067. 討伐依頼 side クレリア
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◇◇ 一日前 ◇◇
夕食後にアランが打ち合わせのために皆を執務室に集めた。恐らく今日の昼間に開かれたというクラン会議の事についてだろう。
「近頃、樹海の奥で異変が起きているという噂があるらしい。冒険者ギルドではそれをスタンピードの兆候ではないかと疑っているんだ」
「スタンピード!?」
スタンピード…。スターヴェークでは、確か百年以上前に起こった災害だ。一千を超える魔物が集団で暴走し、村や街を襲い千五百名以上の命を奪った大災害だった。
魔の大樹海に接している、このガンツでスタンピードが起これば、それを数倍にする規模で起こるに違いない。
「しかし、これは確かな情報じゃない。いや、むしろ俺が掴んだ情報ではスタンピードの危険性は低いとみている」
あぁ、アランがそう言うならスタンピードは起こらないのかもしれない。しかし、探知魔法でそんな事が分かるのだろうか? いや、アランは情報を掴んだと言っているが、きっと精霊のお告げがあったに違いない。
ギルドからの依頼で、クランで担当した地区の魔物を間引くことになったらしい。確かにスタンピードが起こる危険性が低いとはいえ、何か出来ることがあればやっておくべきだと思う。
「分かりました。ではまた、A隊、B隊で行動するのですか?」とダルシム。
「いや、普通の魔物相手に五十人の部隊では効率が悪いだろう? クランを二班ずつの五つに分けようと思う。各隊を率いるのは、俺、シャロン、セリーナ、エルナ、リアでいこうと思っている」
アランがそう言うと、皆の視線が一斉に私に集まった。私も自分の耳を疑った。アランは今、シャイニングスターのメンバーが一人ずつ、隊を率いると言った。私が一隊を率いる?
シャロン、セリーナが、隊の指揮をとるのは当然のことだった。探知魔法に加えて、攻撃魔法の手腕、皆への的確な指示など、同じA隊で行動していた時にも感心することばかりだった。
二人は剣や魔法の腕であれば、既に私よりも上だ。正直、悔しいと思うが二人が懸命に努力してきた姿も見てきた。私の才能と努力が足りていないだけだ。
エルナは近衛にいた時から班長を務めていたし、風魔法の使い手としても近衛では随一だ。指揮をとるのに相応しいと思う。
しかし、まさかアランが私までも皆の指揮をとるのに相応しいと考えていたなんて!
アランは、何よりも実力を重視していると思う。精鋭が揃うこのクランで、セリーナとシャロンをA隊の隊長と副隊長に抜擢したことからも、それは明らかだ。そのアランが私を隊長に選んでくれた。
そう理解した瞬間、とても誇らしい心持ちで心が満たされた。あぁ、アランは私を認めてくれていた!
この役目、なんとしても果たしてみせる!
この打ち合わせの後、リーダー達と樹海の魔物の話を食堂ですることになった。ガンツの樹海側の状況を聞きたいらしい。
「樹海側で出会う魔物は、やはり一番多いのはグレイハウンドですね。次にゴブリン、オークでしょうか。あと数は少ないですがコボルトという魔物も狩ったことがあります」
「コボルトという魔物は、確か犬のような顔をしたゴブリンのような魔物でしたな」
「そうです。しかし、私達も一度しか遭遇したことがないですし、強さもゴブリンより少し手強いぐらいなのであまり気にする必要もないでしょう」
シャロンが樹海の状況を皆に説明していく。ガンツに近い樹海では出会う魔物の種類は、あまり代わり映えしない。もっと奥地に行くと様々な種類の魔物がいるというのはギルドで聞いたことがある。
「しかしなんと言っても一番の違いは、魔物の数が多いことですね。私達四人が一番多く出会ったのは二十六頭のグレイハウンドでした」
「なんと! その数のグレイハウンドを、たった四人で討伐されたのですか?」
「ええ、一度に襲われたら不味かったかもしれませんが、バラバラに襲ってきたのでなんとかなりました」
「なるほど…。さすがは我がクランのメインパーティーということですな」
あぁ、あの時は確かに少し焦った。もし、明日の討伐で、あのような群れに出会ったら、どうしよう。いや、なんとかしてみせる。そもそも普通の冒険者達は、なんとかしているのだから、私達に出来ないわけがない。
一通りの情報を伝え終わると話し合いは終わり解散となった。私室に戻ろうとしているセリーナとシャロンを呼び止めた。
「セリーナ、シャロン、ちょっといい?」
「なに? クレリア」
「あの…、私、指揮をとるの初めてだから、何か助言があったらと思って…」
「… 何も心配しなくてもいいと思う。いつものクレリアでいれば、何の問題もないはず」
「私もそう思う。それにクランの人達は経験豊富で、本来なら私達の指揮なんか必要ない人達よ。クレリアさんが普段通りにしていれば問題ないと思う」
「普段通りの私って?」
「クレリアさんは、どんなに危険が迫っていても決して慌てないでしょう? 大抵、私達よりも先に一番危険そうな魔物を片付けちゃうし…。だから大丈夫!」
そうなの? 私にそんな長所が? 全く気づかなかった… やっぱり相談してみて良かった! 何とか出来そうな気がしてきた。
「ありがとう! 出来そうな気がしてきた」
「きっと大丈夫。それにクレリアに手に負えないような魔物を探知したら、絶対に私達が駆けつけるから」
あぁ、私は本当にいい友を得ることができた…。
「頼りにしてる。ありがとう、セリーナ、シャロン」
二人と一緒に四階まで上がり、部屋の前で別れた。そういえば、エルナは私が隊長になった事について何も言わない。
「エルナ、私は隊長としてやっていけると思う?」
「もちろんですよ、リア様。私もセリーナ達と同じく心配していません。リア様と一緒に行動できないのは残念ですけど」
「そう…。では、今日は早く休みましょう」
みんなのお陰で自信がついてきた。明日は頑張る!
翌朝、クランの皆が揃ってホームを出発した。クランの担当の地区まで歩いて移動する。二時間程歩いて、ようやく担当地区に着くことができた。
「よし、では各隊別れて行動しよう。帰りはリア、エルナの隊に、俺やセリーナ達が合流するから、一緒にガンツに戻ろう」
いよいよだ! アランから大まかな進行方向を指示され、私達の隊も出発した。あぁ、探知魔法がない状況で行動することが、こんなに不安なものなんて…。改めて探知魔法の凄さを実感する。
斥候に長けた者を先行させたほうがいいのだろうか? いや、グレイハウンドの襲いかかる速さはかなりのものだ。斥候が襲われた時に、駆けつけて間に合うとも限らない。
私の役目は、きっと魔物を多く狩ることではなく、無事みんなを連れて帰ることだ。
「リア様、偵察に誰かを先行させたらどうでしょうか?」とダルシム。
「いや、それはやめておこう。それよりも何か音を出して魔物を呼び寄せるよう出来ないだろうか」
アランは、いつだったか大抵の魔物は、こちらの存在に気づくと襲ってくると言っていた。どこに魔物がいるか分からないのだから、魔物のほうから来てもらったほうが効率がよさそうだ。
ベルを持っている者がいたので、それを鳴らしながら進む事にした。
そのまま二十分程歩くと突然、一頭のグレイハウンドが藪の中から飛び出してきた。いや、後続もいるようだ。
「防御円陣!」
ダルシムがそう叫ぶと、たちまち皆が私を囲むように円陣を作った。飛びかかってきた一頭のグレイハウンドを隊員が斬り捨てる。まだ他に三頭のグレイハウンドがいた。
魔法を撃てるように準備は出来たが、皆が邪魔で射線が確保できない。隙間からかろうじてグレイハウンドを見ることはできるか、皆の頭越しに撃って当てられるだろうか?
やってみるしかない! 弓なりに曲がってグレイハウンドに当たる一発のフレイムアローをイメージして魔法を発動する。
フレイムアローは、ダルシムの頭の上を超えて弓なりに曲がり一頭のグレイハウンドの頭に刺さった。
当たる! 続けてフレイムアローを二発、皆の頭越しに発射し二頭のグレイハウンドを片付けた。
「おおっ!」
「凄いっ!」
これは最近出来るようになった技だ。予め三発分の魔力を準備しておいて、一発分ずつ消費して使っていく。アランやシャロン達がやっている方式だ。ようやく私も出来るようになった。
「リア様、お見事です!」
「ダルシム、手早く魔石と討伐部位を取ってしまおう。それから私を守るように円陣を組むのは不要だと思うのだけど…」
「僭越ながら申しますと、リア様はこの隊の指揮官で、隊の最大戦力でもあります。円陣を作り御守りするのは当然の事です」
… 確かにそう言われるとそうかもしれない。指揮官を守るのは戦いの鉄則だと習ったことではあるし、私がこの中で一番魔法に長けているというのも事実だ。では、しばらくこの戦い方でやってみよう。
グレイハウンドの魔石を取り終わると、再び出発した。
まだ先は長く、あまり魔力を使うわけにはいかない。あぁ、アランやシャロン達のように魔石から魔力を補給できればいいのに…。いつか絶対にあの技を習得してみせる。
一時間ぐらい歩くと五匹のゴブリンに遭遇した。いきなり藪の中から現れ、私達を見ると慌てたように逃げだすが、近くにいた隊員三人に斬り伏せられた。
何かおかしい。ゴブリンは、この樹海の中では、かなり用心深い。あのようにいきなり姿を現したのは初めて見た。
「注意して! ゴブリンは何かに追いかけられていたのかもしれない」
隊員がすかさず円陣を作り始め、魔法を使える者達が集中に入る。この隊のほとんどの者が魔法を使うことが出来た。
円陣を作って十秒程で、ガサガサと音がしてオークが姿を表した。複数いる!? 五匹ぐらいはいそうだ。
不味い、皆はまだ魔法の発動の準備ができていない。あと十秒以上はかかるだろう。それまでは私が食い止めてみせる!
私達を見つけ雄叫びをあげているオークの口に、フレイムアローを叩き込む。それを見て激昂し駆け寄ってくるオークの眉間にもフレイムアローを叩き込んだ。
「ウインドカッター!」
「フレイムアロー!」
魔法の発動の準備の出来た者から次々と魔法が打ち出された。残り三匹のオークは次々と魔法を打ち込まれて、その場に崩れ落ちた。
ふぅ、なんとかなった。魔法でなく剣や槍で相手しても、なんとかなったかもしれないが、より安全な魔法で倒せるのであればそれに越したことはない。
「さすがです、リア様。オークの襲来を予想なさるとは…」
「あのゴブリン達の様子がおかしかったの。この樹海ではゴブリン達はかなり用心深くて、あんな風には姿を現したことがなかった」
「なるほど… 用心深いゴブリンなど聞いたことがありませんが、さすがは魔の樹海ということですな。ゴブリンも生きるのに必死なのでしょう」
魔石と討伐部位を回収してさらに樹海を進む。やはり探知魔法の恩恵を受けないと狩りの効率は悪くなかなか魔物に出会わない。
昼食を挟んで狩りを続けたが、このあとに遭遇したのは、グレイハウンド六頭と四頭の二回のみだった。
やはりアランのいう通りスタンピードは起きないのかもしれない。出会う魔物が少なすぎるように感じた。
探索を続けていると離れた所から声が聞こえた。
「おーい、クレリア! 俺だ、アランだ」
アランだ! そろそろガンツに帰る頃合いなのだろう。アランはいつも時間に正確だ。時計の魔道具を持っているのかと思い聞いたことがあるが、持っていないとのことだった。精霊達に時間を訊いているのかもしれない。
「おつかれ、クレリア。どうだった?」
「大した数は狩れなかったわ。やはり探知魔法がないと厳しいかも…」
「いや、俺達だって大して狩れなかったよ。俺達のクランの担当地区は魔物が少ないんだろう」
アランに狩った数を聞くと、もちろん数では敵わなかったが、思っていたほど差があるわけではなかった。よかった。
「なんの問題もなかったかな?」
「ええ、怪我人もいないし、なんとか無事に役目を果たせたといった感じかしら」
「いえ、恐れながらアラン様。リア様の指揮は素晴らしいものでした。皆を気遣い、守り、完璧な指揮でした。恐らくアラン様でもこれほどの指揮は難しいと思われます」
「おぉ、そこまでか! やるじゃないか! リア」
アランに褒められると思わず顔が笑いそうになってしまう。ダルシムも褒めすぎだ。
それを聞いた他の隊員達からも次々と私を称賛し始めた。
「そうか、初めての指揮で凄いな。まぁ、俺の予想通りだけどな」
もう限界だった。思わず笑みがこぼれてしまう。
アラン達の隊と合流して休憩していると、セリーナ、シャロン、エルナの隊も合流してきた。
思わずセリーナとシャロンの所に駆け寄る。
「セリーナ、シャロン! 私、問題なく隊長を務めることができたの!」
二人は、少し驚いた顔をしている。
「当たり前でしょう? できないかも、なんて思ってたのは多分クレリアだけよ?」
ええっ? そうなの!? 私が皆からそんな風に見られていたなんて!
今日は、いままで生きてきた中で一番、自分が誇らしい日となりそうだ。
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