043. 計画の説明
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大筋では話が決まったので、皆を交えて話をすることにして、クレリア達の部屋にみんなに集まってもらった。
「クレリアと話をした結果、大筋では方針が決まった。俺達は新しい国を興す」
「「おおっ!」」
驚いたのはダルシム隊長とセリオ準男爵、エルナだ。セリーナとシャロンは、半ば予想していたようで驚きは無かった。
「素晴らしい! 姫殿下、よくぞ御決心なされました!」
「国を興す場所は、魔の大樹海と呼ばれているところだ」
「なんと! アラン殿、その場所は…」
「分かっています。しかし、心配には及びません。既に私の手の者が拠点を作り始めているところで、一年後には完成する予定です」
「おお! そのようなことが!」
「アランの拠点が完成したら我らはそこに移り住み、まずは力を蓄える」
「確認したいのですが、クレリアに従うという二千名の人達は、家族を連れて移り住む事に同意してくれるでしょうか?」
「勿論です! 彼らは私と同様に辺境伯家に代々仕える譜代の者達です。ルドヴィーク家の血を誰よりも濃く受け継ぐ姫様に否やは申しません」
「アランが用意する拠点が、皆が暮らしていくのに不適切な状況にある場合には、私はこの話から降りるつもりだ。拠点を見て皆が住むのに相応しい場合のみ、この話を進めていきたいと思う」
「姫殿下の御心遣い、皆も感謝するでしょう」
「アランの拠点が問題ないとして話を進めるが、国を造るに当って何か提案や問題点はないだろうか?」
「アラン殿、家臣達の家族を含めると少なくとも五千人以上の人数になると思われますが、拠点の準備のほうは問題無いのでしょうか?」
(イーリス、どうだ?)
この会合が始まる前に、イーリスにモニターすることを許可していた。
[問題ありません。余裕を持って作るよう計画しています]
五千人以上が住む街をたった一年で作れるのだろうか? いや、拠点作りはイーリスに任せている。イーリスが出来ると言っているのなら問題ないんだろう。
「問題ありません。余裕を持って計画しています」
「ほう、素晴らしい! アラン殿の配下の方々は、かなりの人数がいらっしゃるようですね。何人ぐらいいらっしゃるのですか?」とダルシム隊長。
うーん、なんて言おうかな。
「配下というより、下請けの者達と言うべきでしょうね。私は拠点を作る事を依頼し、彼らは拠点を作る。拠点が完成してしまえば彼らは去ります。戦力的には当てには出来ません」
「なるほど、そういうことでしたか…」
「そうなると、やはり国の民をどのようにして増やしていくかというのが一番の問題になるな。やはり、アランの言っていたように一時的にどこかの国の貴族にでもなって国の民となる人間を集めたほうが良いのかもしれない」とクレリア。
「… どういう意味でしょうか? 姫殿下」
「アランは我らと出会わなければ、貴族にでもなって国の民を集めるつもりだったと聞いた。民を集め、十分な力を付けたら謀反でも起こして独立するつもりであったのだろう? アラン」
「そんな感じだな。地道に民を増やしていくよりも手っ取り早いだろう?」
「おお! なるほど、それは良い手かもしれません! 国盗りということですな。この際、手段など選んではいられません。一刻も早くスターヴェーク王国を取り戻さねばなりません」
「アランは私が生きているうちに、スターヴェーク王国を、いやアロイス王国を贈り物として贈ってくれるそうだ」
「はは! それはいいですなぁ!」
「セリオ準男爵、これは冗談ではないぞ。これはアランとの約束の一つでもある。我らの国はこの大陸に覇を唱え、大陸統一を目指す」
「おおっ!」
「アラン殿! そんな事が可能だと?」
「簡単に出来るとは考えていません。当然、大陸を統一するには長い年月が必要ですが、出来ないとは思わない。いや、必ず成し遂げてみせる」
「ダルシム隊長、姫殿下と女神ルミナス様に愛されたアラン殿がこう言っているのだ。我らはそれに従うのみ。それにこれくらいの覇気がなければ、国など作れはしまい。ああ、お二人とも、なんと頼もしいことか!」
「クレリアさん、今朝も少しお話ししましたけど貴族になる事って可能だと思いますか?」とシャロン。
「簡単ではないと思う。魔の大樹海は高い山脈に囲まれており、行き来出来るように接しているのはセシリオ王国とベルタ王国だけだ。貴族になるとしたらこの二国の内のどちらかという事になる。私は残念ながらこの二国の叙爵については疎いのだが、誰か知っているものはいるだろうか?」
誰も答える者はいなかった。
「セシリオ王国はともかく、この国の事ならこの宿の主人のバースは、この国の生まれで元Aランクの冒険者だ。何か知っているかもしれない。駄目だったら、タルスさんに聞いてみよう。情報通だから知っているかもしれないな」
「それはいい考えだ、アラン」
「いずれにしろ、拠点が出来るのは一年後だ。それまでに出来ることは余りないし、とりあえず試してみるのもいいかもしれないな」
「アランの実力なら戦力的には問題はないだろう。たが、とりあえず試すなどという姿勢では困る。やるならば必ず貴族になってみせる、ぐらいの姿勢が欲しいところだ」
おお、なんかクレリアがやる気だぞ。
「そうだな、俺が間違っていた。この一年間で俺は貴族になってみせる。いや、別に俺じゃなくてもいいのか? クレリアでも別に構わないだろう?」
「いや、私は女だし、出自からいって貴族になることは難しいだろう。なるならばアランが最適だ」
「そういうものか、ならば最善を尽くそう」
このあと色々と話し合ったが、特にこれといった意見もなく、とりあえず会合はお開きとなった。各自よく考えて、また夕食後に話をすることにした。
「姫殿下、少しお時間を頂いてもよろしいですかな?」
「無論だ、セリオ準男爵」
クレリア達はもう少し話をするようだ。夕食までは少し時間があるし俺も部屋で色々と検討しようかな。
「アラン、私達も少しお話があるんですけどいいですか?」とセリーナ。
「勿論、いいよ」
セリーナ達の部屋で話をすることにした。
「アラン、国を作るのは当然だと思いますが、クレリア達の勢力を取り込むことは本当に賢明な事でしょうか?」
「ん? どういう意味だ?」
「つまり、いいように利用されるのではないかという意味です」とセリーナ。
「そうだな、それは間違ってない。俺達は俺達の目的のためにクレリア達の勢力を利用し、クレリア達はクレリア達の目的のために俺達を利用する。どちらも求めるもの、結果は一緒だ。だからそういった関係でもいいと思っているよ」
「つまり、それ以上の関係ではないと? クレリアと協力して国を興すにあたって、主導権は我々帝国軍にあるんでしょうか?」
「ああ、それについては完全な主導権は得られなかった。勿論、臣民の教育に関する事を決定する権利と大陸統一に関する方針に関しては主導権はあるが、その他についてはクレリアと協議する必要がある。つまり、共同統治ということだな」
「なるほど、そういうことですか」とシャロン。
「しかし、これは俺達にとってチャンスだ。五千人もの人間を一度に集められる事なんて滅多にないだろう。逃す手はない。二人にも是非、協力して欲しい」
「了解です。アラン」
「わかりました。アラン」
アランとセリーナ、シャロンは部屋から出ていった。何か打ち合わせすることがあるらしい。セリオ準男爵が何か話があるということでダルシム隊長も部屋に残った。
「申し訳ありません、姫殿下。どうしても確認しておきたい事がありまして」
「何かな? セリオ準男爵」
「あのアラン殿というのはどのような御方なのでしょうか?」
「… 私とエルナにもよく分かっていない所がある。まず、はっきり言えるのはこの大陸の出身ではない。私と出会った頃は、私達が話しているこの言葉を一切、話すことが出来なかったからな」
「なんと! それでもう、あのように流暢に言葉を話すことが出来るのですか?」
「アランは多才な男なのだ。この大陸には船で来たらしい。間違いなく軍艦でだろう。アランは軍人で、あの双子は部下だと言っているからな。船は沈み、国には帰れなくなったとのことだ。沈んだ船でないと帰れないほどの遠くの大陸から来たらしい」
「この大陸の他にも人が暮らす大陸があるのですね、驚くべき事実です」とダルシム。
「姫殿下、単刀直入にお訊きしますが、アラン殿は信頼出来るのでしょうか?」
「拠点の話か。確かに私もアランが拠点を準備しているという話は驚いたが、その質問が人物的にという意味であればアランは信頼できる。それは間違いない。エルナはどう思う?」
「私もアランは信頼できると思います。善良で嘘がありません。一度、仲間と認識されると特にその傾向が強いと思います」
「どのような御身分なんでしょうか?」
「それについては一切わからない。エルナとも話し合ったがよく判らなかった。一度だけ双子の一人、セリーナが少しだけ口を滑らせたことがある。私とアランを比べるのに『一国の王女など閣下に比べれば…』と言っていた。アランに比べれば一国の王女など大した者ではないという意味で使っていた。どういう事か分かるだろうか?」
「『一国の王女など閣下に比べれば』ですか? それではよほどの大国の王族でしょうか?」
「なんと! なんと! それほどの御身分の御方だったとは!? なるほど五千人もの人が住める拠点も用意できるのも納得ですな!」
「それがアランに直接確認したのだが、貴族でも王族でもないと言っていたのだ」
「貴族でも王族でもないと? そうなると、軍人ということであれば将軍でしょうか?」
「私とエルナもそう考えた。しかし、一国の王女より高位の将軍などという事があり得るのだろうか?」
「大陸が違えばそういう事もあるのかもしれませんな。しかし、アラン殿がそれほどの名を馳せた将軍であるというのは我らにとって正に僥倖! 建国の夢がまた一歩近づいたように感じます!」
「そうですね! こんな好機は二度と無いでしょう」
「姫殿下、アラン殿の国を作る目的とはなんでしょうか?」
「アランがいうには、民の幸福のためだそうだ。国を作り、民に自分の周りの事、この世の理を知ってもらい、幸せに生きて人生を全うしてもらう。これはアランが言っていた言葉そのものだ。望むのはこれだけとも言っていた」
「おお! アラン殿は聖人君子のような御方ですな!」
「姫殿下はこれをお信じになるのですか?」
「特に疑う理由は無いな。普段のアランの行動と較べても、さほど違和感はない」
「姫殿下、あと一つだけ確認しなければなりません。国を作った後は、姫殿下とアラン殿のどちらが国を率いるのですか?」
「セリオ準男爵! もちろん姫殿下に決まっているでしょう!?」とダルシム。
「いや、アランと話し合った結果、共同統治とすることになった。しかしアランにも譲れないものがある。民の教育に関する全ての決定権と出来るだけ速やかに大陸統一を行うという方針を除いて、私との協議にて統治することになった」
「…… クレリア様、それはつまり?」とエルナ。
途端に顔が赤くなっていくのが分かる。
「そういう事だ。私とアランは力を合わせて共に歩むことになった」
「「おおっ!」」
「お二人の話がそこまで進んでいるとは思いませんでした! 姫様、おめでとうございますと言っても宜しいのですね?」とエルナ。
「そう、めでたいかどうかは、これからの国造りにもよるだろうが、悪い気はしない」
「おおっ! そういう事であれば正に我らの体制は盤石! これ以上の滑り出しはありません!」
恥ずかしさを誤魔化すためにアランとした三つの約束を皆に話して聞かせた。
「アラン殿は、本当にスターヴェーク王国を取り戻す事ができると考えているのですね」とダルシム。
「無論だ、アランがこんな事で嘘をつくはずがない。それにアランが言うと本当に成し遂げてしまいそうな気がするから不思議なものだ」
「本当ですね、クレリア様」
「しかし、どのようにしてそれを成し遂げるのでしょうか?」
「それは分からない。しかし、アランならばと信じさせるだけの実力がある。今日見せたアランの実力は、ほんの一部だ。エルナ、アランを倒すとしたら何人の兵が必要だ?」
「それは完全に戦闘準備を整えたアランですか?」
「そうだ。開けた平地にいると仮定しよう」
「それならば、最低でも重騎兵二百騎と騎乗した近衛百人は必要でしょう」
「なっ!?」
「ほう、どうやって攻める?」
「まず、重騎兵に四方から全速で突撃させます。重騎兵ではアランには敵わないでしょうが、二百騎で囲めば足を止めることは出来ると思います。近衛も重騎兵のすぐ後ろについて突撃し、魔法で重騎兵ごとアランを攻撃します。混乱を招き、混乱に乗じて押し潰すように攻めます」
「なるほどな、しかしそれでは運の要素が強いな」
「ちょっと待って頂きたい! ノリアン卿、アラン殿たった一人に本当に三百騎もの騎兵が必要だというのか?」
「完全に準備を整えたアランに対しては三百騎でも少ないくらいです」
「そうだな、私もそう思う。それほどの実力だということだ」
いや、アランが、らいふるを持っていれば恐らくもっと必要になるだろう。
「なんと! それほどの実力とは! なんという事だ! まさに伝説に聞く英雄ではないか! それほどの御人だったとは… 姫様! では、我らの戦いは? 我らの国は?」
「だから先程から言っているだろう? アランならば本当に成し遂げてしまいそうだと」
「あぁ… 女神ルミナス様、感謝致します」
夕食の時間になったので食堂に降りていくと既にクレリア達は一番大きなテーブルについていた。
「おお! アラン殿、さ、さ、こちらにどうぞ」
セリオ準男爵がクレリアの隣の席を勧めてくる。
「有り難うございます。セリオ準男爵」
「アラン殿、セリオ準男爵などと呼ぶ必要はありません。既に領地もなく身分もなければ何の意味はありません。どうかロベルトとお呼びください」
「そうですか、有り難うございます。ロベルト殿」
「アラン殿! どうか唯のロベルトとお呼びください」
「… 有り難うございます。ロベルト」
「他の皆様もどうか私の事は、ロベルトとお呼びください」
セリオ準男爵、いやロベルトは、やけにテンションが高いな。
少しするとサラちゃんが料理を運んできた。お、今日の夕食は唐揚げとトンカツか。唐揚げということはブラックバードを仕入れることが出来たということだろう。久しぶりだし楽しみだ。
「これらの料理はアランがアランの国の料理を、この宿の主人に教えたものだ。今日は私の一番の好物のようだ。これはついているぞ」
「おお! アラン殿の国の料理とは! これは楽しみですな!」
エールをサラちゃんに頼んだ。一緒に頼んだのはダルシム隊長だけだ。
「アラン! この料理、もの凄く美味しいです!」とシャロン。
「そうか、気に入ってくれて嬉しいよ」
「姫様… この料理は一体?」
「美味しいだろう? アランの料理の知識は、魔法の技にも引けを取らないほどのものだ。早く食べないと無くなるぞ」
そういいながらクレリアは物凄い勢いで食べているが、夕食はお代わり自由だからな。無くなることはないと思うけど。俺とエルナ以外は物凄い勢いで料理を食べてはお代りをしていた。
「ふぅー、お腹一杯です。また食べ過ぎました」とシャロン。
「世の中は広いですなぁ、この世にこんな美味いものがあったとは。長生きはしてみるものです」とロベルト。
「今日も絶品だった。アラン、今日のトンカツのソースは、いつもと違っていたけど…」
「流石だな、クレリア。そこに気づくとは。… バースの奴、やってくれたぜ」
そこにバースが食器を下げにやってきた。
「バース、ついにやったんだな。最高のソースだった」
今日のトンカツのソースは、地球の日本のソースだった。もちろん、若干の違いはあったが味はソースと言っていい出来だった。あと少しのとろみを付ければ完璧になるだろう。ソースの研究はバースと一緒に時間の空いた時にやっていたが、これは格段の進歩だ。
「やっぱりそうか! あの味でいいんだな!? あのソースはトンカツにピッタリだった。そうじゃないかと思って早く感想を聞きたかったんだよ」
「ああ、いい味だった。トンカツにはやっぱりあのソースだよ。あと少しとろみを付ければ完璧だ」
「なるほど、とろみか。それは気づかなかったな。よし、早速…」
「バース。今、忙しいか?」
「いや、もう料理は一通り出したし、見ての通り客も殆ど部屋に戻ったからな。忙しくはないが?」
俺達のテーブルを除けばあと客は一つのテーブルだけだった。
「そうか、ちょっと聞きたいことがあったんだよ。ちょっと話を聞いてもいいか?」
「いいぜ、何でも聞きな。サラ! エールを一つだ!」
「いや、大したことじゃないんだが、俺達もそろそろ真面目に冒険者をやろうかと思ってな。元Aランクのバースに色々と訊こうと思ったんだよ」
「そういえばアランは冒険者だったな。すっかり忘れてたよ。で、何を訊きたいんだ?」
「やっぱり、ランクを上げるには魔の大樹海のほうへ行ったほうがいいのかな?」
「そりゃそうだ、ここら辺なんて、魔の大樹海に比べれば魔物なんか居ないのと同じだからな。依頼だって桁違いだし、金になる魔物だって狩りたい放題だ。ま、勿論、危険も桁違いだけどな」
「なるほどな、効率よくランクを上げるコツなんてのはあるのか?」
「まぁ、なくもないが、当たり前の話で冒険者ギルドで、受ける者がいなくて困っている依頼を片付けるのが一番だな。あとは、冒険者ギルド以外のギルドに貸しを作れるような依頼があれば最高だ」
「どういう意味だ?」
「例えば、商業ギルドで盗賊討伐の依頼を出したとする。そういう依頼を達成すると同じランクの他の依頼をこなすよりも評価されるのさ」
「なんでなんだ?」
「さあな。多分、冒険者ギルドの上層部の奴らは他のギルドに貸しを作るのが嬉しくてしょうがないんだろ? これはあまり知られていないがAランクやSランクの間じゃ有名な話だ」
「なるほどな、これは良い事を聞いたな。そういえば、Sランクの冒険者が何かデカい事をやると貴族に任じられたなんて話を聞いたことがあるけど、本当にあるのか?」
「ああ、あるぜ。Sランクだけじゃない、Aランクのパーティーだって貴族になった例はある。なんせ俺達のパーティーがそうだったからな。俺達のパーティーは魔物のスタンピードの際に大活躍したって評価されて俺のパーティーのリーダーは貴族になったぜ。まぁ、一番下っ端の士爵だったけどな」
「凄いじゃないか! バースはなれなかったのか?」
「俺はリーダーじゃなかったし、貴族なんて真っ平御免だよ。全く酷い戦いだったぜ、冒険者の半数以上が死んだ。冒険者に嫌気が差した俺は金を貰うことにして、この宿を開いたって訳さ」
「なるほどな。まぁそのほうがバースには合っているかもな」
その後、冒険者としてやっていくのに、ためになる話を少し聞いてバースは片付けに戻っていった。
食後のお茶も飲み終わったし、クレリア達の部屋で話の続きをすることにした。
「さっきのバースの話じゃ、貴族になれる可能性もありそうだな」
「そうですな、やはり魔の大樹海の周辺は魔物との戦いの最前線ですからスターヴェーク王国よりも叙爵の機会は多いようです」とロベルト。
「では、決まりだな。我らは魔の大樹海の周辺に赴き、ギルドのランクを上げ、貴族になることを目指す。それでいいな? アラン」
「ああ、そうしよう」
「姫殿下、セシリオ王国とベルタ王国のどちらにしますか? どちらも国としては同じような規模ですが…」
「いずれ我が国が統一するのだから、どちらでも一緒といえば一緒だが、まず我が国の贄となってもらうのは、私の大事な近衛に仇を成したこの国、ベルタ王国に決まっている!」
「「おお!」」
エルナとダルシム隊長はクレリアのこの言葉に感動していた。
その後の話し合いで、ロベルトとダルシム隊長は、一度セシリオ王国に戻り、部下達に今後の方針を伝える必要があるとのことだった。ダルシム隊長はすぐさま全ての近衛を引き連れ、俺達に合流するらしい。そのための連絡の方法などを話し合った。
ダルシム隊長は数人だけでも近衛を護衛に付けると言い張ったが、クレリアが断った。
「私はもはや王族でもなんでもない。成り上がりを目指すただの冒険者だ。護衛など不要。ではアラン、早速明日にでも出発しよう」
「そうだな、いや! ちょっと待った。そういえばちょっとした仕事を受けてしまったんだ。あと四日は出発は出来ないな」
ドライヤーの筐体やスイッチは、三日後に納品されてくる予定だ。組み立てなどを一日で済ませたとしても四日後が最短だ。それに旅の準備もしなければならない。あぁ、セリーナとシャロンの鎧の調整もまだだな。
「そうか、仕事であればしょうがない。では、四日後に出発することにしよう」
「そうだな。いきなり出発する訳にはいかない。準備もあるし、世話になった人達にも挨拶する必要があるしな」
「ああ、そうだった。では、旅の準備も合わせて明日からおこなうとしよう」
調味料の調達、調理器具も調達しなければ。馬や馬車だって必要になるだろう。こういった事はクレリアには任せられない。明日、タルスさんの店に行ってみよう。色々と忙しくなりそうだ。