと話をしながら宿に向かって歩いていると、アラートと共に仮想ウィンドウ上にマップが表示された。
(シャロン)
(わかってる)
寂れた地区だとは思っていたが、まさか強盗が出るような治安の悪いところだとは思っていなかった。予想通りに後ろから二人、前から二人が駆けてくる。
てっきり賊の類いかと思っていたけど、姿を現したのは、全員まだ子供といっていい女の子だ。いや私たちと同じ年齢くらいの少女もいる。
全員、木の棒を構えているが、お世辞にも様になっているとは言い難い。
「なんの用?」
「…… お金を貸して欲しいの。あと持ち物も全部」
そう声をかけてきたのは、十五、六歳くらいの少女でこんな事をするようには見えない。格好からすると貧民層の住人のようだ。
「もちろん嫌よ。貴方たち正気なの? こんな馬鹿なことしてただじゃ済まないわよ」
「ごめんなさい。でもこうするしかないの」
問答無用とばかりに木の棒を振り上げて襲いかかってきた。
棒をまっすぐ振り下ろす攻撃を難なく避け、懐に入ると鳩尾にボディブローを叩き込んだ。すぐ近くにいた少女も回転蹴りで腹を蹴り抜いた。
二人はたまらず崩れ落ちるように倒れ込む。どうやら呼吸ができないようで、しきりに呻いている。かなり手加減はしているし問題ないはず。
それにしても、この程度の技量で人を襲うなんて無謀にも程がある。
シャロンも問題なく後ろの二人を倒したようだ。
二分程呻いていたが、やっと痛みが治まってきたのか、呆然と地面に座り込んだ。
剣を抜き、先程話をした少女の首に添えた。
「ご、ごめんなさい、許して。…… 見逃してください。お願いします」
「はぁー……、話にならないわね。シャロン、私が見張っているから守備隊の人達を呼んできて」
「お願い! それだけはやめて! 迷惑料を払うわ。払うから許して。あの…… 今、お金は持ってないけど」
本当に許してもらうつもりはあるのだろうか。
「………… まぁ、被害もなかったし、襲ってきた理由によっては許さないこともないわ」
そう言うと少女達はぽつりぽつりと事情を話し始めた。
彼女達四人は姉妹で、このリーダー格の少女の名前はユーミ、その妹たちはカーヤ、ユッタ、マリーと名乗った。
彼女達には借金があり、三日後に返済をしないと娼館に売られてしまうとのことだった。
私達の格好を見て金持ちに違いないと考え、襲うことにしたようだ。発想が子供すぎて言うべき言葉が浮かばない。この年齢の子供がこんなにも幼いのだろうか。
「…… 借金っていくらなの?」
「三万五千ギニー」
「そんなお金、何に使ったの?」
「お母さんの薬代。借りたのは五千ギニーなんだけど、利子っていうのがついて、いつの間にかそんな金額になって……。お金を借りたヴィリって人は、返すのはいつでもいいって言っていたのに」
「…… 母親は?」
「結局、死んじゃった。その後、家を追い出されたからヴィリって人の所で世話になってた。そうしたら昨日、急にお金を返せって言い出したの」
「お金を借りたのはいつ?」
「一ヶ月前くらい」
五千ギニーを借りて一ヶ月で三万五千ギニー。そんな暴利な金利が許されているのだろうか。子供を食い物にする、かなりのたちの悪い業者から金を借りたようだ。
「契約書はあるの?」
「ある、と思う。見せられたけど、字が読めないから」
「…… 逃げようとは思わなかったの?」
「弟が捕まっているの。それに…… 逃げても行くところがないもの」
すっかり手詰まりのようだ。当然、父親もいないのだろう。
騙されて借金を負わされ、娼館に売られそうになっている彼女たちの状況を考えると、すっかり怒る気が失せてしまった。
(シャロン、どうする?)
(もちろん、助けるしかないでしょ)
「お金を借りている人に会ってみるわ。案内して」
「…… 分かった」
ユーミの案内でその金貸し業者の拠点に向かうことにした。
「ここがそうです。でも、今日の利子分を稼がないうちは戻ってくるなって言われてるんです」
「ふーん。随分と偉そうなのね。まぁ、気にすることはないわ」
アジトの入り口と思われるドアを蹴破って建物の中に入った。
「おい! 何だ、お前達は!」
金貸し業者の部下と思われる男に誰何されるが、問答無用でエアバレットで吹き飛ばす。
ヴィリという男は、地下にいるらしいので、地下へと続く通路で出会った男たちは全て魔法で吹き飛ばしていった。
吹き飛ばした男が十人を超えた頃、地下一階の部屋とドアの前までたどり着いた。ドアも問答無用で蹴破る。
「貴方がヴィリさん? ちょっと話があったので寄ってみたのだけれど」
「…… ここが金貸しのヴィリのアジトだと知っての狼藉だろうな」
「もちろん」
「…… 見ない顔だな。お前達、どこの組織の者だ?」
「言うと思う?」
「…… 言わないだろうな。まぁいい。で、話とは何だ?」
このヴィリという男には、私達が犯罪者の同業者に見えるようだ。
「ここに一万ギニーあるわ。これでこの子たちの借金を帳消しにして」
「おいおい、そいつらの借金は三万五千だ。一万じゃ全然足りないぜ」
「一万で十分でしょう? そんな阿漕な商売をしていると早死にするわよ」
「無茶いうな。こっちはちゃんと契約書もあるんだ。出るとこ出たっていいんだぜ?」
ちゃんと契約書はあるようだ。法的に有効なものなのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。こんな悪党の話に真面目に付き合うこともない。
「じゃあ、借金のことはもういいわ。私達、さっきこの子たちに襲われたの。この落とし前、どうつけてくれる?」
「はぁ!? こいつらがお前達を襲った? ま、まぁ、俺には関係ないな。そいつらは好きにしていい」
「そうはいかないわ。迷惑料を払って欲しいのだけど? 貴方がこの子達の面倒をみていたのでしょう? じゃ、あなたの組織の一員ってことになる。部下が払えないものは責任者が払う、当然のことでしょう?」
「………… いくらだ?」
「二人分で百万ギニー」
「ひゃ、百万!? そんな馬鹿な話があるか!」
「私達だって下手したら死んでいたかもしれないのだから当然でしょう? 払えないっていうのなら代わりのもので払ってもらうけど? …… 例えば命、とか?」
「………… 払いたくてもそんな金はない。これは本当だ。最近の騒ぎのせいで本当に金がないんだ。勘弁してくれ」
「最近の騒ぎ?」
「あのシャイニングスターだよ。お前達のところもそうだろう?」
「…… 確かにシャイニングスターには、私も思うところがあるわ」
「だろう? 俺は大金を貸している組織を三つも潰された。奴らやりたい放題だ。いくらなんでも無茶苦茶すぎる。冒険者だ、なんて言っているが、やってることは盗賊と同じだ。奴らのせいで、いくら損したか判らないぜ」
「…… でしょうね」
「そもそも奴らを怒らせた、あの襲撃のせいだ。あんな襲撃を企てた貴族のせいで、とんだとばっちりだぜ」
「貴族?」
「なんだ、知らないのか? 奴らが王都にきた時の、あの大がかりな襲撃の依頼主は貴族なんだよ」
「……ふーん、それは初耳ね。詳しく聞きたいわ。やっぱり自己紹介することにしましょう。私は、シャイニングスターA隊、隊長のセリーナ」
「同じくB隊、隊長のシャロン」
「………… お前達がシャイニングスターのメンバー、しかも隊長だと?」
「そう。この赤い腕章に見覚えはあるかしら?」
ポケットから腕章を取り出すとゆっくりとつけてみせる。
「あの…… 見たことはあります」
「じゃ、詳しく話してくれる?」
「…… わかりました」
この男の話では、襲撃の人手を集める際に、資金を提供し、頻繁に姿を現していた男に見覚えがあったとのことだった。
数年前、ある貴族の仕事を受けた時に見かけた代理人の男に間違いないという。
「その男は何という貴族の代理人をしていたの?」
「確か、ルチリア卿と言っていました」
ルチリア卿というのは聞き覚えがある。宰相の腹心の部下だという貴族だ。まぁ、証拠も何もない話だけど只の偶然だとは思えない。アランに報告する案件なのは間違いない。
「とても興味深い話だったわ。じゃ、話を戻すけど、一万ギニー貰ってこの子達の借金を帳消しにするって話と、百万ギニーを私達に払うって話、どっちがいい?」
「…… 一万ギニーのほうで」
「いいの? 何だか損させているみたいで心配になるわ。何だったら守備隊の人達に来てもらう? 知り合いだから、ここまで来てもらうこともできるけど」
「すみません。是非、一万ギニーの話でお願いします」
「じゃ、これね。気が変わったら私達の宿に来てくれて構わないわ。あと、この子たち、私が貰うけどいいでしょう?」
「もちろんです。こちらが契約書になります。今、男の子を連れてきますね」
このヴィリという男に、私の誠意が伝わったようで、その後はとてもスムーズに話が進み、何の問題もなくアジトをあとにした。
宿に向かう道中で、改めて姉弟たちの名前と歳を訊ねてみた。
ユーミ 十六歳、カーヤ 十五歳、ユッタ十四歳、マリー 十三歳、ハンス 十一歳。四人も姉弟がいるというのは、どういう気分なのだろう? 想像もつかない。
「あの…… 私達はどうなるの、ですか?」とユーミ。
「どうなる? 別にどうもしないけど、あなた達、行くところがないのでしょ? 今日は私達の宿に泊まりなさい。夕食の時にでも今後の話をしましょう」
宿に到着して、部屋の空きのある宿に案内すると居合わせた者に世話を頼んだ。
アランに相談もせずに色々と決めてしまったけど、大丈夫だろうか。さっそく報告にいこう。
◇◇ ユーミ視点 ◇◇
セリーナという女の子に案内された宿は、凄く立派な所でどう考えても私達がいていい場所とは思えない。この食堂で待っているように言われたけど、本当にここにいていいのかな?
お昼の時間になり、立派な服を着た宿の従業員と思われる人達が、大皿に載せた料理を食堂入り口のテーブルに次々と並べ始めた。宿泊客の食事かもしれない。
ここまで届く匂いからするとご馳走のようだ。あぁ、お腹が減った。最後に食べたのはいつだっけ?
「おねぇちゃん、お腹減った」
「ハンス、いまは我慢しなさい。夕食の時にはきっと何か食べるものをくれるはず。…… たぶん」
凄く体格の立派な人達が食堂に集まり始めた。冒険者? これがシャイニングスターのメンバーなの? 追い出されたらどうしよう……。
「ん? なんだ? この子供たちは?」
「あぁ、その子たちはセリーナ隊長がつれてきたんだ。面倒をみてくれって」
「ふーん、隊長の客か。お前たち、昼は食べないのか?」
「あの…… 私達はお金を持っていないので」
「…… お金はいらないよ。好きな物を好きなだけとって食べるといい。遠慮することはないぞ。余ったら夕食にまわされるから、どっちかっていうと片付けてもらえると助かる」
本当なんだろうか。あんなご馳走を好きなだけ食べていいなんて! でもこんな立派な格好をした人たちが嘘をつくとも思えない。
「本当に食べていいの、ですか?」
「ああ、本当さ」
「「うわぁー」」
途端に姉弟たちが騒ぎ始める。皆で恐る恐る料理が置いてあるテーブルまで行ってみた。
「凄いよ! おねぇちゃん、こんなの初めてみた」
私だって初めてだ。遠慮するなと言われたのだから多分、私達が食べても大丈夫。
「じゃ、みんな、頂きましょう」
あぁ、こんな食べ物があったなんて、信じられない。
お昼はさすがに食べ過ぎた。しかし、あの料理を前にして食べ過ぎるなというほうが無理な話だと思う。
午後は食堂ので、昼寝をしたりして過ごした。こんなにお腹が膨れたのは多分、みんな初めてだ。
夕食時になり、セリーナとシャロンが宿にやってきた。やっと今後の事が話せる。
「あなた達のこと、許可を取ってきたわ。あなた達さえ良ければ、このまま私達の仲間になるっていうのはどう? 食事と住むところは用意するわ」
「あの、私達は何をすればいいのですか?」
午後の間、ずっと考えていた質問をぶつけてみた。
「うーん、今は特にやってもらうことはないかも?」
信じられない! 特にやることもなく、食事と住む所を世話してくれるなんて!
いや、そんな都合のいい話があるはずはない。きっと今は言えない事情があるのかもしれない。
しかし、今朝とは比べものにならないくらい快適な暮らしだ。
何もかも、このセリーナとシャロンという女の子、いや、セリーナ隊長とシャロン隊長のおかげだ。
私はこの恩を絶対に忘れない。いつか絶対にこの恩を返すことを胸に誓った。
更新、遅くなりました。
活動報告にも書かせてもらいましたが、本日『航宙軍士官、冒険者になる』のコミック第一巻の発売です! 良かったら手にとってください。
やっと、この日を迎えることが出来ました。これも皆様の応援のお陰です。ありがとうございます!




